第56話


 ふんふんと鼻歌を歌いながら、レインは宿舎同士をつなげる廊下を歩く。

 第十三位は一番端にあるせいで、教会の入り口までが遠い。

 故に、普段は壁を乗り越えて直接街に出るのだが、今日は歩きたい気分だった。軽い足取りで、レインは各々の宿舎や、宿舎の途中にある小さな庭や休憩所を回る。

 そうして二十分ほど歩くと、ようやく目的の声にぶつかった。



「おい……」



 ひそっと、周りから不快なささやきが上がった。

 狙った通りの反応に、レインの口元が自然と吊り上がる。


「……あいつだろ。第十三位の……」

「そうだ。この前、泣き付かれたんだってよ。……夜、無理矢理何度も何度も襲われるって。嫌だって泣いても、殴られてそのまま……」

「聞いた聞いた。……そんな趣味があったとはなあ。まあ、女には飽き飽きしてるんだろ。顔だけは無駄に良いからな」



 最高の褒め言葉だ。



 よくも下世話な悪態を吐けるものだ。

 己の顔に自信が無い者のやっかみなど、顔が凄まじく整ったレインは当然受け慣れている。ついでに、くだらなさ過ぎて相手にする価値も無い。

 むしろ。



「ふーん。ま、これはエディとリオーネにはきついかもな」



 ここ数日、二人の様子がおかしいため、レインは突き止めるために重い腰を上げて外に出た。

 玄関で潜んでいる気配がしたのに気付き、わざと渡り廊下を歩いてみたのだが、正解だった様だ。同時に、か、と辟易してしまう。

 カイリが原因に気付いている節は無い。ということは、カイリ自身は彼らに遭遇していないということだろう。



 カイリは時折ケントに連れられたり、フランツと街中に出かけることはある。



 中にこもってばかりでは、体に悪いというフランツの涙ぐましい配慮のおかげだ。

 しかし、エディやリオーネとはまだ日が浅い。リオーネには、毎日聖歌の訓練に付き合ってもらっているということで、カイリの方が拘束時間を長くすることに遠慮がある様だ。エディに対しても掃除が大変そうということで、外出に付き合ってもらうことに引け目を感じているらしい。


