Banka3 俺の歌は、誰のために

第18話


 泥の様に眠り、夜が明けてすっかり日が高くなった頃。



「父さん、母さん、みんな。――行ってきます」



 今までたくさん幸せをくれた故郷に別れを告げて。

 カイリは、フランツとシュリアと一緒に村を出立した。


 本当はもう少し早く出発したかっただろう。シュリアの言い分からすると、間違いないはずだ。

 それでも、フランツはもちろん、彼女も何も言わずに待っていてくれた。その気遣いがありがたくて、カイリは頭を下げる。


「あの、……二人共ありがとうございました」

「……いや。右足は平気か」

「はい。フランツさんが固定してくれたおかげで、ちゃんと歩けます」


 テーピングという技術を聞いたことがあるが、それに近いものだろう。この世界の文明レベルは本当に分からないが、薬もよく効いているし、それなりにレベルは高いのかもしれない。

 肩からは、ミーナが誕生日のプレゼントとして贈ってくれた黒いポシェットを。腰にはラインからもらった質の良い鞘付きの木刀を。懐にはミーナの絵と両親の写真を。胸元には両親から授かったパイライトを通したラリエットを。背中には家から持ち出した食糧や、村のみんなが持たせてくれたお金などを入れた袋を。



 彼らが最後に遺してくれたものを身に付けて、カイリは旅に出ることにした。



 何となく彼らに守ってもらっている様な気がして、心が温かくなる。

 簡単な旅装束だが、次の街までは持つだろうとフランツにもチェックしてもらった。

 懐に入れた家族の写真と友人達との絵を感じ取りながら、カイリは真っ直ぐに前を向いた。



 あれだけ散々泣いたのだ。いい加減顔を上げなければ、彼らも成仏出来ない。



「しかし」


 歩きながら、フランツがあごに手をかける。

 歩調が二人共ゆっくりなのは、怪我をしたカイリに合わせてくれているからだろう。返す返す申し訳なくなる。


せんな」

「……解せない?」

「ああ。この村に、歌が歌える者がいると漏れたことだ」


 どうやらずっと考え込んでいたらしい。

 腕を組み、真っ直ぐ前を見据える彼の視線は隠し事を暴く様な清冽せいれつさがあった。


「カーティスからの手紙だと、カイリのことはかなり慎重になっていた様だ。村の外も、恐らくお前が知っている以上に村の者たちが見回って監視していたらしい」

「……、そうなんですか」

「歌は、それだけこの世界にとって特殊だ。それに教会にならともかく、狂信者に漏れたら今回の様に村が犠牲になる可能性が高い。村人も全員慎重になるだろう」

「……っ」

「何でもいい。何か、情報が漏れた理由を知らないか」


 そんなに大事になっているとは知らなかった。

 フランツの口調は穏やかだが、内容はかなり物騒だ。

 カイリは本当に、出来る限り自由にさせてもらっていたのだろう。今更ながら、少しだけ村全体の態度に恐怖を覚えていたことに罪悪感を覚える。

 だが、漏れた可能性。

 それならば、もう一つしか思いつかない。


「……エリックさん、だと思います」

「エリック?」

「村の者です。十年前に成人して、世界を見て回りたいと行商人になって出ていきました。時々村にも物資を届けてくれていましたが、彼は三ヶ月前に帰ってきた時に、突然『教会騎士になる』と熱心に宣言して、みんなを驚かせました」


 カイリが生まれてから、唯一村から外に出ていった青年だ。

 元々争いごとが好きな性格では無かったと、カイリは記憶している。子供の頃はよく面倒を見てくれていたし、十も離れた彼を微かに兄の様に慕っていた。


「一ヶ月に一回のペースで両親に届いていた便りも、それからぷっつり途絶えて。前に一度そういう時があったから、そこまで心配していなかったんですが……。あの教会騎士を名乗った偽者が、エリックさんと仲良くなって、この村のことを聞いたと言っていたので、……」


