第225話
押し潰されるほどに長い時間だった。
カイリが願いを口にしてから、パーシヴァルは先程から一言も口を開かない。優に一分は経過しているが、それでも口を開く気配が無かった。
一体何のことかと吟味しているのか。それとも思っていた以上に壮大な目的だったのか。彼の無表情鉄面皮からは判断が不可能だ。
どれだけ待てば良いのか。
カイリは正直、そろそろ体力が尽きてきている。まだ病み上がり――とは違うがそれに近いので、結構体を起こすのが辛くなってきた。
二分、三分と経っていくにつれ、口を開こうかどうしようか迷い始めた時。
「……世界の謎、とは」
ようやく彼がもたらした言葉は、オウム返しであった。
これだけ待ってそれなのか、とカイリは少しだけツッコミたかったが、場を台無しにしそうなのでぐっと堪える。
だが、一応彼の言葉には続きがあった。
「世界の成り立ち……ということで合っているか」
「……。パーシヴァル殿は、疑問を持ったことはありませんか? どうして、前世の記憶を持っている人が、いるのか、とか」
「……聖歌を至上主義としているのか? ということなどか?」
「そうです。……エミルカ神話とか、この聖歌語という言葉が力を持っている理由とか、……本当に様々なことが、です」
「……。……ある」
端的にだが、全面肯定された。この点に疑問を持っている人がいたことに、カイリは驚くと共に喜びを禁じ得ない。
今回の教皇の件では、神の存在まで出てきた。そのフュリーシアという神が世界を支えているのならば、何が起きてもおかしくはないのかもしれない。
だが、少年少女の命を糧にしているとか、聖歌が餌とか、物騒な話を聞かされた後では、益々この世界の仕組みを何とかしなければならないという思いが強くなった。
「フランツさん……」
「ああ。……許可しよう」
「ありがとうございます。……パーシヴァル殿。今から、今回の教皇の件で少しだけ分かったことをお話します。もちろん他言無用です」
「……、……承知した」
パーシヴァルの顔が引き締まった。とんでもない予感がしたのだと、真面目な表情が雄弁に物語っている。
カイリはフランツ達に助けられながら、ざっとケントから聞いたことも話した。話が進むにつれて、パーシヴァルの顔は見事に強張っていく。
途方に暮れるというよりは、どこか触れてはいけない禁忌に踏み込んでしまったという様な表情だ。
「……。……なるほど。世界の謎、か。……この教会の仕組みや狂信者に関しては違和感を覚えてはいたが、……神、教皇、……いや。知らなければ先へは進めなかっただろうな」
「……信じてもらえるんですか?」
「疑えと? 否、……私が知りたかった領域の話まであったのだ。正直頭が痛いが、……知れて良かったと思う」
やれやれ、とパーシヴァルが眉間を親指と人差し指を挟んでぐりぐりとマッサージをする。ごっそりと疲れた様な顔になったのは、精神的に
しかし、意外だ。パーシヴァルも知りたかったことが含まれていたのか。彼はジュディス側に立っていると言うが、目的は何だろうかと好奇心が湧いてくる。
「あの、……パーシヴァル殿がジュディス王女殿下と繋がっているのと、関係しているんですか?」
「……それは、三つ目の願いか?」
「っ、いえ。話せないのなら構いません。俺達に協力してもらえるのならば」
「無論」
即答だ。迷う時間さえ無かった。
彼にとって、有意義な情報だったらしい。これは、相手に益々有利な材料を渡してしまったかと、カイリは内心冷や冷やした。
「ジュディス殿下の目的はまだ話せないが、……そうだな。私が知りたい範囲は、主に狂信者や王家と教会の関係性の始まりだ」
「……始まり」
それは、ほぼ答えてもらっている様なものではないだろうか。
しかし、全てではないだろう。彼も話せる範囲で話してくれている。伝わってきて、カイリは頭が下がる思いだ。
「恐らく、それらは世界の謎にも関係しているのだろう。……だが、今聞いたことはジュディス殿下達に話してはならないのだったな」
「はい」
「……即答だな」