 つまり、カイリが二人と街中に出る機会は無くなる。


 カイリが傍にいない状態で、二人の耳に悪意が入るという環境の出来上がりだ。


「……いやあ。相変わらず陰険だなー。ま、第十三位の味方なんて今まで誰もいなかったけどな」


 第十三位は、十一年ほど前からいわく付きのメンツが集まる場所になっている。団長であるフランツを始めとし、レイン達は全員他の騎士団に敬遠される経歴の持ち主だ。

 背景の真偽など関係が無い。ただ、騎士団内に広まっている噂が事実。

 教会は、そういう場所だ。

 だからだろうか。



 第十三位に入る新人は、他の騎士団の、特に第一位の刺客が多かった。



 元々良くない第十三位の評判を更におとしめ、立場を一層弱い方へと追いやる。第十三位に同情する人間を、少しでも減らす意味合いもあった。

 しかも単なる暴力ではなく、精神的な傷を残すというやり口は、外部からだけではなく、内部からも勝手に潰れていくというえげつない方法だ。恐れ入る。

 それが始まったのは、第十三位としては一番新参者のレインが入団した、三年くらい前からだった。

 今まで本当の意味での新人など入ったことが無かったエディとリオーネは、最初彼らを歓迎していた。世話を焼き、仲良く話し、毎日が楽しそうでもあった。

 だが。



「そういやよ、リオーネって女にも言い寄られてるらしいぜ」

「若い男の方は、罰当番みたいに広い宿舎の掃除を全部押し付けてくるって」

「それだけじゃなくて、あのレインって男と一緒に……やっぱさ、過去って大事だよなー」

「食事の中に虫や髪の毛とか日常茶飯事だってさ。毎日続くから、憔悴しょうすいしきってたって聞いたぞ」

「うっわ。ひっで。俺ならすぐ逃げるぜ、そんなとこ」



 ――結果はご覧の通りだ。



 新人が入るたびに、根も葉もない罵倒を振り撒かれ、結果すぐに辞めていく。しかも、その新人はすぐに別の騎士団に入り、笑顔で生活しているのだ。

 エディとリオーネは、抱える背景もあってか、騎士団の中では疑り深くもかなり純粋である。事件が続いてからは、一時期他人を完全に拒絶していたこともあった。

 それに今回リオーネは、一度トラリティで制服を作る時、カイリが自分達をかばう場面に立ち会っている。

 だからこそ余計に、深く叩き落とされたのだろう。実際、目の前で庇ってから、陰口で叩き落とす新人も数人ほどいた。


「……だけどなあ」


 ぽりぽりと頭を掻き、レインは適当にぶらつく。

 吹き付けてくる生温い風が、まるで周りの奴らの狡猾こうかつな本性に思えて、反射的に振り払ってしまった。



「――あいつが、そんな器用な奴に見えるかよ」



 レインからすれば、カイリはそれなりに頭の回転も速いし冷静でもあるが、かなり真っ直ぐな気質に思える。後から聞いた、総務での出来事もしかりだ。

 それに。



 ――あの目。



 トラリティでワストンを見ていた時のカイリの目は、レインには何となく見覚えがあった。

 あれは、同じ様に傷付いてきた奴の目だ。

 陰口を叩かれ、深く傷付き、故にそれを吐き気がするほど嫌悪している類の目だ。


「……あー、面倒だなー……」


 ぼやきながら、レインは頭上を仰ぐ。憎たらしいほどの青空に、拳を叩きつけてやりたい。

 エディとリオーネが今回カイリを受け入れたのは、団長であるフランツが連れて来たからだろう。その上、親友の息子だ。これ以上の身分証明は無い。

 それに、あまり人を受け入れず、切り捨てることの多いシュリアが、珍しくカイリについてはよく話していた。カイリ自身から、騎士団に入りたいと頭を下げてお願いしてきたのも決定打となったのだろう。

 故に、エディやリオーネももう一度だけ信じることにしたのだ。実際、二人は彼に対してそれなりに歩み寄っていた気がする。



 だが、そんな事情を周囲が知るはずもない。



 故に、いつも通りの策略というわけだ。それで全てが上手くいくと慢心している。

 それが、レインの結論だった。


「……さて、どう出るかね」


 ここ数日観察していたが、カイリは何とか二人と会話をしようと努力はしている様だ。演技という可能性は捨てきれないが、レインは人を信じることはしなくても、見る目はそれなりにあるつもりだ。

