第44話


「やっほー! カイリ! 迎えに来たよ!」


 ケントの第十三位宿舎襲撃から三日後。

 約束通り、彼は昼前にカイリを迎えにきた。


「おはよう、ケント。朝から元気だな、本当」

「もっちろん! もう今日が楽しみすぎて、昨夜はベッドに入ってから五秒で寝たよ!」

「……快眠な様で何よりだ」

「ふふん。一緒にお昼食べるの楽しみにしていたからね! 眠気で時間は潰さないよ!」


 うきうきした彼の服装は、いつもの黒いコートではない。白シャツにベストと、かなりラフな格好だ。

 アクセサリーも身に付けていないし、腕時計といった類も見当たらない。加えて表情も締まりが無いから、はっきり言って団長にはとてもではないが見えなかった。

 対するカイリ自身も、今日は青のシャツに紺のカーディガンといったラフな格好だ。

 実は制服を作った時に、一緒に購入したものである。おまけに、レインとリオーネ――というよりは第十三位からの入団祝いということで、何着か買ってもらってしまった。

 今日着ているものもシンプルなのだが、すそにさりげなく模様が入っていたりとアクセントになっていてお洒落だ。二人は本当にセンスが良い。


「カイリの私服、初めて出会った時と雰囲気が少し違うね」

「え? ああ。これ、入団祝いだって買ってくれたんだ」

「わーお。可愛がられてるね! いじめもなくて、安心したよ」

「……っ、あーもう。良いから行くぞ! ……じゃあ、フランツさん! 行ってきます!」


 恥ずかしさを誤魔化して奥に声をかけると、フランツとレインが部屋から出てきた。何やら二人で色々話し合っていたらしく、カイリも朝は彼らとあまり話せていない。


「おう、行って来い。健全な遊びをして来いよ。ま、不健全でもオレは一向に構わないけどな?」

「あはは、嫌ですね、レイン殿。カイリに不健全な遊びを教える奴は、僕が即行で闇討ちしますよ」

「……過保護だな、お前」

「うん! 過保護だよ!」


 カイリが半眼で呆れれば、ケントはにこにこと断言してくる。

 そういえば、前世では孤立してからは彼と遊びに行ったことなど無かった。どんな一日になるのかと少し緊張する。


「カイリ、気を付けてな。……ケント殿。くれぐれもカイリを頼みます」

「はーい! 何だかフランツ殿、カイリのお父さんみたいですね」

「まあ、……こいつの父親からも頼まれていますので。どうも過保護になりがちで」


 ぽん、とカイリの頭を撫でながらフランツが頬をく。

 その仕草が少し父親と似ている。年齢が父と近いからだろうかと、ぼんやり考えてしまった。


「よっし。任せて下さい! 狂信者が襲ってきたら、秒殺しますから」

「ケント殿ならアフターケアも抜かりは無さそうだ。任せました」

「……物騒な約束しないで下さい、フランツさん」