「俺達は、ジュディス王女殿下の目的も知らないですし。……先程も言いましたが、信じているわけでは無いんです」
「……はっきり言う」
「でも、踏み込まなければ、相手にも心を開いてもらえないと思っているので。……これから少しずつ、お付き合いしていきたいと考えています」
難しい綱引きだ。
信じたい。
けれど、何でも信じてほいほい全てを見せるのは愚かだ。自分から信じなければと分かってはいても、誰でも、そして何でも信じろというのとはまた違う。
信頼関係は、一瞬にして構築されるものではない。顔を見て、言葉を交わして、行動して、それを見て、少しずつ少しずつ積み重ねて初めて築き上げられるものだ。
だから、まだここは出発点でしかない。
でも、ここから彼とも信頼を積み重ねていけたらと願ってはいる。
カイリが言葉なく彼を見据え続ければ、彼も視線を逸らさずに見つめ返してきた。まるで視線だけで攻防をする様な空気だが、カイリは絶対に負けはしない。
堂々と胸を張って見つめ続ければ、パーシヴァルがふっと崩れる様に笑った。ほんの微かではあるが、口元が緩んだのを見て、カイリは心持ち目を
「……良かろう。私もその謎については気になることが多い。探って、何か分かれば貴殿達に伝える」
「っ、ありがとうございます!」
「いや、……」
ぱっと顔を輝かせると、パーシヴァルが戸惑った様に一度口を閉じた。
何だろうと目を瞬かせれば、彼は少しだけ罰が悪そうに目を伏せる。
「貴殿は、やはり大人しくはなさそうだな」
「え?」
「……ここぞという絶体絶命の時に、私への願い事で助けを求めてくる。私はてっきりそうするかと思っていたのだが」
「あ、それは最後の一つに取っておきます」
「……一度しか使えなくなったが?」
「はい。でも……」
願い事を使って、助けてもらう。
それは結局、事務的な作業でしかない。そこに信頼関係は皆無だし、終わればそれっきりの関係になってしまう。
カイリが目指すのは、そこではない。せっかく、どんなキッカケであろうと
故に、ただの事務的な関係だけではなく。
「でも、そういう願い事が無くても、お互いに困っていたら助けて、助けられて、自然に手を取り合える。そんな関係になりたいって、俺は思うから」
「――」
「だから、そんな義理みたいな感情じゃなくて。お互いに何かあったら気にかけたり、助けたいって思える様な関係になれる様に。俺は、ここから貴方と信頼関係を築いていきたいって思っています」
目を逸らさずに、パーシヴァルの瞳を覗き込む強さでカイリは見つめた。敵意ではなく、意気込みが伝われば良いと願いを込める。
彼はカイリの視線をまともに受けてくれたのか、口を
不安が胸に生まれるのを感じながらも、真っ直ぐにひたすら見つめていると、パーシヴァルは口元に手を当てた。何となく溜息の様なものも聞こえる。呆れられただろうか。
「……委細、全て承知した。……今から、貴殿の二つの願い、全て全力で叶える」
「……ありがとうございます!」
「はあ。……第一印象通りだ。……いや、第一印象以上のものだな」
「え? あの、……さっきから、印象って」
「大人しくなさそう、と言ったな。その通りで、それ以上だったということだ」
「は、はあ」
それは褒められているのだろうか。
息を吐いた途端。
「――っ」
ぐらり、と視界が傾いた。体が奇妙な浮遊感に包まれる。
目の前が
「カイリ。大丈夫か」
「……すみません、フランツさん」
「体力の限界だろうによく頑張った。少し横になると良い」
「……でも。まだ、話は終わって……」
「いいや。……流石、俺の自慢の息子だ。よくやった」
「……っ」
結局最後は締まらない。パーシヴァルにも不甲斐ない姿を見せてしまった。舐められたら嫌だなと、心配になる。
だが、ベッドに横になった途端、急激に眠気が襲ってきた。
第十三位の目的は、一歩前進しただろうか。そうだったら良いと、心の底から願う。
後は、きっとフランツ達が補足してくれるはずだ。
信じて、カイリはフランツだろう大きな手の温もりを頭に感じながら、とろとろと意識を眠気に混じらせていった。
