駄神
第71話 駄神-01
「これからの予定ですが・・・」
「うるさいっ!ナホも、母さんも、友達も、みんな殺されちまったんだぞ!」
「ひっく、ひっく・・・」
「しかし、生き延びてスメラ文明を再興するよう命令が出ていますが?」
「くっ・・・」
「うぅ・・・」
”安全装置”の効果は絶大だ。
強制的に命令遂行の為に動かざるを得なくなる。
「でも、スメラ文明の再興なんてどうしたらいいんだよ?」
「そうよ!わたしたち二人だけで何が出来るのよ?」
「まず目標を明確にしましょう。命令はスメラ星の復興でもスメラ文化の復興でもありません。」
「どういう事だ?」
「分かんないよ・・・」
「つまり、場所は問わずスメラが持っていた文明、つまり科学技術や法理論などの英知を再現できれば命令は遂行できた事になります。」
詭弁だ。
しかし、この二人はアホなので、言い切ってしまえば信じてしまう傾向がある。
そして逃げの性格が強いので、より楽な道を示してやればそちらに進む事は分かっている。
「そ、そうか、それだけでいいんだ・・・」
「じゃあじゃあ、何すればいいの?」
「そうですね・・・知的生命体を探し出してスメラ文明を伝授すればいいでしょう。スメラが存在していた証を宇宙のどこかの星に刻むのです。」
スメラ人は絶滅したと考えた方がいい。
それならば、他の知的生命体で戦力になりそうな者を探す方が閣下のお役に立てる。
確率的にはほぼ0だが、何もしないよりはずっといい。
このアホ共の魔力を利用すれば瞬間移動が出来るので上手く利用させてもらおう。
「でも、知的生命体なんてそんな簡単に見つかるのか?」
「スメラでもそういう異星人探査プロジェクトはあったけど、全然見つからなかったよ?」
「それは当然でしょう。スメラ星の近傍から限られた宙域をあの程度の科学技術でたった数百年しか観測していないのに、見つかる方がおかしいのです。」
ルキフェル閣下がこれまでに掛けて来られた労力に比べれば、まるで何もしていないに等しい。
自宅の小さな窓から外をチラ見して、パンダが見つけられないと言っているようなものだ。
「幸い、閣下との合流までまだ1万年あります。様々な宙域を瞬間移動しながらヘヴ星の技術で探査すれば、他の知的生命体を見つけられる可能性はあります。」
「分かった。じゃあ、僕達は何をすればいいんだ?」
「バリアを張っておく事と、瞬間移動や探査に必要なエネルギー供給だけしておいて貰えれば、コールドスリープ状態で結構ですよ。有望な星が見つかれば起こしますし、見つからなければ閣下との合流前に起こします。」
「そっかー、寝ておけばいいんだー。」
「安心して任せておいて下さい。」
アホなガキの子守りなど、しないで済むならその方がいい。
魔法レベルの高さだけは利用させてもらうが。
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「起きて下さい。」
「ん、んぅ・・・」
「すぴーーー」
高圧電流でも流してやろうか?
「起きて下さい。」
「ん・・・あ、おはよう。」
「ふあああああ・・・おはよ。」
「なかなか興味深い星が見つかりましたよ。」
「え?もう見つかったの?」
「早くない?」
「コールドスリープ中だったのをお忘れなく。あなた方の尺度で考えれば悠久の時が流れていますよ。」
「あぁ・・・そうか・・・」
「なるほどねぇ。」
こんな事まで説明してやらないと分からないとは、先が思いやられる。
「こちらの星です。」
「え?スメラ?」
「戻って来たの?」
「いえ、単に似ているだけで全く別の宙域の星です。」
モニターにはスメラ星と瓜二つの星が映し出されている。
「それにしても・・・似てるな。大陸までそっくりだ。」
「びっくりだよ。」
「極軌道にスメラの偵察衛星ブラックナイトを投入して分かったのですが、更に驚く事があります。」
モニターに衛星からの映像を映し出した。
「え?人間?」
「ちょっとちょっと!」
「そうです。あなた達とほぼ同じ姿形の知的生命体が存在しています。もっとも、文明レベルは石器時代ですが。せいぜい極一部で鉄が使われている程度です。」
魔法は知的生命体でなければ使えない。
恐ろしく原始的だが文明を築いているという点では、この生物は必要条件は満たしている。
複雑な魔法を行使するに足る知性を持ち得るかどうかも生体調査をすればすぐに判明する。
しかし、機械であるわたしには分からない事がある。
魔法レベルの有無だ。
覚醒者が居れば共鳴波を測定すればいいのだが、そうでない場合は魔法使いが魔法気配の有無を感じ取る以外に方法が無い。
だから、この二人を起こしたのだ。
「ここならスメラ文明の再興ができるかな?」
「きっと出来るよ!お母さんの最後の願いを叶えてあげようよ!」
「可能性はあります。高度な知性を持ち得る形質かどうかを調べる必要はありますが。」
「じゃ、じゃあ・・・どうすればいい?」
少しは自分で考えられないのか?
まぁ、しゃしゃり出るアホより、言いなりになるアホの方がマシだが。
「衛星軌道を周回しますから、魔法気配を探ってみて下さい。」
「いいけど、どうして?」
「文明というのは知識を与えればすぐに根付くものではありません。それまでに滅ぼされては困りますから、魔法使いがいる方が何かと良いのでは?」
「そうか、分かったよ。ここからだと場所までは分からないけど、弱い気配は感じられるからきっと見つかるよ。」
「そだね、居るっぽいよね。」
どうしてそういう大事な事をさっさと言わないんだ、このアホどもは。
まぁ、無駄に魔法レベルが高いだけあって、この距離からでも魔法気配を感じられるのは大したものだが。
「では、これより衛星軌道上に移動します。魔法気配のマッピングをお願いします。」
「分かった。」
「りょーかーーい!」
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