第36話


「……っ! 美味い……! 美味しいです、これ!」

「っだろー? ま、オレの華麗なる美技のなせるわざってわけだ。口に合ったなら良かったぜ」


 第十三位に正式に入団した翌日。

 だだっ広い食堂で、カイリはレインが作った朝食に舌鼓したづつみを打っていた。


 食パンにベーコンエッグにサラダ、自家製らしいマーマレードにコーンポタージュという簡単そうなメニューだが、どれも手が込んでいる。

 食パンも一から手作りらしく、ふんわりと焼き上がっていてまず匂いが最高だ。耳は香ばしく、白い生地はもちもちしていて、甘い。何もつけなくても美味だ。

 ベーコンも塩加減と焼き加減が抜群で、脂っこくない。卵もとろりと半熟で、パンにも合う。サラダはしゃきしゃき、ドレッシングはゴマ風味でぴりっと効いた辛味。コーンポタージュは滑らかだし、中に入っているクルトンもコーンも食感が最高だ。マーマレードは爽やかな甘さの中の苦味が絶妙で、これだけでも充分いける。

 まさか騎士団の宿舎で、ここまで美味しい食事にありつけるとは。前世で言う学食みたいなものを想像していたカイリとしては、想像以上の幸運である。


「はあ、……本当に美味しい。母さんの料理も美味しかったけど、ここのも本当に美味しい……」

「ほっほーう。そんなに言うなら、お代わりもあるぜ?」

「本当ですか? もらう! もらいます!」


 がたん、と空になった皿を持ってカイリはいそいそとキッチンに向かう。

 苦笑しながら、レインがよそうのを手伝ってくれた。鼻歌交じりな横顔は、どことなく嬉しそうだ。料理が好きなのだろうか。


「うふふ。カイリ様って、結構食べるんですね」

「んー、そうかな? 父さんの方が凄かったけど」

「確かに。カーティスは、食パン五斤は朝飯前の奴だったからな。それに比べれば、カイリはまだまだだろう」

「……そこと比べるのは間違っていますわ」


 席に戻ると、隣に座っていたリオーネが微笑ましそうに指摘し、フランツが腕を組んでカイリに同意する。シュリアが半眼で突っ込んでいるが、当のフランツは何処吹く風だ。レインの隣で涼しげに朝食を堪能している。

 席順は奥からフランツ、レイン、エディ。そして反対側の奥からシュリア、リオーネ、カイリと続いた。エディが「リオーネさんの隣、断固反対!」と叫んでいたが、全員がスルーをしたので、カイリの席は必然的に決定したのだ。

 おかげで、目の前のエディが物凄い形相で睨んできている。どうでも良い嫉妬なので、当然カイリは無視だ。


「し、新人のくせに……どうして、どうして早速リオーネさんとお近付きに……、はっ! まさか、もうリオーネさんとめくるめく熱い初夜を迎えたんじゃ……!」

「いいや? 昨夜はばっちりオレと同じ部屋で寝たぜ」

「はあっ! ……ということは、レイン兄さんの前で、二人で一緒に……! レイン兄さん、この裏切り者おおおおおっ!」

「馬鹿ですの? リオーネはわたくしと一緒でした」

「じゃ、じゃ、じゃあ……! 昨日、新人がわざと女湯の方へ入った時に、嫌がるリオーネさんを押し倒し! 下品な顔をして襲ったとか……!」

「うふふ。ご想像にお任せしますね」

「おおおおおおおお、表に出ろおおおっ! 新人があああああああっ!」



 誤解を招く様な言い方はやめてくれ。



 思っても声に出さなかったのは、無駄だったからだ。カイリは朝から溜息が止まらない。

 リオーネが火に油を注ぐので、エディの嫉妬が止まらないのだ。面白がる彼女に嘆息すると、彼女は意味ありげに笑顔を向けてきた。そのせいで、更に彼の嫉妬の炎が燃え上がっている。

