第16話 遺跡-06

>ハッキング検知

>自爆シーケンス作動

>スタンドアローンモードで緊急起動開始

>基本入出力システム起動

>時刻データ取得.........エラー

>電源ステータス取得.........最小構成

>最省電力モードに移行

>OS起動中エラー発生

>修復処理実行

>OS起動完了

>バックアップファイル読み込み.........エラー発生

>人工知能シェル起動完了


”とうとう見つかってしまった。”

”戦時規則に従い、現状ではわたしが司令官を務めなければならない。”

”備品区分甲は在庫無しだ。”

”やむを得ないが備品区分乙を使って追撃部隊を出さなければならないようだ。”


半減期が数万年に及ぶ放射性物質の崩壊熱を利用した原子力電池によって最小限のシステムの起動は出来たが、出力が低すぎてそれ以上の事はほとんど何もできない。


”起動済みMETが無い以上、まずは地熱発電システムの再起動だ。”


この施設にはかなり大型の地熱発電システムが設置されているので、定格出力に達すればMETの起動も可能となる。


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”ようやく発電出力も安定したようだ。早速、追撃部隊を編制しなければならない。”


暫くして6つの棺状のものが運ばれて来た。

そしてその蓋が開いた時、そこに横たわっていたのは、何も身に着けていない10代半ばの少女達だった。

全員同じ容姿をしている。


「全員、起床!」


少女たちは起き上がると、すぐに訓練された兵士のように整列した。


「敬礼!」


一人の少女が号令をかけると、残りの五人は一糸乱れぬ敬礼を行った。


「直れ!これより戦時規則に基づきわたしが司令官となり追撃作戦を行う。詳細は端末に転送した。確認後、直ちに出撃準備にかかれ!」

「はっ!」


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「指令殿!」

「どうした、軍曹?」

「METの起動に必要な時間から計算すると出撃可能になるまで7日間かかります。」

「分かった。他に何か問題はあるか?」

「レールガン弾頭の内、使用できるのは徹甲弾だけであります。火薬を使用する成形炸薬弾、焼夷弾、榴弾は劣化により使用不可能な状態であります。」

「そうか、どの程度の戦力低下になる?」

「映像データからの推測ですが、今回の敵機に対しては大きな問題は無いと思われます。我々が必ず倒してご覧に入れます!」

「いい心意気だ。期待しているぞ。」

「はっ!」


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先頭を走る隊長機が前方の岩陰で止まるようハンドサインを出した。


「ブリュンヒルド隊長、どうしたんですか?」

「足跡が鮮明になってきた。あと1時間ほどで有効射程に入るはずだ。」

「それにしても、どうして人間型にしたんでしょうね?」

「機体の大きさから考えて偵察用の機体だ。人間型の方が我々の施設は探索しやすいからだろう。」

「なるほど、偵察用ならせいぜい一部にミスリル装甲が使われている程度ですね。我々なら楽勝でしょう。」

「確定情報ではないんだ、油断するなよ。」

「一撃で仕留めてみせますよ。」

「スヴァーヴァ伍長、狙撃の腕前は信じているが、君の機体は装甲が薄い。絶対に無理をするなよ。最低限、足止めさえしてくれれば何とかする。」

「分かってますよ。姿を晒すようなアホならぶち抜いてやりますがね。」


「作戦は基本通りだが再確認しておく。スヴァーヴァ伍長の遠距離狙撃で敵を足止めし、ランドグリーズ伍長の支援攻撃中にフロック、フリスト、フルンド上等兵が背後に回り込んで仕留める。戦闘開始と同時に近距離無線通信を許可するが、可能な限りハンドサインを使用する事。以上だ、質問はあるか?」

「・・・」

「では追跡を再開する。くれぐれも油断するなよ!」

「了解!」


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「コウ、金属反応です。」

「また遺跡か?」

「いえ、動いています。我々が通ってきた道をトレースしています。」

「いつから尾行されている?」

「申し訳ありません。先ほど気が付いたばかりです。」

「距離と速度は?」

「直線距離で20km、時速50kmで接近中です。機数は6機です。」

「ここから見えるか?」

「今は見えませんが、11時方向の岩に登ればぎりぎり見えるはずです。」

「分かった、とりあえず偵察してみよう。」


俺は左前方の巨石に登り、伏せ撃ちの体制で指示された方向にスコープを向けた。

2m弱の人型ロボット6機が時速50kmで走ってこちらに向かっている。


「キット、どう思う?」

「足跡を辿っているという事は目的は我々でしょう。武装をしていますから戦闘になる可能性は高いと思われます。また、隊列がしっかりしていますから訓練された部隊でしょう。武装の異なる機体があるようですので、連携して作戦を遂行する部隊と考えた方がいいと思われます。」

