第164話
『おい、あの206番どこに行った⁉』
『知らねえよ! こっちは78番が勝手に死んで、その処理が面倒で大変なんだよっ』
『捕まえろ! 206番の奴、前から生意気だったが、遂に脱走しやがって』
『まあ、良いじゃねえか。……きっちり体の隅々まで教え込んでやれるんだからよお』
へへへ、と
薄い扉越しの部屋の隅で、エディは
この建物の壁は仕事場以外全体的に薄い。隣の部屋などは声も音も丸聞こえで、今彼らが何をしているのか手に取る様に分かって嫌いだった。
だが、嫌でもエディはここに住むしかない。
五歳の頃から、エディにはもうここしかなかった。
更に四年も経てば、嫌と言うほど処世術も身に付くというものだ。
206番、というのはどんな顔だったか。
しかし、恐らく彼か彼女か、その人物もすぐに捕まるだろう。そして、眠ることも許されず、死にそうになるまで複数から快楽と責め苦を受けるに違いない。
エディはもうご免だ。
だが、一日でも長く生き延びたいかと言われると疑問でもある。ここでの生活は、『生』という一文字からは一番縁遠いのだ。
生きながら死んでいる。
ここは、光の届かない場所。
人間などいない場所。
ただ、誰かの
相手が悪いと、仕事の最中に死ぬ人間もいる。死んでも、相手は全く罪に問われない。
それが、この世界。
それが、今のエディの生活だ。
『おい、108番』
がらっと、唐突に扉が叩き開けられる。
震えはもう起きない。名前を呼ばれないことにも慣れた。
だが、これから起こることを想像して、衝動的に手首を切りたくなった。
『新顔が来た。お得意様が来たら代わってもらうが、それまで相手をしろ』
――新顔。
どこから情報を嗅ぎつけるのか、この店には新しい客が後を絶たない。
故に、使い捨ての人材も豊富だ。
エディはもうこの中でもベテランの域に入りかけていた。
指名してくる客も多くいるが、時折上客になりそうな新顔の相手もさせられる。服装も、ベテランになればなるだけ、上等の着物に変えられていった。見目は良いに限る。例え、すぐに脱がされるとしても。
今回の新顔は、かなり金回りの良さそうな者なのだろう。
それか、貴族の教会騎士だ。
ここは、教会騎士にとって暗黙の接待の場所なのだと前に客の誰かが言っていた。当然禁じられていることではあるが、それでも他国の
国を守る騎士も、腐っている。世の中は最初から終わっているのだ。
今度は何時間相手をさせられるのだろう。昨夜は客がしつこくて、まだ鈍痛が全身から消えていないのに。
思いながらも、案内された部屋に素直に入る。感情は
扉を閉め、鍵をかけられる。窓もないし、逃げ道も無い。
どんな相手だろうか。なるべくなら、温厚な性格だと良い。ベッドに腰かけて無言の人物に、エディは覚悟を決めて床に座った。
『……ようこそ、お越しくださいました』
挨拶をしながら、エディは正座して静かにお辞儀をする。なるべく上品に見える様にと、仕草や
どんな出方をしてくるかと
すると。
『ふむ。……君が、今日相手をしてくれる人か』
『――』
人。
久しぶりに向けられた単語に、エディの視線が
目の前に輝いていたのは、太陽の様に明るい金髪を携えた男性だった。
およそ、日陰には縁の無さそうな好青年に映った。むしろ、何故こんな薄暗い場所に足を踏み入れたのか
エディが呆けて何も言えずにいると、相手は「ふむ」と
『俺は、フランツという。教会騎士団の団長だ』
『……、え』
急に自己紹介を始めた。
この建物は、基本的に
それなのに、目の前の彼は馬鹿正直に自己紹介を始めた。驚きの連続に、エディは目を白黒させる。
『あ、の』
『いや、ちゃんとどういう場所なのか見ておきたくてな。……見たところ、なかなか若そうだが。年齢はいくつなのだ』
『……。……じゅう、に、です』
喉が
しかし、興味本位で訪ねてきたのか。あまりに俗物的な理由に、エディの心は一気に沈む。太陽の様に綺麗な輝きを持っているのに、中身は残念だと知って何故か悲しくなった。
