第322話


 ルーシーが、ファルエラの王位継承権を持っている。



 突然のガルファンの暴露に、カイリは目を見開いた。フランツ達も同様に目だけではなく、口もぱっくりと開いてしまう。中でも、フランツは「やはり、身分を洗っておくべきだったか」と後悔を口にしていた。ハリーから情報を得た時に、取捨選択した内容だったのを、カイリもよく覚えている。

 ルーシーを振り返れば、彼女も呆然と父の顔を凝視していた。彼女自身知らされていなかったのは、火を見るより明らかだ。

 誰もが言葉を失っているのを尻目に、ケントは一人淡々と確認を始める。


「……ガルファン殿。それは、貴方の奥方が王族だったということですか?」

「はい。……しかし、末席です。私の妻は、三代前の女王の妹の孫娘なのです。しかも、妻の母親は平民と結婚したため、その時点で王位継承順位はかなり下となりました。ルーシーもそういう意味では、遠戚とはいえほぼ継承可能性は無いに等しいのです」

「……ならば、益々おかしいですね。何故、貴方の妻は殺され、娘の命までファルエラが狙うのですか?」


 ケントの問いに、ガルファンは口をつぐむ。

 だが、ケントが容赦をするはずがない。既に、フュリーシアで犠牲者が出てしまっている。しかも、力なき民だ。

 ガルファンも分かっているのだろう。苦悶に満ちた顔をしていたが、重々しく口を開いた。


「先程も少し言いましたが……今、ファルエラでは内乱が起こっている様です。一見すると平和なのは、あくまで裏で起こっているということ」

「……国民は知らない?」

「はい。未成年で名前も顔も国民が知らないことを利用して、現女王を追い落とし……誰かと秘密裏にすり替えようとしている様です。現女王が今、どうしているかは私にも分かりません」

「――お待ちなさい」


 ガルファンが無念そうに首を振るのとほぼ同時に、シュリアが口を挟む。

 何となく焦った様な、けれどそれ以上に鋭い殺気の様な剣呑さに、カイリは混乱しながらも見守る。


「それはつまり、王位継承権を持つ者を殺している、ということですの?」

「それは……、……はっきりと言われたわけではありませんが、妻に関してはそうです。ですから、……今も、全員かどうかは分かりませんが、継承権を持つ者の身は危ないと私は考えています」

「――」


 シュリアから表情という表情が削ぎ落された。ここまで恐ろしいほど、真っ暗に表情が消えた彼女は初めてで、カイリは腹の底から震える。

 一体、彼女は何に反応したのだろうか。もしかして、過去の知り合いに継承権を持つ者がいるのかもしれない。

 そして、思った以上に凄惨な陰謀がファルエラで渦巻いている。――権力者は、少しでも王位を邪魔する可能性を持つものに怯えるものだ。



 だからこそ、ガルファンの妻を殺した。



 紐解かれていく事実に、カイリは底なしの真っ暗な穴を覗き込んだ思いを味わう。

 だからこそ、カイリは口を出さずにはいられない。聞きたくて仕方がなかった。


「あの、……ラフィスエム家が持っていたファルエラとの密約書に、女王のサインがありました。あれは……もしかしたら、現女王ではないかもしれない、ということですか?」

「はい、可能性はあります。正直、名前がハリエットで正しいかどうかも私には分かりかねます。私の妻や彼女を守っていた一族なら、もしかしたら知っていたかもしれませんが……もはや聞くことは叶いません」


 言外に、妻を守っていた一族も死んだ、とガルファンが白状する。

 どんどんと秘密を守る者が殺され、暴露されていく。

 継承権を持つ者だけではなく、それに連なる者まで暗殺対象だとすると、もはや動いている者達の歯止めは効かなくなってきているのかもしれない。


「……妻と出会ったのは、私がファルエラの小旅行に行った時です。その時には既に、彼女は国を出ることを考えるほどに身の危険を感じていた様でした」

「……ガルファン殿が結婚されたのは、十七年ほど前でしたな? 確か、出会って数ヶ月で結婚されたと記憶していますが……つまり、その頃から内乱の兆しがあったと?」

「フランツ殿の仰る通り、兆しはあった様です。一つ訂正するなら、もっと前でしょう。妻は本当に幼い頃に……両親の機転のおかげで、よく似た少女の亡骸とすり替えて死んだことにし、生き延びたのです」


