2-3

「……ん」


 体に心地よい揺れを感じて、真希菜は目を覚ました。


(……あれ……えっと……)


 なかなか復帰しない脳を無理やり働かせるようにして、現在の状況を分析しようとする。

 ――と。


「あ。やっと起きた」


 すぐ近くで声。

 真希菜ははっとなって体を跳ね上げた。

 が。


「わ……!」


 後ろに落ちそうな感覚がして、あわてて手足をじたばたする。


「急に暴れないで」

「ご、ごめんなさい……」


 状況が分からないまま勢い半分で声の主に謝りつつ、真希菜は改めて周囲を見回す。


(私……どうしたんだっけ……)


 変な世界に飛ばされていたことはすぐ思い出した。今いる場所はその世界――確かワンダースクエアといったか――で最初に見た広い通路だ。場所自体は違う所であるように思うが。

 そして今自分は例の少年――クロノにおぶってもらう形になっていた。


「えっと……」


 真希菜はより詳しく状況を思い出そうとして、特に意味もなく声を出す。

 すると真希菜の心情を察したらしいクロノが首だけで振り返って告げた。


「オートマトンは倒した。あなたは気絶した。今これはあなたが元の世界に帰れるように移動してるところ。僕を助けたら帰る方法をって、メアリと約束したんでしょ?」


 と、そこで、真希菜も残りの記憶をいくらか取り戻す。


(そうだ……確か、変な本と繋がって……)


 そして遅まきながら、彼の体が直っていることに気が付く。


「体……直ってる……?」

「ん?」

「あの……私、ちゃんと……」

「ああ。直してくれたよ。ありがと」


 その言葉に、真希菜はほっとして、


「……よかった」

「っていうか、起きたんなら降ろしていい? 動きづらい」

「……あ、ごめん」


 真希菜はそそくさと彼の背中から下りる。

 すると真希菜を下したクロノは、唐突に言った。


「でもすごいね。あの速度で」

「え、速度……?」

「すごく早く直したじゃない」

「へ……? え?」

「覚えてないの?」

「あ、う、うん……あんまり……」


 無我夢中だったこともあり、その時の記憶はまだ若干混濁している。そんなに早く自分はあの装置を扱えていただろうか。

 しかし彼が褒める程度には自分はきちんと役目を果たせたらしい。しかも彼の右手が戻っているところを見ると、トゥールビヨンの互換性の問題も無視して修理ができたようだ。その点は疑問だが――まぁ何はともあれ目前の危機は去ったと思っていいのだろう。クロノについての疑問もあれこれと残っているが、今は危機が去ったことを素直に喜んでおくべきだ。

 ただ一つ思うことがあるとすれば、あのオートマトン機械は自分が直した彼によって壊されてしまったのだろうということ。それをどこか後ろめたく思ってしまうのは、危機が去ったからこその余裕か、ただ自分が甘いだけなのか。あるいは両方か。

 そして真希菜は思考をあれこれと巡らせる中で、頭の中の知識が活性化するようなあの不思議な感覚を思い返していた。それをもたらしたのは間違いなく右手に接続されたあの謎の本だろう。


「……ねぇ、あの本は?」

「ALICEのこと? 管制室に戻したよ」


 クロノは振り返りもせずに言う。


(管理……システム……)


 メアリは確かそう言っていた。そんなものと、自分は右手を介して繋がったのだ。


「あれ、そういえばメアリさんは……?」

「いるわよ」

「!」


 その声はすぐ後ろから聞こえた。振り返ってみると、自分の背後には音もなく転がるメアリの姿があった。そして冷静になって周囲を見れば、床や壁からは彼女の移動に追従して開閉するレンズも確認できた。


「いたんですね……」

「何よ。いちゃ悪い?」

「そういうわけじゃ……」


 言いつつ、真希菜は右指で頬をかく。

 とそこで、真希菜はあることに気が付いた。


(あれ……そういえば、義肢、外されたんじゃなかったっけ)