カイリが健やかな寝息を立て始めたのを確認し、フランツは胸を撫で下ろした。少なくとも悪い夢は見ないはずだと希望的観測を抱く。
だが、目の前の人物には物申したい。正直、今のカイリは肉体的ではなく精神的にもかなり参っている状態だったのだ。そんな状態で試されるなど溜まったものではない。
「……時期を考えて、来て欲しかったですな」
「申し訳ない。その点は謝罪しよう」
悪びれていない風に聞こえてくる。レインが肩を
「謝ってる様には見えねえけどな? どうせ、その辺りも含めてカイリ試しに来たんだろうよ」
「否定はしない。……だが、一番の問題は、時間が無かったということだ。そうでなければ、もう少しだけ期間を置いた」
「時間? 何の話ですかな」
パーシヴァルの表情は変わらなかったが、苦々しげに吐き捨てたのが引っ掛かった。本当にカイリを試しに来ただけではなく、時間が問題だったと言っている様に聞こえる。
パーシヴァルは一瞬視線を彷徨わせたが、すぐに観念したのか、カイリを見据えながら続けた。
「カイリ殿の元に、近々……いや、早々に依頼が舞い込む」
「――」
カイリへ。
名指しで突き付けられた現実に、フランツだけではなくレイン達もにわかに殺気立つ。
カイリが現在療養中なのは周知の事実だ。
それなのに、何故カイリをわざわざ指名するのか。依頼主には是非とも抗議付きで跳ねのけたい。
――いや。
すぐに思い直す。先日、クリスも同じ様なことを言っていた。
近々、王族が接触を図ってくると。
まさか、と。フランツも他の者達も顔色を変えた。
「どういうことか、窺っても?」
「ジュディス殿下からもたらされた情報だ。間違いないだろう」
「ジュディス王女殿下……。……つまり」
「王家からだ。……カイリ殿も、厄介な存在に目を付けられたな」
立て続けに王家からの依頼が来るとは、一体どういう風の吹き回しか。
一番の理由は教皇に拉致された件だろう。どうせ王家側にも洗礼云々は伝わってしまっているはずだ。
カイリは、洗礼から生還したただ一人の例外。
表向きは洗礼ではなく、あくまで教皇からの呼び出しという形となっている。
だが、洗礼云々を抜きにしても、直に教皇から呼び出しを受け、直接忠誠を誓ったという話になれば見方は否応なく変わってくる。
王家だけではなく、恐らく次第に世界中が注目し始めるだろう。パーシヴァルの話の続きを聞くしかなかった。
「元々、私やジュディス殿下側は、先程言った通り、第十三位の目的の一部を調べている。……第十三位もそうかもしれないとは思ったが、私が考えていた以上に大きな目標があった様だ」
「……それは、何処かから情報が?」
「否。ただの推測だ。しかし、同じ様な目的を調べていれば、自ずと導かれる答えではあるだろう。……貴殿達は、今まで輪を完全に閉じていたから気付かなかっただろうがな」
痛いところを突かれ、フランツは口を一文字に引き結ぶ。レイン達も気まずげに目を逸らした。まさしくこの前クリスに突かれた箇所と同じだからである。
だからこそ、カイリが自ら外に味方を作ろうとした時は衝撃だった。
彼は前世でも人に手酷く裏切られていたはずなのに、それでも輪を閉じようとはしていない。それは、あの優しくも強い両親や友人、村の者達の教えの賜物なのだろう。
カイリは本当に強い優しさを持つ人間に育った。
悔しいが、カーティスを手放しで褒めてやりたい。
「だが、最近の第十三位は以前と少し違ってきていたからな。そして、カイリ殿がその中心にいる様に感じた」
「……。……それは、事実かもしれませんな」
「だろう。……だから、試してみたかった。あれだけ頑なだった第十三位が変わるキッカケとなった人物が、どれほどのものか」
結果はご覧の通りである。
ほどよく良い性格をしており、頭の回転もそれなりに早い。まだまだ足りない部分もあるが、一番目の願いにあの『口封じ』を持ってきたのは良い手だった。二番目ではなく、一番にしたことに意味がある。
二番目にしていれば、その文言の揚げ足取りをしてのらりくらりと