 目を伏せながら語るガルファンの内容は、淡々とした口調からは想像出来ないほどの凄惨さを帯びていた。

 少女の頃ということは、十七年よりも更に前からそういう暗殺が飛び交っていたということになる。ファルエラの王室の陰惨さにカイリは眩暈がした。


「それでも彼女は、懸命に日々を生きていました。孤児院で働き、子供達に寄り添い、怯えながらも前を向いて生きていた……。そんな彼女だからこそ私は惚れ、……そして、……火種になると分かっていながら、連れ帰りました」

「……。奥方には、本名はあるのですかな?」

「ええ。……マルファステーナ・ファルエラ。最初と最後の文字を取って、『マナ』。長ったらしいから清々したと本人もよく言っていました。……死んだことになっており、顔も広く知られていない。一族は絶対に秘密を漏らさないと……それを信じて、今の今まで生きてきました。……ですが」

「甘いですね。……末席でほとんど継承権は無いに等しい者まで殺そうとする奴らなら、安心するまでどこまでも追いかけてくるでしょう。……一族を殺されたというのならば、……その家から痕跡を見つけたのかもしれない。僕なら、間違いなくそこを探すでしょうね」

「ええ、……ケント殿の仰る通り。だからこそ、妻は殺された」


 最後の言葉を発する声が低くなった。夜より濃い闇を匂わせるその響きに、カイリの心臓が小さく跳ねる。

 闇の塊は、ガルファンに寄り添ったまま少しだけ背伸びをする様に大きくなった。まるで彼の肩を撫でる様な仕草に、やりきれない気持ちに襲われる。


「彼らは脅迫してきました。あろうことか、我が国の王族をたぶらかしたのだから責任を取れ。我らに逆らうなら、お前達をファルエラの長年のスパイとしてでっち上げ、教会に反逆者という大罪を押し付け、娘ともども処刑する様に仕向けると」