 単純に信じるわけではないが、無闇に疑いもしない。

 彼は、レインが観察していることに気付いているだろうか。特に隠してはいないつもりなので、図る意味もあった。


「……あーあ。気、削がれたな」


 慣れてはいても、外に出ると気分が悪くなる。

 一応、現在一番居心地が良い場所は第十三位だ。そうでなければ、外に出て確かめるなど面倒なことはしなかった。

 やれやれ、と頭を掻いてレインがきびすを返し、元の道を行くと。



「――おいっ」

「……、ん?」



 突如、目の前に黒い影が数人立ちはだかった。舌打ちしたくなるのを堪え、レインは仕方なしに周囲を見渡す。

 ざっと数えて二十人。数人では無かったかと、瞬時にレインは認識を改めた。

 しかし、どいつもこいつも目が据わっている。明らかに敵意――を通り越した憎悪の剥き出し方に、珍しさも相まってレインは思わず目を丸くした。


「あ? 何だよ」

「……貴様ら。最近入った新人をいじめているそうだな」


 代表格なのか、先頭に立っていた若い男性が一人、勇んで前にのめり出て来る。

 意外だな、とレインは冷静に観察した。

 この教会にいる弱虫共は、大抵レインの姿を見れば遠巻きに中傷を飛ばすか逃げおおせる。実力が雲泥うんでいの差だからだ。

 珍しいな、と本気で感嘆しながら取り敢えず否定だけはした。


「いじめって。んなことやって」

「嘘を吐くな! この外道が!」

「……おっと」


 ぶんっと、拳――に見せかけてナックルをめた一撃を叩き込んでくる男に、レインは本格的に眉をひそめた。

 しかも、相手はそれで怖気づくどころか、戦意を剥き出しにしてきた。レインを取り囲む者達全員が、武器を持ち出して隙間を埋める様に布陣し。



 ――あろうことか、一斉に踊りかかってきた。



「悪者に、裁きを!」

「「「「「裁きをっ!!」」」」」

「――、ああっ?」



 思わぬ奇襲を食らい、レインは流石に度肝を抜かれる。あらゆる方向から薙ぎ払われる一閃に、レインは槍を取り出しかけて――やめた。何とか全てをコンマ差でかわしていき、状況を分析していく。

