第17話
「よかったね」
「茶色のジャケットだから、カレーが広がっちゃったけど、跡、そんなに目立たないじゃない」
「恵ちゃん、女の子でしょ?」
「自分だったら多分、相当落ち込むでしょ。俺は男でも落ち込むの」
「優しくしてよ」
「はじめに、おしぼりで拭うからダメなのよ」
「おしぼりって、漂白剤が入っている場合もあるから、時に色落ちしたりするのよ」
「カレーをこぼしたら、こするとシミが広がっちゃう。ティッシュなどで、つまむようにとるのがコツよ」
「その後濡らしたティッシュで汚れ部分をつまんで、シミをティッシュへ移すの。その後、乾いたハンカチやハンドタオルでシミ部分を抑えて水分を吸わせ、はい、自然乾燥」
「さすが恵ちゃん知ってるね。やはり育ちがいいんだね」
僕が呟くと、
「育ちがいい女の子なら、すぐ教えてよ、僕に……」
「いや、慌てているから、どうするかを、じっと見ているのが楽しくて」
「あのさ、猿山の猿じゃないんだから、もう……」
皆んなで笑う。
ーーーーー
「春なのに、鬱蒼としているね、薬学部植物園」
「うん、校舎と校舎の壁の間だからね。狭いし」
「大部分の植物は、付属植物園に置いてあるしね」
「でも、キャンパス内に薬用植物を植えるということは非常に意味のあることだと思うよ」
恵ちゃんは、とても楽しげ。
「ボタンが綺麗、しだれ桜も」
「もうすぐ一年で1番美しい季節ね」
「レンギョウの黄色、いいわね」
「これから植物園は花盛りよ。ラベンダー、カラシナ、ミツガシワ、白花たんぽぽが咲いてる」
「タイムが咲き始め、植物園は良い香り。あっ、レモングラスも」
「大樹くん、レモングラスの匂い、嗅いでみる?」
「うん」
葉を少し折り取って、恵ちゃんが大樹に渡す。
「あっ、レモンの香り」
「これ、農学部にもあるから、帰ったら、レモングラスティーを入れてあげる」
「オウレンでしょ、アマドコロ、ホザキイカリソウ、チャイブ、ボリジ、オランダワレモコウ」
「そして、コリアンダー、ヒナゲシ、オキナグサ、クサノオウ、カラスビシャク、マツバウンラン」
「小さな温室の中では、アカヤジオウ、ムラサキ、花たばこ、アリマウマノスズクサ、ストロファンツスなども咲いている」
「薬学部らしい、植物の選択ね」
「農学部は、園芸植物が多いからね」
「あれ、義雄じゃないか?」
「恵ちゃんが、LINEで皆ここにいると言うから、俺も来てみた」
「昼は?」
「まだだよ」
「花たばこ、花早いわね、普通もう少し後なんだけど……」
「これってニコチン、あるのかな?」
大樹が首をかしげる。
「あるよ。でも乾燥させて吸ったりしたら違法だと聞いたことがある」
僕が教えてあげる。
「正、誰から聞いた?」
「宗男おじさんのお友達が、たばこ農家している」
「たばこは、たとえ栽培がOKだったとしても、加工したらアウト。当然吸ってもダメ。自家用もダメ」
「たばこ事業法、か」
「そう言うこと」
「実はね、たばこ一本にたばこの刻みやら何やら入っているだろ? 細かいの」
「あの小さな刻み一つで、どんな種のたばこか、場合によりDNAを取り出し、何の品種かがわかる技術が最近出て来たって聞いた」
「それ、すごいじゃん」
大樹が驚く。
「うん、天才の研究業績だよ。普通、誰も考えもしないし、できっこない」
「一本のたばこから、品種の構成、たばこ種など、企業秘密の葉組み組成がわかってしまう」
「そうだね」
「お〜怖。何でそんな技術思いつく?」
「義雄くん。カーレーを服にこぼした時の対策はね〜」
「恵ちゃん、やめてよ、まったく……」
「何それ?」
「どうでもいいから新港でカレー食べてこい、義雄」
大樹がぶっきらぼうに言葉を吐き出す。
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