 疑いたくは無かった。

 しかし、それ以外にもう理由が思い当たらない。あの二人は、最初からカイリに目星を付けていた様な気がしたからだ。

 話していて、どんどんと気持ちが薄暗く陰っていく。

 よりによって、あの村を追いこんだのが同郷の者だったかもしれないという事実が、一層カイリの心を重くした。


「……なるほど。のぼせたか」

「ええ。まあ、十中八九そうでしょうね。狂信者に上手くおだてられたのでしょう。良いカモですわ」


 フランツとシュリアが、納得した様に頷いた。

 何となく口を挟めなくてカイリが続きを待っていると、フランツが顔をこちらに向けて説明してくれる。


「教会騎士団というのは、誰でも入れると言えば入れるし、入れないと言えば入れない」


 謎かけか。

 カイリが首を傾げると、もちろん続きがあった。


「教会騎士にも種類がある。前線で剣を振るう者、後方で支援をする者、そして攻撃をせずに聖歌を歌う者だけで構成された聖歌隊。大別すれば、この三種類だ」

「聖歌……聖歌語で歌う歌、ということですか?」

「そうだ。そして、聖歌語で歌える者は極端に少ない。聖歌を歌える者のことを、教会騎士の中でも『聖歌騎士』と言う。聖歌隊ではなく、騎士団にも入れるぞ」

「聖歌騎士……」

「まあ、世界共通のフュリーシア語で歌える者なら、騎士の中でもそれなりにいるがな」


 フュリーシア。

 それは、確か総本山がある国のことだ。今カイリ達が話している言葉が、フュリーシア語という共通語なのだろう。


「信仰があれば、どんなに戦いが苦手でも、後方支援する者として騎士になれる。まあ、実技試験などもあるから、実際は修道士の様な役割になるし、適正場所も限られるがな。逆に言えば、信仰が無ければ騎士にはなれないということだ」

「……信仰って、具体的には」

「教会を信じればいい」


 安直だ。

 てっきり神や天使みたいな存在を信じるとかそういう話をされると思ったのに、教会そのものを信じるのか。カイリには理解出来ない境地だ。


「まあ、もっと言えば聖歌を神聖なものだと思えば良い。聖歌至上主義だからな」

「か、簡単ですね」

「それが、そうでもない。判断するのはあくまで教会側だ。判断する者によっては、ある程度思惑が働く」

「黒っ。……、あっ」


 思わず出たツッコミに、カイリはぱっと手を口で塞ぐ。

 横ではフランツが愉快そうに喉を鳴らしていた。シュリアには呆れた目で見られ、頬に熱が集中していくのを感じる。


「あー……、あー。でも、……黒いと思います」

「まあ、そうだな。で、だ。中でも、無条件で騎士になれる方法が二つある。一つは、聖歌語で歌を歌えること。つまり、カイリ、お前だ」


 突き付けられ、カイリは少しだけ顎を引く。後ずさりそうな気持ちを踏ん張って前へ向けた。

 何となく、核心へ近付いている。そんな予感がしたからだ。


「お前は、火葬の時に歌を歌ったな。聖歌語で」

「……、はい」

「強い想い、祈りをこめて歌っただろう」

「……。……はい」


 供養になることは出来ないか。

 辿り着いた結論が、いつも村で歌っていた歌だった。

 亡くなった彼らに届く様に、カイリは心の底から祈りをこめて日本語――聖歌語で歌った。

 だが、それが何だと言うのだろうか。確かに、あの時は不思議な現象が起きたが、奇跡の様なものだと片付けていた。

 しかし。



「あれが、聖歌語の力だ」

「……力?」

「念じながら聖歌語を話せば、その念じた通りの力が具現化する。強く念じれば念じるほど、力も強くなる」

「……、ぐげん、か」

「もちろん誰にでも出来ることではないし、訓練も必要だ。そして、その力の最たるものが聖歌ということだ」



 言われた瞬間、カイリの頭が冷水を盛大に浴びせられた様に凍えていく。

 聖歌が、力の具現化の象徴。

 必然的に、火葬の時の不思議な光景が脳裏に浮かび、震えが走る。


「お前の歌は、かなり強い力を持っている様だ」

「……っ、で、も。聖歌語で歌ったのは、初めてでっ」

「亡くなった魂がまだ辺りを漂っていたとはいえ、一時的にも実体化させられるのはかなりまれだ。しかも、大量に。聖歌騎士の中でも、それが出来るのは一人か二人いるかいないか、だろう」