 とはいえ、カイリとしても狂信者のことを考えるだけで恐怖だ。聖歌騎士は二人以上で行動が基本だが、例え単独行動が許可されたとしても、まだ独り歩きは無理かもしれない。

 故に、今回のケントとの外出は少しホッとする。ついつい素っ気なくしてしまうのに現金だと自分で自分に呆れ果てた。


「じゃあ行こう、カイリ。今日は僕のお勧めの店を紹介してから、実家に招待するよ!」

「そういえば、ケントの実家ってこのシフェルにあるのか?」

「うん! 普段は宿舎で暮らしているけど、週末には実家に帰るんだよ。あのご飯が恋しい!」

「……そっか」


 自発的に帰っているならば何よりだ。ケントが楽しげに話す家族に会うのが待ち遠しい。

 そんな風にカイリとケントが仲良く会話しながら、遠ざかっていった宿舎では。



「……ああして見ると、確かに二人共まだまだ子供に見えるな」

「っはは、確かに。……ま、ケント殿がカイリを利用してないってことを祈るのみだな」

「……ああ」



 別の心配をされていることをカイリが知るのは、ずっと後のことである。










「でもケント、いっつもこの長い廊下往復して大変じゃないか? 第一位と第十三位の距離って一時間くらいかかるだろ?」


 長い渡り廊下を早歩きしながら、カイリはケントに問いかける。

 確か、彼は時々宿舎の見回りもしていると言っていた。初めて出会った時は、彼は第九位の宿舎の見回りをしていたはずだ。



「もう長い間ここにいるし、慣れたよ! それに、宿舎回りしてる時は、仕事を堂々とサボれ……部下に任せて楽出来るしね! 最高だよ!」



 こいつ、サボるって言ったな。



 前から思っていたが、ケントの言葉の端々に部下への対応の酷さがうかがえる。

 部下達のケントへの態度は盲信的なものが垣間見えたが、彼の実態を知ってあの態度なのだろうか。だとすれば、神経を疑う。

 だが。



 ――そういえば前の時も、盲目的と言えば盲目的だったか。



 思い出して、カイリは少し呆れる。

 ケントは前世の時から様々なことに対する才能が高いし、顔も良くて明るくて人気もあった。

 だが、反面少し黒いしマイペース過ぎて、周囲が振り回されていることもよくあった気がする。

 彼は、来る者は拒まず、去る者は追わずがモットーの様なところがあった。


 逆に言えば、誰かに執着しないのだ。


 友人はいても、『みんなのケント』という感じで、特定の友人を作っていなかった。相手ばかりがケントに感情を向け、彼の心を掴もうと躍起やっきになっているのをよく見かけた。

 そんな彼が、カイリにだけはまとわり付いていたので、やっかみを受けたことも一度や二度ではない。その度に邪険にして相手にはしなかったが、本当にケントの言動は謎が多かった。



