第103話

「おはよう、恵ちゃん。相変わらず可愛いね」


「おはよう、正くん。その挨拶、私の体が僕的なの?」


「なあに。そのこずえちゃんチックな言葉遣い」


「おーっす」


大樹も、義雄もやってきた。


「日光、どうだった?」


「あのさ……、今、今だよ、また僕、行くんだよ。日光に」


Tシャツは、明日休みます、を着てきた。


「いろはにへとへとだよ」


「結構、結構」


恵ちゃんが、僕を茶化す。


「これ、ツアーガイドさんの写真」


仕方ない、皆んなに昨日のガイドさんの写真だけ見せる。


「わいか〜!」


「いいなあ、正。こんな可愛いツアーガイドさんだったんだ」


「優しくてね、最高だったよ」


「今日のガイドさんはこずえちゃんね」


「ああ、結構下調べしてきていると思う」



「おはよう。皆んな」


有田先生が研究室に入ってくる。


「カーネーションの花色の研究が一段落したから、卒論にも力を入れないとね」


「何、正くん。そのTシャツ?」


「ああ、先生。明日僕休みます」


「思いがけないトラベルに巻き込まれて」


僕もギャグをかます。


「トラベル?」


「おととい、昨日、今日と3日間、日光なんです」


「それは、結構だね」


恵ちゃんと同じ答え。


「でも、明日からはちゃんと卒論も頑張ってもらうよ」


「了解です……」


文句は返せない……。



「じゃあ、行ってくるね」


「どこ集合?」


「工学部前。隆が運転手だから」


「いってらっしゃい」


恵ちゃんが優しく手を振る。



ーーーーー



「あれ、こずえちゃん。そして、紀香ちゃんに、夕子ちゃん?」


「はい。バイオリンの娘たちは都合がつかなくて、先輩と同じ、曰く付きの農学部の紀香ちゃん、夕子ちゃんにしました」


紀香ちゃんはフルート、夕子ちゃんはチェロ。伊豆の研修で一緒だった農学部の1年生。


「二人とも、日光に行く? ハイかイエスで答えてと聞くと、ハイと言いました」


「あのさ、こずえちゃん。ハイもイエスも同じでしょ」


「ばれたか」


「あと、曰く付きとは言わないよ。同じ学部のとか、後輩のとか、研修で一緒だったとか、普通の日本語を使えばいいの」


「はいはい」


「あれ、隆は?」


「実は今日はレンタカーじゃなく、水野さんの車を借りることにして、コンビニに1DAY保険の手続きに行ってます」


「iPodがつなげられるし、カーナビで、動画も見れます」


「先輩方の宴会の動画も」


「さあ、来ました」



「おう、隆。今日よろしくね」


「うん。朝飯抜きだけどね」


「えっ? 朝食、こずえちゃんが準備してくれるって言ってたじゃない?」


「ランチの中華料理店が格別に美味しいという情報がまとまりました」


「これからそこに2時間半、お腹をすかして一直線です!」


「いいですね。正先輩」


「答えはハイかイエスで答えてください」


「だから、それはどっちも……」


「ちゃんと、飲み物とお菓子はありますよ」



隆はゆっくりと正門を出る。


こずえちゃんは、朝からテンションが高い。


「ランチ急ぎたいんで、すぐ首都高に乗りましょう!」


「一般道は走らない様に首都高(しゅとこう)ねっ!」

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