第321話


「――だって。カイリ殿達はもう、その時、ここにはいなかったではないですか」



 諦めた様に、ガルファンが悲嘆に暮れたささやきを落とす。

 カイリは一瞬、意味を掴めなかった。それはケント達も同じなのか、あからさまに眉尻を跳ね上げる。


「……何を言い出したんです? 今回のことで、何がカイリ達と関係があるんですか?」


 少し腹に据えかねたのか、ケントの声がとがる。

 彼に圧をかけられる様に詰問され、ガルファンは、はっとした様に目を見開き。



 慌てて、目だけを動かして周りに視線を走らせた。



 明らかにしまった、と言わんばかりのガルファンの表情に、カイリは眉根を寄せた。何を焦っているのかと、内心で首を傾げる。

 だが、すぐに理解した。視界の端で、今までカイリを狙ってきてばかりだったはずの黒い影が複数、戦線を離脱する様に遠のいて行ったからだ。


「っ! レイン!」

「わーってるっ!」


 フランツが鋭い声を上げる前に、レインも力強く地を蹴って高く飛んでいた。

 途中、他の影達がレインの行く手を阻むために立ちはだかったが、彼の敵ではない。彼が槍を豪快に振るい、繊細に穿うがち、刺し込むたびに真っ黒な視界は沈んでいく。

 あっという間に追い付いたレインが、離れようとした影を一閃し、地面に叩き伏せた。

 しかし、他にも離れようとする影が増えていく。シュリアがそちらへと対応するが、本当に数が多い。どうやら逃げてこの現状を報告しようとする者と、足止めとして残る者で役割を変えた様だ。

 報告をされたら、また態勢を立て直されるかもしれない。最悪、黒幕の情報を逃すことになる。

 レインとシュリアが必死に逃れる影を追い、落としていくが、徐々に遠くへ距離を伸ばす影が増えていく。


「くっそ、数が多いっつーの! 団長!」

「駄目だ! 絶対にそいつらを逃すな!」

「分かってはいますが……! どんだけいますの⁉ ケント殿、国に余計な輩を入れ過ぎですわ!」

「僕じゃなくて、国境の騎士に言って下さいよ……」

「くうっ、ボクももう一丁銃が残っていれば……!」

「駄目だ、エディ! この塊を外に出すわけにはいかない!」

「フランツ様の言う通りです。私の援護付きでも傷がほとんど付かないこの塊が、万全ではないのでしたら……、……一般人への被害が間違いなく出ますね」

「じゃあ、どうしたら良いっすか!」


 エディは悲鳴の様な叫びと共に、動こうとした塊を牽制して銃弾を放つ。

 塊は依然としてカイリを狙っているのか、ぐねぐね動いている。ルーシーを捕えている様に見えるカイリを目の仇にしているらしく、隙あらば動いてくるのだ。

 しかも、みんなで攻撃をしても、傷がほとんど残らない。正確には、すぐに再生していくのだ。知らないまま、この存在を外に放っていたら多数に犠牲者が出ていたのは間違いない。

 影も逃してはならず、塊の動きも止めなければならない。カイリも必死に考えを巡らせ、不意に閃く。


 ――そうだ。俺が、聖歌を歌えばっ。


 レイン達の能力を上昇させるなり、敵の足止めになる聖歌を歌えば、相手を逃さなくてすむ。

 思って、カイリは息を吸い込んだが。



「駄目だよ、カイリ」



 すぐさまケントが腕を引いて止めてくる。

 どうして、とカイリが抗議しようとする前に、重ねて冷静に指摘してきた。


「君、もうそんなに体力残ってないでしょ。あの塊を相手にしたんだし、体も心もぼろぼろだよね」

「っ、でも! 俺、まだ何も……!」

「駄目だよ。それに……さっきまで塊は本能で動いていたけど、君が命がけで話しかけたおかげで、理性を多少なりとも取り戻した。そのことには意味がある」

「え……」

「後は、君が適切な聖歌を歌って何とかするのが最適解だ。……正直、その体力だってかなり危ういところなのに、これ以上消耗させるわけにはいかない。悪手だって、フランツ殿達も分かっているはずだよ」


