おにいちゃんは決心するようです
伯父さん達と夕食を食べ終えた俺は、宿泊した旅館で、場所は違うが二日連続の浴場を堪能し、浴衣に着替えた後、ロビーのソファーに座り乃希亜と連絡を取った。
なんせ昨日から今まであいつとまったく連絡を取ってないから、乃希亜の声に飢えているのだ。
『へぇ、あの姉貴がなぁ意外だな・・・』
「そうだろ?でもこれは、姉ちゃんには内緒な・・・」
『分かってるよ』
「それで、いつこっちに来るんだ?」
『わりぃ、補修もそうだけど、いろいろ仕事があるからいけないんだわ・・・・でもな、その埋め合わせはちゃんとするからな・・・・それまでに金はちゃんと貯めねぇとな・・・』
「そうだな。だが、もうすぐだ。もうすぐお前と二人っきりで楽しい夏休みを送れる・・・だから辛抱してくれ。乃希亜・・・・愛してるからな」
『ば、馬鹿野郎・・・・電話越しでそんなくせぇ事言うんじゃねぇよ・・・けど、こっちも、お前と考えてることは一緒だ。じゃ切るぞ・・・・土産楽しみにしてるぞ」
「ああ、島での土産はちゃんとこっちに先送ってるから期待してろ。じゃ」
ピッ
言葉では表してなかったけど内心寂しそうな感じをしてたな。
さて、乃希亜の声も聞けたから部屋に戻るか。
俺が泊まる部屋は、神代家の伯父叔母夫婦と魁里に混じって泊まることになり、寝る時は男女別れて引き戸を閉めて寝るのだが、それでも魁里のいたずらが怖かった。あいつは基本両親前で猫かぶったりするから余計に立ち悪いからな。 できれば戻らないでくれ・・・・・・・
いや戻らないと逆に魁里と宗助は一晩過ごすことになってしまうな。あいつ肉食だから一晩で宗助の純朴さが失われてしまう。
こうなったらお邪魔覚悟で、宗助の練習場に向かわないと・・・・・
まずは浴衣から私服に着替えないといけないな。
「みやこ・・・」
「アレ、市葉?」
そう思った瞬間、市葉と偶然ロビーに鉢合わせをしたのだ。あれ、さっき夕食まで一緒だったのに、なんで戻ってきたんだ。
市葉の顔はなにやら表情を曇らしていた。
「どうしたんだよ?こんな所で・・・・」
「ちょっと話があるのですけどいいですか?」
「ああ?」
そう返事をし、俺は一度私服に着替え市葉に連れて行かれる。そしてたどり着いた場所はというと、この旅館近くの公園だ。 この時間帯人気が少なく、逆に蚊が多くうっとおしさを感じながら、その奥のベンチに向かう。
そこには、すでに先客がいた。
「魁里?」
「姉さんなんで、都クンをここにつれてきたんですかねぇ」
そこにいたのは魁里で、いつものようにいらない口を出し、目を逸らしていた。
なにやら、へとへとで疲れた顔をし、なにやら右手をかばっており、もう片方の手でエナジードリンクをゴクッと飲み干していた。
「どうしたんだよ魁里その右腕・・・」
「別に・・・・・・大したことないですよ」
「魁里、正直に答えてください。もし嫌なら、あたしから説明してもよろしいですね?」
「・・・・・・・・」
魁里は無言ながらも、首を静かに縦に振ったので市葉は説明する。
「じつは、これ宗助君にやられたのですよ・・・」
「なに・・・・」
「ち・・・・・違います。あれは、私のミスですよ」
「魁里、口を挟まないでください」
市葉の一喝によって、魁里は弱弱しくなり話は続く。
話の内容をまとめると、宗助は、なにかのきっかけで練習にしか頭になく、数日前の合宿から
しかもそれだけではなく、合宿中になんどか部活の先輩と口論になり、完全に孤立してるようだ。そして今日、魁里が心配で練習を見に来てる時、宗助は練習相手がいないので魁里を相手として、模擬試合をしていたのだ。
だけど、その練習中はろくに休憩時間をとらずに、ずっと打ち込みを続けており、その練習場所は、窓を開けたとはいえ、蒸し風呂状態に加え剣道着をつけてる状態なので、暑さは半端無くまともに頭が働かなかった。
そしてその最中に宗助は誤って魁里の右腕に一撃を受け怪我をしてしまった。
幸いにも一撃が弱かったため打撲で済んでいたのだが、一歩間違ってたら大惨事になったようだ。
無論問題はそれだけではなく、市葉はさらに口を動かすと、どうやら宗助は左足を怪我していると推測しており、歩くたびに足をひこずっているらしい。
このことを魁里に問い詰めたところ、魁里も、宗助と打ち込みの最中、左足の踏み込みがいつもと比べて踏み込みが少なく威力が半減してると証言していたのだ。
なるほど、宗助と出会った時、違和感を感じてたけどそれが原因だったんだな。
その一連の話をした後俺達は物議を醸すことにする。
「で、これからどうするんだよ」
「決まってるでしょう。今から宗助君には、病院に行ってもらいます」
「じゃあ大会はどうするんですか?宗助先輩今まで頑張ってたんですよ?」
「何を言ってるんですか?大会より今後の事が大事でしょう?」
「そ・・・・・それは・・・」
正論を言われ魁里はなにも言えずにただ固まっていた。
確かに市葉の言ってることは何一つ間違ってないのだが、魁里は、ここにいる誰よりも宗助の事を思ってる。怪我をして・・・・下手して今後の剣道という競技に支障が出ても、本人のやりたいことを最大限にやってほしかったようだ。
俺にできることはただ一つ・・・・
「なぁ、二人共、宗助の事は俺に預かってくれないか・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そして、その翌日インターハイ二日目の当日、天気予報だと日中にかけてずっと快晴が続くようだ。
その早朝、まだ暑い日差しが来てない頃、俺は目覚まし時計で、早く起き宗助達のいる宿舎の中にある練習所にて宗助と待ち合わせをしていたのだ。
俺が来たときには、宗助はすでに準備万端か胴着を着ていた。
そう、俺は、ガラではないが宗助の目を覚ませる為に、事前にこいつに連絡を入れ、早朝の練習相手を務めることになったのだ。
「おはよう。宗助」
「うん、おはよう都」
いつもと変わらずの日常的な会話なのだが、どことなく殺伐をしていた。
宗助の表情は、左足の痛みを我慢してるかどうか定かではないないが顔はこわばっていて一層迫力を増していた。
「で、都本当に僕の相手になるの。悪いけど長年剣道を疎かにしてた君では相手にならないと思うよ」
普段の宗助なら絶対に言わない言葉・・・・・どうやら足が予想以上に痛く追い詰められてるようだな。
「なら、なんで俺の誘いを乗ったんだよ?それはつまりお前も言いたいことがあるんだろ?」
「そうだね・・・・・けど、今はすごく気持ちが高ぶってるからそんな気分じゃないや。知ってるんでしょ?僕、あと数時間でやっと待ちわびたインハイが始まるんだよ。君はせめてその前座になってよ」
そう言うと、宗助は面を被って完全な戦闘態勢に入っていた。
今の宗助は、なにを言っても聞かない状況だ。
怪我をしても尚、前に向かおうという無謀さ、宗助の脳内は姉ちゃんとの約束しか頭に入ってないようだ。
やれやれ恋は盲目とよく言うがこれがその見本だな。
なら俺に出来ることは、いきり倒している幼馴染に、厳しい現実を教えるしかない。
「こい!!!!宗助!!!」
俺は、胴着と面を被り宗助に挑む為前に出る。
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