第6話遺跡調査

「きゃあああ!」


 翌朝、小鳥の綺麗な鳴き声ではなくリナさんの叫び声で目を覚ます。


 目を開けると、真横には陽名菊の寝顔。そして体を起こすと、掛け布団と敷布団が真っ赤に染まっていた。いや何事?


「おはようリナさん」


「お、おはようございます。あの、これは一体…」


「俺もわかんないです」


「う〜ん、しんやさ〜ん……あむあむ…」


 リナさんに朝の挨拶をしている最中、陽名菊が俺の指を甘噛みしてきた。他にも舐めてきたり、しゃぶったり。


 この状態を見るに、どうやらこいつが全ての元凶のようだ。


 その証拠に、こいつの口周りには乾いた血がおやじの髭のようについている。


 俺はすぐさま起き上がり、壁にかけてある陽名菊の着物を漁った。女性のものを勝手に物色するのは良心が痛むが、今は仕方ないだろう。


 そして、着物からお目当てのもの…ギルドカードを取り出しレベルを見てみる。


『陽名菊 Lv92』


 間違いないギルティーだ。


「ほんと、ごめんなさい…」


「あ、真也くんは気にしないでください。なんか、真也くんも被害者っぽいので」


「やっぱり分かっちゃうかー…」


 リナさんは、俺を見て苦笑いを浮かべていた。


 まあ、カードを見ながら頭抱えてたら誰だって解るか。


「…う〜しんやさ〜ん…どこ、ですか〜…」


「お前はいつまで寝てるんだ!」


「ひゃうっ!?」


 敷布団を力の限りを尽くしひっくり返した。


 変な声を出しながら畳の上を転がった後、寝ぼけ眼で周囲を見渡す。どうやら状況が理解出来ていないようだった。


 そして、そんな俺達の様子を見ながら、リナさんはずっと苦笑いを浮かべていた。


 


 場所は変わって1階の食堂。


 俺は陽名菊と共に、朝食を食べていた。


「真也さんはですね、もう少し女の子の扱いを…」


 不貞腐れながらサンドイッチを頬張る陽名菊。


 こいつ、肉以外の食べ物食べれたのか。もしかしたらこっちに来て1番の発見かもしれない。


 まあ、まだ異世界に来てからまだ1日しか経ってないけど。


 というか、昨日出会った子と同じ布団で寝たのか俺…。


 陽名菊は陽名菊でガードが緩すぎる。悪い男に捕まらないか心配になって来た。


「真也さん、聞いてます?」


「お前が店の備品ダメにしなきゃ普通に起こしてた。嫌なら寝相をどうにかしろ」


「うぐっ…」


 俺を問い詰めている気になっていたみたいだが、一言で一気に縮こまった。


 養われてる身なのは十分承知しているが、これは口出しせざるを得ない。


 あの後の事を言うと、布団一式は陽名菊が弁償した。そしてその布団の処分はマスターさんが引き受けてくれるとのこと。ありがたい。


「うう〜納得いきません」


「ほら、ホットドックのウインナーだけやるから機嫌直せ。あと、今日の予定を決めるぞ」


「なんか元気が出てきました!今日は真也さんが出来る簡単なクエストを探しに行きましょう!」


 なんて単純なやつ。ちょろい。


 どうやら今日はクエストに連れていってくれるようだ。


 しかし、Lv0で低ステータスの俺でも出来るクエストがあるのだろうか?


 配送やゴミ拾いとかそこら辺のものしかないと思うが、出来ればモンスターを倒してみたい。


 そんな思いは胸に秘め、俺は陽名菊が朝食を食べる姿を眺めていた。


 


 


「おはようございまーす」


「いらっしゃいませ。陽名菊さん、真也さん」


「おはようございます、リースさん」


 ギルドに入ると真っ先にリースさんが笑顔で出迎えてくれる。


 昨日と全く同じ薄黄色のロングスカートと革の袖なしジャケットを来ているが、服のストックはどうなっているのだろう。


 リースさんは俺と陽名菊を交互に見た後、何かを察したようにギルドの掲示板の方へと向かっていった。


 そして、1枚の紙を俺たちの元に持ってくる。


「真也さん、このクエストやってみませんか?」


「え?」


「クエストを探しに来たんですよね?これなら遺跡調査ですし、真也でも大丈夫だと思います」


 この人、出来る!