 正論を突き付けられ、カイリはぐっと言葉に詰まる。感情は荒波の様に揺れているが、頭ではひどく冷静に理解したからだ。

 フランツ達もカイリに指示を出さないということは、ケントと同じ意見なのだろう。リオーネは塊に対抗するための聖歌語を絶えず重ねがけしていて、聖歌を歌う余裕がない。

 なら、どうすれば。

 一つの結論に辿り着き、カイリがケントを見やると同時。


「……ケント殿っ」


 フランツが、塊や影を相手に大剣を振るいながら、苦しそうに絞り出す。

 ケントは無言だ。それでも、静かに視線を注いでいる横顔から、きちんと耳を傾けているのがよく分かった。



「お願いします。……おこがましいし、情けないと思われるかもしれませんがっ。……どうか、力を貸して下さい! あの者達を、逃がすわけにはいかないのですっ!」

「――」



 フランツが、声だけで頭をこすり付ける様に下げる。

 レインやシュリアもケントをちらりと一瞥いちべつした。すぐに敵へと視線を戻したが、気配が頼み込んでいるのが伝わってくる。


「頼むっす! ……騎士として、あんたの実力は信頼してる!」

「カイリ様のことだけで言えば、最大限に信頼しています!」

「情けないと思われようと、ボクも、この任務は絶対に成功させたい! だから! お願いします!」


 エディとリオーネもそれぞれ叫びながら懇願してくる。

 カイリも「ケント」と呼びかけ、頭を下げた。

 今までも散々頼ってきたが、それでもケントはこの任務の主導は第十三位に一任してくれていた。作戦の実行についても、あくまで補佐としてのみ動いてくれていた。この任務は、第十三位が受け、成功させなければならなかったからだ。


 そんな彼に、主力として頼み込む。


 フランツ達は、プライドを捨てて任務の成功を優先させたのだ。それは、何でも内輪だけで解決しようとしていた彼らにとって、今までとは違う選択肢に踏みだした瞬間に他ならない。

 ケントは冷めた目で静観していたが、――ふわっと、初めて微かに口の端を緩めた。



「……情けないとは思いませんよ。……正直、想定外の成長です」



 ケントの満足げな横顔を、月の光が微笑う様に照らす。

 その光景に、カイリが一瞬目を瞠りながら見惚れた瞬間。



 ふっと、溶け込む様に彼の姿が掻き消えた。



 あまりに自然な消え方に、カイリは、え、と間の抜けた声を出す。

 どこに、と思う間もなく、答えはすぐに遠くに現れた。



 ――どっ。



「――」



 遠くで一つ、重々しい地響きが静寂を裂く様に響き渡る。

 見れば、一番遠くへと逃げて行っていたはずの黒い影が、糸が切れた様に崩れ落ちていた。

 何事か、と思う間も無く、彼らは急にドミノ倒しの様に声もなく倒れ伏していく。どさどさっと、悲鳴すら上げずに地に伏していく彼らに、カイリは導かれる様に周囲を見渡した。


 しゃっと、円を描く様に風が鋭く、けれど優雅に流れながら走る。


 時折きらめく一閃が影に走るたびに、ばたっ、どさっと一人、また一人と地面に落ちて行った。

 真っ暗な宵闇の中を、綺麗に駆けるその一閃が、流れ星の様に次々と地面に降り注いでいく。

 その光景が現実離れし過ぎているのに、どこか恐いくらいに美しく闇を彩っていった。フランツ達も呆然としながらも、武器を下ろして見惚れている。

 そうして、最後の一閃が降り注がれた時、終わりを告げる様に星の正体が姿を現した。



「――、……ケント……」



 最後に崩れ落ちた影の傍で、ケントがレイピアを抜き放った姿で佇んでいた。

 ふわっと、弧を描きながら華麗に舞うコートの裾が、夜空の中で咲き誇る凛とした花の様に映る。冷たく見下ろす様な佇まいは、ひどく凛々しい。

 きん、と冴える音と共にケントがレイピアを腰に戻す。同時に、音もなく一気にガルファンの横に滑り込んだ。ガルファンが驚愕で見上げるのと同時に、淡々とケントは指を鳴らす。



