第223話


「療養中に申し訳ない。……だが、どうしても貴殿に会いたかった」


 訪ねてきたパーシヴァルは、フランツの計らいでカイリの部屋まで案内することになった。

 まだカイリの体力が回復しきっていないので、応接室での対応は困難だという判断だ。加え、彼に関しては下手な細工はしてこないだろうと考え、真っ直ぐに部屋へ案内するということで全員の一致を見たためである。


 急いでベージュのカーディガンを羽織って、カイリは緊張と共に出迎えた。


 フランツはすぐ傍に、反対隣りにはレインが己のベッドに座って待機してくれる。パーシヴァルの後ろには、シュリア、エディ、リオーネが扇状に並んでくれていた。これほど心強い布陣も無い。

 パーシヴァルは出会った時と変わらず、ぴしっと制服を着こなしていた。着崩れしているところも一切なく、彼の実直で厳格な性格が滲み出ている。唯一、髪の浅葱あさぎ色だけが、柔らかな雰囲気を醸し出していた。


「いいえ。こちらこそ、この様な寝間着姿で申し訳ありません」

「いや。無理矢理押し掛けたのはこちらの方だ。……ああ、これは見舞い品。雑炊セットだ」


 雑炊。しかもセット。


 普通ならば果物の詰め合わせなどが主流の様な気がするが、この世界は違うのだろうか。

 雑炊はカイリも好きなので「ありがとうございます」と頭を下げると、実に真面目な顔で彼は続けた。


「普通は果物が良いのだろうが、果物はフランツ殿達が買って来ていそうだったのでな。まだ重いものが食べられないだろうと雑炊を選ぶことにした」

「あ、はい。ありがたいです。俺、雑炊好きなので嬉しいです」

「そうか。それは良かった。これは、鮭やカニなど王道のものから、カレーやチゲなど『これはもう鍋だろう』的なものまで全て完備している、個人的に素晴らしくお勧めのものだ。50種類ある。ちょうど六人セットだ」

「え? ごじゅ……っ」

「私も愛用しているし、ちまたでも美味いと評判のものだ。良ければ是非食してみて欲しい」

「あ、ありがとうございます。……」


 何だか色々意外だ。しかもかなり思い入れがあると見た。淡々としているのに、口調に猛烈な熱気を感じる。

 視界の端でレインとエディの目が光っているのを見ると、かなり良い品の様だ。胃にも優しいし、彼の気遣いもありがたい。

 だが、世間話で終わるわけにはいかない。カイリは改めて背筋を伸ばし、パーシヴァルに向き直る。


「でも、俺に会いたかったとは、どうして」

「貴殿に謝罪をしたかった」


 カイリの質問には、即答された。

 表情を微塵も崩さずに言い切られたが、声には苦り切った音が混じっている。

 パーシヴァルは椅子から降りて床に座る。その後きっちり正座をし、びしっと両手を床に突き、一度体を折ってから、更にしっかり頭を下げた。



「カイリ殿。この度の歓楽街での不祥事、並びに教皇の件。本当に申し訳なかった」

「――っ」

「私の見通しの甘さ故、貴殿をひどく危険な事態に陥らせた上、教皇の元に連れて行かれるという最悪な結果を招いた。まず、その件については一切の申し開きもない。この通り謝罪する」



 あまりに綺麗な土下座を披露され、カイリは表情も思考も石の様に固まった。フランツ達も半ば唖然あぜんとした風に見届けている。

 仮にも騎士団を率いる団長が、こうも簡単に頭を下げる。前にフランツが言っていた「頭を下げる」云々が事実だったということを、カイリは身をもって体験してしまった。


「あ、の。顔を」

「もし所望するならば、私は貴殿から殴る蹴るの処罰も受けよう。顔面殴打でも良い」

「はっ⁉」

「貴殿から私に対して何か恨みつらみや罰したいという気持ちがあるのならば、全て受け入れる」

「えっ! い、いや、ちょ、……ちょっと待って下さい!」


 進んで暴行を受け入れるとまで宣言され、カイリは慌てて首を振った。一緒に硬直した思考もぶんぶん振り回して無理矢理動かし、何とか否定を絞り出す。


「お、俺はそういうのを望みません! それに、その謝罪は本来当事者がすべきものです。だから顔を」

「元はと言えば、私がファルを放置したことが発端だ。……彼は貴殿が接した通り、騎士としては最低で、資格を剥奪するか迷う人物だった。既に彼に正当な指導をしようとする者はいなく、友人という者も皆無。残るのは彼を馬鹿にする者か、彼に同調して羽目を外しかねない者ばかり」

