第139話 無双
「はぁ・・・やっぱり、どう考えても主人公はキッカだよなぁ・・・」
俺は都の隠れ家のリビングでミツリンプライムビデオを見ながら呟いた。
改めてアクション映画をいくつも観たが、やはりラスボスを倒しているのが主人公だ。
「神もどきは別格としても、俺も相当強いんだから無双系主人公でも良かったんじゃないか?」
俺は天井を見上げながら愚痴った。
「な、なんだこりゃ!」
俺の周りに魔法陣のようなものが浮かび上がり、回転しながら眩く輝き始めた。
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辺りを見回すと、石造りの建物のようだった。
「勇者様!お待ちしておりました。」
目の前には王族のような格好をした若く美しい女性と神官のような者達がいる。
少し離れたところには、同じく王族らしき若い男性と騎士団のような集団が見えた。
「えっと、あんた誰?」
「勇者様、わたくしはトキヨ王国第一王女スギナと申します。」
「トキヨ王国?そんな国なんてあったか?」
「勇者様、この国は滅亡の危機に瀕しております。そこで神託に従い、勇者様を異世界から召喚いたしました。」
「へ?」
「勇者様、どうか、どうか、この国をお救い下さいませ。」
えーっと、これって俺が異世界召喚されたって事か?
ひょっとして、今度こそ俺が主人公?
いや、落ち着け、俺。
魔法は・・・よし、元の世界と同じように使えるみたいだな。
こいつらの魔法レベルは・・・惑星全部スキャンしてみたがザコだな。
って事は俺様ツエー?
無双系主人公?
ハーレムは・・・いらん!
「え、えっと・・・勇者様?」
はっ!
いかんいかん。
「あぁ、すまない。俺の名前はコウ。もう少し詳しい事情を説明してもらえるかな?」
「はい。こちらへどうぞ、勇者コウ様。」
俺はもう一人の王族らしき人物のところへと案内された。
「お兄様、勇者のコウ様です。」
「トキヨ王国第一王子のセタガだ。」
ん?
そう言えば、なんで言葉が分かるんだ?
ひょっとして、これが謎の異世界パワーってやつか?
「この国を救えって聞いたんだが、どういう事だ?」
「ふん。貴様に頼る必要など無いが、教えてやろう。」
「お兄様っ!」
ドゲシッ!
俺の拳が煌びやかな甲冑を拉げさせながら王子の鳩尾にめり込んだ。
「ぐふっ・・・」
あぁ、なんて俺は教育熱心なんだ!
這い蹲る王子の顔を踏みつけ、力任せに頭頂部の髪をむしってやった。
「口の訊き方には気を付けろよ?」
「い、いたい、いたい、やめろっ!」
シャキン、シャキン、シャキン、シャキン・・・
騎士団らしき集団が抜剣しながらこちらに向かって来た。
「殿下に何をするっ!」
「教育だ、教育。甘やかして育てるからこんなカスになるんだよ。」
「貴様っ!」
一斉に切り掛かって来たが、バリアに阻まれてダメージは入れられない。
「ま、魔導部隊、掛かれっ!」
今度は魔法が飛んできたが、言うまでも無く無駄だった。
「おいガキ、さっさと説明しろ。」
「だ、誰がお前なんかに・・・」
ブチブチブチッ!
「ギャアアアアア!」
「で、殿下!」
「鎮まれええええっ!」
突然、威厳のあるっぽい声が響き渡った。
声の主は偉そうな服を着たジジイだった。
「勇者殿、予はトキヨ国王チヨダじゃ。セタガが何か無礼を働いたのかね?」
「俺はコウだ。人をいきなり呼び出しておいて必要ないとか抜かしたんでな、教育してやってたんだよ。」
「ふむ・・・スギナよ、勇者殿の言葉は真か?」
「はい、お父様。」
「勇者殿、予に免じて許してはくれぬか?」
「いいだろう。だが、第一王子って事は次の王だろ?あんまり甘やかすなよ。」
俺はセタガの髪を掴んだまま王の足元に放り投げた。
ブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチッ!