交渉事はある程度任せてみても良いかもしれないし、経験も積ませた方が良いだろう。パーシヴァルに気取られるくらいに心の揺れが見受けられるという弱点も、回数を重ねれば減るかもしれない。
フランツは今回のことで、カイリの訓練に追加してみることにした。
「確かに武術はまだまだだろうし、聖歌の使い方も甘い部分があるだろう。だが、それでも補って余りあるほどに目を瞠るものもある。……第一位との試合で聞いたあの聖歌は見事だった」
「……見ていたのですか」
「ああ。どんな試合であろうと、何かの糧にはなる。……しかし、あれだけ攻撃的ではない優しい聖歌は初めて聞いた。……人柄がよく出ていたな」
自嘲気味に笑うパーシヴァルの顔は複雑そうではあったが、優しい。己には無い彼の強さを、あの試合で彼も見たのかもしれない。
思えば、あの試合が第十三位の距離が縮まる始まりでもあっただろう。ルナリアでは主にフランツが危機に導いてしまったが、結果的にカイリが縮めてくれた。
外から見ても、今の第十三位は変わってきている。それを知れたのは、思わぬ収穫だった。
「交渉はまずまずだ。……脅迫を用いなくても交渉出来る術を叩き込むのだろう?」
「そのつもりです。……一応、ファルとの件で一度脅迫めいたものはしましたが、……」
「どうせ、ひどく疲れていただろう」
「ええ……」
歓楽街の娼館で、ファルとの会話を一部始終録音したものを使って、クリスの名まで出してカイリは蹴散らした。
だが、あの時は度重なる出来事に疲弊したところでの
ああいう形での交渉は、もうさせたくはない。カイリには別のやり方があるとフランツも十二分に承知している。
「二度と、脅迫の様な真似をさせなくても良い様に叩き込みます。……ある程度、先程の様な『良い性格』は出してもらうことになるでしょうが」
「ならば、問題は無い。……彼に脅迫を用いた交渉事は不可能だ。表情が崩れなくても、心にどうしても隙が出来る。人格を捻じ曲げない限り、どこかで必ず綻びが出る。それは、彼だけが持つ本来の強さを損なうだろう」
「……そこまで評価して頂けるとは恐縮です」
「事実を言ったまでだ。……結果として、ファルも少し変わった様だからな」
「……」
ファルの名が出たことで、フランツ達の空気に亀裂が入った。
カイリを危険に
ちらりとエディの様子を窺ったが、フランツが思うよりも彼は冷静だった。任務中でもファルに対して淡々と対処していたし、吹っ切れたのかもしれない。カイリと言葉を交わしてから変わったのかと思うと、やはりカイリの影響力は大きかった。
カイリ自身はどこにでもいる、極々普通の素朴な人間だとフランツ自身は思っている。
だが、それでも彼はこんなにも人の心を奮い立たせるのだ。特別なことはしなくとも、静かに寄り添ってくれる。諦めずに手を伸ばしてくれる。
その在り方にはいつも助けられているのだ。フランツは益々誇らしくなった。
「今、ケント殿と枢機卿陣、それからクリストファー殿が、今回の第十位と、そしてファルの処遇について話し合っている。結論はそれまで待って欲しい」
「クリス殿も、ですか」
「ああ。カイリ殿が危険に晒された場所が、彼が管轄を請け負う歓楽街だったからな。……私はファルに関しては、もう二度と剣を握れない様にし、握ったならば最後、厳しく重い処罰を与える、という条件で騎士の地位を剥奪すべきと最初は考えていたのだが……」
そこで言葉を一旦切り、考え込む様に視線を下げる。
パーシヴァルが言わんとしていることが読めないフランツ達は、苛立ちながらも待つしかない。
やがて、言葉が浮かばなかったのか、考えた端から紡ぐ様に話し始めた。
「何と言えば良いか。……今までは反省の色がほとんど見られなかったのが、今回は少し違ってな」
「……」
「消沈と言うべきか。……カイリ殿の名前が出た時、ひどく葛藤する様な眼差しになった」
「……葛藤?」
「私にも上手く言えんのだが、……今は、反省している様に、……見えた。エディ殿のことも少しだけ話をしていたから、カイリ殿だけの効果ではないかもしれん。……まあ、貴殿達からすれば、だから何だ、という話だろうが」
