第12話使い魔を手に入れました
陽名菊とカウラに置いていかれたその後。
俺と子供ハイウルフは、街を囲む壁を目印にしてなんとか門まで戻ってきた。まあ、子供ウルフの方は道中のほとんどを俺に抱きかかえられていたわけだが。子供なので良しとしよう。
以前に陽名菊がやっていた様に門番にカードを見せると、街の中に戻る事が出来た。
最初に通った門とは違う所から入ったので目に入る景色は真新しく、とても新鮮だった。
街の中を歩きながら周囲を見回した後、『ふう…』と小さく溜息をつく。
「さてと、じゃあ武器屋を探すか」
カウラの情報通りなら、そこでテイムクリスタルと言う物が手に入るはず。
「きゃん!」
俺がなんとなく子供ウルフに向けてそう言ってみると、返事をするように鳴いて返してくれた。
実はかなり知能指数が高いのではないか、と俺は考えていたが、おそらく合っているだろう。
そんな事を思いながら、子供ウルフを歩かせようと地面に下ろすと、その場でお座りの姿勢のまま動かなくなってしまった。
ジッとこちらを見上げ、何かを懇願するような眼差しを向けてくる。
「もしかして、抱っこのままがいいのか?」
「きゃん!」
肯定を表すかのような、目を輝かせた返事。
甘えん坊なのか、それともぐーたらなのか…。
「まったく…しょうがないな。ほら」
「きゃう!」
しゃがんで両手を広げたら、向こうから飛び込んで来た。
口では呆れた表現をしているが、きっと俺の表情は緩みきった顔になっている事だろう。やはり可愛いは正義だった。
「それじゃ、出発だ」
「きゃん!」
武器屋が何処にあるかは知らないが、俺は目的地に向けて歩き出した。
◇
真也が武器屋を目指して歩いている頃、陽名菊とカウラは蓮華の1階にて『初クエスト達成記念パーティー』という名目で女子会を開いていた。
そもそも、女子2人の時点でパーティーもクソもへったくれもない。
「ふう…クエスト終わりに食べるご飯は最高ですねー」
「さっきシンシンの足食べたばかりにゃのに…」
「あれはおやつ、こっちがメインです」
「シンシンのこと本当に軽食として見てたにゃ…」
猪肉を貪る陽名菊を見ながら、カウラは驚愕を覚えた。
「にゃあはてっきり、陽名菊ちゃんがシンシンの事を好きにゃんだと思ってたけど…違ったかにゃ?」
「…」
「ありゃ?」
先程までの勢いは何処へやら。
急に食べるのをやめた陽名菊に首を傾げる。
陽名菊は手に持っていたフォークで肉をつつき始め、悩める年頃の少女らしい顔で話始めた。
「…正直、真也さんがどう言う存在になっているのか私にも分かりません。まだ会ってから1日程しか経ってませんし…でも、食べ物として見ている事も事実な反面で、悪い人ではないとも思ってます」
「食べ物云々省いて、シンシンにもそう言ってみたら?もしかしたら良い関係を築けるかもよ?シンシンちょろいし」
「…なんか、気恥しいんですよねー」
「お年頃だにゃ〜」
陽名菊はほんのり耳を赤くしながら、1口だけ肉を食べ始める。
そんな陽名菊を、カウラはからかう様な視線を向けながら眺めていた。
そして、その視線から逃げるように陽名菊は店の奥に向けて声を出す。
「リナー、注文良いですかー!」
「ここの娘さんなら、さっき買い物袋掲げて出て行ったにゃ」
「…ますた」
「マスターさんとやらは、今上の階に登ってったにゃ」
カウラの言葉を最後にして、その場が静まり返った。
引き続きニヤニヤしながら陽名菊を見るカウラ。
陽名菊は耐えきれなくなり、顔を真っ赤にしそのままテーブルに突っ伏した。
「わかりました…言います、言いますよ!ちゃんと人としても見てますって!」
「うんうん、それでいいにゃ。てかそもそも、パーティーメンバーを食料として見てるとか頭おかしいにゃ」
「うぐっ…」
カウラの一言に、陽名菊は胸に何か刺さるようなモノを感じた。
「まあ、頑張れにゃ」
「うう…なんでこんな事に…」
陽名菊は心の中で、真也を置いてこなれば良かったと強く後悔した。そうすれば、カウラに弄られる事もなかっただろう、と。
それからも、『女子会』と言う名の『陽名菊カラ会』はまだまだ続いた。
◇
街の中を歩き始めて早十数分。
八百屋や魚屋、質屋や肉屋、人気のない路地裏など、ありとあらゆる場所を巡ったが武器屋らしい場所は見つからなかった。
周囲を見渡してみても、看板こそ違えどレンガ造りの建築や木組みの家と、似たような建物が並び立っている。
ひょっとしなくてもこれは迷ったのだろうか。
やっぱり地図くらいは欲しかった。今度リリスにあったら愚痴っとこ。
