もう一度仲良くなるには・・・・・

「くっは・・・・・・」

「はい。王手だよ」

鈍い声を発した直後俺が持ってた竹刀が上空に弾かれ、その間に宗介の竹刀が俺の喉元に軽く突かれ、それと同時に少し離れた場所に竹刀が落ちてくる。



宗介と対峙してまだ一時間も経ってないのに、俺はこの同じような敗亡を何十回もされていたので一度も勝ってないのだ。

いや、勝つというのはそもそも無理な話だ。

剣道を途中で投げ捨てた敗北者とそれを一度も投げ出さずひたむきに努力してる人間とでは、努力以前に圧倒的な差がありすぎる。

それに万が一勝ってしまうのなら、やつの今までの努力が無駄になってしまい逆効果になってしまうだろう。

そんなご都合主義は、空想上の物語で充分だ。




この俺から何本もとった宗介は、いい加減飽きたような目をしていた。

その証拠に打つたびに威力が弱くなっているのだ。おそらく今の俺の実力は、小学生・・・・・いやそれ以下と思われるくらい最低限の手加減をしていた。



「どうする?まだやるの?」

「当たり前だ。俺はお前の目を覚めるためにここに来たんだ!!!」

らしくない口調で俺は竹刀を拾い構える。

時間は真夏の早朝とはいえ道場内は少ししんやりしてるが、ハードな運動に加え防具を着ているから汗がダラダラなので、早く脱ぎ捨てたいがそうは、言ってられない。俺はあいつに大事な事を伝えてない。それまでは耐えるしかないんだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



話は少し遡り、あのラブホでブラコン姉のいきすぎたスキンシップ行為も落ち着いたころ、姉ちゃんは、一服吸いながら宗介の事について語ってくれた。




「都・・・・・お前ずっと気になってたんだろ?宗助の事・・・その為にお前はここに来たんだろう?」

「え・・・・」

「その顔、どうやら図星のようだな・・・実の姉なんだから知らないわけないだろう」

驚いていると姉ちゃんはクスッとにやけながら煙を、窓に映る雨模様とこのラブホのピンクの光に向けて吹きかけた。

そして先ほどのようにしんみりとした顔を見せ、俺に真実を呟いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






「はっ・・・・・」

ビュッ

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

一瞬姉ちゃんとの回想を振り返ったせいであってか、気が付くと宗助の鋭い面が俺に向かって振りかざそうとするが、床に尻をつき、ブサイクながら後ろに一回転しなんとか交わすことができた。

あっぶねーーーーーーー。今の重い振り・・・・・・これはマジでやばい。あんな細腕をしてくせになんて素振りなんだよ。その衝撃で風圧がすさましかった。


面を被ってるとはいえ今の食らったら軽い脳震盪を食らうところだったわ。



しかしながら、今の妙技、観客がいないとこでは、セーフだが、周囲に観客がいて、さらに公式戦なら試合を侮辱したとみなし失格ともれなくヤジがとんでしまうな。危ない危ない。




「チッ・・・・・・ねぇ・・・・真面目にやってるの。ふざけてるのならすぐに終わらせるけど・・・・」

「ああ、大真面目さ。俺にとってはな。なんせ俺にはブランクがあるし、それ以前に小さい頃からお前達幼馴染より、剣の才能が壊滅的だからな。どんな手を使っても勝ちたいのよ」

・・・・・・・やっぱりさっきの行動は宗介の逆鱗に触れていたか宗助は舌打ちをし、冷静さはなくイライラしていた。

それもそのはずだ。真夏の早朝で防具着たまま数十分も水分補給をせずに打ち合ってるからな。冷静さが乱れるのは当然だ。

それがむしろ俺的には好都合だろう。




「なぁ、声がガラガラだぞ。随分汗をかいて疲れてるだしいけど後、数回くらい頑張ってみるか?まぁ、地区大会で無双を繰り広げた宗介様なら、俺を瞬で終わるだろうな・・・・・それとも水分補給しなきゃ格下の俺を秒で倒せるのは難しいか・・・・」

