第47話

「恵ちゃん、正、何してたんだ」


「もう1時過ぎだよ。ランチ行くぞ、ランチ」


皆でカフェテリアに向かう。


「あれっ?」


なぜかカフェテリアには、オケのバイオリンの子達が多い。


「どうしたの、正くん」


恵ちゃんが不思議顔で声をかける。


「あのさ、生協にしないか?」


「どうしてだよ正。ほら、入るぞ」


大樹が先導してカフェテリアに入る。


「正先輩!」


こずえちゃんだ。


「どうしたの? カフェテリアにバイオリンの子達多いね」


「昼練してたんです。マーラーは難しいから」


「今、ランチ終わったところです」



「オーケストラの後輩さん?」


「はい。正先輩のファンなんです」


「あらあら、モテること」


恵ちゃんは複雑な表情を見せる。


「先輩、隣いいですか?」


僕は恵ちゃんと目を合わせ、仕方ないよ、と言う瞳を見る。


「いいよ」


「何人か連れてきます」


遠くにはみどりちゃんもいる。


僕が義雄に目で合図をすると、義雄は少し照れる。



「昨日はお疲れ様でした」


「ああ、こずえちゃん、飲み過ぎだったよ」


こずえちゃんはクスッと笑う。


「おかげで、1コマ目の統計学と2コマ目の児童心理学。うとうとしながら聞いてました」


「ダメじゃない。統計は全学部の必須科目だし、児童心理学は教育学部の必須でしょ?」


「いや~。瞼をあげているのが大変でした」


こずえちゃんはカラカラと笑う。


「こずえちゃん? と言う名前で呼んでいいかな?」


大樹がこずえちゃんに話しかける。


「こずえちゃん。正は稀に見る真面目男で、卒業時までの必要単位124のところを、144単位も取っているんだ」


「え~! 本当ですか?」


「1、2年次に俺らより10コマ、つまり週7時間30分も多く教養科目を取ってきた」


「へえ~。正くん、そうだったんだ」


恵ちゃんも知らない話。


「なんでそんなに取ったんですか?」


「いや、趣味みたいなもので、法学や文学、語学、あと理学、薬学関係や医学関係。ゼミを取ることが多かったね。法学では、二人だけというゼミもあったよ」


「正先輩、真面目なんですね」


「いくら授業を受けても学費は同じだからね。貧乏性みたいなものかな」


「正先輩偉いから、デザートのニラ饅頭あげます!」


こずえちゃんが、両手で、はいと言う手つきで僕に饅頭をくれる。



「あら、正先輩、鈴木さん」


「こんにちは、浜野さん」


義雄が恥ずかしげに挨拶をする。


「みどりちゃんが1年生の面倒見てたの?」


「はい。来れる子達だけ。バイオリンの昼練です」


「二日酔いの子達の面倒、大変だったろ?」


「いえ、昼休みには皆普通でしたよ」


「普通でしたよ」


こずえちゃんが首をすくめて繰り返す。


「そう、鈴木さんとはこれからしばらくカーネーションの遺伝子研究、一緒になりますね」


「よろしくお願いします」


「浜野さん、お願いするのは僕の方だよ。遺伝子取りのコツ、教えてね」


「はい」


浜野さんの笑顔が可愛い。義雄が惚れてしまう訳だ。


「じゃあ、正先輩、今度の合奏で会いましょう」


みどりちゃん、こずえちゃんは、何人かのバイオリンの子達とカフェテリアを出ていった。



「正よ、あんなに可愛い子達がたくさんいて、よくオケ内で彼女を作らなかったな」


「まあな」


「私しか見えなかったんじゃない」


恵ちゃんがニコニコ顔。


「一応、そう言うことにしておく」



「しかし恵ちゃん。あのこずえちゃんと言う子は侮れないぞ。別次元だ」


「とんでもなく可愛いし、性格が恵ちゃんに似ている」


大樹が言う。


「決定的に恵ちゃんと違うのは、身持ちが硬そうじゃないと言うこと」


「正、取られちゃうよ」



「大丈夫。ちゃんと先手を打ってあるから」


「ねえ、正くん」


「何、何? その意味深なセリフ」


大樹が問いかける。


僕には恵ちゃんの笑顔が、やっぱり一番可愛い。


でも、こずえちゃんも確かに可愛い……。

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