「――、なっ。殺しておいて、誑かしたって……!」

「もしくは、娘を女王の影武者として調教し、あらゆる危険の矢面に立たせる。それが、貴様が犯した大罪への唯一の償いだ、と」

「そんな……っ」


 カイリが愕然と声を上げれば、ケントがなだめる様に背中を叩いてくる。

 しかし、そんな虚言が通じるのか。

 考えはしたが、執政者という者は、何処までも手段が幅広い印象だ。どれだけ虚偽に思えても、やり方次第では立派に本当の出来事の様に仕立て上げられるのかもしれない。



「そして、その時点で妻も……人質に取られていたのです」

「――」

「骨を……掘り起こされていて。確認した時には、もう」



 ガルファンの吐露に、カイリ達は言葉を失う。

 ホテルに仕掛けるために連れられていった五人の子供は、既に死者だった。

 つまり、このフュリー村に仕掛けた五芒星というのも、既に死者であるガルファンの妻を使ったのだ。――埋葬したはずの、骨を使って。

 死者をどこまでも冒涜する敵の行為に、カイリは吐き気が込み上げてくる。もし、自分の両親が、友人が、と想像したら頭が怒り狂って沸騰し、我を忘れそうになるだろう。


「王女を誑かした見せしめとのことでした。……ですが、チャンスも与える、と」

「……、……それが、五芒星を使った奥方を生き返らせるということですかな」

「はい。……我らは慈悲深い。だから、ホテルの爆破に協力すれば、フュリー村で仕掛ける五芒星の力の結果は、妻を生き返らせる設定にする、と」


 フランツが一瞬詰まらせた問いに、ガルファンは顔を覆って懺悔する。はっと吐き出す笑みは、ひどく陰惨で自虐的だった。

 彼自身、もしかしたらという欲を止められなかったと言っていたが、今の表情を目にすれば、疑う余地しか見当たらない。



 ガルファンは、心の底から全く信じていなかったのだ、と。



 ならば、何故そんな言い方をするのだろうか。膨れ上がっていくカイリの彼への疑念は解消されないまま、話は続けられていく。


「しかし、ガルファン殿。ならば、どうして、クリス殿にご相談をしなかったのです? 親交があった彼なら、きっと力になってくれたはずです」

「……」

「……ガルファン殿?」

「……。……既に私はその時より、四六時中大量の者達に見張られていました。クリストファー殿とは確かにご縁がありますが、そこに使者を出すなり、会いに行くなりしたら、どう思われるか。分からないフランツ殿ではないはずです」


 沈鬱に語られれば、納得するしかない。

 いくら親交があるからと言って、その時期にクリスに会いに行くというのが何を意味するのか。クリスは元第一位団長であり、現在も影響力が幅広いし、やり手だ。ファルエラだって警戒しているだろう。会いに行くのは得策では無い。

 八方塞がりだ。

 ガルファンの絶望たるや、どれほどのものだったか。想像に難くない。


「……それで、何故カイリが関係するのです? もう既にここにはいなかった、とは、……」


 言いながら、フランツが黙考した。カイリも五月末、と思い巡らせて、視界が開ける様な感覚に襲われる。

 五月末と言えば、カイリはエリックを討ったばかりの頃だ。そのせいで日々を生きる活力が湧かず、フランツが気を利かせてくれて、ルナリアへと六月頭に出発した。


 ――まさか。


 嫌な予感は、しかし正しく当たってしまった。



「ならば、カイリ殿はどうか、と。クリストファー殿の晩餐会で、貴方の聖歌に感動したのは私だけではありません。実際、参加した者達の中では密やかに噂になっていました。情報収集をしていたファルエラの者達も知っていたはずです」

「――っ」

「ですから、貴方にこの感動を伝えるため、という理由でならばファルエラも半信半疑ながらも見過ごしてくれるだろう、と。事実、見過ごしてくれました。私は、貴方達第十三位の宿舎を訪ねたのです」

「……っ、……それは」

「ですが、もう遅かった。……貴方達は、任務で国外へ出かけた後でした」



 人は、絶望する時に、こんな笑い方をするのか。



 見ている者達の心が砕けそうになるほど、ガルファンの笑みは深い虚無に囚われていた。

 タイミングが悪すぎる。

 これほどまでにすれ違ってしまったのは、もう嫌な言い方だが運命としか思えない。


「しかも、帰って来たのは二ヶ月後です。何度も訪ねたら流石に疑われるし、時間も無い。私にはもう、後が無かった」

「……」

「いえ。きっと、貴方達からすれば手はあったのでしょうね。けれど、悠長に構えている暇は無かった。このままでは、村の者も娘も殺される。だから」



 最後までファルエラの言いなりになった。



 既に諦めた様な微笑みは、儚い。ガルファンが今にも夜空の奥に消えていきそうな空気で、カイリは焦燥に駆られる。


「ラフィスエム家の領主権については、貴方達が掴んだ情報通りでしょう。最初に要求されたのはそれでしたから」

「……ラフィスエム家の息子を狙ったのは、彼らなら楽だったから、ですかな」

「その通りでしょう。フュリー村とルーラ村の二つは、聖都からほどよく離れた距離だから良い、と言っていました。後は、あくまで当主ではなく息子殿二人のものでしたし、彼らは愚鈍で強欲だと分かっていた様ですから、標的になった様です」

「……そして、良いように動いてくれたということですな」

「ええ。当主とは極力接触しなかった様ですが。他に私に要求されたのは、何が起こったとしても村には一切干渉しないということ。それから……ホテルに爆弾を仕掛ける様にも命じられました。地下が本命だが、そこは自分達がやる、と。……まさか、ルーラ村の子供達の命を使うとは思いも寄りませんでしたが、……言い訳ですね」