 右手を見るとそこにはきちんと義肢が装着されていた。あまりに自然に戻っているものだから今の今まで全く気が付かなかったが、確かに指は一度外れたはずだ。


(……戻して、くれたのかな)


 あのALICEという本が勝手に戻したということもなくはないだろうが、この義肢は外すのはともかく付けるのには少しだけコツがいる。専用の機械でもないのにそれができるとは思えないし、手足のないメアリにはもっと無理だ。やってくれたとすれば、彼なのだろう。


(……ちょっと意外)


 基本的にこちらに対して頓着なさそうな彼だけに、そんな面倒なことをしてくれるとは思わなかった。義肢を覆うスキンシートには若干の皺ができており、装着に手間取ったことが窺えるが、それでもちゃんとつけてくれたらしい。


「……あ、あの」


 真希菜は立ち止まってクロノに呼びかけた。彼も歩みを止め、こちらに振り向く。

 真希菜は彼に右手を示しつつ、


「これ、ありがと」


 しかしクロノは表情一つ変えず肩をすくめるだけして、踵を返して再び歩き出した。相変わらずといった反応だが、真希菜は彼の優しさに触れられた気がして、なぜか少しほっとした。


「……でも、あの本と繋がったときすごく痛かったけど……大丈夫なのかな」


 真希菜の言葉は独り言にすぎなかった。しかしメアリはそれを拾った。


「あれは確かグリモアを使った精神接続よ。大して害はないと思うわ」

「結構、痛かったんですけど……」

「たぶんALICEがクロノス・グラフに反応して、干渉しようとしたのよ。次……なんてないと思うけど、二回目以降は負荷も軽くなるんじゃないの」


 淡々とメアリが答えてくる。ただその声は、なぜか少し不機嫌であるように思えた。


「あの、メアリさん……そのクロノス・グラフって、いったい何なんですか?」

 おそらくだが、あの時活性化した『謎の知識』の正体はたぶんそれなのだろう。

「クロノス・グラフは設計図。クロノの――クロノスシリーズの設計図よ」

「設計図……」


 今ではあの時ほど鮮明には出てこないが、それが知識としてあったおかげで、自分は彼を修理できたということか。もしかしたら、自分が世界間移動の鏡を抜けられたのもそれが関係しているのかもしれない。


「でも、なんでそんなものが……」

「さぁね。アタシも推測でしか話せないし、聞いても意味ないと思うわよ」


 やっぱり、なんか不機嫌だ。


「……あ、でもそれ以外にもわからないことだらけなんですよ。設計図があったにしても、なんでトゥールビヨンの互換性の問題をクリアできたのかとか……そもそも、グリモアとかグリムとか、解式術……? とかっていうのも私さっぱり……」


 するとメアリはぴしゃりと言った。


「……あなた、ここに留まる気はないわよね?」


 肯定か否定かを厳格に尋ねるような彼女の言葉に、真希菜は萎縮する。

 が、とりあえず真希菜は小さく頷いた。


「なら、話しても無駄よ。忘れなさいな」


 有無を言わせぬ口調。

 メアリの言うことももっともだが、後から教えてあげる、などと言っていたのは何だったのだろう。元の世界に帰れるらしいのでどうでもいいといえばどうでもいいのだが、彼女の態度の変化は、少し疑問だった。

 するとその時、前を行くクロノが急に立ち止まった。


「メアリ、次どこ?」


 見ると、前方は十字路になっていた。


「アンタ、ホントに方向音痴よねぇ……ナインオブスペードの鏡には何回か行ってんでしょ?」

「うるさい。さっさと教えて」

「右よ右。さっさと行きなさいよ」

「…………」


 普段の二人を知っているわけではないが、なんだか、剣呑な雰囲気である。喧嘩でもしたのだろうか。

 そしてほどなくして、一行はある鏡の前にやってきた。


「ここから帰れるはずだよ」


 言ってクロノは通路の壁にはめ込まれた鏡を指差した。鏡の上部にはプレートがあり、そこには『9』と『スペード』のマーク――ナインオブスペードが刻まれていた。たぶんこの『名前のある鏡』は世界間移動の鏡なのだろう。