「……」

「……故に、年齢が近い者で、かつ忌憚きたんなく意見を言ってくれそうな貴殿をぶつけたら、少しは何かが変わるかもしれないという希望をぶち込んだ」

「……パーシヴァル殿……」


 パーシヴァルの願望は、ファルの更生を意味する。

 普通の方法ではもはや変わらないと感じていたのだろうか。厳格な彼のことだ。ファルの言動に対する注意や罰も当然与えていただろう。

 それでも、彼は捻くれたままここまで来てしまった。内心は途方に暮れていたのかもしれない。

 そう思った矢先、きっちり別の方角から思惑を打ち明けられた。


「しかし……、……貴殿を見極める、という己の欲も入っていた」

「……っ」

「教皇周りが不穏な動きをしているのを知っていたのに、……私はそんな大事な時にファルをあろうことか任せようとした。これはしかるべき罰を受けて当然のことだ」

「――」


 パーシヴァルの言葉に、カイリは頭から冷や水を浴びせられた様に我に返る。フランツ達の顔つきも一気に変じた。

 彼は、教皇の動きを事前に察知していたのか。聞き流せない言葉に、カイリも慎重に話を進める。


「……教皇が、俺を拉致しようとしていたと。貴方は知っていたんですか?」

「……いや。そこまでは。だが、ゼクトール卿が教皇と何かを企んでいるらしいといった『噂』は掴んでいた。……教皇が開催するというパーティと、第十三位の任務が重なったのが必然だった。そう読めなかった私のミスだ」


 頭を下げ続けるパーシヴァルの表情は全く見えない。

 だが、唇を噛み締める様なうめきに、彼の悔しさがひしひしと伝わってくる様だ。空気が怒る様に震え、カイリは何も言えなくなる。

 どう答えたものかと一考していると、フランツが代わりに口を開いた。


「……一つお聞きしたい」

「何なりと」

「パーシヴァル殿は、教皇のパーティには招待されていたのでしょうか」

「いや。私はそういったパーティには招待されない。元々、新米の頃からジュディス殿下の専属護衛を担当しているのでな」

「え、……専属護衛?」


 初めて聞く情報だ。

 しかし、フランツ達は当然知っていたのだろう。特に驚いた風もなく、淡々と話を続けた。


「それは、教皇には目の敵にされているということでしょうか」

「……どうだろうな。確かに私は、ジュディス殿下側に付いているし、彼女のスパイ的なこともしているが」

「……むっ?」

「えっ」

「だが、どちらにせよ、王族の護衛の担当は必要だと判断されている。故に、私が騎士団長になってからも、どちらかというと私は王族、特にジュディス殿下の護衛を優先する手筈てはずにしてもらっていた。パーティなどに参加する暇はない」


 何だかとんでもない極秘情報が吹っ飛んできた。流石にフランツ達も目を丸くしている。

 ここまで堂々とジュディスの味方で、しかもスパイまでしていると白状されるとは露ほども思わなかった。知られたら教会では大目玉どころか、命の危険にまで及びそうだ。

 何故、そんな大事な命綱の様なものまで暴露してきたのだろう。

 答えは、すぐに本人から差し出された。



「これは、私からの謝罪その一だ」

「……はい?」

「カイリ殿を絶体絶命の危機にさらす契機を作った詫びだ。……私の情報も少しだけ渡しておこうと思った」

「――」



 至極真面目な顔つきで、清々しく宣言してくる。

 少しだけ、と添えているが、実際はとんでもない内容だ。むしろ彼にとっては弱点になり得る致命的なものである。

 王族と教会は表向きは協力関係にあるが、その実かなり仲が悪い。

 それなのに、教会騎士であるパーシヴァルが王族側に立っていると知られれば、制裁が加わりそうだ。

 それとも、何か意図があるのか。カイリ達を引き込みたい、または罠に嵌めるなどといった企みが隠されているのかと穿うがってしまう。



「ちなみに、これを聞いたからと言って、王女側に引き入れようなどといった魂胆は無い」



 先回りされた。



 こちらの考えを見透かしているのだろうかと勘繰ってしまうが、当然疑問として出てくると予測をしていたのだろう。――カイリはよく顔に出るので、反応された可能性も大ではあるが。


