闘争―II

 彼女は道沿いに置いてあるポータルを蹴り上げた。何も表示されていないディスプレイが吹き飛び、中身が顕になる。本来なら制御装置が入っているはずだが空洞になっている。そして中には銃器が入っていた。

 こういった事態のために隠していたのか。彼女の事だ、こんな仕掛けを街中にしてあるのだろう。彼女越しにしか判断出来ないが、材質からして軍事品ではなく3Dプリンタを用いた再現品だろう。一生ものの住宅ですら即席生成プリントアウトしていたのだから、武器の一つを作るなんて朝飯前なのだ。



 彼女はゆっくりと海岸沿いを歩いていた。海を眺めながら、残り数本になった煙草を名残惜しそうに吸っていた。

 彼らが追いついたのは、ゲーム開始から十五分ほどしてからだった。車を降りて彼女の後方に降り立ったのは、監視者だった。


〔何だ、本気で来るんじゃ無かったのか?〕


 彼らは一言も喋る事なく、銃口をこちらに――つまりミラに向けて――構えた。それに呼応するように、彼女も五ミリほどの口を開いた凶器リボルバーを奴らに向けた。


〔何だよ、前戯も無しじゃあモテねぇぞ〕


 銃声が響いた。ぱん、と弾ける音と、一筋の硝煙がこちらにも届いた。どうかその視界が地面に伏す事のないように、と祈る思いでデルタの背中を追いかける。


先制点ワン・ダウン、いただき〕


 ばたりと倒れ込んだ監視者は、悲鳴すらも上げなかった。また周りの仲間たちも怒りや悲しみといった顔つきをする事なく、ただ黙って銃口を持ち上げる。機械のように、人形のように。

 ミラもまた軽口をもう叩くことなく、残る五発の弾丸を散らした。ばたりばたり、五人の死体が生まれる。黒い血の池が浮かび上がる。

 彼女はその様子をじっと見ていたが、ふと視界が掌で覆われた。涙を拭ったのだろう。再び開け放たれた視界は何ら変わることなく、六つの死体と六つの赤黒い血の池、そしてまだまだ残る監視者が映っている。

 シリンダーが取り出され、空薬莢が地面に捨てられる。からん、からん、と小気味良い音色が奏でられ、次いで新たな弾丸が装填される。


〔なあ、一発くらい撃ってくれよ。私が殺人鬼みたいじゃねえか〕


 きゅるる、とシリンダーを回転させてから、手首をひねって装着する。監視者たちは耳元に手を当て、何かを聞いているようだった。恐らくラウラと連絡を取っている。


〔承知致しました。開闢かいびゃくせきを切りましょう〕


 集団の中で一番老いて見える男が返答すると、迷うことなく引き金を引いた。


「ミラ!」


 私は思わず叫んでいた。この声は通信ではなく、決して届くことのない場所へと飛んでいった。

 ミラの視界が揺れた。視線が左肩へと移る。噴水のように吹き出したAx2がぼたぼたと落ちる。しかしすぐさま傷口は簡易修復され、Ax2の喪失もそこで止まった。


〔どうした、私に肺なんてねえぞ〕


 ぱん。リボルバーが跳ねる。若い男の頭蓋骨が撃ち抜かれ、またばたりと倒れた。


〔つまり煙草も吸い放題だ〕

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