 次第に、壁際に追い込まれていく様な錯覚に陥る。見えない壁を背中に感じ、逃げられない様にあらゆる出口を塞がれていく様だ。

 息が詰まる。呼吸が震えて、カイリは無意識の内に胸元の石を握っていた。


「力はともかく、歌が歌える。その情報が漏れた以上、恐らくお前は狂信者から狙われる。これから、ずっとな」

「……っ」

「聖地には狂信者もなかなか近付かないし、教会で保護するのが一番だろうな。……カーティスに頼まれたのだ。俺が保護者になるつもりだが」

「え」

「はあっ!? 保護者! ですって?」


 カイリだけではなく、何故かシュリアまでが声を荒げた。

 冗談じゃない、と彼女は全身で物語っていて、フランツが不思議そうに眉をひそめる。


「何故お前が反応する」

「当たり前ですわ! いいですか! 何回でも! 言いますわよ! あなたは、第十三位! 団長! ですのよ!」


 力の限り絶叫するシュリアに、カイリも何となく呆けてしまう。

 何故、そこまで力強いのだろうか。疲れそうなしゃべり方だ。


「耳にタコが出来るほど聞いたが。それがどうした」

「ですから! ただでさえフランツ様は自由奔放過ぎて、面倒が多いのに! 第十三位は……全員が掲げる目的や特性上、それなりに面倒ごとが多いんですのよ!」

「そうか。面倒か。シュリアは面倒な騎士団にいると思っているのだな」

「あったりまえですわ! 目的が無ければ、誰がこんな騎士団」

「そうか。抜けても良いんだぞ?」

「フランツ様はちょっと黙っていて下さいませ!」


 きーっと怒鳴って、シュリアがフランツの口を塞いだ。

 フランツは不思議そうに首を傾げていたが、この関係性がカイリには不思議である。上下関係なく言い合いが出来る騎士団なのだろうか。


「とにかく! いいですか、フランツ様! 第十三位はただでさえ面倒な組織な上に、……周囲からもごもご、ですのに」

「もごもご? 何だそれは」

「あー、もう! 何でそんな面倒事だらけの中、こんな厄介な子供……案件を引き受けるんですの!」

「……っ」


 厄介。子供。

 事実その通りなのだが、何となくかちんと頭にくる。カイリの目が微かに細まったが、もちろん彼女はそんなことには気付かない。


「故郷全滅には同情しますが、何にも出来ない足手まといですのよ! しっかも彼、自分よりもかなり年下の子供が剣の師匠だとか言って!」

「……まあ、そうだな」

「たかだか子供相手に師匠とか、ふざけていますわ! あなた、わたくし達を馬鹿にしていますの!」

「――」


 たかだか。

 かなり年下。

 子供相手。


 並べられる単語が、カイリの頭を素通りせずに溜まっていく。

 ふつっと、底の方で何かが沸き上がってくる様な感覚を覚えた。


「しかも、攻撃は出来ない! この先も真剣が持て無さそう。つまり、戦いでは完全なる足手まといってことですわよね、あなた」

「……、ああ」

「認めましたわ。かんったんに認めましたわ。この人、ひっどい腰抜けですわ。男として最低です」

「……、……」


 何も反論が出来ない。

 攻撃が出来ない。腰抜け。男として最低。それも事実だ。

 だが、何故だろう。



〝たかだか子供相手に師匠とか〟



 ――きっ、と、心のどこかで何かがきしむ音が聞こえた。



「聖歌の力はよく分かりました。けれどあの後、力を使い果たして丸一日寝込んでいたんですのよ。分かっていまして?」

「……」

「恐らく、教会に行けばあなたは聖歌騎士になるでしょう。ですが、戦闘が出来ない聖歌騎士となれば、歌で援護を受けたとしても、守る必要が出てきますわ。普段の任務でそんな余裕、わたくし達のどこにありますの?」