「……まあ、彼女の味方になってくれるのならば、嬉しくはあるが。こればかりは、強要出来るものではないからな」

「――……」


 独り言の様に呟く彼の声には、どこか柔らかなものが混じっていた。同時に、疲れた様な静けさも感じる。

 硬質でしかなかった彼の声に感情が織り交ぜられたのは初めてだ。それだけ彼にとって、ジュディスは大切な人なのだろうか。


「……あの、パーシヴァル殿。顔を上げてもらえますか? お話がしにくいので」

「……分かった」

「……。……パーシヴァル殿は、何故ジュディス王女殿下のスパイだと打ち明けてくれたんですか? 謝罪にしても、破格過ぎます。貴方にとっては命を握られたも同じだと思うのですが」


 本当はもう少し別のことを聞き出したかった。

 しかし、何となく踏み込んだ領域を暴くのは反則な気がして、カイリは致命的になり得る弱点を晒した理由を尋ねる。

 カイリ達が、彼にとって敵かもしれないこの状況の中、打ち明けるのは相当胆力がいることだったのではないだろうか。カイリなら、まず晒しはしない。

 パーシヴァルは少し考え込む様に目線を下げてから、順序立てて話していった。



「まず、カイリ殿。あの性悪……ジュディス殿下を護衛して下さって感謝する」



 ――今、すっごい本音が出たな。



 性悪と言えるのはなかなかに凄まじい。

 だが、それだけ信頼関係が出来上がっている証拠でもある。彼女ならば、皮肉な笑みを浮かべながら、さらっと打ち返しそうだ。


「彼女の我がままを聞き入れながらの護衛はさぞ疲れただろう。部下達はいつも振り回されている。馬鹿にもされているし、かれるのはしょっちゅうだ」

「……そ、そうなんですね」

「大抵は途中で音を上げ、結局私一人で護衛する羽目になるのだが。カイリ殿は、最後まで放り出さずに体を張ってくれたと聞いた」

「それは、……任務を引き受けたのだから、当然のことをしただけです」


 中途半端に放り出すのは無責任だ。どれだけ振り回されようと、護衛を引き受けた以上最後までやり通すのが筋である。

 当たり前のこととカイリは考えていたのだが、パーシヴァルはふっと口元を和らげた。初めて笑みらしい笑みを見た気がして、カイリは目を奪われる。


「彼女が実に楽しそうに話をしていた。……イモ騎士だったか」

「いや、その、……その呼び名、やめて下さい」

「重ね重ね、彼女が本当に申し訳ないことを現在進行形でしている。だが、……色々こき下ろしながらも、楽しかった様だ。パンケーキのくだりも聞いたが、なかなか面白いデートだったと」

「デ……っ」


 全くそういう雰囲気ではなかったのだが、パーシヴァルにはそう受け取られた様だ。

 道中は色々恥ずかしい思いもさせられたし、馬鹿にしかされなかった気もする。正直散々だった。

 しかし。



 ――楽しんでくれていたのか。



 かなり意外だ。レインの方がエスコートし慣れているから、てっきりつまらないと思われていると決めつけていた。

 それでもパーシヴァルに語る程度には刺激を与えられた様だ。苦労した甲斐が少しでもあったのだと知って、胸を撫で下ろす。


「貴殿が教皇の元に連れ去られた時も、家族の目を掻い潜ってクリストファー殿に手紙を出した。今までなら騎士如きと、全く見向きもしなかっただろうに。……貴殿を助けるために動いたのも意外だったのだ」