 俺は心の中で、リースさんに尊敬の念を抱きつつ、クエスト内容を見る。


『東の森 遺跡調査』


 そう書かれた紙がテーブルに置かれていた。


 概要を読むと、四日程前に東の森の中に突然遺跡が現れたらしい。


 遺跡の周りには、それほど強いモンスターが居らず、尚且つ遺跡も出てきたばかりでモンスターも住み着いてないだろうとの事で、超初心者向けのクエストになっているようだ。


 俺は陽名菊と相談し、万が一の事を考えて陽名菊とパーティーを組み、クエストに挑むことにした。


 リースさんにその旨を伝え、クエスト受理の判子を押してもらった。


「それでは2人とも、お気をつけて」


 俺と陽名菊はリースさんに一礼し、ギルドを後にした。


 


 クエスト目的地、東の森までは20分程掛かった。もちろん、陽名菊に担がれてだ。どうやら少し遠い所だったらしい。


 関係ないが今回は吐かなかった。俺も少しは成長しているようだ。


「真也さん、到着しました」


「おう、ありがとな」


「いえいえ」


 陽名菊に礼を言いつつ、目の前にあるピラミッド型の遺跡を見つめる。


 大きさはエジプトのピラミッドと対して変わらず、本当に何の変哲もないピラミッドと言った感じだった。


 入口は人1人ぐらいなら余裕で通れそうだ。


「では、行きましょうか」


「俺が先に行くよ。罠があったら大変だし」


「で、ですが…」


「大丈夫、俺死なないし」


 陽名菊に向けサムズアップをし、俺は遺跡に足を踏み入れる。


 そして、遺跡調査開始3秒、5mぐらい進んだ所だろうか?


 心配そうに眺める陽名菊の顔が、まだくっきり見えるぐらいの距離。


 そんな序盤の場所で突然床から複数の槍が飛び出し、俺の体に刺さった。まさに串刺し状態。


 これには流石の俺も呆然としてしまう。ちょっとここ創ったやつ出てこい。


 真下から貫かれ、槍の先端が脳天まで到達していた。モザイク処理必須である。そしてまた左腕がもげた。


 しかし、そんな状態になろうとも体は勝手に再生する。


 槍は数秒で床に帰っていき、それと同時に俺の体は元通りになった。


 切り落とされた左腕を持って、俺は一旦陽名菊の元まで戻る。


「お、おかえりなさい?」


「うん、ただいま。あと、これお土産」


「ありがとうございます…」


 お互いの間に沈黙が訪れる。


 いや、陽名菊は土産の左腕食ってるし話せなくて当然か。凄く幸せそうな顔してる。


 何故か自分の手料理を振舞ってる時の気分がするな。


 どうやら、俺は俺の腕を食べる陽名菊の姿を見慣れてしまったらしい。慣れって怖い。


「取り敢えず、これじゃあ陽名菊は入れないな…俺1人で行くか。こんな最初から罠があるんだ、モンスターはいないだろう」


「残念ですが真也さんに賛成するしかないですね。私もスピードには自信がありますけど、さすがにこれは…」


「だよな。じゃあ、ちょっと行ってくる」


「はい、行ってらっしゃいです。ここで待ってますね」


 陽名菊に見送られ、俺は今度こそと思い走り出す。


 そしてまた槍に引っかかった。しかし、そんな事では止まらず俺は走り続けた。


 


 