 緩く首を振って自嘲するガルファンに、カイリ達も何も言えなかった。

 知らなかったとはいえ、残酷な計画に加担した事実は免れない。子供達の親も、それでは納得しないだろう。


「カイリ殿に関しては、事故に見せかけて殺害出来るならしろと言われましたが……、……焦った様に命令されたのは、カイリ殿とホテルで会った直後です」

「え、……」


 改めて「殺せ」と言われたと聞くと、心臓が鷲掴わしづかみにされた様に縮む。フランツ達の目も剣呑に細まるが、一方でやはりという思いもあった。

 まるで、ホテルにカイリを近付けたくなかった様な動きだ。

 ホテルの爆破に巻き込んで殺害することを避けていたという推測も、彼の証言で合っているかもしれないという信憑性が出てきた。


「……ガルファン殿。理由は分かりますかな?」

「……、……いえ、よく分かりませんでした。ですが、そうですね……。今内乱で動いているファルエラの陣営……なのか、裏の者なのかは、カイリ殿に警戒を強めている様な印象を受けました」

「……カイリが、ファルエラに行ったことはないはずなのですが」

「申し訳ありません。私も、詳しく教えてもらえる立場ではなかったので。ただ、印象を受けた、というくらいしか。……ああ、……カイリ殿の聖歌は、危険だ? みたいなことを一度口走っていた様な……」

「危険……? どういうことだ……」


 フランツが唸るが、カイリ達も同じ気持ちだ。一様に表情が険しくなっていく。

 ただ、その中で一人ケントだけが無を保っていた。険しくはなったが、驚きは微塵も見当たらない。

 彼には心当たりがあるのだろうか。

 カイリ達よりも事情を知っていそうだが、彼が語らないのならば今は何を言っても口を割らないだろう。歯がゆいが、カイリ達自身で一歩一歩近づいて行くしかない。

 しかし、気になる点がまだある。ルーシーの誘拐だ。



「あの、……ルーシーさんは何故誘拐されたんですか? 写真の日付とかも、ちょっと変でしたし……」

「……ルーシー、……すまない。あれは、私の仕業だ」

「えっ⁉」

「え、……お、お父様の……? ど、どうして?」


 カイリ達が仰天し、ルーシーも目を丸くして愕然としている。

 当然だ。娘を誘拐した犯人が実の父親だったのだ。誰もが想像していなかった真相に開いた口が塞がらない。

 だが、その一方で腑に落ちたこともある。誘拐犯がやけに親切だったということだ。


「……もう誰にも助けを求められない。ならば、娘の安全だけでもと考え、まずは私の母の家に避難させました」

「……お父様は、そのことを村のみんなには知らせなかったと聞いたわ。どうして?」

「みんなには、敢えて『攫われた』という印象を植え付けておきたかったんだ。ファルエラを騙すには、まず味方から、と。……後は、疑心暗鬼にさせるのが目的でもあった」

「……ファルエラに疑心暗鬼にさせて、どうするつもりだったのですかな?」

「ファルエラは攫われたのではないと知っている。でも、民には攫われたということにした。何故か。娘を逃がそうとしているのか。しかし、じゃあ何故民を騙すのか。真偽はどこにあるのか」

「……、まさか」

「……情報の齟齬そごをあちこちに生じさせれば、時間稼ぎになる。私は問い詰められても、『みんなが勝手に誤解しているだけだ』としらを切れる。民は、私の心境を思って何も聞いてこない。その内、本当に攫われたことにすれば、……ファルエラは、何故攫われた、今回の件に誰かが感付いているのか、しかし私は特に誰とも接触していない、などと色々混乱させられると思ったのです」


 ガルファンの計画に、カイリ達は唖然としてしまう。

 色々危ういが、ガルファンは民との信頼関係はかなり強く結ばれている様だった。相手の出方も予想出来るし、臨機応変に対応出来る自信があったのだろう。

 大胆と言えば大胆だし、大雑把と言えば大雑把だ。

 しかし、だからこそ成功した。

 ファルエラはガルファンを舐め過ぎた。


「……私の屋敷に、一人だけ聖歌は歌えないですが、聖歌語に長けている執事がいます。それを、ファルエラの者達には隠し通していました」

「……」

「その者に聖歌語で姿を消して貧民街に潜入してもらい、比較的安全な者、金銭を定期的に渡し、その後に更に追加で報酬を渡せば約束を守りそうな者を、時間をかけて探してもらいました」

