幻想的。魅力的。まるで絵本を文字に起こしたみたい。
読んで最初に抱いた印象がその三つです。
描写がね、凄く丁寧で、センスあるんです。
誰だってちょっと読めばすぐ、この物語の世界に入り込めることでしょう。過酷で、命がけで、だからこそその幻想的な描写が際立つんだと俺は思う。世界は厳しくも美しい。柄にもなくそんなこと思いました。
そんな世界観の中で、タイトルにもなっている「クジラのかみさま」はある種の象徴のように扱われているようで。言い伝えのような優しい紹介からその存在をぼんやりとイメージさせて、最後には登場人物の少年が抱いているそのイメージそのままに堂々と現れてくれます。
ここでまた筆者の描写力が生きるわけですよ。いやもうね、名前のとおり。かみさまが来た。俺は本気でそう思った。救いに来た。
少年が問いかけるよりもずっと前に俺は「ああ、彼らは神様の遣いだったんだなぁ」なんてことを呟いておりました。
子供に読み聞かせるおとぎ話のような、絵本のような。
それは決してチャチなもんじゃなく、それだけ心を鷲掴みにする魅力と強い世界観があるということです。ファンタジーの世界はいつだってこういう魅力がなくっちゃいけないと思う。
最高でした。
まず、「雨のかみさまは白いクジラの姿」という出だしから、「可愛い!」と頭の中で想像が始まります。空を往く白いクジラ。さぞかし悠々として壮観で、心が晴れ晴れする光景だろうな…。
でも物語の舞台は崩壊した世界。すべてが砂に還ろうとしているような乾いた過酷な環境。そしてそこには大切なものを守るために必死に命をつなぎ、ひとり戦う少年が。絶望と隣り合わせに生きていた彼は、ある日不思議な来訪者たちを迎えるのです。その来訪者たちが彼に見せた奇跡とは――。
荒廃した世界でありながら、色彩も鮮やかに浮かびあがらせる作者さまの手腕がみごとな作品。丁寧な言葉選びが生み出す軽やかな筆致と、心あたたまるファンタジーの両方を楽しみたいなら、ぜひ、この物語をご覧ください。
ミステリアスかつ愛嬌たっぷりのキャラクターたちも楽しめますよ。
ちなみに私はやっぱり、タイトルにもなっているクジラさんがお気に入りです。
神様というのは、人智を超えた存在で、人間がどうこうできるものではありません。
ですから、「生き残れなかった人たち」も、「何故か生き残ってしまった」兄弟も、どちらにせよ神様の課す運命に翻弄されてそうなったのだと思います。
そこが冒頭の文章によく出ていて、やわらかな語り口ながら、人間にはどうしようもないんだというゆるやかな絶望感が横たわっています。
このお話の主人公は、きっと魔女と神の子なのだと思いますが、わたしは、生き残りの弟を主人公に、青天の霹靂のように現れた旅人……という風に読んで楽しみました。
神話的で、色々な読み方ができると思います。
雨のかみさまは白いクジラの姿をしている——。
そんなお伽噺のような語りから始まるのは、過酷すぎる世界。
その世界が元はどんな形を、気候をしていたのか、知るものはいない。
一滴の水すら、食料すら枯渇し奪い合い、生き物全てがただ生きることに必死な世界。乾いて干からびて、心さえも失いそう……そんな世界を優しい文体で見事に表現されています。
その砂塵と残骸だらけの大地を、ある時風変わりな二人が進んでるところから物語は動きます。
二人が出逢ったのは生きることにしがみつき、守るために孤独の中抗う少年。
その時少年が出逢ったのはなんだったのか。
降り注いだものは、巡り合った運命は、かみさまだったのか……それとも希望だったのか。
神話のようで、ファンタジーの映画のようで。もしかしたら遠くないこの世界の未来のお話かもしれない。
不思議で、残酷で、だけど散りばめられた深い優しさの見える物語。
大好きな作品です。ぜひ彼らとこの世界を見聞きし、共に分かち合ってほしい。