襲撃―II

 ミラはそこかしこの廃材――電光掲示板や自動販売機、時には概観共有機タウン・ポータルに至るまで、自身の侵入鍵を仕込んでいた。監視カメラを植え付けていたのだ。


ポータルはいわば見取り図のようなもので、人間にとっては有り難い装置だった。

 常にオンライン化にあるレプリカントと異なり、人間もまた常時オンラインである事を承認するとは限らない。

 レプリカントがある以上、身体を機械化する義体化技術はあくまで医療機器に留まり、SF映画のようなサイボーグを望むことは早々ない。わざわざ機械にせずとも、ナノデバイスによる監視で最大のメリットたる「健康維持」はクリア出来る。


 携帯電話やスマートフォンがそうであったように、スマートレンズ等といったデバイスを持ち歩く事が常識ではあったが、如何せん安定したネットワークの樹立というのは難しいのが現状だった。

 例えば災害時。例えば電波障害。例えばトラフィック過多による回線のダウン。いくらテクノロジーが発達しても限界はある。そこで重宝されたのがポータルだ。

 無線、あるいは有線により可能な限り最新の周辺情報や通信証明ネットワーク・プロトコルを得られる。かなりアナログな手段ではあるが、この一手間に安心感を覚える人も少なくはなかったのだ。


 そんな人間たちの習慣が、今になって役に立っている。隠れ家までの主要なルートはある程度監視カメラから確認ができ、その映像は私にも常に送信されている。

 海沿いに歩き、住宅地を抜けて、大通りを超えれば辿り着ける距離ではある。しかし監視者は明らかに私達の居場所をある程度把握していた。

 流石に海辺にはいないと思っているだろうが、隠れ家周辺の家屋を入念にチェックしている。もしもあのゲームセンターを見つけたら間違いなくそうだと断定するだろう。煙草の吸い殻、空き瓶、書籍……生活の跡が残っているのだから。


〔どうするの?〕


 ひとまず海沿いを北上し、隠れ家の東側までには辿り着いた。しかし住宅地といえど大半は倒壊していて見通しが良いし、大通りは人影があればすぐさま分かるほどに更地となっている。


〔我慢比べするしかねぇな……幸い、連中の創作範囲はあの大通りまでだろう〕


 多数の監視カメラは、植え付けた対象が地上にあるものであるがゆえ、どれも地上レベルの高度にしか設置されていない。

 つまり上空から彼らを監視することができず、死角は多い。仮に大通り付近から彼らの姿が無くなっても、例えば斜めに倒されたビルのてっぺんに張っていたらまず気づけない。


〔しかしこれは、まずいな……〕


 ミラは複数展開されていた監視カメラのうちの一つを拡大した。ゲームセンターのある通りを真正面から映したものだ。彼らは端から順番に中を捜索し始めており、あの隠れ家まではあと三軒程のところまで差し迫っていた。


〔これ、明らかに隠れ家があるって確信しているよね〕


〔だろうな。いくら島と言ったって、元淡路島の現灰島はおおよそ六百平方キロメートルある。そんな中でピンポイントに探り当てるだなんて、それはもう……〕


 彼女は途中で言葉を止め、しばらく沈黙した。そして小さく、


〔……ああ、分かってるよ〕


 と呟いた。

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