浜辺―II
現時点では数値がへんてこであっても動作している以上は気にしないほうが懸命だ。次に周囲へのレプリカントに向けた緊急シグナルを発信した。
主に災害時に使用される機能であり、受信したレプリカント達は発信者の個体認証番号から容姿、精密な位置情報に至るまで一度に把握できる。
「主人を守るために我が身を犠牲とし、最後の力を振り絞り緊急シグナルを発信する」
そんな美談が実話として取り上げられ、世界中が感動したという。
しかし実際にはそんな記録は存在せず、
人間は飽きる生き物だ。そして同時に、忘れたがる生き物でもある。
緊急シグナルに対するレスポンスはない。半径十キロへは間違いなく届くから、少なくとも今すぐ出会える距離にレプリカントはいない。
それはとても不自然な話だ。レプリカントの
よほどの辺鄙な地でもない限り――例えば南極とか――十キロもあれば一体くらいは存在して当たり前なのだ。
そしてここで、私はごくごく当たり前の不安を覚える。
メタトロンへの接続が出来ない時点で、果たして緊急シグナルは発信出来るのかという疑問が頭をよぎったのだ。
無論、そういう緊急事態のための「緊急シグナル」だ。安定したネットワークがある時点で、それは緊急事態とは呼べなくなる。
しかしレプリカントはメタトロンに接続される事で個体認証システムという検問を通り、
常に繋がり合い、常に最新の品質を維持する。それがレプリカントたる資格でもあるのだ。
ならば、プロトコルを得られない環境においてネットワーク許可を得られているのだろうか。そんな事態になったことが無いので、私には判断の仕様がない。
皮肉にも、私は地震大国日本にいながらにして、大災害を経験した事がなかったのだ。建築技術とインフラ整備の発展により、今日ではマグニチュード七までの規模なら大した被害にならない作りに進化したのだから。
屋内にさえいれば、揺れはあっても倒壊するような事態にはならない。
地震雷家事親父、という洒落が昔あったそうだが、いまでは自然災害という単語は殆どの場合「天候」のみを指す。
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