 そして例のごとくというか、鏡の中の背景は今いる通路のものではなかった。自分やクロノ、メアリはそのまま映っているが、背景となっているのは雑多な物置のようになっている空間だ。ただ真希菜はその景色に見覚えがあった。


「あ。ここ、もしかして……」


 思い出した。

 たぶん、例の旧工場である。それもメインの建屋のほうにある物置。使わなくなった事務用品が置かれている場所だ。

 するとそこで、背後にいるメアリが言葉を放ってきた。


「……向こうが見えてるってことは、ちゃんと通れるってことなんでしょうね」


 その言葉に、真希菜は振り向いて、


「あれ……メアリさんは見えないんですか?」

「この鏡は通れる相手にしか転移先の世界を見せないみたいなのよね。どういう仕組みなのかわからないけれど」


 そしてクロノが会話を引き継ぐ。


「僕はここの鏡からあなたの街に出た。あなたもここへ来られたんだから、ちゃんと戻れると思うよ。建物からも出られると思う。僕も勝手口みたいなとこから出たから」


 そういえば、ひしゃげたようになったドアが裏口にあった。あれはどうやら彼の仕業らしい。人間にそんな芸当は無理だが、彼なら可能だろう。


(……そう。ロボット……なんだよね。それもたぶん、水晶式の)


 真希菜は振り返って彼を見、改めてそんな呟きを胸中で漏らす。

 危機が去った上に会話も成り立つため、彼らに対する恐怖はいつの間にか和らいでいたが、未だ謎は多い。そもそも彼らとこの世界はなんなのか。

 自律型の人型ロボット――少なくとも真希菜の知る限り、そんなものはまだ空想の中の話でしかない。これほど柔軟に話し、行動するロボットが本当にあり得るのか。全身のほとんどを機械に置き換えたサイボーグ、などという可能性もあるが、それにしたって眉唾だ。

 加えて、微かに残る修理時の記憶が正しければ、彼の体は一部を除き柔軟な金属素材の上を特殊な皮膜で覆うような作りになっており、全体的に人間らしさを重視したものになっていた。髪も似たようなもので、このロボットの製作者は『人であること』をかなり強く意識して彼を作っているらしかった。

 しかしここまで精巧な人型ロボットとなると特殊な技術――それこそ魔法でもない限り作り出すことは不可能に思える。


解式術ウィッチクラフト……)


 メアリが言った言葉を真希菜は思い出していた。

 確か彼を直している最中、いくつもの式――『解式』とおぼしきものが脳内を巡った。半分無意識に処理したが、あれがその術なのだろうか。だがあれはウィッチクラフト魔法などというほど幻想的な代物ではないはずだ。若干の差異はあるが、あれは自分たちの世界では解式言語と呼ばれるものである。


「……ね。何じっと見てるの」

「あ、な、なんでもない」


 クロノの言葉で真希菜は我に返り、わたわたと手を振る。


「早く帰りなよ。またオートマトン出てきても知らないよ」

「う、うん」


 言われるがままに真希菜は鏡に触れようとする。しかし鏡に指が触れる直前、真希菜は今一度クロノらに振り返り、確認した。


「えっと……帰ってもいいんだよね?」


 その言葉に、クロノは一瞬ぽかんとして、


「何言ってんの。帰りたくないの?」

「いや、帰りたいけど……なんか……こう、秘密を守れとか、そのクロノス・グラフを、殺して奪うとか……そういうこともない?」

「そうしてほしいの?」

「いや、してほしくないけど……」

「ならさっさと帰って。……口封じなんて意味ないよ。そもそもどうでもいい事だけど、こんなところ誰も信じないでしょ」

「……確かに……」

「それにクロノス・グラフにしたってあなたを殺して奪えるかは怪しいからね。あなたを力づくで従わせたってうまく機能するかわからないし、どうしようもないさ」

「…………」

「ま、僕もとりあえず体が直ったんだからそれでおしまいってことで」

「そういえば、他はいいの? ……左手とか、左足とか」


 移動に不便しているような様子はないし、傷口には破れたコートの端切れを巻いているしでパッと見で違和感はないのだが、確かクロノの左手足は直せなかったはずなのだ。干渉できなかったと言うべきかもしれない。なのであの時は修理を後回しにして……そして結局直せないまま気絶してしまった。