 正直、ここで叩きのめすのは簡単だが、武器を持ち出せば一巻の終わりだ。たちまち問題提起され、第十三位の処分を望む声が殺到する。

 つまり、それが目的だ。瞬時に理解し、今度こそ舌打ちする。



 ――ったく。マジかよ。



 面倒な、と悪態を吐きながら、レインは一斉に振り下ろされる一撃の合間をって男達の背後に滑り込む。

 だが。



「――そう来ると思ったぜ! 【止まれ】!」

「――」



 包囲網を抜けた瞬間、四方八方から刃が迫った。同時に、がくん、とレインの足が不自然にかしいで止まる。

 その隙を狙い、レインの背中や腕にしたたかに武器が叩き付けられた。大方はさばいたが、結構な激痛が走り、「って」と思わずうめきを漏らす。


「ったく……! 【走れ】!」

「逃がすか! 【止まれ】!」

【【【止まれ!】】】

「――っ、ちいっ!」


 強制的に止められた足を聖歌語で動かしたが、直後に男達が揃って唱和した。武術に長けたレインも、二十人以上に聖歌語を同時に放たれると、抵抗力が鈍る。

 再び鈍り始めた足を叱咤しったしながら、レインは全員を睨みつけて――背後に左手を滑らせた。硬化用の聖歌語も小さく唱えておく。


 途端、鈍器で殴られる衝撃が腕に走る。


 直前に硬くなる効果をかけておいて良かった。まともに受けたならば、先程の様に激痛が襲ってきただろう。


「……お前らっ。無抵抗の人間ぼっこぼこにすんのは、問題視されんだろ!」

「は、何を言う! 貴様らなど、抵抗出来ない新人を心身ともに痛めつける外道どもではないか! しかも、よりによって聖歌騎士様をとは! 恥を知れ!」


 怒号しながら、先頭に立っていた男がえる。

 それに呼応する様に、周りの男達も揃って罵倒し始めた。



「そうだ! お前らに天罰を下すのが、我らの使命だ!」

「弱い者を痛めつけ、人を人とも思わぬ所業! 虫唾むしずが走る!」

「……、そうだそうだ! この、悪魔が!」

「悪魔よ、悪魔!」



 周りで遠巻きに見守っていただけの傍観者も、感化されたのか、煽られたのか。次第に彼らの輪に参加し始めた。

 各々武器を取り出し始めたのを視界に収め、レインは次第に危険を悟る。



「貴様ら、弱者をいじめるとは、それでも騎士か!? 同士だとは思いたくも無いな!」

「そればかりでは飽き足らず、無理矢理第十三位に縛り付けるなど、言語道断!」

「可哀相に……。あの新人、お前達の目を盗んで我らに助けを求めていたが、泣くばかりか、しばらく声を出すのも辛そうだったというではないか!」

「所詮は下賤げせんの者は下賤! 聖歌騎士を第十三位に入れるなど、やはり間違いだったのだ!」

「返せ! 聖歌騎士様を返せ!」

「貴様らに天罰を! 聖歌よ、教皇よ、神よ! 奴ら悪しき化け物にどうか制裁をお与え下さい!」

「天罰を! 制裁を! 聖歌に、教皇に、神に代わり、我らの手で、彼らに裁きを!」

「裁きを!」



 おおおおおおおおおおおお! っと、世界が震える様に全体が叫び始める。

 それはもう、一種の暴力だ。レインを頭から砕く様に、次から次へと湧いてくる雄叫びが蔓延まんえんしていく。



 この場では、彼らこそが正義。



 例え彼らの方が間違いだとしても、この圧倒的な暴力の前では正論など意味を成さない。


 ――こうなりゃ、逃げるが勝ちってな。


 はらわたが煮えくり返るが、ここで第十三位の機能を失うわけにはいかない。

 レインは、妨害された聖歌語の効力が切れたのを確認し、即行で近くの柱を蹴り上げた。そのまま、勢い良く飛び上がり、渡り廊下の屋根の向こうへと身を隠す。


「おい! 逃げたぞ!」

「追え! く、聖歌語が届かん! 誰か、聖歌は歌えないのか!」

「いや、ここに聖歌騎士様は……!」


 地上で大声で騒いでいるが、レインの知ったことではない。これ幸いにと屋根を急いで渡り、そのまま第十三位の宿舎まで走り切る。

 未だに玄関にも待ち構えている騎士達がいたのを認め、レインは宿舎内に屋根伝いに移動した。中庭の一つに降り立ち、ようやく息を吐き出す。



「……っ、ああっ、……めんどくせええええええええ……っ!」



 心の底から毒づき、レインは先程の出来事を想起する。

 三年前までは、ただ誹謗中傷を内外に流し、第十三位の名誉を傷付け、おとしめることが目的だった。今回もてっきりそうだと、レインは高をくくっていたのだ。

 しかし。


「……本気でカイリが欲しいってことか?」


 一瞬ケントが首謀者かと疑ったが、すぐに思い直す。彼は他人には心底興味は無いが、それでもこういった姑息こそくな真似は嫌っている様に見えた。

 任務のために、何度か彼の貴族の場での振る舞いを見たことがあるが、何となくそう感じたのだ。


 それに、万が一カイリにでも知られれば、激昂されるのは目に見えている。えてそんな危険を冒す様な愚者にも思えない。


「……、第一位の部下の暴走か?」


 今、一度でもレインが武器を抜いていれば、その件について大勢の証言者を得たことになる。

 それを証拠に、第十三位は危険だと教会の上に掛け合えただろう。カイリを強制的に連れ出していたかもしれない。

 そう。


 実現するためには、そういった証拠が必要だ。小さくても、重箱の隅をつつく様な証拠が。


 いくら第十三位が嫌われ者でも、騎士団だ。何の証拠も無しに、問題提起は出来ない。上の者に掛け合うにしても、でっち上げでは枢機卿あたりが制止するはずだ。



 だからこそ、まだ第十三位は存続している。



「……ま、問題なのは、第十三位の立場の弱さだよなっ。くそっ」



 こちらが武器を持ち出せばすぐさま問題視されるのに対し、今回彼らが武器を持って攻撃してきたことは、真相が露見しても恐らく厳重注意だけで終わるだろう。

 彼らには、大義名分がある。



 ――新人を、聖歌騎士を虐待から救うために奮起したのだ、と。



 一番厄介で姑息な方法だ。例えカイリに義があったとしても、第十三位は確実にダメージが蓄積している。

 現に、もう二人ほど被害が出ているのだ。


「……なるほど。エディやリオーネも、これを食らってんなら、……」


 相当なダメージだ。いや、ダメージなんていう生易しい表現では、彼らの痛みを表せないだろう。

 しかも、相手は器用なことに全員胴体を狙ってきた。

 服で隠せる箇所しか狙ってきていない。顔を意図的に避けていたのは、彼らの太刀筋を見れば一発で見抜ける。


「……団長は、……やられてねえよなあ」


 騎士団の団長の中で、頂点に立つのは第一位の団長であるケントだが、第二位以降の団長に優劣は無い。全員が騎士団の中で二番目に立っている。

 つまり、ただの教会騎士は無論、聖歌騎士であっても団長に不法行為を働くと逆に処罰の対象にされる恐れがあるのだ。せいぜい出来るのは、誹謗中傷といった名誉棄損くらいである。


