第102話

僕らはいろは坂を登り華厳の滝へ。


そしてバスは次の目的地、東部ワールドスクエアへ向かう。


菅くんが、予想どおりおもしろTシャツ、残業半端ないって、を買って着た。


僕の胸には、青い看板の計画通り。


20人の同期になるであろう学生は、僕らの席を見ては笑う。



「さて、東部ワールドスクエアまで、私が怖い話を二つします」


「いいですか?」


「いいとも〜!」


「はい、ありがとうございます」


ガイドさんが恐ろしげな声で話し始める。


「一つ目は、青い血というお話です」


「ある日、私はある人から手紙をもらいました」


「何と吸血鬼からの手紙です」


「そして、その手紙には、次のように書いてありました」



「明日の晩、私の城に来てください。ただし、あなた1人できてください」
 



「私は、怖かったのですが、言われた通り1人で城に行きました」


ガイドさんは哀愁を帯びた顔をする。

「お城に行くと、薄暗いテーブルの上に飲み物が置いてありました」



「グラスの中には、青い飲み物が入っています」



「何だろう? この飲み物は?」




「私は、飲むのをためらいました」


「背筋も凍りそうでした」


「しかし、結局、その飲み物を飲むことにしました」


ガイドさんが目をつぶり、その可愛い顔をしかめて飲み物を飲む真似をする。



そして、そのあと優しい顔になり、


「あー、おいち」


「はい、青い血の話でした!」


皆んなでカスタネットやタンバリンを叩いて盛り上がる。


「さて、皆さん、青い血の生き物、ご存知でしょうか?」


「はーい、はーい!」


「タコやイカ、エビです」


「あと、ダンゴムシ、カタツムリ、ザリガニ」


さすが研究職系の内々定者の懇親会。スラスラ出てくる。。


「はい。皆さんさすが研究者の卵ですね」


「甘エビにはよく青い血が助けて見ることができますよね」



「はい。次にまた、恐ろしい話をします」


「いいですか〜?」


ガイドさんが低音の単調な声になる。


「いいとも〜」


皆んなも、低音の静かな声で答える。


「これから、自分の妹を食べてしまうという恐ろしい話をします」


「怖いですよ」



「ある街に、兄と妹の大変仲のよい兄弟が住んでおりました」



「ある日、お兄さんが朝起きると、とてもおなかがすいていました。食べ物をさがしましたが、何もありません」


「その間にも、おなかはどんどんすいていきました」



「ああ、何でもいいから食べたいなあ」


「お兄さんは、いてもたってもいられなくて、妹の部屋に行きました」



「お〜い、何か食べるものはないか?」


「妹は、10日間姿が見えなくなりました」


「近所でも、妹の姿が見えないことが噂になり始めました」


「兄さんが妹に何かしたのでは……」


「とにかく妹は……、いません」


「妹の机の上にはイモが10個、置いてありました」



「いただきま〜す」


「兄は、そのイモをおいしそうに一日一個食べました。10個すべて食べてしまいました」



「イモを10(とお)食うはなし」


ガイドさんはゆっくりと締めくくる。



「妹を食うはなし」


「そして、妹は元気に友達の家から帰ってきましたとさ」


また皆んなで、カスタネットやタンバリンを叩いて盛り上がる。


とにかく、バスツアーは何をしても聞いても面白い。


特に研究系の現役大学生。可愛いガイドさん。


盛り上がらないわけがない。



「それでは、そろそろ目的地に着きます」


人事部の近藤さんがマイクを握る。


「皆様には、入社後におかれましては世界へ羽ばたく人材となっていただく予定です」


「内々定ではありますが。佐藤くんへは、入社していただいた暁には、研修の一環として入社後すぐにアメリカに行っていただく予定です」


「うお〜っ!」


バスの中は拍手と歓声、驚きの声。


「佐藤くんだけでなく、この22名の皆様方に、国内、国外とも飛び回っていただきます」


「わ〜っ!」


皆で歓声の声。


「それでは、到着いたしました。ワールドスクエア」


「そんな、自分達がこれから未来に訪れるであろう街並みを、満喫してきて下さい」


拍手と口笛、タンバリンがバスに鳴り響く。

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