【集え、愚者よ。残らず我がもとにひれ伏せ】



 直後、倒れた影達が一瞬でケントの近くに引き寄せられた。互いにぶつかり合いながら、山の様に積み重ねられていく。

 それが軽くケントの身長の五倍くらいの高さに積み上がった後、ケントは無感動にガルファンに視線を差し戻した。


「……これで、満足ですか?」

「――っ」


 感情のこもらない視線は、冷え切っていた。石化した様に動けなくなりながらも、ガルファンは息も絶え絶えに吐息だけで頷く。フランツ達も唖然あぜんとして、山になった影を見上げた。

 ケントは今までもレイピアを振るうことはあったし、聖歌語を使ったところも実際に見たことがある。その度に凄いなと感嘆していたし、カイリも追いかけ続けていた。



 しかし、これは圧倒的だ。天地の差、という言葉すら生温い。



 風の切る音と輝く一閃だけは辛うじて追えたが、対応出来るかと言われたら自信が全く無い。

 見惚れている間に全てが終わっていた。しかも、この山の様に積まれた影達の数を、この一瞬で片を付けたのだと知って更に驚愕する。

 だからこそ、痛感した。



 ケントは、今の今まで力の片鱗すら見せていなかったということを。



 これが、第一位団長。全ての騎士の頂点に立つ覇者。



「――っ」



 ぞくり、とカイリの背筋が大きく震える。

 恐怖ではない。ただ、ぞくぞくと足元から駆け上がってくる何かに、カイリは押される様に高揚していく。初めての感覚に首を傾げるが、悪い気分ではない。

 フランツ達も詰めていた息を吐き、ケントへの視線に今までとは違う何かが混じる。

 その正体は分からなかったが、決して悪い方向ではない。フランツは頭を下げて謝意を示す。


「……感謝します、ケント殿」

「いいえ。貴方達が、初めてきちんと僕に真正面から頼ったので。これは、第一位団長として……騎士として要請を受けたまでです」


 素っ気なく口にするケントに、フランツはどことなく柔らかい笑みを浮かべた。エディは「ほへー」と魂が抜けた様な感嘆した様な声を出し、リオーネは口に手を当てて影が重なり合った山を見つめている。

 シュリアが鼻息を荒くして、「……いつか、のしますわ」と物騒なことをのたまっているのが気になったが、一人レインだけは苦虫を潰した様な表情を浮かべていた。



「……ったく。ほんと、第一位団長ってのは伊達じゃねえな。お見事」

「当然でしょう。……ああ、これは貸しですよ、レイン殿」

「……あ?」

「――この程度、貴方でも片付けられたはずです。出し惜しみする理由はどうでも良いですが、カイリを守れなかった時は殺しますよ」

「――――――――」



 レインに近付きながら、ケントが何事かを彼に呟いた。一寸視線を落とし、あらゆる表情という表情を削ぎ落としたケントに、カイリは先程とは別の意味で戦慄が走る。

 レインの方はというと、瞬間的にあらゆる感情を顔に巡らせたが、すぐに隠す様にへらっと笑った。興味なさげにケントが歩き去るのを見て、舌打ちする様に苦々しく槍を仕舞い込む。