「さて、帰れなくなったが…これからどうしようか?」
「くう…」
街に戻って来てからの唯一の話し相手、子供ウルフに意見を求めてみるが、当然の如く返ってくるのは鳴き声のみ。
こういった場合、元の世界ならスマホで全てが解決していたのでそれが封じられた今は対処方がない。
今までありがとう現代科学。
「しばらく野宿生活だな…いっその事旅に出るか。結構いい案だと思わない?」
「きゃん!」
賛成だ、とでも言うように子供ウルフは鳴いてくれた。
よくよく考えれば、これは陽名菊から解放されたと見ていいのではないだろうか。
カウラがいるし陽名菊の食事はもう1人じゃない、俺は食料から解放。正しくウィンウィンの関係。
カウラ様ありがとう、マジ女神。どこかのロリ女神にも見習って欲しい。
「よし、そうと決まれば早速旅支度を…」
幸いな事にお金も武器もある。
この2つがあればこの世界ではそこそこ満足が行く生活が送れるだろう。
「勝ち確来たわー。よし、今度こそハーレムを…」
「あれ、真也君?」
俺が独立した事への喜びを噛み締めている中、背後から聞きなれた声がした。
振り返ると、そこには金髪のポニーテールにパーカーワンピのような格好をしたリナさんがいた。
「リナさん、こんな所で何を?」
「お父さんに頼まれてお使いに来たんです。真也君は?」
「陽名菊に捨てられたから旅に出ようと思ってな」
「えっ」
リナさんが驚愕に顔を染める。
まあ、いきなりこんな事言われたら普通驚くか。
「え、えっと…陽名菊ちゃんと喧嘩でもしたの?」
「いや、俺が陽名菊から逃げて来たんです。それで自由になったから、この子供のハイウルフと旅に出ようかと」
「そ、そんな…」
予想以上にリナさんが動揺している。
一体どうしてしまったのだろう。
「あ、あの真也君…その、考え直す気はないですか?」
「うーん…今のところは無いかな。てか陽名菊にいつ見つかるか分からないから、俺そろそろ行きますね」
「あ…ま、待ってください!」
回れ右をし、歩き出したところでリナさんが服の裾を掴んで来た。
自分好みの萌えシチュだっったので一瞬固まったが、すぐ意識を取り戻し再び振り向く。
「えっと…どうしました?」
「あの…陽名菊ちゃんがダメだったら、私と一緒に暮らしませんか?」
「…ほえ?」
唐突に発せられたプロポーズに俺は固まってしまった。
地味にいつの間にか俺から下りた子供ウルフがリナさんの足を小突いている。嫉妬しているみたいで可愛い。
「ダメ、でしょうか?」
「…理由を聞いても?」
「だ、だって…私たち、友達じゃないですか。友達…ですよね?…あれ?」
『違うの?勘違いなの?私恥ずかしい子?』とでも言いたげな様子で、上目遣いをしながら涙目を向けてくる。
一旦状況を整理しよう。
陽名菊から独立し、1人(と1匹)旅を決意した所でリナさんと遭遇。
旅に出ることを伝えた途端、一緒に暮らそうと言うプロポーズ。理由は友達だから、との事。
リナさんと暮らすと言うことは、再び蓮華に戻ると言うこと。とすれば、必然的に陽名菊とも会うことになるので意味が無い。
「と、取り敢えず!友達じゃなくてもほっとけないよ。まずは陽名菊ちゃんとお話しよう?ね?」
「…」
「えっと、真也君?」
反応を示さない俺に対し、リナさんは首を傾げていた。
確かに、何も言わずに皆の元を去るのは良心が痛む。それに、まだ旅立つ気百パーセントってわけでもないし。
なら、一旦戻るのも良い案かもしれない。
「あー、リナさん」
「は、はい」
「その…いままでの全部冗談なんです。本当はただ武器屋を探してただけで…」
「…ほえ?」
呆気に取られた表情で、リナさんは数秒フリーズした後元の世界に戻ってきた。
取り敢えず適当な誤魔化しを入れておこう言う浅はかな考えだったが、リナさんの反応が思った以上にオーバーだったため俺も驚いてしまった。
「そっか、冗談か…良かった。あ、えっと…武器屋でしたよね?良かっからですが…一緒に行きませんか?」
「あれ、お使いは良いんですか?」
「あとで行きます。それより今は真也さんが優先です。お友達が困ってるんですから」
そう言うと、リナさんはついて来いと言わんばかりに歩き始めた。
何故か『お友達』を強調していたが、今は気にせずついて行くとしよう。
「ほら、お前も行くぞ」
「きゃう」
先に歩き始めたリナさんに着いて行くため、子供ウルフを抱き抱える。
ちなみに、子供ウルフはリナさんが歩き出すその時まで足を小突き続けていた。
少々嫉妬が強すぎませんかね?