「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!」
セタガは白目をむき、泡を吹きながら痙攣しだした。
俺の手に残った髪に頭皮っぽいものが付いていたが、死ぬ事はなかろう。
「やっと静かになったな。じゃあ、あんたが事情を説明してくれ。」
「う、うむ。まずはそこの地図を見るがよい。」
壁に掛けられた地図を見ると、このトキヨ王国は4つの国に囲まれているらしい。
・・・ん?
なんで字が読めるんだ?
これも謎の異世界パワーってやつか?
まぁ、せっかく読めるんだから拡張視野で情報収集しておくか・・・
「現在、我が国は滅亡の危機に瀕しておる。」
「まぁ、何も無いのに勇者召喚はしないだろうな。敵の情報は?」
「北方のサイタ評議国は魔王の軍勢に占拠され、人間は全て殺されたのじゃ。」
「魔王ね・・・ベタだな。」
「そして東方のチーバ共和国にはドラゴンゾンビが住み着き、瘴気による疫病で人間は滅んでしまったのじゃ。」
「ドラゴンゾンビか、これも定番だな。」
「更に西方のヤマナ連合には強力な吸血鬼が現れ、全ての住人が吸血鬼にされてしまったのじゃ。」
「吸血鬼ね、異世界の割には代わり映えしねぇな。」
「最後に南方のカナガ海洋国はアンデッドが跋扈する世界へと変わり果て、もはや生者はおらぬのじゃ。」
「詰んでるな。」
「うむ・・・トキヨ王国は人類の最後の砦じゃ。何としても守り抜かねばならぬ。そこで神に祈りを捧げ続けていたところ、遂に神託が下されたのじゃ。」
「勇者を召喚しろと?」
「その通りじゃ。皆、半信半疑だったのじゃが、神託の通り儀式を行ったところ、そなたが召喚されたのじゃ。」
あ、またバカが動き始めたな。
「うおおおおおおおっ!」
セタガが机の上の剣を抜き、斬りかかって来た。
ナントカに刃物は危険だな。
パキィーーーーーン!
ドゴォーーーーーン!
セタガの持つ剣を微粒子レベルに粉砕して、ついでに腹パンでもう一度眠らせておいた。
「おぉ・・・何たる事じゃ・・・」
「ん?どうした?」
「聖剣が・・・人類の希望が・・・」
「聖剣?」
「もうお終いじゃ・・・もうお終いじゃ・・・もうお終いじゃ・・・」
王様のくせにメンタルが弱い奴だな。
「おい、スギナ!」
「は、はい。」
「王が壊れた。お前が説明しろ。聖剣ってのは何だ?」
「先ほど砕け散った剣は、太古の昔に神より授かった聖剣なのです。その破邪の力でなければ邪悪な存在を斬る事はできません。それが失われた今、人類の滅亡はもう避けられない事に・・・」
「んな大袈裟な・・・」
ただのミスリルの剣だったぞ?
しかも鋳物を研磨しただけの安物量産品っぽい作りだった。
確かに鉄剣より切味はいいが、人類存亡がどうこう言うような代物じゃない。
俺はEMT魔法でミスリル剣を作り出して机の上に放り投げた。
「ほれ。」
「こ、これは聖剣っ!お父様、お父様っ!」
「お、おぉ・・・勇者殿、まさかあなた様は神・・・」
「違う、断じて違う!もう一回言ったら殺す。」
「し、失礼した・・・しかし、まさか聖剣を作り出せるとは・・・」
「ただのミスリル剣じゃねぇか。それで?」
「え?」
「話の続きだ、続き。人類がヤバい。で、俺を召喚した。それで?」
「あ、あぁ、そうであった。そこで勇者殿にはこれから修行をしてもらい・・・」
「修行?めんどくさい。倒せばいいんだろ、倒せば。」
俺は敵の支配地域をバリアで囲み、MET魔法で一気に殲滅した。
地下1kmから成層圏上端までの全ての物質をエネルギーに変換したから討ち漏らしは無いだろう。
一応、惑星の軌道が変わらないように相殺する方向に力を加えておいてやった。
やっぱり俺は気が利くな。
「よし、全滅させた。」
「え?」
慌ただしく廊下を走る音が聞こえて来た。
拡張視野で見たところ、豪奢な甲冑を着た戦士のようだ。
「陛下っ!」
「騒々しいぞ、近衛隊長。何ごとだ?」
「お、王国を囲むように光の壁が天高く伸びております!」
「ま、まさか・・・」