「……それが、私を攫った人達?」

「ああ。……ルーシー、恐い思いをさせてすまなかった。一応、使者を通じてルーシーの様子は聞いていたし、誘拐犯達はお前のことを心配して早く帰す様に怒っていたと聞いている。……本当かい?」

「ええ。……最初に髪を掴まれて写真を撮られた以外は、とても親切にしてくれたの。しかも、髪を掴んだことも謝ってくれたわ。……一緒に遊んだりもしてくれたし」

「そうか。……ラハルの見立ては正しかった様だ。少しだけ安心出来た。……父としてあるまじき暴挙に出たことは、謝っても謝り切れないが、……すまなかった」

「っ、……ううんっ、……わ、私を守るため、だったんだもんっ。……っ」


 ルーシーが口元を押さえて俯く。

 自分を思ってくれたこと、恐かったこと、それでも守ろうと動いてくれていたことを知って、色んな感情がい交ぜになっているのだろう。カイリとしても複雑な心境だが、手段を選んでいられない相手だということも伝わってきた。後は親子の問題だ。


 こんがらがっていた糸が、少しずつ解けていく。


 最近までラフィスエム家やファルエラが仕組んだと思っていたことに、ガルファンの思惑が絡まっていたことを知る。

 だからこそ、ここまで面倒な絡み方になったのだ。点と点がなかなか繋がらなかったわけだ。


「あー、待てよ? じゃあ、何でオレらに娘の居場所を知らせる様な真似をした? 日付を入れたり、忍び込みやすい様にしたのもわざとだよな?」

「はい。日付は、私とホテルで接触した日にすれば、脅されて動いているなど色々想像してもらえるかと思い、設定しました」

「……実際、そう思ったなー」

「……いくら偽装誘拐とはいえ、娘は何も知りません。それに、万が一ということもあります。なので、カイリ殿を通して第十三位に救ってもらえないかと考えました。カイリ殿はケント殿とも繋がっているし、きっと色んな者達が動き始めるだろう、と。……もし、私が頼んだ誘拐犯達が願った通りに動いてくれていたのなら、カイリ殿なら彼らに恩情をくれるだろうとも思いました」


 そうして、その通りになった。


 満足気にささやくガルファンは、もう思い残すことは無いと言わんばかりにカイリに向かって微笑む。



「だから、後は。私が国家の大罪人として処刑ないし、今回の事件の中で殺されれば、娘だけは救える」

「――――――――」



 清々しいほどに、笑って言った。

 それだけが救いの光だと言わんばかりの笑顔に、カイリは突き動かされる様に泣きたくなる。


「ファルエラの間者がいたのに黙っていた罪。ラフィスエム家を裏切りに引き込んだ罪。ホテルに爆弾を仕掛けて混乱を引き起こそうとした罪。フュリー村の命をまとめて潰そうとした罪。カイリ殿を殺そうとした罪。……子供達を見殺しにした、罪」


 指折り数えて、ガルファンが滔々とうとうと述べていく。

 まだまだあると言いたげに折り曲げながら、ガルファンはカイリ達をゆるりと見渡した。


「私がこれだけの罪状を公に知られてから死ねば、娘が放置されるはずがない。必ず監視が付く。事情を知った貴方達なら……少なくともカイリ殿ならば、娘を見殺しには絶対しないはずです」

「……っ」

「最悪、カイリ殿達の手を借りられなかったとしても、親交があったクリストファー殿なら、不審に思って重い腰を上げてくれる。陰謀を必ず暴いてくれる。打算がありました。……幸運なことに、私自身がカイリ殿と接触する機会があったので、もう大丈夫でしょう」


 だから、と。

 ガルファンは、全てを悟り切った笑顔でカイリ達に懇願した。



「どうか、殺して下さい。私は、償いきれない罪を犯しました」


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