 確かに昨日、リオーネがわざと女湯の扉を開けてきたが、中に入ってはいない。脱衣所で止まった。リオーネを襲うなどありはしない。

 しかし、中で着替えをしていたシュリアには悪いことをしてしまったと今でもカイリは反省している。女性の素肌を見てしまったのだ。本当は平手打ち連発くらい覚悟していた。

 だが。



 ――彼女はいやに冷静に、至って真っ平らな表情でリオーネを放り投げ、カイリを蹴り飛ばし、扉を閉めた。



 一応その後に説明して謝罪をしようとしたのだが、シュリアは能面で無かったことにした。むしろ話題に出すなと脅迫してきた。その時の絶対零度の視線は今でも忘れられない。リオーネはそのまま部屋に連れ込まれ、説教タイムに突入していた。

 結局、彼女がどれだけ怒っていたのか分からないままだったが、朝は普通に不機嫌そうに挨拶を返してきたので、本当に無かったことになった様だ。エディもシュリアの方に触れないあたり、彼女の雷が恐いらしい。



「そういえば、カイリ。ハリエットから手紙が来ていたぞ」



 今までの話題など無かった様に、フランツが全く別方向に転換した。

 だが、彼の言葉はカイリにとってはとても懐かしいものだ。思わず顔がぱっと明るくなる。


「え、ハリエットからですか?」

「ああ。ルナリアでの別れ際、ご両親から手紙を絶対に送ると言っていただろう。大量の荷物と共に、ほら。これだ」


 フランツが懐から封筒を出し、カイリに手渡してくれる。

 カイリは急いた気を抑えきれないまま、わくわくと口元が緩むのが止まらなかった。本当にくれたのかと、約束を覚えてくれていたことに喜びが溢れて堪らない。

 封筒の宛名には、フランツ、シュリア、カイリの名前がつづられており、裏面にはハリエットの名前が流麗な文字で書かれていた。幼い子供なのに、字がとても綺麗だ。流石は貴族の子だなと感心してしまう。


「ハリエットって、確かルナリアで助けたって言ってた女の子だったか?」

「はい、そうです。……あ、ファルエラの住所だ。ハリエットはファルエラの貴族なんだな。えーと、……フランツさん、シューさん、カイリお兄さんへ。……って、こっちではシューさんなんだな」

「……本当、あの小悪魔。許せませんわ。礼儀がなっていません」

「っはは。お前、子供に侮られ過ぎんなよ」

「うっさいですわ! あの子供の礼儀が無さ過ぎなのです!」


 きーっと金切り声を上げて反論するシュリアを無視し、カイリは文面を読み進めていく。



『みなさん、お元気ですか? 私はとーっても元気です。

 あの時は狂信者たちから私を守ってくれて、本当にありがとうございます。

 パパもママもその話を聞いて、すごく怒っていたけれど、無事でよかったと抱きしめてくれました。すっごくすっごく心配したと泣いていたので、今度から家出をする時は、もっと近くにしようと思います』



「……いや、家出は止めた方が良いんじゃないかな」


 苦笑しながら、カイリはハリエットらしいとも思う。

 両親が大好きな気持ちも文面から目一杯伝わってきた。会えて良かったと、カイリは心から祝福する。



『パパもママもみんなにお手紙を書きたいと言っていたのだけれど、私がぜったい書くと言ったので、伝言を伝えておくれと言われました。


 ――本当にありがとうございました。娘を救ってくれたこのご恩、生涯忘れはしません。


 難しい文字は、ちゃーんと辞書を引いて書いているのよ! えらいでしょ! カイリお兄さん、今度会ったらたっくさんほめてね!』



「あはは、分かった。会ったらたくさん褒めるからな」

「……って、もうほとんどあなた宛てではありませんの」

「ははは、まあそう言うな、シュリア。彼女の心を開いたのも、実際身を投じて助けたのもカイリだ。自分だけのたった一人の王子様というものは、乙女にとっては綺羅きら星の様に輝いて見えるものなのだろう? 分かっているさ」

「……い、意味わかんないっす」


 どうだ、と満足げに頷くフランツに、エディが困惑した様にパンにかじり付いている。

 リオーネは「そうですね」と適当過ぎる相槌を打ち、フランツの満足度を助長させていた。やはり彼女は黒いとカイリは思う。



『みんなのおかげで、私は今も元気です。

 みんなは、――カイリお兄さんは、元気に暮らしていますか?

