第117話
『正。今日もこずえちゃんお持ち帰りか?』
『こずえちゃんの貧乳って本当か?』
『こずえちゃんって本当に面白い子だな。貧乳のTシャツ見て笑いが止まらないと、肩揉んでくれた。そして、次の肩どうぞってwww』
『交えるタイプの正が好きらしいな。真面目なタイプ? と聞き間違えたかもしれないけど』
『ジャルダンで会おう!』
僕にLINEが続々入る。
恵ちゃんに僕のLINEを見せる。
「あらまあ、どうしたことだか」
こずえちゃんが帰ってすぐ。
恵ちゃんは、オケの情報網の早さに驚いている。
「すごいでしょ? 100人以上いるオケのLINEでは、下手なこと書けないんだよ」
「すぐに炎上する」
「これ、情報源こずえちゃんでしょ?」
「当たり前でしょ」
「どんなこと書いたのかしら?」
「ちょっと聞いてみるね、隆に。隆、B型だから」
「こずえちゃんの連絡、入っているはず」
「来た来た」
「これ」
恵ちゃんに差し出す。
『この梅雨は、すごいしやすい気候です』
『今日のB型コンパと同じ場所に正先輩が来ます』
『わざわざ私のために、研究室の飲み会を同じ場所にしてくれました』
『Tシャツも着せられた貧乳の私……。でも正先輩には十分みたい』
『私たち、先輩と交配の関係です』
『折箱に、しやすい私を包んでお持ち帰りしてもらいます』
「大嘘」
僕は呆れて呟く。
「あら、こんな風に書かれてたんだ」
「これは皆、面白がるねっ」
恵ちゃんはニッコニコ顔。
「何もしなくてもこずえちゃんの存在自体がギャグなんだ」
「なのにあの話し言葉、書き言葉にも大きな嘘とギャグがある」
「たぐいまれなる大物ね」
「何で僕のこと、好いてくれるんだろう?」
「恵ちゃん。今、僕のどこが好き?」
「えっ、いきなり?」
「うん。何でもいい」
「私が3年間見て来た正くんは、真面目で素直。どちらかというと、笑顔はあまり見なかった。ポーカーフェイスだったよね」
「あまりお笑いで押すタイプじゃない」
「そこが、チャラ男系と違ってる」
「落ち着いた心、正しい素行。それがイイ」
「そうでしょ?」
「でも、最近僕は変化したよ。よく笑うようになったんだ」
「もちろん、自然な笑顔は恵ちゃんのおかげ」
「好きだよ」
恵ちゃんは、クスッと笑ってくれる。
「そしてたぐいまれなる大物の登場」
「あの子、下手な芸人より全然面白い。存在もキャラも」
「胸がつかえるところの奥底から、無意識な笑いが沸き起こる」
「腺毛が震えるように」
「そして、時に止まらない」
「私もそう思う。初めて会った。こずえちゃんのような子」
恵ちゃんが笑いの口を手で押さえて話す。
「今回も、そう」
『この梅雨は、すごいしやすい気候です』
『先輩と交配の関係です』
「どこから、ああいう言葉、出てくるの?」
「どうして僕を好きなんだか……」
「まあ、いいじゃない」
「一過性の劇症恋愛症候群よ」
「今夜も私は正くんのものよ。お察し通り」
「うん。ありがとう」
「ただ、押して押して押し切られないようにね。こずえちゃんに」
「男の人って、それでなびく人もいるみたいだから」
「正くんのような真面目なタイプがあぶないのよ」
「抱きつかれて、口づけされて、感じるところを愛撫されると、心ごと止まらない場合があるらしいの」
「少しでも嫌悪感があれば、すぐ拒否れるけど、どこかに”この子もいいかな?” と思う心があるとズルズルしちゃうの」
「正くん、こずえちゃんのこと嫌いじゃないから危ない危ない」
「18歳の指が吸い付くモチ肌のピチピチギャルだし」
「ギャルはずみな行動は慎むように」
僕は笑う。恵ちゃんも誰かさんに影響されてる。
「報われぬ愛を予感させるの」
「大丈夫」
「私がいるから」
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