「え……」

「彼女が少なからず貴殿を信頼したという証だ。……だから、貴殿になら少しは私の情報を明かしても良いかと思ったのだ」


 相も変わらず、淡々とした表情も空気も崩さない。

 しかし、声は依然として微かに柔らかいままだ。彼にとって心を許せる相手がジュディスなのだと、そう吐露してくれている錯覚まで起きる。

 要は、信頼している彼女がカイリを少しは信じてくれたから、パーシヴァルも信じてくれたということか。納得して、カイリは大いに頷けた。


「故に、私の致命傷を白状した。カイリ殿がこれを脅しに使って、私を奴隷の様に扱おうと自由だ」

「おど……、どれ……っ」


 とんでもない使い道を推奨され、カイリは思わずどもった。

 だが、途端、彼は口元に手を当てて喉を鳴らす。からかわれたのかと、かあっと頬が熱を持った。



「ぱ、パーシヴァル殿っ」

「いや……。貴殿は、なかなか真っ直ぐの様だ。それでは、この教会では苦労するぞ」

「それは、……身に染みています」

「まあ、だからこそ私は貴殿を信じて情報を渡したのだが」

「……」



 さらっと軽く告げられた内容は、カイリにとっては強く胸を突くものだった。

 パーシヴァルは、己が信頼するジュディスがカイリを少しでも信頼したからこそ、信じてくれたのだと考えた。

 だが、今の発言を吟味すると、彼は己の目で判断して信じたと言っている風に聞こえる。

 聞き間違いかと耳を疑ったが、カイリの驚愕にパーシヴァルは更に追い討ちをかけた。



「そして、今から言うことが最大の詫びと考えている。どうか受け取って欲しい」

「は、はい……」

「貴殿が望むことを三つ。無条件で私は叶えよう」

「――はいっ⁉」



 隕石が頭上に降って来た様な衝撃がカイリを思いきり殴りつけた。さしものフランツ達も、あんぐりと口を開けている。

 先程のパーシヴァルの極秘情報も酷かったと言えば酷かったが、それ以上の酷さがある。まさかの望みを三つ叶えるとは何だろうか。意味不明だ。


「貴殿が教皇にと望むのならば、その支援を全力でしよう。世界を更に統一したいというのならば、後押しをする」

「は、きょ、せ……」

「私の命を奪うのとジュディス殿下を殺せということだけは叶えられないが、それ以外なら受け入れる。好きに所望して欲しい。期限は問わない」


 表情を全く変えずに言い切る彼の態度は、下手に出ているはずなのに実に堂々としていた。まるで頭上から見下ろされている錯覚さえ感じる。

 だが、冗談を言っている風にも聞こえない。彼は本気でこの取引を成立させようとしているのか。

 そうだ。



 ――何か、取引に聞こえるな。



 下心は無いと言ったが、やはり彼には彼の狙う部分があるのかもしれない。

 カイリに直接謝罪するということ自体は不自然ではないだろう。

 だが、カイリは新人だ。聖歌騎士とはいえ、彼は団長を勤め上げるほどの手練れの教会騎士である。こんな危なっかしい綱渡りの様な誠実さを見せるだろうか。

 やり過ぎだ。

 フランツ達もそう感じたのか、疑惑の眼差しを注いでいる。

 それでも口を出してこないのは、カイリが話し相手だからだろうか。

 もしカイリが下手を踏みそうなら、きっと口出しはしてくれる。そう信じて、カイリは慎重に言葉を選んだ。


「……すっごく破格な申し出に過ぎると思うのですが」

「貴殿は聖歌騎士だ。しかも、ケント殿に迫るほどの聖歌の力の持ち主。その貴殿をあろうことか罠にめ、狂信者に連れ去られそうになった挙句、教皇の元へ『洗礼』を受けさせにむざむざ送ってしまった。これ以上のない失態だと思っている」

「……。……俺が、何故『洗礼』を受けたと思うんですか?」


 カイリの質問に、パーシヴァルが一呼吸置く。

 フランツ達から聞いた話だと、カイリが教皇に連れられていったのは手違いだという話でクリスやケントがまとめたはずだ。

 しかし、洗礼を受けたというのは暗黙の了解にもなっている、とも聞いた。

 暗黙の了解、ということは、表向きは違うという話で終わっているという意味だ。パーシヴァルがその単語を選んだ真意を知りたい。


「……洗礼は受けていたはずだ。現に、貴殿はひどく憔悴しょうすいしている。ジュディス王女殿下から引き受けた任務だけなら、ここまで寝込むことはあるまい」

「……」

「……と誤魔化すのは簡単だが、貴殿はそういう話が聞きたいのではないだろう。私は、貴殿が洗礼を受けたと知っている。……教皇の部屋へ己の意思ではなく連れて行かれるということは、もう二度と『戻ってこれない』ということを意味する。今まで、戻ってきたと思われた者も全員死んだ」