 今、確実に二人にしか分からないやり取りをされた。



 それが何となく悔しいと、カイリは自覚する。嫉妬だということもすぐ分かった。

 カイリに力が無いのは事実だし、前世と違って自分のペースで力を付けていけば良いと考えることが出来る。どれだけの差があるのかも痛感したし、やる気も倍増だ。

 それでも、あの二人にしか分からない世界があるということが、悔しくて堪らない。置いていかれているその現実に、さみしさが胸を満たしていく。


「……ふふふ」


 そんな風に思っていた矢先、戻ってきたケントが嬉しそうに振り返ってくる。

 何故、この場面でそんな風に笑っているのか。カイリが少しだけ膨れながら目だけで睨むと。



「だって、カイリ、嫉妬してるから」

「……、はっ!?」



 何故バレる。



 慌てふためくカイリに、ケントは更に嬉しそうに喉を鳴らした。ふにゃっと溶けそうな笑顔は、本気で喜んでいる。意味が分からない。


「おい」

「ううん。カイリ、大好きだよ!」

「は?」

「僕ばっかり嫉妬するのって、やっぱり腹立つし。良い気味!」


 良い気味と来たよ。


 けれど、その「良い気味」が彼にとっては「嬉しい」という意味合いで使用されているのは充分伝わってきた。呆れるしかない。

 しかし。



 ――ケントでも、俺に嫉妬ってするんだ。



 意外な真実だ。

 前世では、カイリの方が彼に嫉妬してきた様に思う。彼はいつだって笑って傍にいてくれたし、そういった負の感情を見せては来なかった。

 だからこそ、そういう感情があるとは初耳だ。

 けれど。


 ――そっか。ケントも嫉妬するのか。


 お互い様なのだと知って、カイリは口元を緩ませる。

 ケントが「何さ」とふて腐れているのには、いや、と笑って返しておく。まだまだ知らない彼がいることが、悔しくも嬉しい。前世の自分は本当にもったいないことをしたと、カイリは悔やんだ。


「ま、嬉しいこともあったし、話を戻そうか。……ガルファン殿、これで話せますよね?」

「……、……ケント殿」

「彼らの耳があると話しにくいんでしょう。だから、狂気に満ちたフリをした? で合っていますか?」

「――」


 ケントの言葉に、ガルファンは目を見開き――ゆるりと首を振る。どこか自嘲気味に目を伏せ、足を折った。



「いいえ。確かに演技ではありましたが、……半分は私の意思も入っていました」



 ゆるりと広がる笑みは、穴に落ちる様に深くなっていく。自嘲が更に濃くなっていく変化は、彼の悲しみが如実に表れていた。


「……駄目だと分かっていながら……、嘘だと分かっていながら。それでも本当の本当の本当に、……妻が生き返るかもしれないと。愚かな願いを抱いて止められなくなりました」

「……。じゃあ、己の意思で、今回のことをしたと。そう思って構わないのですね?」

「はい、ケント殿。全て、私のせいなのです。……妻を殺されたと知り、憎悪を抱き、……、……何故、妻が、殺されなければならなかった、と……、……っ」

「――、え」



 殺された。



 懺悔を告白し、ガルファンが項垂れる様に頭を下げる。ほとんど土下座の形なのは、カイリ達の希望を打ち砕くものだった。

 だが、それよりも衝撃的な内容がある。



 ガルファンの妻は、殺されていた。



 カイリ達だけではなく、ルーシーも真っ青になって息を引きつらせていた。苦しそうな呼吸の仕方を間近で聞き取り、カイリの胸がぎりっときしむ。


「殺された……? 嘘……っ、だって、……お母様は毒蛇で死んだんじゃ……っ」

「いや、……ファルエラの使者が言っていた。マナは……、……自分達が殺した、と」

「っ⁉ どうしてっ! どうして、ファルエラが⁉ だって、ファルエラは、お母様の故郷じゃ……!」

「だからだよ」

「え……」

「……、……結果的に、今回の事件を……火種をフュリーシアに持ち込んだのはこの私です。本当に、……申し訳ございませんでした……っ」


 今度は確実に両手を突き、ガルファンが額を地面にこすり付ける。

 声の主である闇の塊は、そんな彼に寄り添う様にうねうねと近付く。その行為は、もう既に人のそれと同じだった。

 どんな姿になっても、二人は意思疎通が出来る。



 それはきっと、彼らの間には本物の絆があったからだ。



 あれだけ醜い感情に溢れ、カイリを攻撃していたのに、ガルファンの言葉にだけは正常な反応をする。ルーシーには攻撃をしない。

 確実に、今のあの塊には――『彼女』には、意志があった。


「……カイリ殿、私からのメッセージを読み解き、ここまで辿り着いて下さり、ありがとうございます。私は……賭けに勝てました」

「……、どういうことですか?」

「人を犠牲にし、妻を生き返らせたい。……そんな愚かな願いを抱きながら、その一方で、私は絶対に駄目だと自分で自分を止めたかった。けれど、……時間が経つにつれ、愚かな迷いや願いは、私を更に追い詰め……もう自身では膨れ上がる欲望や憎悪を押さえられないところまできていました」