 しかし、そんな彼に救われていたのも事実だ。



 そして今も、カイリはケントと再び友誼ゆうぎを結んでいる。不思議な縁だと、カイリ自身思う。


「カイリ? どうしたの?」


 急に黙って心配になったのだろう。ケントが眉尻を下げて聞いてきたので、カイリは首を振って笑った。


「いや。負担になってないなら良いんだ。……毎回第十三位の宿舎まで来てもらっているから」

「カイリに会うためなら、火の中でも踊っちゃうよ! 何なら、水の中で息もしてみせるから」

「いや、無理だろ」


 無茶苦茶な提案をしてくるケントに、カイリはすかさずツッコミを飛ばす。胸を張ってやけに得意気なのが不思議でならない。

 そんな風に、賑やかに廊下を渡り切ろうとしていると。


「……あ。やだなあ……」


 ケントが前を眺めながらぼやく。カイリも何だろうと、彼の視線を追いかけて――息を呑んだ。

 視線の先では、廊下の向こう側から真っ白な集団がこちらに歩み寄ってくるところだった。

 近付いてきた彼らはカイリの目の前を折れ曲がり、静かに通り過ぎていく。



 彼らは、雪の様に真っ白なローブをまとう、妖艶なる者達だった。



 この、湧き上がる感情を何と表現するべきだろうか。

 神聖――とは少し違う。

 例えるなら、どこかおかしがたい存在。自分達とは一線を画す、別の世界の人間の様な静けさに包まれている。そんな風に思えた。

 フードを目深にかぶり、ローブの背中には十字架と羽をモチーフにした紋様を刻んでいる。両手で炎の灯った燭台しょくだいを丁寧に掲げ、足音を立てずに廊下を渡っていく。


 彼らの顔には、あまり表情らしき表情が見当たらなかった。


 フードによって影になっていたのも、拍車をかけていただろう。全員一様に真っ直ぐ前だけを見つめ、決められた道を辿る様に足並みを揃えて歩いていく。

 他の騎士達は立ち止まり、彼らのために道を譲る。頭を軽く下げる者達さえいて、厳かな儀式を捧げている気分になった。

 しずしずと、そのまま教会の奥へと消えていく彼らを見送り、カイリは知らず詰めていた息を吐き出す。自分の世界が戻ってきた様な感覚に、どうしてか心底安堵した。


「……ケント。彼らは?」

「聖歌隊だよ。ミサとか、そういった大きなイベントごとや儀式の時には、率先して彼らが歌うんだ。街中で流れてる正午の聖歌も、彼らが歌っているんだよ」

「へえ……」


 あれが、聖歌隊。


 シュリアが最初は入る様に勧めていた騎士団だ。騎士団というよりは、合唱団の様なものだろうか。


「……俺も、もしかしたら、あそこに入っていたかもしれないんだな」


 第十三位への入団を認められなかったら、カイリが行っていたかもしれない場所。

 だが。



「えー! カイリじゃ無理だよ! 聖歌隊なんて無理無理!」



 すぐさま、ケントがあっけらかんと笑い飛ばしてきた。馬鹿だなあ、と言わんばかりの口調に、カイリは少しむっとする。



「何だよ、無理って」

「だって、カイリって、……、……ぎっちぎちの枠にめられた生活って、耐えられるの?」

「え?」


 どこか面白がる様な口調に、何故かぎくりとカイリの体が強張こわばる。そんなカイリの心境を見透かした様な瞳で、ケントはにこにこと続けた。


「聖歌隊ってさ、朝は五時に起きてまず教皇に挨拶。それから礼拝堂で祈りを一時間くらい捧げて、自分達の暮らす部屋や礼拝堂の清掃に突入。やっとありついた食事も質素も質素! 肉? 何それ、美味しいの? 的な食生活だし、走らない、叫ばない、怒らない、とにかく品行方正を厳しく求められる場所なんだよ!」

「……、え……………………」

「そんな、雁字搦がんじがらめの規則に縛り付けられた生活なんて、僕なら無理だね。耐えられないよ! 肉万歳! 寝坊万歳! 叫ばないとか、無理無理! ストレス溜まり過ぎてその内発狂しちゃうよ」

「……」

「で? カイリって、そういう生活、出来そう?」



 無理だ。



 即答である。

 崩れ落ちるカイリに、ケントは「ほら!」としたり顔で胸を張った。何となく悔しいので、その胸を軽くど突いておく。ごほっとせていたが、知ったことではない。

 しかし、聖歌隊がそんな規律極まる場所だとは想像もしていなかった。修道院を更に厳しくした様な場所だと思えば間違っていないだろうか。カイリには到底貫けそうにない規則ばかりである。


「聖歌隊は、宿舎は無くて、教会の上に寝床があるんだよ。十五階くらいだったかな?」

「じゅ、十五階?」

「そ。聖歌を歌う聖なる人っていうことで、他の騎士達よりも上だよっていう意味合いも込められてるっていう噂。血生臭い僕達騎士とは一線を画す存在だよーって、教皇がそう認めているしね」