「……」

「フランツ様。いくら親友の頼みごとでも、線引きは大事ですわ。聖歌隊に入るならともかく、この第十三位に、戦いが出来ない者は必要ありません」

「……シュリア」


 フランツが呆れ交じりにたしなめるが、シュリアは眉を怒らせて睨み上げるのを止めない。


「いいですか、何度でも言いますわ。戦闘や任務で足手まといになるこの子を、引き受ける余裕はありません」

「……シュリア。いい加減に」

「それに、これはこの子のためでもあります。むざむざと簡単な任務で命を落としたら、幸せに生きて欲しいという両親や他の皆さんの願いも叶えられないでしょう」

「――」



〝どうか、……笑って、幸せに生きてくれ。それが、父さんたちの最後の願いだ〟



 不意に、父の最期の言葉がよみがえる。

 彼らは、カイリに願ってくれた。幸せに笑って、生きてくれと。命懸けで自分を生かしてくれた。

 だから、カイリもそれに応えたいと思っている。全力で生きなければならない。

 きっと、彼女の言うことは真っ当だろう。足手まといなのも本当で、任務になったら足を引っ張るのは確実だ。

 恐らくフランツに迷惑もかける。彼はかなり地位のある人間の様だ。足枷あしかせには確かになりたくない。

 だが。



〝自分よりもかなり年下の子供が剣の師匠だとか〟



 ――何で、何も知らない彼女にそんなことを言われなければならないのだ。



「ですから、あなた――」

「なあ」



 まくし立てる様に文句を並べていく彼女を、カイリは言葉でぶった切る。

 シュリアは、腰に手を当てた姿勢でこちらを見つめてきた。その仕草がまた上から目線で、ふつふつと腹の底から怒りが湧いてくる。


 ――ああ、そうだ。


 腹が立つ。

 何も知らないくせに、知った様に彼らを語ること。

 どんな思いでラインが、彼らがカイリに後を託してくれたかということ。

 それら全てを踏みにじる様な言い方に、腹が立って仕方が無かった。


「あんた、ラインの何を知っているって言うんだ」

「……、はい?」


 一瞬言われた意味が分からなかったのだろう。目が丸くなっていた。

 だが、どことなく気圧けおされたのかもしれない。少しだけ顔色を変えてカイリを見つめてきた。



「ラインは確かに八歳だよ。子供だよ。俺よりも、あんたよりも遥かに年下だし、記憶を持っていようが大人びていようが、誰の目から見ても子供だよ」

「……え、ええ。ですから」

「――だけど、それが何だって言うんだ?」



 声が一段低まった。

 ひるんだ様に彼女が口を閉ざしたが、カイリの知ったことではない。

 ただ、彼を侮辱されたのが悔しくて悔しくて堪らなかった。


「ラインは、立派な剣士だった。あの村では誰よりも強かった。子供だから周りの目を見て加減をしているんだろうって、父さんも言ってた。ミーナを人質に取られて身動きが取れなくなったけど、あいつなら、……ラインならっ。きっと、あの偽者たちもすぐに倒せたくらい強かったんだ」