「……。だから、カイリにメッセージを残したんですか? ホテルにいたのは偶然ではないですよね」

「その通りです、ケント殿。カイリ殿が無事に辿り着き、私を止めてくれることを夢見ていました。ホテルに行かない様であれば、どうにかして誘導することも考えていました。……カイリ殿。巻き込んでしまって、本当にすみません。ですが、……貴方ならという思いを、私は止めることは出来なかった」


 ガルファンが顔を上げ、救いを見た様にカイリを見つめてくる。

 そんな表情をされる理由が、カイリには分からない。

 だが、疑問を口にする前にガルファンは続きを紡いだ。


「ケント殿はご存じだと思いますが、私は……妻を亡くしてから、立ち直ることが出来ないでいました。ルーシーともろくに顔を見て話すことが出来ず……」

「……。ええ。父が、そんな貴方をおもんぱかって、五月の晩餐会に招待しました」

「その通りです。そこで、……カイリ殿の聖歌に救われました。……先にも言いましたが、貴方の聖歌を聞き、紅葉を見たことで、もう一度頑張ろうと思えたのです」


 ですが、と。

 ガルファンの声が暗くなる。一緒に表情も落ち、その凍える様な虚ろさにカイリは図らずも寒気が走った。



「クリストファー殿の晩餐会が終わった数日後のことでした。突然、ファルエラの使者が訪ねてきたのです」



 ルーシーが、不審な人物が訪ねて来たという者のことだろう。

 しかし、ケントが首を捻った。不可解そうに首を反対方向に傾げる。


「晩餐会が終わった後というと、五月末ですよね? その前後に国境を越えてファルエラから来たのは、数人の旅人しかいなかったはずですが。その者達ですか?」

「いいえ。……エミルカより」

「――、なるほど」


 得心した様にケントが考え込む。

 今の話では、カイリにはよく分からない。エミルカはファルエラとは反対側の位置にある。何故、そちらから使者が来るのだろうか。


「使者やここにいる者達は、数年前よりエミルカに滞在――潜伏していた者達だそうです。この時のために、祖国を離れ、異郷の地にいたと聞きました。世界中にそういう者達がいるとも」

「……それは、それほど前からファルエラは、フュリーシアと戦争を起こしたがっていたということですか?」

「いいえ。ファルエラがというよりは、……彼らは、……ええと。恐らく、公にはされていないファルエラの闇みたいなものなのだと思います。前に、マナの……妻を守っていた一族から、ちらりとそういう話を聞いたことがありますので」


 ケントの問いに、ガルファンは悩みながら答える。新しい情報ではあるが、彼自身全てを把握していないということは、その物言いだけで理解した。

 ケントは黙って続きを待っている。急かしても意味がないと見抜いているのだろう。

 記憶を掘り起こす様に唸ってから、ガルファンはルーシーを一瞥いちべつする。やり切れない様に再び頭を垂れた。


「戦争は、恐らくですが……口実です。彼らが強調したのは、ファルエラの現女王陛下を追い落とすために協力しろという点でした。そうしなければ、娘も殺す、と」

「現女王陛下を? ……益々ますます不可解ですな。それに何故、わざわざガルファン殿の奥方だけでなく、娘まで殺そうというのです? マナ殿はファルエラの貴族か何かで、現陛下側だったということですかな?」


 フランツのもっともな疑問に、ガルファンは深く息を吐く。

 そして、意を決した様に顔を上げ、ルーシーを見つめながら衝撃的な真実を吐露した。



「……ルーシーが、ファルエラの王位継承権を持っているからです」

「――――――――」



 思ってもみない暴露に、カイリ達の目が一斉に見開いた。


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