第25話 虐殺-02

「実はあなた達には秘密にされていた事があります。」


皆に緊張が走る。


「あなた達は、星立大学 工学部 技術史学科の第一期生ですが、実は連邦政府に選抜された生存候補者でもあるのです。」


この言葉の後に語られた事実は衝撃的だった。


「では時系列に沿ってご説明しますね。まずはルキフェル軍の来訪についてです。」


これまではルキフェル軍に関しては例外的最高機密扱いで、その目的についての公式な発表は無く、様々な憶測が流れていた為、全員の興味を引いた。


「ルキフェル軍はヘヴ軍を制圧する為に戦力増強を目的として広大な宇宙を探索していました。そして50年、正確には10,050年前に訪れたこの星に可能性を感じて協力を要請してきたのです。」

「え?でもヘヴ軍にあっという間に滅ぼされたのに役に立つんですか?」

「飽くまでも可能性を感じたという事でしょう。人類にはごく稀にですが強力な個体が発生する可能性があるという事でした。」

「気の遠くなるような話ですね・・・」

「はい。人類の尺度ではそうなりますが、かれらは不老という事でした。」


不老などという言葉が現実の事として語られ、皆は呆気にとられた。


「でも、どうして連邦政府は協力する事にしたんですか?まさか脅されたとか?」

「いえ、脅されたという事は無かったようです。逆に様々な技術援助、例えばコールドスリープ技術などを供与されたそうです。」

「でも、ルキフェル軍と接触したのが原因で攻めてきたとかだったら・・・」

「それも違うようです。ある日を境にヘヴ星はすでに遭遇していた他の知的生命体を絶滅させました。続いて知的生命体を探索し、発見次第絶滅させるようになったそうです。それを食い止める為にルキフェル軍は反乱を起こしたのです。」

「え、反乱?もともとはヘヴ軍だったんですか?」

「はい。ルキフェル軍は彼らが神と崇める存在を護る近衛隊を務めていたそうです。」

「えっと、ヘヴ星というのは宗教国家だったんでしょうか?」


”神”という言葉は日常生活にも登場する。

しかし、それは比喩や概念でしかない。

遥かに進んだ科学技術と、何桁も違う圧倒的な軍事力を持った存在が、リアルな存在を”神”と表現している事に違和感を感じるのは当然だ。


「かつてこの星に存在していた宗教国家とは違うようです。教義や経典などは無く、神とは”ただそこに圧倒的な存在が御座す”という表現でした。」

「うーん、概念を王としていたのかなぁ?」

「いえ、確かに実体があるようです。少なくとも数十億年以上は生きていて、ルキフェル殿達も”我々は神によって創造された存在”と言っていました。」


すでに想像できる範疇を超えている。

皆は事実かどうかを議論する気も起きない。


「えっと、信じられないけど、とりあえずそういう事だとして、それが私たちにどう関わってくるんですか?」

「では続けますね。当然、連邦政府はヘヴ軍により絶滅させられる事を恐れました。そこで、協力を承諾する代わりに、いざという時に絶滅だけは避けられるように彼らからの技術援助を受けられるように交渉したのです。」


神などという現実離れした内容から政治的な取引という現実的な話に戻り、皆は少しほっとした表情を浮かべた。


「技術援助は快諾され、それから人類の絶滅を回避する為の極秘計画が始められました。このシェルターもその一環としてルキフェル軍の科学技術を応用して建造されたものなのです。なお、ここは公式な記録とは全く別の場所に建造されています。公式記録の場所にはダミーのシェルターと別の学生たちが居たそうです。」

「その学生たちは・・・」

「全滅したと思います。例え生き残ってもコールドスリープ装置無しで全球凍結は乗り切れません。」

「でも!試験農場の食糧で生き残ってるかもしれないじゃないですか!」

「もちろん、外に出たら生存者の捜索は可能な範囲で行います。ただ、ここのシェルターには他と違った特徴があります。何か分かりますね?」

「全員が・・・魔法レベル0・・・?」


この星では魔法使いは一般的な存在になっている。

彼らの世代では、魔法レベル0の者の割合は数%程度である。

つまり、このシェルターに居る1,000人全員の魔法レベルが0というのは、確率的にはほぼ有り得ない事なのだ。


「その通りです。魔法使いは他の魔法使いの気配を感じる事が出来るというのは知っていますね?」

「はい・・・」


逆に言うと、魔法使いから魔法気配を感じられない者が魔法レベル0なのだ。

当然、魔法レベル0の者は魔法が使えない。

なお、魔法レベルの差が一定以上の場合は、高位の者が魔法気配遮断を行えば下位の者には感じることが出来なくなる。


「ヘヴ軍もそれを利用して攻撃したはずです。魔法レベル1以上の者はどこに隠れようと見つかってしまうのですから。運良く最初の攻撃から逃れた魔法レベル0の人も居るでしょうが、掃討戦で殺されてしまったでしょう。そこから更に生き延びても全球凍結状態では望みは無いと思います。」

「じゃあ私たち全員が魔法レベル0なのは・・・」

「はい。このシェルターがヘヴ軍に見つからないようにする為に集められたのです。」

「あの・・・でも、これだけ大規模な施設なら魔法レベル0でも見つかってしまうんじゃ?」

「このシェルターはルキフェル軍の技術供与によって魔法以外に関しては完全ステルス化されています。」

「他に同じようなシェルターは無いんですか?」

「あなた達は技術史学科の第一期生です。つまり、ここがシェルター第1号なのです。」


大講義室は静まり返った。

今までの話を聞く限り、自分たち以外の生存者はまず考えられない。


「しかし、あなた達にインストールされた専攻学問は技術学です。文明は崩壊してしまい、深海を除いて動植物は絶滅してしまいましたが、あなた達ならきっと再び文明を再興できるでしょう!」


この星では過去の悲劇的な出来事の副産物として、人間の脳に情報をインストールできるようになっている。

洗脳などに悪用されればとんでもない技術だが、連邦政府の徹底した管理により表向きは学習用に限定して使用されている。

基本的な知識は誰もが同じものをインストールされるが、大学で用いるような高度な専門性を持つ知識は専攻に応じたものがインストールされるのだ。


どれだけ医療技術が発展しても寿命は有限であり、ある程度科学技術が発展すると学習に時間が掛かりすぎて、それらを土台に新たに技術開発する時間が減ってしまう。

学問を細分化して対応する事も可能だが、副作用として広い視野に基づいて研究する事が難しくなってしまうのだ。

実際、かつてはこの星でも新たな技術を開発する為に必要な知識を習得し終わる頃にはかなりの年齢になってしまい、科学技術の発展速度が低下してしまっていた。


「そして安心して下さい。地上の動植物は全滅してしまいましたが、このシェルターには人類が発見した全ての生物の遺伝情報データベースと遺伝子組立装置それに培養装置が装備されています。」


皆の表情が明るくなった。

石器時代から最先端技術までの知識はあっても、生物が絶滅してしまった環境に絶望していたのだが、それも何とかなると分かったからだ。


「それに保存食は全て傷んでしまいましたが、非常用保存食は100年分無事に残っていますので、第一次開拓が完了するまでの間も食糧問題は生じません。」


皆の表情が一転して暗くなった。

かつて防災訓練で非常用保存食を口にした時の事を思い出したのだ。

”絶対に開拓を頑張ろう”誰もがそう思った。


その後は細々とした実務的な説明を受け、夕食を支給されてから各自自由行動となった。

夕食はもちろん非常用保存食である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る