「生意気・・・・・・だね」

今の挑発が効いたかどうかは不明だが、無鉄砲に前に突っ込んできた。

早い・・・・・・暑苦しい胴着着てなおかつ歩み足の状態でこっちに突っ込んできた。その速さは競歩と似たような速さで、鈍足な俺ならすぐに捕まるだろう。



というかなんちゅう足さばきだよ!!!これが左足を怪我したやつの動きなのかよ。

じりじりと近づかれ俺はとうとう壁際まで追いつかれていた。まるで弱いものいじめかのように俺をじりじり責めていた。



「もう終わりだね。いい加減諦めてよね」

慢心した行為でゆるりと構え突きを出していた。

多分この一撃は完全に俺を再起不能をさせるために本気の一撃を出してるはずだ。

無論それは的中し、今までより早い突きを出していた。




加えて、俺が横に逃げる可能性があるのでそれを予知してるかのように頭を少し動かしていて、それに対応すべく動きを攻撃をしながらその素振りを見せる。

恐らく宗介の考えでは腰抜けの俺は逃げることしか頭にないから、攻めるという行動を予測してないだろう。ならその発想を逆手に取る。




「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

「な!!!!!!」

喉がカラカラな状態でも関わらずすべての気力を使い声を上げ突っ込んだ。

そうすることで相手に少しでもプレッシャーを与えることをし、同時に踏み込み突っ込んだ。

想定外の動きで反応が遅れほんの一瞬突きの威力は弱まり、なんとかそれを竹刀で受け流し防ぐことに成功し奇跡的に鍔迫り合いの状態に持ち込むことができた。



なんという奇跡はたまた怪我の功名か、才能なくブランクがある俺は、剣道有段者の宗助相手に生まれて初めて互角に近い戦いをしていた。

こんな千載一遇のチャンス逃してなるものか・・・・



「負けるか!!!」

「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

先ほどの余裕が一変宗助は、珍しく焦り大きく吠え応戦するが一向に状況は変わらず拮抗した状態が続いている。

それもそのはず宗助の剣の才は恵まれているが体系は女の子のようにヒョロガリで俺と比べて線が細い単純な力比べなら負けるはない。加えて・・・・・




「く・・・・・・足が・・・・・いた・・」

宗介の左足は負傷し、思ったように動けなく防戦一方の状態だ。

左足というのは剣道の中で最も大切な部位だ。そこから間を盗み素早い攻めができる。いわばすべての基盤と言う存在だ。

それを失えば戦力が急激に下がるのはあいつ自身が一番分かってるはずだ。

だが、それを承知の上無理して進むのは、あの約束をしたからであろう。

この鍔迫り合いがお互いの実力が拮抗していてまだ剣を交えてる中、これが宗助との交渉できるチャンスだと思い、改めて面と向かって口を開くことにする。



「宗介、もうお前の負けだ。いい加減剣を置け・・・」

「何を言ってるの・・・・僕はまだ負けないよ」

「強がりはよせよ。お前の足はガタガタだ。このまま続ければ二度と剣道ができないぞ。そしたら姉ちゃんにいいカッコができないぞ」

「!!!!それがなんだよ。そんなの都には分かんないよ!!!」



「ああ、途中で諦めた腰抜けの俺には分からない。けどな、有段者の姉ちゃんの言葉ならどうだ?」

「な・・・・・なにをいってるんだ」

姉ちゃんの話題を出すと、分かりやすいように顔が出て切っ先が震えだし明らかに動揺していた。




「姉ちゃんは、今ここにはいないけどな。真っ先にお前をひっぱたくはずだぜ。『そんな無茶な事をするなら剣道を辞めろ!!!』ってなぁ」

「う・・・・・そんなの分かってるよぉ!!!分かってるけど!!!僕はあの人に認められたい。その為だけに今まで頑張ってきたんだ!!!だからここで剣の道を諦めてもあの人と一緒になりたいんだ」