言われた通り、フランツ達からすれば積み重ねてきた鬱憤がある。エディは特にひどく傷を
しかし、それでも今のエディは、顔色を変えはしない。それどころか一言も聞き漏らすまいとする様にパーシヴァルから目を離しはしなかった。彼の成長を目にして、感慨深くなる。
「……とにかく。結果が出たら伝える。もしかしたら先に、ケント殿かクリストファー殿から話が行くかもしれないが」
「……了解しました」
「そして、王族からの依頼だが」
話がころっと元に戻った。そういえば、案件としてはそちらの方が重要だ。
「すまないが、内容は明かせない。……だが、カイリ殿の今の状態を考えると、王族からの依頼はきついだろうと思ってな。謝罪として、手助け出来る様な状態を作っておきたかった」
「……だから、三つの願い事を?」
「その通りだ。……しかし、こういう使い方をされるとはな。いや、実に豪胆だ。度胸もある。良い性格をしているのに、そのくせ真っ直ぐだ」
「ええ、もちろん。カイリは自慢で最高の優しい強さを持つ天使です」
「……なるほど。第十三位が変わるはずだ」
面白そうにパーシヴァルの口元が吊り上がる。
彼が笑う顔は滅多に見られないのだが、今日はそれなりに柔らかな表情をよく目にした。これもカイリ効果かと感服する。
「気を付けろ。王族は、ジュディス殿下以外は警戒した方が良い」
「……ジュディス王女殿下は違うという風に聞こえますが」
「彼女がカイリ殿や第十三位を更に気に入れば、いずれ彼女の心の
つまり、パーシヴァルが彼女に加担するのは、彼女に目的があるからか。
そして、その目的が第十三位の目的にも重なる。
共闘を結ぶには充分だと判断したのだろう。カイリの踏み込み方もあっただろうが、取り敢えず第一難関は突破したと思って良いかもしれない。
しかし、と。パーシヴァルが吐息の様に
「……願い事が無くても、自然に手を取り合う関係になりたい、か」
独り言の様に呟き、パーシヴァルは息を吐いた。
「……久しく忘れていた感情だ」
「――……」
目を閉じて
フランツ達が長い時を経て忘れ去っていた感情を、忘れずに抱き続けて隣を歩いてくれる。
それこそがカイリの優しい強さだと、しみじみと感じ入ってしまう。
「カイリ殿にも伝えたが、二つの願い、『無条件』で聞き入れよう」
先程のカイリの言葉を、茶目っ気と共に真面目に言い切られる。
彼は堅物が服を着て歩いている様な御仁だが、話していると案外遊び心がある様だ。意外な発見は、やはりこうして交わってみないと分からない。
「ここで見聞きしたこと、これからも第十三位が話すことは、勝手に外に漏らしたりはしない。当然ジュディス殿下にもだ」
「……助かります」
「今の第十三位なら、手を取っても良いと少しは思えた。収穫はあった。……大事にすると良い」
立ち上がって、パーシヴァルが
昔の第十三位は、手を組むに値しないと彼には判断されていたということだ。
それでも、今の第十三位なら、歩み寄っても良い。
それが、答えで全てだ。フランツ達は、随分と長く意固地になっていたと痛感する。
同時に、パーシヴァルは心配してくれていたのかもしれない。不意にそんな予想まで降り立った。
そうでなければ、処遇が発表される前にこんな風にわざわざ宿舎を訪ねては来なかっただろう。王族からの依頼を助けようとも、普通の騎士達ならば考えない。
――変わらなければ。
強く実感する。
同時に、そう思える自分が誇らしくもあった。
「……当然です。俺の宝ですからな」
「第十三位の、の間違いだろう。……本当にこんな時に失礼した。次も土下座が必要なら、すると伝えておいてくれ」
「……それは心労をかけると思うので、やめて下さい」
冗談とも本気ともつかない表情で真面目に告げられ、フランツは謹んで固辞する。
断った瞬間、パーシヴァルが目を伏せて噴き出す様に小さく笑ったのが、フランツにも他の者達にも、何より印象的に映った。
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