第80話
「さて、植物検定の答え合わせをします」
6月に入ってすぐ。植物検定。
有田先生が音頭をとる。
「実物テストの第1問目の答えは、スマイラックス。和名はクサナギカズラ。ユリ科シオデ属の多年草。南アフリカ原産。茎はごく細いつる状で,先のとがった卵円形の仮葉が互生するのが最大の特徴だよ、それだけでスマイラックスだと分かる」
「ラテン語のスペリングはSmilax」
「四人とも正解だね」
「第二問目の答えは、コノテガシワ。ヒノキ科の植物。コノテガシワ属唯一の現生種だよ。枝が直立する様子が、子供が手を上げる様子に似ていることからコノテガシワの名がある」
「ラテン語属名は、Platycladus 」
「これもみんな正解ね」
「実物3問目はアカシア。大樹くんが間違えたね。まあ、葉だけだから仕方ないけど」
「ニセアカシアをアカシアと呼んでいた時代もある」
「アカシアは、マメ科アカシア属、ラテン語名Acacia。葉はご存知の羽状複葉。アカシアの仲間が日本に輸入されるようになり、区別するためにニセアカシアと呼ぶようになって、今でも混同されることが多い。本来のアカシアの花は放射相称の形状で黄色く、ニセアカシアの白い蝶形花とは全く異なる」
「四問目、これは正しくんと恵ちゃん以外不正解。簡単なのにどうした二人?」
「クェルカス。オークで、ブナ科、コナラ属、学名はQuercus。落葉樹であるナラの総称」
とにかく、採点が進む。
200点満点で、160点取らないと資格はもらえない。
「今日、みんなが受けているのが3級。一番簡単なやつ」
「実物テスト100点、植物の属する科名が30点、属名が70点ラテン語記述」
2級からは新しい植物が追加される。3級の問題からは5%くらいしか出なくなる。レベルが上がる。
「さて、科名、属名の採点してくるよ。1時間くらい待ってて」
有田先生が自分の研究室に戻る。
ーーーーー
「どうだった?」
「まあ、3級は楽勝だね。ランも難しい種類は出ていないし」
「そうね。思ったより簡単だったわね」
「義雄は?」
「俺……、自信ない」
「大丈夫よ、義雄。何か気にかかることあったか?」
「実物テスト、花が出てくればほぼ大丈夫だけど、葉だけのものは正直自信ない」
「ナラ、ブナ、コナラ、カシだとか……」
「難しく考えるなよ、義雄」
「ブナの属名はFageus。ブナ科ブナ属。日本の温帯林を代表する落葉広葉樹」
「まず、それを覚える」
「ナラは、ブナ科コナラ属Quercus。英語名でオーク。これらの違いはわかるだろ?」
「カシというのがあるが、カシとはブナ科の常緑高木の一群の総称。これもQuercus」
「でも、同じブナ科でマテバシイ属のシリブカガシもカシと呼ばれ、シイ属Castanopsisも別名でクリガシ属なんだ」
「まあ、試験には出ないけど、ドングリはブナ科の木の実の総称であって、単にドングリという名前の木はないんだ。日本産のドングリの種類は20種類以上あるってところまでかな?」
「正、よく知ってるな」
「好きな人に、いいところ見せたいからだよ」
「あ〜ら、私? 恵ちゃんは、ほっぺたに両人差し指を当てて、ペコちゃん顔する」
「そうか! そういう考えに立てばいいんだ!」
「なんだ、今更。みどりちゃんに植物教えたいだろ?」
「ペチュニア、ケイトウ、ベゴニア、ヒマワリ、キバナコスモス、その他色々、普通の花壇のお花の名前もいいけど、学問としての植物。園芸、”植物を園に植える”芸、伝えるんだ」
「悩んだ時は、植物を覚えるんじゃなくて、植物に覚えてもらう」
「そういう心構えがいいよ」
「僕らの名前を、覚えて欲しい」
「植物にも、心があるんだ」
「伝われば、覚えてくれる」
「はい。結果出たよ」
有田先生が、賞状も準備して持ってくる。
「植物検定3級合格、櫻井恵殿。あなたは園芸学研究室における植物検定3級に合格したので、よってそれを称します」
「あと、佐藤正しくん、林大樹くん。以下同文」
「あれっ? 義雄は落ちたんですか?」
「あと少し足りなかった。実物テストがね……」
「科名、属名のラテン語記載は、カーネーション、Dianthusだの、バラ Rosaだのキクだの、トルコギキョウ、シクラメン、ベコニアなどなど主に市場に流通してものから出題したから、皆ほぼ満点」
「義雄くんも、次は大丈夫と思うよ。いきなり2級からの受験でもいいし」
「いざやってみると、植物検定って面白いわね」
「うん。知識がぐっと引き締まるね」
「属名を覚えることで、世界に通用する植物名を覚えることになるし」
「さすが、浅野教授」
「恋人と行く如く心うれしく、”自然”と共にわれは歩まん」
「恵ちゃんへの、今の僕の心だよ」
恵ちゃんは嬉しそう。
自分のお腹を優しくさする。
あれっ? 今日で僕の……が居なくなる日。
いいわよ。恵ちゃんは目で返事をしている。
確認。僕が恵ちゃんに手のひらを出す。
優しく、手のひらに円を描いてくれる。
「何、何? 外野がうるさい」
「僕、一旦外出するから」
「じゃあね、皆んな。恵ちゃんは帰宅する」
「あれ、できちゃったな大樹」
「ああ。どうする」
「見守る。俺も歩ちゃんをなんとかする」
「僕は、みどりちゃんと、まずは仲良くする」
「やはり、正には敵わないか。貧乏じゃない以外……」
「正、いいやつだもんな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます