第28話 虐殺-05

「10班のやつら遅いな。」

「様子見に行くか?」

「いや、ずっとブツブツ文句言ってたからな。下手に顔出すと余計に拗れそうだ。」

「それもそうだな。ま、時間になったら灯り消して寝ちまおう。」


1階の広間では第10班以外のメンバーが集まり、のんびりと過ごしていた。

この遠征で何とかオモさんのMET1セット分以上は掻き集められたので、皆ほっとした表情をしている。

もちろんMET以外にも開拓に使えそうな資材類も回収して部屋の隅に纏められている。


ガチャとドアが開く音がした。


「よう、遅かっ・・・」


ドアから10名の武装兵がなだれ込み、壁を背に横一列に並んだ。

銃口は皆に向けられている。


「おいおい、何やってんだよ!」

「こんな時に戦争ごっこなんてふざけてんのか?」

「黙れ!静かにしろ!」


列の中央に居たシオが叫び、短機関銃タイプのコイルガンの銃口を天井に向けてセミオートで発射した。

弾丸の発する衝撃波が響き渡り、皆が息を呑む。

跳弾が誰かに当たったのかうめき声が聞こえるが、それが却って静けさを際立たせる。


ケルが銃口で向かって右奥の隅を指しながら叫んだ。


「そこの隅に集まれ!」


混乱しながらも言われた通りに隅に向かって移動を始めた90人にシオが声を掛ける。


「おい!フリ、シヤ!お前らはそいつらを縛れ!」


シオがクフに視線を送ると、クフが二人に向かって袋を投げた。

袋の中身は武器庫にあった拘束用の結束バンドだ。


「右手首と左足首を背中側で結べ。終わったら反対側の隅に移動させろ。ごまかせないようにちゃんと結んだとこを見せながら運べよ。」

「お前ら何考えてんだよ!」

「俺達はこの星の王になるんだよ。」

「ふざけんな!」


シオは返事の代わりにコイルガンの銃口をフリの顔面に向けて構えた。


「お前らに撃てんのかよ!」


フリに怒鳴られシオ達は思わず後ずさる。

ミリオタではあっても人を撃った事など無い普通の学生なのだ。

それを見た他の学生達もシオ達に近付いてくる。

勢い付いたフリとシヤは強気になった。

いや、強気になりすぎた。


「何が王だ!んな事言ってっからモテないんだよ!この底辺が!」

「おい!みんなでボコろうぜ!」


侮辱された事に対する怒り

大勢に詰め寄られた恐怖

これから先への不安


それらが引き金に掛けていた指を引き絞らせた。

意識的なのか無意識なのかは本人にも分からなかった。

そして大声で叫んでしまった。


「撃てーーーーーっ!!!」


隊長権限を持つシオの戦術端末は、それを音声入力による強制射撃命令と認識し、各戦術端末にコマンドを送信した。

シオ以外、誰も引き金を引いていない。

それでも、水平に構えられたコイルガンの銃口からとめどなく銃弾が吐き出された。


「「「う、うわあああああっ!」」」


目の前の惨劇で訳が分からなくなっていた。

思考を放棄し、先程の訓練の通りに身体を動かしている。


もちろん、取り押さえようとする者はもう居なかった。

逃げ惑う者、泣きながら許しを請う者、土下座している者も居る。

しかし、狂気は止まらなかった。


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虐殺の後、第10班のメンバーはシオを除いて放心状態となり、撃ち尽くした銃を抱え座り込んでいる。


そんな中、シオ一人だけは王になるという計画に夢中になっていた。

どうやったら確実に皆を屈服させられるか?そればかりを考えていた。


”やはり力を見せつけるのが一番だ。”

”さっき俺様に歯向かおうとしていた奴らも、何人か撃ち殺しただけで泣き喚きながら土下座してきたな。”

”シェルターに立て籠もられるのも面倒だ。”

”幸い、午前中は全員が体力作りの為に広場で運動をしている。”

”そのタイミングでシェルター入り口側を押さえれば大丈夫だろう。”


”男は皆殺しでいいが、女どもはハーレムの為に生かしておこう。”

”最初に男女別に分けてしまって男だけぶち殺せばいいな。”

”言う事を聞かせる為には力を見せつければいいが、俺達はそれほど射撃は上手くない。”

”かと言ってあまり近付いたらさっきのように襲ってくる馬鹿もいるかもしれない。”

”何人か生かしておけばよかったな。”


”いや・・・”

”俺達以外にここで起きた事を知る者はいない。”

”偽の人質を殺すふりでも効果はあるだろう。”

”武器庫には防弾ベストもあった。”

”あれを服の下に着させて、貫通しないように調整したコイルガンで撃てばシェルターの者どもには死んだと思わせられる。”


”ん?”

”なんで俺はこんなに”殺すふり”を一生懸命考えているんだ?”

”本当に殺せばいいじゃないか。”

”あいつらは今回たまたま同じ班になっただけだ。”

”そんな奴らを王にする必要がどこにある?”

”王は少ない方がいい。”


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翌朝になってシオ達10名は洞窟を後にした。

生まれて初めて人を殺した、しかも同級生90名を殺したという悲壮感は感じられない。

精神的にタフだからではなく、あまりにも現実離れしていたせいだ。

無意識にハイになる事で精神の均衡を保っている状態だ。


「今日はこれからどうするんだ?」

「夕方までルートを外れて移動して、窪地で見つからないように野営だな。灯りは厳禁だ。」

「ん?なんでだ?」

「定時連絡する訳にはいかないからな。それに連絡が無けりゃきっと俺達を探し始める。」

「あぁ、そうか。そういや、そんな事してたな。」

「一応、傍受だけはしておくけどな。」


持ってきた無線機は乱射したせいで壊れてしまっていたが、治安部隊の無線機でシェルターと通信する事は可能だ。


「でも明日はどうするんだ?さすがに怪しまれるだろ?」

「手は考えてある。明日の朝には捜索隊が出るはずだから、そいつらを利用する。」


一行は予定通り夕方まで移動し続け、窪地にタープで簡易テントを張り早めの休憩を取り始めた。

定時連絡の時間をしばらく過ぎると、周波数を合わせておいた無線機から声が聞こえてきた。


『こちらシェルター。聞こえていたら何でもいい、合図をしてくれ。』

『こちらシェルター。聞こえていたら何でもいい、合図をしてくれ。』

『こちらシェルター。聞こえていたら何でもいい、合図をしてくれ。』

『頼む、返事をしてくれ・・・焚火でも何でもいい・・・合図をしてくれ。』


予定通り、何も返事をしない。


『明日、捜索隊を出す。何があっても希望を捨てずに頑張ってくれ。』


シェルターからの無線は切れた。


「シオの睨んだ通りだな。」

「あぁ、誰が来るのか知らないが、利用させてもらおう。」

「哀れな連中だな。」

「全くだ。」

「明日は早めに出発して先回りだ。もう寝よう。」

「そうだな。」


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夜明けよりもはるかに早い時間に一行は起床した。

普段なら一人や二人は寝坊するところだが、神経が高ぶっているせいでアラームが鳴り始めるとすぐに目覚めたようだ。

ストレッチとブリーフィングを済ますとすぐに出発した。


捜索隊やシェルターに発見されないようにかなり慎重に進んだ為に時間は掛かったが、合流予想地点には捜索隊よりも早く到着する事が出来た。


「よし、予定通りだ。ケル、あそこの岩陰で合図を待っててくれ。他の皆はあの窪地で伏せておいてくれ。」

「分かった。」


30分ほどすると5名の捜索隊が近付いてきた。

シオは4名の頭部をロックオンし、各戦術端末にその情報を送信する。

ロックオンされなかった1名は、無線連絡を担当しているスコだ。

シオの予想通り、ここが野営地だったらしく5名は荷物を下ろし始めた。


『作戦開始。』

『了解。』


「おーい!みんな来てくれーーーっ!」


鍾乳洞寄りの岩陰から飛び出したケルが叫んだ。


「無事だったのか!」

「みんなはどこだ?」

「何があった?」

「けが人は?」

「すぐ行く!」


捜索隊の5名はケルに向かって駆け出した。


『撃ち方用意・・・撃て。』


ケル以外の4名は、頭を二発ずつ撃ち抜かれ即死した。

ロックオン済みなので、余程見当違いの場所に向けていない限りは走っていようが人間相手に外れる事は無い。


「両手を上げてゆっくりこっちを向け。抵抗すればそいつらの仲間入りだ。」


スコは恐怖に顔を強張らせながら振り向いた。


「腰のナイフを向こうに投げ捨てろ。それからこれで両手両足を縛れ。」


シオは結束バンドをスコの足元に放り投げた。


『作戦終了。戻って来てくれ。』

『了解。』


皆が集合した後、両手首を背中側で縛り直し、更にそれを両足首の結束バンドとつないだ。


「よし、じゃあこれを読み上げろ。」

「なんなんだよっ!お前ら何考えてんだよっ!」


シオは無言でスコの腹を蹴った。


「ぐっ・・・ううう・・・」

「同じことは言わん。言われた通りにしろ。次からは指を一本ずつ撃ち抜く。」

「わ、分かったよ・・・」

「それでいい。」

「え、えっと・・・こちら捜索隊。みんなと合流できた。全員無事だ。無線のバッテリーが無くなって連絡できなかったらしい。この無線もバッテリーが少なくなっている。原因不明だ。温存する為に明日の定時連絡まで切っておく。以上。」

「駄目だ。もっと自然にやれ。」

「そんな・・・どこが駄目なんだよ・・・」

「仲間が見つかって安心している感じが全くしない。」

「俺は役者じゃないんだ!」

「定時連絡まであと20分だ。それまでに出来なかったら、あいつらの仲間入りだ。」

「くっ・・・」


スコが文字通り必死になったおかげで、定時連絡の少し前にはシオを満足させられる出来となった。

シオはスコの口を粘着テープで塞ぐと、念の為に少し離れた場所へと移動した。


『こちらシェルター、捜索隊どうぞ。』


シオは先ほど録音した音声データを再生し、無線機の電源を切った。

そして、スコの元に戻ると粘着テープを強引に剥がした。


「つぅ・・・」

「さて、じゃあこれも読み上げてもらおうか。」

「い、嫌だ!用済みになったらあいつらみたいに殺されるんだろっ!」

「いや。あいつらは邪魔だから殺した。協力するならわざわざ殺したりはしない。」

「嘘だっ!」

「ふん。協力しないなら嬲り殺しだ。生き延びるか嬲り殺しか好きな方を選べ。」

「くっ・・・」

「しょうがない、指の一本でも吹き飛ばすか。」

「わ、分かった、分かったよ。・・・こちら捜索隊。予想より使えそうな資材が多くペースが落ちている。明日の午後3時頃に到着する予定だ。そろそろこの無線機のバッテリーも無くなりそうだ。以上。」

「そう、それでいい。」

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