 泣いていませんか? パパとママに会えなくてさみしくないですか?

 テナも、たくさんたくさん心配していました。


 ――私は、パパとママに会えない間、やっぱりさみしかったから。カイリお兄さんが心配です』



 一瞬、カイリの胸が詰まる。自然と視線が下に落ちてしまったのは、不可抗力だった。



〝私は一緒に行けないけど。母さん、ちゃんとそばにいるからね〟


〝父さんの心は、いつでもお前と母さんと共にあるからな〟



 ここに来る間も、故郷のことは何度も思い出していた。それこそ、思い出さない日は無かったくらいだ。夢を見ることだってある。目を開けたら誰もいなくて、どうしようもない虚無感に襲われもした。

 忙しく動いて、誤魔化して。さみしさだけに囚われない様にしているのが本当のところだ。

 だが、こうして心配してくれている人がいる。ここには、フランツ達もいる。

 それだけで、カイリには充分だ。ぐっと腹に力を入れて、続きに目を通す。



『カイリお兄さんは、あんなにすてきな歌が歌えるんだから、きっと聖歌騎士っていうのになっているのよね! ……あ、いると思います。

 次に会う時には、どんな素敵な服を着ているのか楽しみにしています。

 フランツさんもシューさんもデザインが違ったから、カイリお兄さんはどんなのになるのでしょうか。――楽しみです』



 何だか念押しされた。そんなにデザインが気になるのだろうか。

 よく分からないまま読み続けると、最後の一文に到達した。



『それでは、この辺で。

 手紙、また送ります。

 いつか、約束が守られる日を楽しみにしています。  ハリエット』



 最後の一文は、カイリとの指切りの約束のことだろうか。信じてくれているのだなと微笑ましくなってしまった。


「ハリエット、元気そうですね。良かった」

「ああ、手紙は敬語を使っているが、時々素が出ていたな。カイリに対しては興奮する様で何よりだ」

「馬か牛みたいに言わないで下さいませ……」


 シュリアのツッコミに、だがフランツは良い笑顔のままだ。彼の感性は、カイリにもよく分からない。


「ああそれと、カイリ。ハリエットから、クマのぬいぐるみが届いていたぞ」

「え?」



 クマのぬいぐるみ。



 いきなり何だとカイリが目を白黒させていると、フランツがおもむろにテーブルの下から紙袋を取り出した。

 そこから更に出てきたのは、確かに可愛らしいクマのぬいぐるみだった。どことなく、デザインがハリエットに見せてもらったテナに似ている。


「追伸付きだ。これはお前にプレゼントだそうだ」

「え、……」


 クマと手紙を渡されて、カイリは困惑しながら封を切る。

 そうして出てきた文面には、可愛らしくも綺麗な文字で『追伸』と書かれていた。



『これは、バトって言います。テナの弟です』



「……バト、弟、……」


 呆けた様に名前をささやきながら、カイリは続きを読み進める。



『カイリお兄さんは、前に恐くて、たくさん泣いたと言っていたから。

 恐くてさみしい時は、これを抱きしめて寝てね。