だが、彼はとんとこちらの反応には構わず、辺りをゆっくり見渡した。ベッドに座ったまま、「こっちへ来ると良い」と手招きする。
――ああ。相手をさせられる。
エディは、のろのろと彼の前に寄る。
だが、相手の反応は全く無し。奥手なのか、慣れていないのか。大抵は相手から命令されるか、行為を待っているのが目に見えるので正直判断に困った。
どういった方法にしよう。考えて、一つの方法を選択する。様子見をされているのならば、まずは少しずつその気にさせるのが良いだろう。
「……失礼いたします」
断りを入れてしゃがみ込み、まず彼の手に触れた。
きょとんと瞬く彼の反応に、エディは一瞬違和感を覚えたが気にせず作業を進めていく。指の隙間を軽く撫でながら、更に彼の太ももにするっと手を滑らせた。触れるか触れないかくらいの
こんなことばかり慣れていく。
無意識に自嘲し、それでもエディは躊躇いなく、だがゆっくりと彼の腰や胸に手を伸ばしていった。
だが。
『何をしている』
ぐいっと、肩を押し返された。一緒に伸ばした手も空を切って離れていく。
何か機嫌を損ねる様なことをしてしまったのか。一気に血の気が引いて震えが走る。
彼の手の平が離れていくが、その大きさに一瞬拳が飛んでくるかもと恐怖した。
しかし。
『隣に座ると良い』
『……、え?』
ぽんぽんと、彼が隣を叩いてくる。座れ、と言われて一瞬意味が分からなかった。
何が目的だ。会話で駆け引きしながら前座を楽しみたいのか。
よく分からなかったが、エディは言われるがままそろそろと座る。
だが、座ったエディを確認し、彼はにかりと満足げに笑った。
『特に君に何かしようと思っているわけではない。安心して欲しい』
『……、は、い?』
今度は何を言い出したのだ。
何もしない。
ならば、何をしにここへ来たのか。
『少し、話を聞かせて欲しい』
『は、なし。ですか』
『そうだ。君のことや、ここのことをな』
エディは当たったことはないが、時折抜き打ちで調査が入ると前に別の者が涙ながらに言っていた。甘い言葉で本心を聞き出し、自分達の主に洗いざらい報告するのだと。
彼もそういう人間だろうか。体が強張ったが、次の言葉に首を傾げた。
『警戒されている様だが……何、大丈夫だ。この部屋の会話は、誰も聞けない様に力を使ったからな。告げ口をされる心配はないぞ』
『――』
話。聞けない。
意味が分からない。本当に、彼は一体何者なのか。
だが、確かに先程から外の喧騒がまるで聞こえてこない。いつも、廊下は耳を塞ぎたくなるほど煩わしいのに、今は驚くほど静かだ。
気付いて、初めてエディは彼を真正面から見据える。謎だらけの彼をよく見てみたかった。
きりっとした眉に、青空の様な綺麗な瞳。どっしりした体つきは
呆然と見入っていると、彼はもう一度笑いかけ。
『本格的に行動を起こすためにな。君に協力して欲しいのだ』
『きょ、うりょく』
『見たところ、君はここでの生活に満足していない様に見えるのだが。違うか?』
『――っ』
心の奥に踏み込んでくる彼に、エディは大きく目を見開く。
これだけ感情が強く
『先程は死んだ目をしていたが。今は、少し違うな?』
『……、え』
『その方が子供らしい。……君は、そう在るべきだ』
ぽんぽんと頭を撫でられた。
乱暴な掴み方ではない。ただただ、優しく撫でられる。かあっと、頬が熱くなった。
彼は、本当に驚くことばかり告げてくる。これだと、本当に子供みたいだと戸惑いを覚えてしまう。
だが、驚愕はそんなものでは終わらなかった。
『俺が、君を外に連れ出してやろう』
『――――――――』
『ここにいる者達のその後の生活は、俺達が保障する。だから、……教えて欲しい。ここで起きている悲劇の全てを』
真剣に頼み込んでくる青い瞳が、真っ直ぐにエディの心を貫いてくる。
彼は、抜き打ちでエディを試しに来たのか。そうではないのか。疑心暗鬼は未だに心を巣食っている。
けれど、そんなことはもはやどうでも良くなっていた。
もう、ここの生活は疲れた。毎日誰かの道具として使い捨てられることに疲れ果てた。
だったら、もう一度だけ賭けてみよう。
彼の太陽の様な輝きに魅せられた心のままに。何より、昔子供の頃に見上げた青空の様に澄んだ眼差しを信じてみることにしよう。
これで裏切られたら、今度こそ死を選べば良い。
毎日手首を切りたくなる衝動が現実になるだけなのだから。
この日。薄暗いだけだったエディの世界に、まっさらな光が満ちる様に差し込んだ。
「エディ! 見てくれ! 餃子が串にたくさん刺さってる! 俺、こんな串、初めて見た!」
「あー、はいはいはいはい! 新人! 少し落ち着くっす! 食べ物は逃げないっすから!」
興奮して身を乗り出すカイリに、エディが呆れて首根っこを引っ掴んでくる。危ないっす、と半ば本気で引き止める彼に、カイリは渋々屋台から身を離した。
屋台街に来て何を食べようかと悩んでいると、串専門の屋台が目に入ったのだ。
故にそこを覗いて、カイリは文字通り釘付けになった。焼き鳥や牛肉、果物にまんじゅうなど、本当に種類が豊富だ。ここは本当に見たことのないものばかりで新鮮そのものだったのだ。
「いももちとか、たこ焼きとか、……え、たい焼きまで串に刺さってる! しかも、果物もいっぱいあるぞ!」
「はいはい。そうっすよ。ここ、結構何でも串に刺しちゃってるっすから。確か、タルトも刺してるし」
「え!? あ、本当だ。……へー、凄い」
「……新人って、時々信じられないくらい子供になりまよね。ビックリっす」
エディが未だ呆れながらも、「ここにしますかね」と今日の昼食を決定した。カイリはしばらくメニューを堪能してから我に返り、急に照れくさくなる。
確かに、はしゃぎ過ぎたかもしれない。これでは、大人になれるのはいつのことかと羞恥心が後から後から湧き起こった。
「いやあ、カイリさん、いつもありがとうございます! 今日はエディさんと一緒なんですね!」
「はい、バッツさん。俺、そういえば第十三位の人達と一緒に食べに来たことないなって」
カイリが応対すると、エディが少し罰が悪そうに補足してくる。
「……実質、ボクを元気づけようとしたんですよ」
「って、え、エディ!」
「おお! さすがカイリさん! カイリさんのお優しい人柄に、このバッツ、涙が止まりません……っ!」
「……大袈裟過ぎると思います」
「いいえ! あのケント坊ちゃまに素っ気なくし、かつ背中をばしばし叩けるとか! そんな素晴らしい友情を築き上げられる性格の上に、聖人君子の如くお優しい人柄とか……! ああ、このバッツ、末代まで貴方の素晴らしさを讃えたい所存でございます!」
「大袈裟です! 無いです!」
だばーっと勢い良く涙を流しまくる店主のバッツに、カイリは心持ち身を引いた。エディなどは、「いつものことっす」と慣れた風にあしらっている。
本当に、エディ達もこの屋台街には顔を出している様だ。店主達の雰囲気も和やかだし、ここでは受け入れられていると思うと、自然とカイリの頬が緩む。
「でも、この串屋の串も美味しいっすよ。この屋台街のは、どこも美味いっすけどね」
「ああ、うん。俺も、まだ全部はとても制覇しきれてないけど、どれもすっごく美味しいよね。よし、何頼もうかなー……」
メニューを見つめると、本当に様々だ。
肉は、牛、豚、鳥、馬、鹿、兎などあらゆる食材が揃っているし、野菜やキノコも自分が知っているものから知らないものまで種類が豊富で迷ってしまう。
「んー……困った。これ、百種類くらいあるんじゃないかな」
「そうっすね。多分、この店主のこだわりが酷過ぎるんだと思いますよ」
「って、エディさん、酷いですよ! まあ、いつでもどこでもお客様のニーズに応えるため、手は抜きませんからね! 『これは無いのか』と言われるたびに修行を重ね、増やしていって……いつの間にやら五百種類!」
百種類どころではなかった。
この屋台は、ケントの気質を受け継ぎ過ぎている。むしろ、彼の家族も同じ様な性格だから、付き合っていく内に変貌を遂げてしまったのだろうか。想像はあまりしたくない。