「だから言ったろ?敵は完全に消滅させた。光の柱はその名残りだ。」
皆、呆けたような顔をしている。
「・・・お前ら、礼も言えんのか?」
「ハッ!・・・ゴホン、勇者よよくやった。そなたの働きにより人類は救われた。褒めて遣わす。」
「ああん?滅ぼすぞ、こら!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」
「あと、分かってると思うが、敵を倒した後の計画は実行しようとするなよ?」
「な、な、な、何の事でしょうか?」
ここに居る全員が脂汗をだらだらと流している。
「これだよ、これ!玉璽が押してあるから知らんとは言わせんぞ?」
「も、申し訳ございませんでしたーーー!」
全員が土下座した。
俺が持っている計画書は王の部屋から瞬間移動させたものだ。
拡張視野で情報収集している時に見つけたのだが、碌でもない計画だった。
「じゃあ、内容を一つずつ確認していくぞ。」
「はい・・・」
「嘘はつくなよ?そん時は滅ぼす。嘘かどうかは俺が決める。証拠は必要ない。」
「そんな横暴な・・・」
「もちろん、手っ取り早く、物理的に、異論が出ないようにする。いいな?」
「・・・はい。」
「まず、王国は四方から攻められて連敗続きだった。」
「・・・はい。」
「そのせいで、民衆からの支持が得られなくなってきた。」
「・・・はい。」
「だから起死回生を狙って神から教えてもらった勇者召喚をする。」
「・・・はい。」
「ただし、民衆には勇者召喚の事は教えない。」
「・・・はい。」
「勇者が敵を全て倒したら、殺してしまう。」
「・・・」
「そうか・・・」
「は、はいっ!」
「手柄は全部、第一王子が立てた事にする。」
「・・・はい。」
「英雄となった第一王子が王位を継ぎ、再び民衆の支持を集める。」
「・・・はい。」
うん、クソだな。
「改めて思ったが・・・やっぱりお前ら滅ぼした方が良くね?」
「こ、これからは心を入れ替えます。どうか、どうかご慈悲を!」
「経験上、そういう事言う奴ほど信用できないんだがな・・・」
「で、では、スギナを差し上げます!それで、それで、どうかお許しください!」
「いらん。」
俺はナホ一筋なんだ。
考えるまでも無く脊髄反射で却下した。
スギナがショックを受けていたが知った事じゃない。
「ところで、”それ”はどうするつもりだ?言っておくが、最初の提案で俺が納得できなかったら・・・」
俺はセタガに顎をしゃくった。
「即刻、火炙りで処刑します!近衛隊長、すぐに準備しろ!」
「ははっ!畏まりました!」
「い、いかがでしょうか・・・」
何の躊躇いも無く愛想笑いしながら言いやがった。
完璧にクソだな。
「分かった。じゃあ、俺は帰る。」
「も、申し訳ございません!帰還魔法は再び神託が下されないと分からないのです・・・」
「んなもんいらん。じゃあな。」
人間の丸焼きを見る趣味など無いので、瞬間移動魔法で都の隠れ家へと戻った。
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「ふぅ、最初から強くて無双ってのもつまらんもんだな・・・」
「ただいまー!」
「クリスか・・・」
「もっとスカッとするかと思ったんだけどなぁ・・・」
「いや、そういう・・・ってお前の仕業かっ!」
「だって、無双系主人公になりたかったんでしょ?」
「今のは幻覚か?」
「ううん。たまたま丁度いい星があったから、コウを召喚するように細工したんだよ。言葉とか文字はわたしが割り込んで分かるようにしておいてあげたよ!」
「丁度いいったって、無双すぎてな・・・」
「そりゃそうだよ。わたしを除いて、この宇宙でコウがほんのちょっとでも手間取る相手なんてルキフェルとキッカくらいしかいないよ?」
「はぁ・・・しょうがない、鈍感系主人公でも目指すか・・・」
何故だか、クリスがやれやれといった感じに肩をすくめた。
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