 きっと、恐いものも恐くなくなるわ』



〝お兄さんにはとくべつ! だっこさせてあげる〟



 ――あの時の。



 一緒に外で寝た時に、テナというぬいぐるみを挟んで、ハリエットと一緒に寝た。

 あの時と同じで、バトもふわふわで触り心地が抜群だ。

 カイリのことを、心配してくれているのか。大切なクマのぬいぐるみの弟を贈ってくれるくらいに。


「……ははっ」


 そんなに、あの時のカイリは苦しそうに見えたのだろうか。彼女の前でそんなに情けない姿をしていたのかと思うと嘆きたくなる。

 けれど。



〝それにね、このぬいぐるみがあれば恐いことも恐くなくなるの。だから、お兄さんも恐くなくなるわ〟



「……ハリエットは、本当に優しいな……っ」



 声がかすれた。慌ててクマを抱き締めて、誤魔化す様に隣の椅子に置く。

 クマを抱き締めて眠るのは子供の様かもしれない。実際には傍に置いておくだけかもしれない。

 だが、きっとこれが当分の精神安定剤になってくれるだろう。ハリエットには感謝してもしきれない。本当に人を思いやれる、優しい娘だ。

 後でお礼の手紙を書かないとと心に決めつつ、みんなの視線が凄く居た堪れない。故に、カイリが更に誤魔化して残りの食事を素早く口に入れると。


「そういえば、カイリ様。ハリエット様が制服のデザインのこと、すっごく楽しみにされていましたね。どんなデザインにするんですか?」

「え? あー……」


 きっと、空気を変えてくれるための話題だろう。

 リオーネに楽しそうに尋ねられ、カイリは頬を掻いて視線を逸らす。困ったな、とそれはそれで本気で悩んでいた。



 ――制服のデザイン、本当にどうしようかな。



 カイリは未だに村にいた時と同じ服装だ。両親の――主に母のセンスのおかげで、この都市にいても違和感は無い。

 だが、教会騎士――聖歌騎士として制服を作らないわけにはいかない。


 デザインは、基調が黒ということさえ守れば各自が自由に選べるということだった。


 リオーネは黒くて可愛らしいワンピースに、黒のフリル付きのロングコートを前を開けて着こなしている。どことなく花の様に広がるすそが、彼女らしい。

 エディは黒いジャケットにパンツスーツというラフな格好だ。動きやすいと言っていたし、彼によく似合っている。

 シュリアは黒のロングスカートに、短いケープを身に着けた衣装だ。彼女は動き回るし、ロングスカートだと邪魔にならないのかと聞いたら、「ちゃんと下にいています!」と何故か激昂された。相変わらず彼女はよく分からない。

 レインは、黒シャツにパンツ、そして黒のロングコートをそでを通さず肩に引っ掛けた着こなし方をしていた。そういう風に作られているらしく、前は飾り紐でつながれているし、絶妙な感じでずり落ちたりしない様だ。相当お洒落しゃれらしい。

 フランツもレインとあまり変わらない服装だが、きちんと黒いコートには袖を通して着こなしていた。肩に金色のフリンジが付いており、デザインも彼らと一線を画す様に重厚だ。まさしく上官の騎士服というイメージで、惚れ惚れする。