「……ふーん」


 聞いていて、あまり気分は良くない。騎士達は一生懸命国のために働いて、時には命まで落とすことだってあるのに、そんな彼らを侮辱する様な文言を平気で教皇は宣うのか。

 益々教皇への印象が落ちていくのを感じていると、ケントがおかしそうに喉を鳴らした。何故そんなに笑うのかと、カイリは益々不機嫌になる。


「何だよ?」

「ううん! カイリは、やっぱり良いなあ」

「は?」

「カイリ大好きってことだよ!」

「はあ、そうか。ありがとう」


 何となく誤魔化された気がしたが、深く追及はしないことにする。しても、ケントは笑顔ではぐらかしそうだ。


 しかし、と。聖歌隊が去った方角を、カイリはもう一度見やる。


 自分達騎士とは違って、真っ白なローブを着た者達。

 叫ばず、走らず、怒らず、常に平常を保つその心。

 彼らは一体、何を思い、何を願って暮らしているのだろうか。

 近付きたいとは思わないが、一度その心のうちは聞いてみたい気がした。


「さ! 気を取り直して行こうか!」

「ああ。今日は何処へ――」

「あー! ケント殿!」

「――」


 改めて街中へ繰り出そうとすると、元気な声が吹っ飛んできた。

 何事かとカイリが慌てる横で、ケントが実に嫌そうな顔で振り返る。明らかにお楽しみを邪魔されたと、不機嫌そうに舌打ちまでし始めたので、カイリは軽く肩を叩いた。



「ケント殿、こんにちは! あれ、誰かと一緒にいますね! めっずらしー!」



 そんなケントの不機嫌さなど物ともせず、ひらひらっと手を振って親しげに少年が声をかけてきた。

 少年と言っても、カイリよりは上の様だ。ちょうど少年と青年の間くらいの過渡期なのだろうと、適当に当たりを付ける。


「……こんにちは、ギルバート殿。奇遇ですね。邪魔しないで下さい。帰って下さい」

「あはは! 相変わらずつれないですね。今日は俺も非番でして。それより、そちらは?」

「知りません。それじゃあ、これで」


 くるんと回れ右をして、ケントがカイリの腕をがっとつかんで強引に引きずって行く。

 だが、相手もそうはさせじと回り込んできた。更にケントが横で舌打ちをするのを、カイリは「おい」となだめる。


「ケント。失礼だぞ」

「えー、だって。うるさいんだもん、この人」

「おお! 呼び捨て! ああ、もしかして貴方が、有名なカイリ殿ですか?」

「え? あ、はい。初めまして、カイリです」

「わあ! しかも、ケント殿とは違ってフレンドリー! いやあ、実はお会いしてみたかったんですよ!」


 ぱんぱんと大きく楽しげに手を叩き、少年がカイリの手を取ろうとする。

 しかし直前で、ケントが体を割り込んで邪魔をしてきた。にこにこと満面の笑顔で威圧をかける。


「僕達、街に急いでるので。せっかくの休日を邪魔しないで下さい」

「ふう。相変わらずつれない。あ、俺はギルバートって言います。ギルって呼んで下さい。教皇近衛騎士団に所属しています。よろしくお願いしますね!」

「――」



 教皇近衛騎士団。



 その単語に、カイリはどきりと小さく心臓が跳ねた。

 あまり、教皇に良い印象を抱いていないからだろうか。彼に必要以上に警戒心を抱きそうになるのを、必死に制御する。


「教皇近衛騎士団って……えっと、数字が付く騎士団とはまた違うんですよね?」

「はい! 一応、教皇に付いても大丈夫だろーって感じの人が集められるんです! 一応、武術の腕もそれ相応に無いと失格の烙印らくいん押されますけど、それなりにあればオッケーです」



 適当だな。



 フランツからの説明を聞いて、教会の在り方のあちこちに適当さを感じるが、近衛騎士の決め方も適当なのだろうか。

 救いを求めてケントを見つめると、彼はほがらかに爽やかに肯定した。


「うん! 僕の足元には到底及ばないけど、ギルバート殿はただの教会騎士でも武術は結構なものだからね! 性格も裏表ないし、教皇も、ま、いっかー的な感じでOKしたんじゃないかな!」

「ああ、はい! そうだと思います!」



 適当すぎるだろ。



 思わずじと目になると、ギルバートは笑い飛ばしてきた。

 彼は確かに一見すると裏表は無さそうだ。ケントの紹介の仕方もありえないが、本心も混じっているのかもしれないとカイリは思い直す。


「いやあ、しかしケント殿に友人が出来たとは聞いていましたけど、本当なんですね! ふふ、何だか嬉しいな」

「何でギルバート殿が喜ぶんです」

「って、何度もギルで良いって言ってるのに」

「ご冗談を。面倒です」

「ふう、本当につれない。こんな感じでケント殿って、笑顔なのにあんまり周り寄せ付けない感じですから。カイリ殿、良ければ彼と末永く仲良くして下さいね! あ、俺のことは本当、ギルで良いですから!」