「左手はともかく、左足は結構壊れてる気がするけど」

「でも、さっき修理できなかったからには、できないんじゃない?」


 それは、そうなのだが。仮に今すぐ直せと言われても、正直なところ直せる自信はない。

 するとそこで、メアリが会話を引き継いだ。


「クロノの左足――膝下からの部分は昔壊れちゃって、あなたの世界で作られてる『義肢』ってやつを無理やりくっつけてるだけなのよ。左腕も同じくね」


 管制室で出会ったとき、彼の体がちぐはぐに見えたのは、どうもそういうことであるらしい。


「だからあなたに修理ができるかはわからないわね。本来の足に直すってこともできなくはないかもしれないけど……クロノの言うとおり、今回直らなかったってことは、難しいのかもね」


 そしてそれを受けて、クロノ。


「そういうわけで、あなたはこのまま帰って問題なし。……まぁ、正直なところクロノス・グラフは惜しいんだけど、これ以上を求めるのはフェアじゃないでしょ?」

「…………」

「それとも、さよならするの名残惜しい?」


 と、いたずらっぽく彼は言う。


「そ、そんなわけないじゃないですか」


 なぜか敬語で、真希菜。

 するとクロノは腰に手を当てて、やれやれ、ってな感じに溜息をついた。


「それにさ、今回上手くいったのも偶然って可能性もあるからね。もしそうだったらクロノス・グラフ欲しさに下手に引き留めたって、後々こっちが苦労することになるかもしれない。あなた基本トロそうだしさ」