「シュリアは……あいつ、この場は通らねえし、相手にしなさそうだよなー」


 団長命令で無い限り、彼女はこの渡り廊下を使わない。玄関で待ち伏せしていようと、即行で近道に入って煙に巻くだろう。彼女は団の中で一番身のこなしが素早い。捕まるヘマは絶対しない。

 故に、残るのはエディとリオーネだ。

 それなりに強いとは言っても、これだけ暴力的に囲まれて精神攻撃をされれば、隙が大きくなる。器用に抜けるには、まだ経験値が足りない。何だかんだ、揉まれ足りないのだ。


「ったく。言えば良いのによ」


 言わないのは、相手に上手く誘導されているのか。

 加えて、抑圧されている人間というのは、得てして声を上げるのに勇気を要する。

 その上、二人は声を上げることを極端に恐れている節がある。エディは普段は騒がしいが、諦めることに慣れており、リオーネも排他されてきたことで人とのつながりを諦めるのが早かった。育った背景から仕方がないのかもしれないが、今回は致命的だ。

 だからこそ、カイリとも未だに衝突していない。シュリアやレインがさっさと当事者となっていたなら、とっくの昔に露見していた。



 ――相手も、よく見極めている。本気でいやらしい。



「団長も、放任主義だからなあ」



 絶対にエディやリオーネに何かあったことには気付いている。カイリが団の中で窮地に立たされつつあるのも薄々は感付いているはずだ。

 それでも放置しているのは、相談をしてくるまで基本的に待つスタンスだからだ。もしくは、いよいよ身――むしろ命の危険に迫ったら腰を上げる、という感じだろう。第十三位は、ある程度自力で切り抜ける力を養わないと、やっていくのが難しい騎士団だからだ。

 しかし、かなり度が過ぎてきているのは確かだ。第十三位の副団長は地位が低めとはいえ、レインを狙うとは焦り始めている証拠でもあるだろう。報告しても良いかもしれない。

 だが。



「……別に、カイリがいなくなっても困んねえし」



 むしろ、現時点では厄介者だ。いなくなった方が、騎士団内は綺麗さっぱりする。

 例え今、団長としてフランツが動いたとしても、エディやリオーネのカイリに対する不信感は全く消えない。

 つまり、結局はカイリ自身が二人の信頼を勝ち取らない限り、第十三位はぎくしゃくしたまま崩壊する。いなくなれば、多少はマシになるはずだ。



「……、……新人、か」



 三年前から入団してきた新人は、ことごとく第十三位を陥れ、悪評だけばら撒き去って行った。本気で入団したいと思っていた人間は一人もいなかった。

 そんなものだろうと思っていた。札付きの仲間になりたい人間など、何処にもいない。

 だが。



〝お願いします。……どうか、俺を。この第十三位に入れて下さい〟



 団に入る時に、馬鹿正直に真っ向から頭を下げてきた人間。

 不公平だから、許可が欲しい。そんな馬鹿は初めて見た。


「……、……らしくねえなあ」


 深々と溜息を吐き、レインは頭をく。

 彼は、自分達の経歴を知ったらどう思うだろうか。やはり、離れていくだろうか。抜けたいと願うだろうか。

 だが、第十三位が散々悪意をぶつけられていることを知りながら、彼はそれでもこの団を選んだ。

 根性だけは据わっている。良い性格もしている。

 それに。



〝単純に言えば、うーん……みんなのこと、尊敬しているっていう意味だよ〟



 初対面で、そこまで言い切る彼は、とても愚かだ。

 何故、あんな言葉を吐いたのだろうか。どうでも良くはあったが、それでも知ってみたい気がした。

 だから。



 ――彼を、特に好いているわけではないが。



 彼の行動次第で、立場を決めよう。



「……さーて。夕飯も、どうせ豪華なんだろうなあ」



 団長だからな。

 思考を切り替え、レインは『らしくない』思考を意図的に散らす。

 そうして、しばらくそよ風に当たって生温さを吹き飛ばしてから、レインは重い腰を上げて中庭から部屋へと戻っていった。


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