 無念だっただろう。苦しかっただろう。

 それでも彼は、最後の力を振り絞ってカイリを助けてくれた。最後まで自分を案じて、逝ってしまった。



 そんな彼を、カイリは心の底から誇りに思う。



「あんたがどう思おうが勝手だが、知った風に語るな! あいつは、『たかだか子供』なんて片付けられる様な奴じゃない!」

「……っ、な」

「あいつは、……ラインはっ! 俺の大切な友人で、俺の尊敬する剣のお師匠様だ! あいつを侮辱する奴は、俺が許さない!」

「――っ」



 悔しい。悲しい。さみしい。

 ラインが、こんな風に舐められることが。

 何より。



 きっと、カイリが強ければ、こんな風におとしめられることは無かっただろうという事実が。悔しくてやり切れなかった。



「それに、俺がこれからどうするかは、俺が決める。あんたじゃない。両親やみんなが願ってくれた生き方を、どう果たしていくかも俺が決める」

「……」

「俺がフランツさんのお世話になるのが駄目だと思ったら、俺からそう言うし離れる。教会騎士になって、フランツさんのお世話になりたいと思ったら、改めて俺からきちんとお願いする」


 それに。


〝こうげきはできなくても、そんな風に人のやくに立てる剣術だとおれは思うんだ〟


 ラインが、教えてくれたのだ。

 攻撃は出来なくても、防御特化の自衛の剣でも。

 人の役に立てる剣術は、あるのだと。そう、教えて背中を押してくれた。


「俺が習っていたのは、自衛の剣であり防御特化の剣。……相手の攻撃を全てさばき、誰かが逃げる時間を、援軍を呼んでくるまでの時間を稼ぐ、回避の剣」


 剣を盾とし、誰かを守る。

 そんな剣を目指せと、道を示してくれた。


「確かに今の俺は、まだまだ未熟だ。あんたの言う通り足手まといだし、きっと騎士になっても守られてばかりだと思う」


 みじめではあるが、彼女の言う通りになる可能性が高い。腕を磨かないと満足に役割も果たせないだろう。

 だが、それでも。



「俺は、絶対に。誰かを守る剣となり盾となる」

「……」

「もう、俺の村の様な悲しい思いは誰にもさせない。彼らが守ってくれた様に今度こそ、……今度は、俺が! この身で、守ってみせる!」



 木刀を握り締めて、強く宣言する。

 彼女に通じるとは思わなかったが、それでも構わない。せめて、ラインへの侮辱を撤回してもらえればそれで良かった。

 睨み付ける様に見つめていると、彼女は少しだけひるんだ様に視線を下げる。

 だが、口を開くことは無い。黙ったままだ。


 尚も言い募るか迷った時、くくっと、すぐ近くで笑い声が響いた。


 思わず顔を上げて、カイリは場違いな笑みに瞬きしてしまう。


「フランツさん?」

「いや、……親子だな。頑固で負けず嫌いなところはそっくりだ」


 ぽんぽんと頭を撫でられて、かあっと熱が顔に集中した。今更ながらに大層なことを口にしてしまったと、恥ずかしくて落ち着かない。


「あ、あの」

「あいつは、俺より五歳も年上だっていうのに、妙に子供っぽかったり聞き分けなかったりしたが。……いつも自分に正直で、真っ直ぐだった。俺が眩しくなるくらいにな」


 一瞬、彼の瞳が遠くを見つめる。

 父より五歳も下だとは初耳だ。では、三十代後半あたりということだろうか。確かに、見た目は父よりも若いと遅れて気付く。


「……親の贔屓目ひいきめかとも思ったが、そんなことは無さそうだ」

「え?」

「正式に、俺がお前の保護者となろう。お前が嫌がろうが、それだけは変えない。手続きもする。それで良いな?」

「――」


 今まで団長の枠から外れていなかったフランツの顔が、優しい。何がキッカケになったかは分からないが、少しはカイリを認めてくれたのだと悟った。

 頭を撫でてくれる手が温かい。何となく父を思い出して、泣きそうになった。


「……ありがとうございます」

「ああ」

「ご迷惑……」

「迷惑じゃない」


 すぐに否定されて、カイリは笑ってしまった。彼は父を真っ直ぐだと言ったが、彼も負けないくらい真っ直ぐだと思う。

 二人は、確かに親友だったのだろう。通う空気が少し似ていた。



「ありがとうございます。……お世話になります」

「ああ。これから、よろしく頼む」



 頭を下げたカイリに、もう一度温かな手の平が下りてきた。


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