「――っ」

「貴殿は、日が浅いからそういった黒さに疎いだろう。いや、分かってはいても、まだ完全には理解していない。そうでなければ、そういう切り返しはしてこない」

「……っ」


 つまり、まだまだ甘い。

 そう言外に示唆しさされ、カイリは俯く。やはり試されているのだと深く痛感した。

 新米であるカイリには、経験値のある彼を出し抜くのはどう足掻いても無理だ。

 ならば、やはり正面からぶつかるしかない。意を決して、強く前を向いた。


「話を戻します。その三つの願いですけど、俺が貴方に奴隷になれと言ったら、奴隷になるのでしょうか」

「当然だ。団長、望むならば騎士もやめて貴殿の手足となろう」

「ジュディス王女殿下を守らなければならないのに?」

「……」


 一瞬、彼が呼吸を置いた。すぐに切り返してこなかったのは、即答出来るほど彼女の存在が軽くないからだ。

 それを知れただけで充分だ。今のは随分意地の悪い問いかけだったと、カイリ自身反省する。


「すみません。今の願いはありえないので、忘れて下さい」

「……。……やはり、貴殿は大人しくはなさそうだな」

「第十三位に揉まれましたので」

「よく言うぜ。初対面の時、エディの悪戯に対して団長生贄にしようとしたくせによ」

「あれは、新人いじめに対する毅然きぜんとした抵抗です」

「……パーシヴァル殿。こいつは、こういう奴だぜ」

「なるほど。承知した」


 深く頷き合う二人に、カイリは納得がいかない。どう考えても彼らの方がカイリよりも遥かに上手うわてである。


「……カイリ殿の言うことはもっともだな。……だが、一度言い出したこと。奴隷になれと言うのならば、指示に従おう」

「いえ。……それを俺は望みません。……本当に、三つも良いんですか」

「ああ。上手く使って欲しい」


 究極的なまでに、真面目という文字を人間にした様な表情で断言される。

 読んだことのある物語にも、「三つ願い事を叶えよう」というものがあったが、まさか現実で遭遇するとは夢にも思わなかった。人生何があるか分からない。

 しかし。



 ――二つ、思いついたことはある。



 これは三つと言われた時に、瞬時に浮かんだ事項だ。

 だが、正直リスクが高すぎる。一人で判断するのはもってのほかだ。カイリに対する条件ではあるが、実質第十三位全体で使用するのが理想だろう。


「フランツさん」


 フランツに呼びかけると、すぐさま反応してくれる。何だ、と声なく目だけで問われた。


「……大事な話がしたいんですけど……パーシヴァル殿には耳を塞いでもらった方が良いですか?」


 どんな話か告げることが出来ないもどかしさの中、何とかそれだけ絞り出す。

 フランツは少しだけ考えたが、いや、と首を振った。


「パーシヴァル殿が少しだけ弱みを晒したのだ。……よほどはっきりと内容を言わない限りは、このままで良い」

「分かりました。……じゃあ」


 改めてフランツの瞳を真正面から見つめる。

 フランツはそれに応じる様に真っ直ぐに見つめ返してくれた。

 それを確認してから、次いでカイリはレインへと視線を向ける。


「レインさん。……シュリア、エディ、リオーネ」


 一人一人順繰りに視線を移し、彼らの意識を引き寄せる。

 いぶかし気ではあったが、カイリの顔を見てみんな表情を改めていった。真っ直ぐな視線に真剣さを感じ取ってくれたと信じる。

 猛反対されたら、その時は撤回しよう。


 だが、そうでないのならば。


 ばくばくと高鳴る心臓を懸命に抑えながら、カイリは息を深く吸って、吐いた。

 そして。



「第十三位の到達点。パーシヴァル殿に話しても、構いませんか」

「――――――――」



 瞬間。

 フランツ達の空気が、心を映し出す様に激しく揺れた。


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