相対―V
右手がすうっと私達の方へと向いた。左手にある頭部が、そこにある目玉が、何かを見ている。何を、いや誰を?
「撃て」
たあん。胡桃が弾けたような音。乾いた残響。刹那、耳元を何かが駆けていった。
鳥? いや、そんなものは見当たらない。デルタとミラを確認する。二人とも、目を見開いている。どうしたの、何が起きたの。声を出そうとしたが、上手く発声出来ない。何故だろう。
サンを見下ろす。その無垢な頬が、黒く染まっている。ああ、あの廃屋で汚してしまったのかな。気付かなかった。拭いてあげないと。ああでも、ぽつり。ぽつり。降り注いでいる。雨? そんなわけない。黒く濁っている。
ああ、そうか。ようやく分かった。
これは私だ。
地面に穴が空いている。そこに着弾したのだろう。高い位置からの狙撃。この付近で高所を取れるのは――観覧車だろうか。いや、まさかね。夢を運ぶ乗り物が鉛玉を吐き出すなんて、全然笑えない。
けれど現実にそれは起きた。
両膝から力が抜けていく。視界にノイズが走る。周りの音がくぐもって聞こえる。
サンを怖がらせたくないけれど、しかし私はもう再び立ち上がる術を失っていた。
喉元から、Ax2が溢れ出ている。止まらない。
私は喉を撃たれた。ミラは言った。首を絞めたくらいでは私達は死なないと。
けれど残念なことに、Ax2の供給を止めてもすぐには死なないが、Ax2を失えば話は別だ。
レイヤーの修復が追いつかない。
多分私は、ここで死ぬのだろう。
霞む自意識の向こう側で、私を抱き寄せるミラの顔が見えた。
一瞬、泣いているように見えた。けれどそれは気の所為だった。レプリカントが泣くわけが無い。
涙を流すとしたら、それは――。
To be continued in Sequence 3.
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