かと言って、この屋台街が静かだと、それはそれで調子が狂うので難しいところだ。
しかし、本当に迷う。定番と言っても、カイリは前世でも串屋に行ったことがなかったので、何が王道なのかも知らない初心者だ。
「あの、バッツさん。俺、串ってあんまり食べたこと無くて。お勧めって無いですか?」
「お勧めですか! なるほど、ちょーっとお待ちを!」
言うが早いが、バッツは、ぱんっと手を大きく叩いて何やら行動を開始した。
まず、じゃんっと擬音語付きでお披露目する様に大量の串が右手に握られる。
次に、目にも留まらぬ速さで、その串に多くの食材をぶすぶす雑に――いや、力強く刺していく。
それを十本以上成し遂げた後、バッツは
いつも思うのだが、この屋台の料理はどれも高級店で取り入れている様な調理法が披露される時がある。この人達は何者なのだろうと、カイリは不思議でならない。
そして、待たされること数十分。
エディとお
「お待ちいっ!」
「あ、来た、――」
美味しそうな匂いと共にやってきたバッツに、笑顔でカイリは振り向き――固まった。向かいに腰を下ろしていたエディも「あ、いつものやつっすね」と悟りを開いて迎えている。
運んできたバッツは、得意気に胸を張り、鼻を高々と伸ばしながら名付けられたメニュー名を宣言した。
「これが、バッツ特製、カイリさん専用スペシャルハイパー
次回があるんだ。
ツッコミ所が満載のメニュー名に、カイリは呆然とテーブルの上に乗った山盛りを見上げる。
そう、見上げるしかなかった。皿に盛りに盛られ、まるで芸術的なまでにダイナミックにかつ繊細に積み上げられた串の山は、首が痛くなるほど高く盛られている。
いつも思うが、何故この屋台街には『普通』が存在しないのだろうか。それとも、カイリの価値観がおかしいのだろうか。毎回来るたびに思わされる。
しかも、一本の串に刺さっているのは一種類ではない。
試しに一本手に取って見ると、その串には豪快に牛と豚と鳥と鹿と馬と兎と猪がでかでかと刺さって存在感を主張していた。しかも、串自体がとてつもなく長い。重さもあるし、まるで筋力の鍛練である。
別の一本はというと、イチゴと桃と
一本一本全て違う素材が刺さっており、どれだけ火の配分が大変だっただろうか。想像を遥かに超えた品揃えに、カイリが恐る恐るバッツを見上げると。
「いやあ、カイリさんがお勧めって言うもんですから! 張り切って、出来うる限りの食材、詰め込んでみました!」
それはお勧めって言うか、片っ端から刺しただけだよな。
盛大に突っ込みたかったが、実に、本当に実に良い笑顔でバッツが額の汗を
エディの方も、同じ様なメニューが山の様に
「……新人といると、色んな意味で退屈しないっす」
悟った様な口調は、エディらしからぬ達観した響きを伴っていた。この事態はカイリのせいではないと、声高に主張したい。
だが、漂ってくる匂いはとても香ばしくて食欲を誘う。ぐうっと、腹の虫が鳴いて頬が熱くなった。
「ほらほら、カイリさん! エディさんも、温かい内に食べて下さいよ!」
「あ、はい。じゃあ、いただきます」
「いただきまっす」
二人で両手を合わせ、揃って肉の串に手を伸ばした。
そのまま、大きな塊の牛肉を豪快にカイリは噛み千切る。
途端、じゅわあっと口の中いっぱいに味が染み込んだ肉汁が広がっていった。ほふほふと熱を逃がす様に口を開けながら、それでも噛み締めるごとに溢れ出て来る肉の香ばしい旨味を、カイリは存分に味わい尽くす。
「……美味しいっ!」
「おお! やった!」
「やったなあ、バッツ!」
「流石バッツ! カイリさんの心を射止めたな!」
称賛の声を上げると、周囲からも何故か拍手喝采がかっ飛んできた。いつもながら、彼らの反応が良く分からない。
しかし、本当に美味だ。初めに食べたのは牛肉だが、次に食べた豚肉も、負けず劣らず最大限の旨さが引き出されている。焼き加減も違うし、当然肉の硬さも違ってその加減がまた絶妙だ。
一体、どうやって焼き分けているのだろうか。カイリは不思議で堪らない。