「馬鹿野郎!!!!それが駄目だって言ってんだろうが!!!!この分からずやが!!!そんなんだからお前は赤点スレスレなんだよ。もっと勉強しろ」

「な・・・・・・・そ・・・・・そんなの今は関係ないだろ!!!」

「関係あるね!!!姉ちゃんも言ってたぞ。『宗介・・・・・・あいつは好きなものばかり目に行き過ぎて周囲の事が全く見えてない。もっと周囲を見てから改めろってさ』お前は、昔からそうだ。いつも自分の事ばっかりの自己中心的野郎なんだよ!!!」

そうそのセリフが姉ちゃんが宗助に伝えたかったことだ。

恐らく姉ちゃんは昔と同じように宗助の事が好きだ。でもそれはあくまで俺と同じ弟のようにしか見てないんだ。

これから先もしかしたら宗助の事を弟ではなく、一人の男として見てしまう可能性はあるが、まだ早いと姉ちゃんは思ってるはずだ。

あいつを含めて俺達は、言わばまだ社会の事を理解してないガキだ。だからこそ世界のすべてを知ってほしいんだ。

姉の失敗の二の舞にならないように・・・・




「よくもまぁ親友の前にそんなことが言えるね!!!」

「ああ・・・・親友だからお前の悪いことは全部言ってやるよ。そして一から出直せ。お前には、姉ちゃんだけではなくいろんな人が支えてくれてるのをいい加減に気づけ」

「え・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

鍔迫り合いをしてる中、俺を含めて宗助は道場の外に目を向ける。

そこには、魁里と市葉達が初めから俺達の戦いを見守っていたのだ。

事前にこの二人は俺が呼び影ながら見守っていたのだ。




「魁里ちゃん・・・・」

「しめた」

この中で宗介の事を気にかけている魁里の重いが通じたか、宗助はそれをしばらく目にいってしまい、今世紀最大の油断を見せていた。

魁里には申し訳ないが俺は、やつに勝つつもりだ悪く思わないでくれ!!!




「でりゃあ!!!!!!」

「くっ・・・」

大きく叫びながら思いっきり竹刀に力を入れる。するとその力負けしたか宗介は思いっきりのけぞり、左足に限界が来たか膝に足をついていた。

通常の試合なら膝をついた時点で勝負は決まるがこれは公式ではない。

覚悟を決め鬼の一振りを振るう。





「俺の勝ちだ!!!!宗助・・・」

「宗助先輩ーーーーーーーーーーーー勝てーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

「魁里ちゃん・・・・・・僕・・・・・負けないよ」ふっ

魁里の声が通じたか宗助は、俺の攻撃を受ける間ほほ笑んだ。そしていつの間にか俺の竹刀は目の前から消失していた。

いや、消えたというより相手の一瞬の攻撃で俺の竹刀は後方まではじけ飛んだ。

そして目の前には竹刀を構える宗助がいる。

完全なる負けだ。



「巻き上げ・・・」

「えっ?えっ?姉さんもしかしてまたまた宗助先輩が勝ったのですか!!!!やったーーーーーーー」

完全なる決着で、今まであまり声を出さずに見守っていた魁里がなぜかこの時だけ姉の市葉に抱き着き喜んでいるのが見えた。

ちっ自分的に勝ったと思ったんだがな・・・・

もう完全に諦め面を外す。

続けて宗介も俺につられて外した。




「はぁ・・・・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・さすがだ宗介完敗だ・・・・・・やっぱお前には勝てねぇわ」

「都・・・・・・ごめん」

「あ?なんで謝ってるんだよ?勝者なんだから喜べよ」

「うん・・・・・そうするよって・・・・・都?」

俺に言われたか分からないが久々にこいつが喜んでいるのが見えた。




・・・・・・・・・いけね・・・・・集中が切れたせいか・・・・今になってとんでもない熱気を急激に感じてしまい、視界がぼやけて意識を完全に失ってしまった。






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