「あ、はい。ギル殿、ありがとうございます」


 ケントが塩よりも辛く対応しているが、カイリとしては嬉しい限りだ。

 ケントは友人はいないと口にしていたが、こうして気にかけてくれる人がいる。接し方も第一位の者達とは違って見えるし、好ましかった。

 全てを信じることは出来ないが、それでも今は、彼の輝かしい笑顔を素直に受け入れる。


「じゃあ、また! 二人共休日、楽しんで下さいね!」

「はい、ありがとうございます」

「はいはい。じゃあ、ギルバート殿、また」

「ギルで良いって言ってるのに」


 最後は笑顔で文句を残し、ギルバートが去って行く。

 賑やかな人だなと感懐を抱いていると、ケントが疲れた様に溜息を吐いた。



「もう。彼って、結構うるさいんだよね。飲みに行きましょうって散々誘われるし。絶対嫌だって断ってるのにさー」

「何だよ。行ってみれば良いのに」

「冗談。確かに裏表は無さそうだけど、……信用はしていないから」

「――」



 冷たく切り捨てるケントの言い方に、カイリは少しだけ引っかかるものを感じた。

 裏表は無いが、信用はしていない。

 何に対する信用だろうか。仕事に対してか。それとも、――教皇につながる人物に対してか。


 ――そういえば、ケントは教皇に気に入られているんだったな。


 だが、ケントの胸中も計り知れないし、教皇との関係も一筋縄ではいかなさそうなのも肌で感じ取れる。

 いずれにせよ、ギルバートに全幅の信頼を置いているわけではないことは分かった。カイリも気にかけておこうと脳裏の片隅に置いておく。



「さ! 邪魔者もいなくなったし! そろそろ――」

「――け、ケント様! こ、こんにちは!」

「お会い出来て嬉しいです。休日なのに、お姿を拝見出来るなんて……」

「――」



 ケントの笑顔が再び凍り付いた。あまりの凍える吹雪に、カイリはぎくりと体を強張らせる。

 聖歌隊の時はそちらに気を取られていた騎士達が、今のギルバートとのやり取りでケントの存在に気付いてしまった様だ。わらわらと、害虫が明かりにたかる様に寄ってくる。

 だんだんと、ケントの笑顔から熱という熱が引いていく。このままだと遠からず、いや、あと数秒で爆発しそうだ。

 正直、カイリとしてもあまり彼らに良い感情は抱けなかった。

 何より、彼らの笑顔が薄っぺらい。本当にケントの表面しかなぞっていないかの様な、濁った瞳だ。

 そんな者達を、ケントに近付けさせたくはない。



 ――ああ、もうっ。



 ぐっと、今度はカイリがケントの腕を引っ張って強引に歩き出した。

 ケントが驚いた様に目を丸くし、一目見ようと集まってきた者達も零れんばかりに目を見開く。


「す、すみません! 俺達、ちょっと急いでいて! ええっと、ええっと、……そう! もうすぐ十二時に開始する、――ここでしか食べられない女神の涙の如き繊細さを見よ! 一年に一度だけの至高の輝きに! 愚民が! 目を潰せ! その滑らかさは天使の羽の如く! お前はこの味に涙する! とかいう訳のわからない売り文句の超高級即昇天するパンケーキ土産に辿り着かないと、せっかく楽しみに待っているご家族が死ぬまで泣いてケントが引きこもってしまうから! 家族思いのケントにそれをさせないであげて下さい!」


 適当に適当な文言を並べ立てて、カイリは彼らに超高速で言い放った。案の定、ぽかんと彼らは面食らった様に目を点にしたので、その隙に距離を稼ぐ。

 ああ、っと悲鳴を上げる声も聞こえたが、「け、ケント様のご家族思いは尊重しなければ……」と、渋々引き下がる声も聞こえてきたので、問題ないだろう。

 というより、よくあんな適当な文句で彼らも納得したものだ。文章が長い上に素早く発声すると、頭に入りにくいのだろう。なかなか便利である。


「……お前といると、本当に退屈しないな」


 苦笑気味にカイリが零すと、ケントは少しだけ笑顔を落とした。

 何かまずいことを言ったかとカイリは焦ったが、ケントは目を伏せて嬉しそうに笑う。



「……うん。やっぱりカイリは、良いな」

「は?」

「大好きってことだよ!」

「はあ。ありがとう?」



 先程も同じ様なやり取りをしたが、今回の方が深い気がする。

 理由を知りたい気もしたが、今は離れるのが先決なので、カイリは先を急ぐことにした。


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