 ピラミッド内部、そこには螺旋階段があった。


 遺跡調査なので進んではみたが、だいたい200mほどは下りただろう。その間にも、もちろん罠があった。その数150個。


 横から矢が飛んできたり、落とし穴があったり、マグマが天井から流れて来たりと、諸々の侵入者抹殺システムが増し増しだった。


 そして階段を下りしばらく直進すると、松明で明るくなった部屋を見つけた。


「ここが、ゴール…か!?」


 部屋に入ろうと1歩進んだが、その瞬間天井に押しつぶされる。


 高圧プレスにかけられた時のように体からプシューと煙が出てきた。


 タコ煎餅のタコはこの境遇を味わって作られてるのかと思うと、尊敬の念を抱きたくなる。


 ありがとうタコ煎餅。俺タコよりイカ派だけど。


 体が再生した後は天井は落ちてこなかった。そしてよく見ると、床に人が大の字で潰された跡がある。どうやら俺以外にもここで潰された人がいるらしい。


 俺は今度こそ部屋に足を踏み入れる。どうやらもう罠はないようだ。


「ひっろ…」


 ローマのコロッセオ程の広さだろうか。


 壁、天井には全て壁画が施されていた。遺跡の壁画などアヌビスとスフィンクスとかの古代伝説が書かれていそうだが、ここのは違う。


 剣や槍で人を串刺しにしていたり、鉄の箱に人を閉じ込め焼き殺していたり、ギロチンやアイアンメイデンなどの拷問器具で人を殺していったりと正しく地獄絵図だった。


 そして、そんな壁画に囲まれ、この部屋の中心に祀られている黒をメインにし暗褐色の線が入った球体。


 それを見ていると、何故か体が吸い寄せられるように球体へと向かっていく。


 1歩、また1歩と、手を伸ばしたまま歩み寄っていった。そして、あともう少しで手が届きそうになる。


 しかし、そんな時だった…


 


 ふぎゅっ


「んにゃああああ!!」


「ホワッツ!?」


 足元に倒れていた少女に気づかず、思いっきり鳩尾を踏んでしまう。


 へそ出しシャツを着用し、下にはショートデニムのような質のズボンを履いていた。そして、何より特徴的なのはその頭から生えてる猫耳。


 そんな猫少女は何も言わず地べたで腹を抑え、体を震わせていた。


 過度な痛みの場合、人は声を出せなくなる。つまり、この少女は今とてもない痛みを懸命に我慢しているのだ。


「本当、ごめん…」


「き、きにすんにゃ…ここで寝ていた、にゃあが悪い…ぐふっ。うー、アスペード発動しとけば良かったにゃ〜」


「アスペード?」


「にゃーの能力にゃ。体の表面がめっちゃ硬くなるにゃ」


 そう言えば、この部屋に入る前の天井トラップに人が潰された跡があったが…まさかこの娘だったのか?


 俺がそう考えていると、少女は不意に起き上がり大きく伸びをした。


「さてと、さっさとこんにゃ所でるにゃ。取り敢えず、これは貰っておくとするにゃ。売れば飯代にはにゃりそうだし」


「それ、触って平気なのか?」


「大丈夫じゃにゃい?それー!」


 猫少女が俺に向けて球体を投げて来た。


 落とす訳にも行かないので、渋々俺はそれをキャッチする。


 


 その瞬間、球体が赤く光出した。


「にゃ、にゃんだこれ!?」


「取り敢えずやばいやつだな、これ…お前に返す…」


「え、遠慮するにゃ…」


 きっと今は緊急自体なのだろう。


 球体からの発光はどんどん強くなるし、球体が徐々に小さくなっていく…というより俺の体に入り込んでる気がする。それに頭の中で体から武器を生やし、その痛みで悶絶してる自滅映像が流れている。


 そして気づけば、猫少女が焦りまくって腰を抜かしていた。俺も俺で焦ってはいるが、色々な焦燥が押し寄せて来たので一周回って落ち着いている。


「大丈夫か?」


「ちょっとチビりそうだにゃ…にゃんで少年は平気にゃの?」


「俺も割と焦ってる」


 バスケットボール程の大きさだった球体は、今はもう野球ボール程のサイズになっている。


 それに、相変わらず自滅の映像は流れ続けていた。


 そんな俺の緊急事態に拍車を掛けるように、頭の中に声が響く。


 


『汝、力を欲するか?』


 


 その声を聞いた瞬間、俺の視界は一気に真っ黒に染まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る