リナさんに案内してもらう事30秒、目的地にはすぐ着いた。
距離にして400メートル程だろうか。
先程いた場所のすぐ脇の道を曲がった所に店があったのだ。ニアピンすぎる。
武器屋の店名は『エンペリア』、獣人アダンシリーの夫婦が切り盛りしている店で、ここ周辺では一番品揃えが良いとのこと。
その後、店主の男性に案内して貰いながら、無事テイムクリスタルを購入する事が出来た。
1個30エイルとかなりお手頃な価格だったが、ちゃんと利益は出るのだろうか。それと、常連でもないのに2つおまけしてくれた。
購入後、早速契約をしようと思ったが店主がここではやめてくれと言っていたので、今は武器屋から少し離れた自然公園のような場所にいる。
成り行きで着いてきたリナさんだったが、俺と子供ウルフとの関係について説明したら使い魔契約の手伝いをしてくれると申し出てくれた。
手伝いと言ってもやり方を知らない俺にリナさんが教えてくれると言うものなので、手伝いというより指導である。
「使い魔契約って、俺でも出来ますかね?」
「契約自体は簡単なので、真也君でも出来ると思います」
ただ、方法が特殊すぎるだけ、と後に付け足しリナさんは説明を始めた。
「では、まず最初に…テイムクリスタルを胸に刺してください」
「ほい」
「…」
言われた通り胸に刺したら、リナさんが唖然としていた。もしかして冗談だったりしたのだろうか。
「あの…痛くないんですか?」
「うん、慣れてるから」
「そ、そうですか…」
俺がそう伝えると、リナさんは躊躇いを残しつつも説明を再開してくれた。
「えっと、テイムクリスタルを刺したら、使い魔にしたいモンスターに名前をつけてください」
「名前…」
「きゃん!」
自分に話題が向いたことを理解したのか、先程まで俺に抱きかかえられていた子供ウルフが俺の目の前で座っていた。
「名前かー…」
正直な話、名前を考えるのは俺の苦手な分野だったりする。
ちなみに前世では、ハムスターにホッケという名前をつけ母親に殴られた。俺としては、イチゴやマロンと何が違うんだと言う話しなのだが。
取り敢えず、あまり深く考えずにするとしよう。
「そうだな…じゃあ、エナシオなんてどうだ?」
「きゃう!」
元気の良い返事、どうやら気にってくれたようだ。
「で、この後はどうすれな良いですか?」
「このまま少し待てばすぐに…」
リナさんが続きを説明を始めた瞬間、子供ウルフ…エナシオの体が白い光に包まれる。
そして、エナシオの全身がその光に包まれると、白く発光する球体となってそのままテイムクリスタルの中に入っていった。
「リナさん、これは?」
「使い魔契約が成功した印ですね。クリスタルの色が変わってますよね?」
リナさんに指摘され、胸からテイムクリスタルを引き抜いて見てみる。
確かに、無色透明だったクリスタルが白色へと変わっていた。
「これで終わりか…なんか呆気なかったな…」
「ここまで早く終わった人を見るのは私も初めてです。いつもは悲痛な叫び声を聴きながら2時間弱は掛かってましたし」
「えげつないな…」
本来ならもっと苦しまなきゃ出来ないものだったのか、これ。
この体に感謝したのは生まれて2度目だ。
「まあ一応、これでエナシオも死なずに済んだし万々歳だ」
「ふふ、優しいね真也君」
リナさんが柔らかく笑いながら、そんな事を言ってくる。
俺は照れくさくなり、そっぽを向きながら頬をかいた。きっと赤くなっているだろう。
「真也君、赤くなってますよ?可愛いですね」
「…見間違いですよ。それより、お使いの方は良いんですか?」
「これから行きますよ。あ、なんなら一緒についてきますか?1人で帰ったら、真也君、陽名菊ちゃんに食べられたりしそうですし」
「喜んでついて行きます。いや、ついて行かせて下さい姫様」
リナさんが冗談めかして言っているが、本当にそうなりそうなのでついて行く事にする。
俺の必死さが意外だったのか、リナさんは軽い苦笑いを浮かべていた。
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