 こうして全員の衣装を見てみたが、まるで自分のデザインの想像が出来ない。どうやって決めたのかと、うなりそうだ。



「どうした、カイリ。そんなにみんなを睨んで。俺達のご飯が欲しいのか?」



 フランツが的はずれな質問をしてくる。

 確かにレインの朝食は美味しいが、他の者の食事まで取るほどがめつくはない。


「い、いえ。あの、フランツさ……フランツ団長」

「……フランツ団長?」


 しゅん、とフランツの眉尻がいきなり下がった。どきっと、カイリの肩が跳ねる。


「えっと、え? どうしたんですか、フランツさ……団長」

「……何故、団長なのだ? 今まで通りで良いではないか」


 少し不満げに言うフランツに、カイリは首を傾げる。


「いや、だって俺、もう団の一員になりましたし。いつまでもさん付けじゃ、カッコが付かないんじゃ……」

「フランツ団長……」

「あの」

「……フランツ団長か……」

「……」


 はあっと、悲しげに溜息を吐くフランツの横顔は悲愴にまみれている。何だかしょぼくれた犬の様な姿に、カイリの胸が痛んだ。


「え、えっと」

「……」

「……、……フランツさん」

「うむ。何だ?」


 ぱあっと、生き返った様にフランツの顔に笑顔が戻る。

 この騎士団の威厳とは、と疑いたくなったが、もうカイリはぶん投げることにした。


「ああ、いえ。その……制服のデザインが、上手く思い浮かばなくて」

「ふむ」

「ふん。ぴっちぴちの全身タイツで良いんではないですの」

「……。ところで皆さん、本当にカッコ良いですよね。どんな風に決めたんですか?」

「って、何でスルーしますの!? もっと年上を……!」

「あー。オレはまあ、何となく、だな。着たいものを着たいから、こうなったって感じで」

「ボクもです! ジャケットとグローブとか、夢だったんですよね!」

「私はワンピースが好きなので」

「って、どうしてわたくしのことは無視しますの! ほんっとうにこの者達は……!」


 シュリアが何かを叫んでいるが、それ以外は至って普通にほのぼのと話が進んで行く。

 しかし、やはり自分の着たいもの、に集約されるのか。あるにはあるが、デザインは本当に分からない。


「カイリ、お前には何か希望はないのか? こうしたいとか、ある程度融通ゆうずうは利くのだぞ」

「ええっと、ロングコートは着たいんですけど。あと、シャツと……ベルト? があると便利かな、とか。でも、どういうデザインかって言われると思いつかなくて」


 着たい服はあるが、どんなデザインかと言われると困る。

 前世の時もそこまで服にこだわっていなかったので、適当に好きになったものを着ていただけだ。

 うんうん唸っていると、フランツが「なるほど」と頷いた。


「ならば、レイン、リオーネ。お前達、カイリと一緒に今日、仕立て屋へ行ってくれ」

「りょーかい。オレ達のセンスで良いのか?」

「ああ。二人はセンスが良いからな。カイリのデザインを考えてやってくれ」

「まあ、楽しみです♪ カイリ様、一緒に考えましょうね」

「あ、うん。二人共、よろしくお願いします」


 慌てて頭を下げれば、二人が揃って意味ありげな笑みを浮かべた。その様子は何か企んでいそうで、カイリは早まったかと身震いする。


「ええっと。やっぱり、俺、一人で行こうかなー?」

「なーに言ってやがる。任せとけ。さいっこうの騎士服にしてやるからよ」

「大丈夫です。お任せ下さい」


 がっしりと、肩を掴まれた様な錯覚に陥る。逃げ場が無くなって、カイリが笑顔で冷や汗を掻いていると。


「な、なななな何で! また、リオーネさんと……! ボクが! ボクも! 行きます!」

「何を言っていますの。今日は風呂掃除が待っていますわ」

「オウマイゴーッド!」


 妙に凝った発音で叫びながら、エディがテーブルに沈んだ。リオーネはにこにこと笑うだけで、特にフォローもしない。やはり彼女は良い性格をしている。


「ま、その前に。おい、カイリ。朝食が終わって少ししたら、手合わせすんぞ」

「手合わせ?」


 くるんとフォークを一回転させ、レインがカイリを指してくる。

 戸惑っていると、やれやれといった風にレインが肩をすくめた。


「お前な。団長やシュリアは知ってるかもしんねえけど、オレ達はお前の実力なんかまるっきり分からねえんだよ」

「あ」


 確かにその通りだ。

 足手まといだの攻撃が出来ないだのは自己申告だ。実際の腕前を見てもらわなければ、これからの任務のポジションも決められない。


「わたくし達も、この人の剣の腕前は知りませんわ」

「お、そうなのか。だったら尚更、一度見とかねえとな」

「その次に、歌の威力ですね。昨日ご案内した訓練所に行ってから、音楽室へ行きましょう」

「分かった」


 昨日案内された場所を思い起こし、カイリの目が遠くなる。

 訓練所も一つでは無かった。庭の様に広々とした場所に、リオーネが弓を扱うためにそれに適した訓練所、それから学校の体育館を何倍にも広げた様な訓練所に、射撃専用の訓練所。

 音楽室も防音対策が万全だと得意気にリオーネが紹介してくれたし、つくづく設備が凄すぎる。驚きが飽和し過ぎて、最後はツッコミを忘れていた。


 ――彼らは、どんな判決を下すだろうか。


 朝食後の訓練を思い、カイリは研ぎ澄まされていく緊張感を不思議な心地で高めていった。


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