「……その言い方はひどくない……?」


 クロノの物言いに、さすがの真希菜も反論した。

 しかしクロノは悪びれもせず、


「ホントのこと言ったんだけど?」

「……体直したの私だよ」

「だから、まぐれかもしれないよ?」

「う、運も実力のうちっていうじゃない」

「当事者が言うとすごく傲慢に聞こえるよね、それ」

「なんでそんな意地悪ばっかり……私だっていろいろ必死だったんだから――」

「そもそもこんなとこに来ることになったのは、自業自得でしょ」


 あーいえばこーいう。

 自然と真希菜も意地になる。


「私だって来たくて来たんじゃないもん。……あなたが別れ際にあんなこと言うから」


 最後は独り言のような声音だったが、クロノはそれを拾って、


「? ……僕、何か言ったっけ」


 と、首をかしげる。


「……ふぅん。覚えてないんだ。どうせそんなとこだろうと思った。なんで気づいたか知らないけど、からかい半分とか、そういう適当な感じだったんでしょ?」


 真希菜は口を尖らせる。


「何拗ねてんの」

「拗ねてない」

「なんのことか話してよ」

「いや」

 するとクロノはずんずんとこちらに向かって歩み寄ってきた。

「な、なに……?」


 真希菜はそれに合わせて後じさるが、この状況で鏡に触れるわけにもいかないので、鏡の手前でそれ以上は下がれなくなる。

 するとクロノは真希菜の胸元に手を伸ばすと、ネクタイを掴んで軽く引っ張った。

 クロノの顔がぐっと近づく。


「はっきりしないのは好きじゃないんだ。何のことか教えてよ」


 囁くような彼の声に、真希菜の鼓動が大きく跳ねる。


「あ、え、その……」


 動揺した真希菜は彼の顔を直視できず目を逸らす。軽くネクタイを引っ張られているだけに見えるのに、彼の力は強く身を引くことができない。

 気恥ずかしさでどきどきして、頭が真っ白になる。


「ね、お嬢さん?」


 クロノのダメ押しの一言。

 そして案の定というか、真希菜はすぐ折れた。


「えと……、あの……す、素敵……な手だって……それで、なんであんなこと言ったのかなって思って……」

「それで僕を追いかけて来たの?」

「あ、あんまり、言われない……から……気になって……」


 もう一度それを聞きたかった、などという子供じみた本当の理由は当然言えなかった。

 するとそこでクロノはネクタイから手を放した。

 そして一歩、真希菜から距離を取って、


「ふぅん。でも理由って大したことはないよ。調和しているものって、素敵だって、それだけ」

「……なにそれ」

「直感、っていうのかな。僕、なんとなくわかるんだ。その機械がそこにあって、調和しているかどうかってのがさ。あなたの指が機械だってわかったのも、それのおかげ」

「私のこれは、調和してるっていうの」


 真希菜は複雑な表情で右手に視線を落とす。


「……あなた、あんまりそれが好きじゃないんだね」


 クロノも真希菜の右手に視線を向ける。


「……好きなわけないじゃない。こんなもの、本当の自分の体じゃないんだから」

「ふむ」


 するとクロノは不意にこちらの右手を取った。

 そして彼はいきなり、真希菜の指先に軽く口づけた。


「!?!?」


 ボンッ――と音がしたわけではないが、そんな擬音がぴったりなほど一気に顔を紅潮させた真希菜は、その場から数歩後じさる。右手を左手で押さえて、飛び跳ねる心臓を押さえつけるように胸元に押し付ける。


「な、ななななななな……」

「あっははははは!」


 クロノは笑っていた。初めて見る、屈託のない笑顔で。


「な、なんで笑うのっ!」


 クロノはそこで、流れてもいない涙をぬぐうしぐさを見せて、


「いや、ごめんごめん。随分な反応だったからさ」


 言いながら、クロノは笑った際にずれた帽子を指先でそっと直す。


「不思議だね。自分のものじゃないのにそこまで反応するなんて」

「……そ、それは……」


 するとクロノはずいっと顔を近づけてきた。


「いろいろ事情はあるんだろうけど、認めてあげなよ。その機械は』してくれてるよ。それを拒絶してるって、なんだか可哀そうじゃない?」

 彼の言い分はまったく論理的なものではない。しかし真希菜は先の『直感』というのも含めて、彼が嘘を言っているようには思えなかった。


「……それは、機械(ロボット)の側としての意見?」

「なんとでも」


 と、そこでクロノは唐突に自分のコートのポケットに手を突っ込んだ。そして小石のようなものを取り出すと、こちらに差し出す。


「これ、あげる」

「……?」


 それは無色透明の、おそらく鉱石だった。


「これ、もしかして……」

「水晶だよ。オートマトンは機能停止すると体は崩壊しちゃうんだけど、こいつは残る」

「なんで私に……?」

「頑張ったご褒美。お守り――とか、そういうのにでもすれば?」

「…………」


 もうなんというか、終始子ども扱いされて弄ばれているような気分だ。

 しかし受け取らないのも悪い気がして、真希菜はそれを手に取る。改めてみてもそれは水晶で、通路の光を受けて透明感のある輝きを放っている。ただそれは水晶式機械で使うものに比べると幾分大きく、形も洗練されていないものだったが。

 真希菜はとりあえずそれを制服の上着のポケットにしまう。

 するとその直後、クロノは突然、真希菜の体を押した。


「!」


 倒れた先には鏡があって、真希菜はそれに背中から吸い込まれる。

 クロノの姿が、妙にゆっくりと遠のいてゆく。

 そして最後に、クロノは言った。


「あなたがどう思おうと、誰がどう思おうと、あなたの手、僕は好きだよ」


 言葉の最後には、もう彼の姿は見えなくなっていて、


「バイバイ」


 そんな声だけが耳に残った。

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