「あの、本当に美味しいです。ありがとうございます!」
「ふっふっふ。そんなに褒めてくれるなんて……ケント坊ちゃまは素っ気ないことが多いから、嬉しいですよ」
「そうなんですか? ケント、ここの屋台街、いつも褒めていますよ。食べる時も幸せそうだし」
「そうですか……何か、嬉しいなあ。ケント坊ちゃまのこと、本当にちゃんと見てくれているんですね。いつもありがとうございます」
「そんな……俺にとっては、大切な友人っていうだけで」
「それが嬉しいんですよ! 俺達にとっては!」
感慨深げに目を細めるバッツに、カイリは何だかくすぐったい。カイリとしては、ただ普通にケントと過ごしているだけなのに、彼らにとってはそれが望外の喜びの様だった。
――本当に、今までケントは孤立していたのだろう。
孤立という言い方は正しくないかもしれない。
だが、大勢の者に囲まれた中で、誰も信用せずに生きていくその過ごし方を、孤立と言わず何と言えば良いのだろうか。
ケントに家族や屋台街の人達がいてくれて本当に良かったと、カイリは内心で胸を撫で下ろす。少なくとも、屋台街の人達は本気でケントのことを思っている。それだけは伝わってきた。
ごゆっくりー、とご機嫌で去って行くバッツは、別の客の応対をし始めた。
他の屋台を見ても盛況だ。そんなに忙しい中、ここまでサービスをしてくれた彼らには感謝してもしきれない。
「後で、もう一回お礼を言わないと」
「新人のおかげで、ボクもかなりのご馳走になったし。お礼言わなきゃ駄目っすよね」
苦笑しながら、エディも串に
彼は、バッツとの会話に割り込んでは来なかった。むしろ見守る様に一歩引いてくれている。
彼はいつも騒がしいのに、意外ではあるがそこまで会話に入ってくることが無いのだ。第十三位が相手だと別だが、それ以外だと大抵一歩引いている。
エディは、普段の見かけ以上に冷静だ。それが、カイリの彼に対する印象である。
あれだけ、リオーネのことについては熱く無駄に連呼しているのに、外に出ると気の良いお兄さんといった風情なのだ。ふとした時にも頼れるし、カイリは彼のことを尊敬している。
ただ、彼は冷静ではあるが、同時に直情的でもある。特に仲間を侮辱された時の怒りは激しい。
カイリの時もそうだった。第一位に悪意をばら撒かれ、それがカイリの仕業だと勘違いした時も
今は少しずつ歩み寄ってくれていると思うが、もし本当にカイリが仲間を侮辱したなら、彼はまた突き放すのだろう。今度こそ許さないはずだ。
当然、カイリにそんなつもりは無い。
だが、彼は
〝また、らんぼーうな先輩たちにしつこく暴行受けたりなんてしたら。今度こそ心ごと死んじゃいそうですもん。嫌に決まってますよお〟
――あの一言は、俺も
思い出して、カイリは沈鬱に見舞われる。あの時はエディの怒気が吹き荒れ過ぎてそちらが気になっていたが、今思い返すとカイリも殴りたくて仕方がない。
実際そんなことをすれば処罰されてしまうかもしれないが、それでも好き勝手に言いたい放題は腹が立つ。
「……って、いけない」
食べる手を止めてしまった。せっかくの美味しいご馳走を前に、もったいないことを考えている暇など無い。
もきゅもきゅと食事を再開して、広がる美味を堪能する。肉もそうだが、野菜のほくほくした甘さや、果物の蕩ける甘みも絶品だ。今度は、食べていないものを注文しようとカイリは心に決める。
そうして順調に平らげていると、視線を感じた。
顔を上げると、エディとばっちり目が合った。カイリは思わず瞬いてしまったが、エディは特に慌てた様子も無い。静かにカイリを見据え、口にしていたらしい
真剣な瞳とかち合い、カイリも串を持ったまま自然と姿勢を正す。何だろうと首を傾げていると。
「ねえ、新人」
「うん。何?」
「新人は、……ボクが
「……、え?」
エディの突然の問いに、カイリはぱちくりと目を大きく見開いた。
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