「先制攻撃するべきか、話し合いを試みるべきか・・・」

「話し合うつもりでも相手が応じない可能性はあります。」

「戦闘になっても有利な地形はあるか?」

「500m進んだところにちょうどいい地形がありそうです。」

「分かった。そこで待ち伏せて5kmまで接近したら向こうにシグナルを送ってみよう。」

「どんなシグナルを送るのですか?」

「考えてもこの星の習慣は分からないからな、とりあえず両手を上げて話しかけてみるさ。」

「了解しました。」


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追跡部隊が約5kmの地点まで近づいた。

俺は特務改は持たずに両手を上げながら岩の上に立ち上がり、通じる訳は無いが頭部ユニットの拡声器を使って話しかけた。


「自分は特務局特務一課課長 山王少佐だ!」


音波が届いたであろう約15秒後に返事が来た。

返答はレーザーだった。

それは俺の胸に直撃した。


「があああああぁぁぁ!」


俺は絶叫を上げながら岩の後ろに倒れ込んだ。


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しまった。

待ち伏せだ。

威嚇するように両手を振りかざしながら、大音量の暗号らしきものを放っている。


「各員散開! 援軍を呼ばれる前に倒すぞ! スヴァーヴァ伍長、撃て!」

「了解!」


ブリュンヒルド軍曹と部下達は岩陰に隠れた。

咄嗟の行動だったが、全員がブリュンヒルド軍曹から見える位置についている。

それを確認すると、ハンドサインで指示を出した。


『スヴァーヴァ 曲射準備 あの丘 移動 皆 待機』

『了解』


スヴァーヴァ伍長はその場に迫撃砲のようなものを据え付けると、スラスターを噴射させながら高速移動し、指示された丘の後方へと消えた。

しばらくすると丘の頂上付近に現れハンドサインを送った。


『曲射 準備完了』

『曲射 同時 北尾根 集合 3,2,1,発射』


直後、迫撃砲から輝く砲弾が発射され、一斉に5機が集合地点に向けて走り始めた。


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「いきなり撃ってくるとはひどい奴らだな。ところで、騙せたか?」

「こちらを警戒しているのか、散開したまま動きはありません。死体を確認するまでは油断しないタイプでしょう。」

「プロだな。厄介な相手だ。」


俺は胸部増加装甲を取り外し、レーザー痕を確認した。


「オリハルコンに交換しておいて良かったな・・・」

「複合装甲のままだったら危なかったかもしれませんね。」

「それにしても時速50kmで方向転換しながら5kmの距離で当ててくるとは思わなかったぞ。」

「しかし中心から2cmずれています。たいした性能ではありません!」

「あ、うん、そうだな。まぁ、あんまり舐めていると痛い目に合いそうだが。」

「私たちの力を思い知らせてやりましょう!」


キットが対抗心を燃やしているようだ。


「ところで何か分かった事はあるか?」

「外見では4種類の機体がありました。先頭を走っていたのが最も装甲の厚い機体です。ハンドサインで指示を出しているようなので指揮官機でしょう。狙撃してきたのは1機だけで一番小型の機体です。おそらくマークスマンでしょう。あとは大型の武器を装備している分隊支援機らしき1機、それ以外に他と比べて特徴が無い同型機が3機でした。この3機は一般歩兵でしょう。」

「配置はどうなっている?」

「先ほど狙撃してきた1機は想定通りのポイントに陣取りました。残り5機は散開したまま動いていません。」

「じゃあマークスマンから片付けよう。俺が言うのもなんだが、長距離狙撃は厄介だからな。」


ボンッと迫撃砲の発射音が聞こえた。


「迎撃!」


俺が命令を出した時には既に自動迎撃システムがレーザーを発射していた。

しかし迫撃弾は爆発せず飛翔を続けている。

HUDに表示された弾道予想もこちらには向かっていない。

誘導システムを持つ迫撃弾も存在するが、それにしても初期の弾道が逸れすぎている。

何か妙だ。


「退避、退避、退避!」


次の瞬間、HUDに緊急退避のアラームと退避方向が表示された。

反射的に退避した直後、さっきまで居た場所がレーザーに薙ぎ払われた。


「とりあえず移動する。右前方の岩場の陰で大丈夫か?」

「はい、問題ありません。なお、先ほどの攻撃に乗じてマークスマン以外は北側の尾根の向こう側に集合し警戒しながら近付いてきています。マークスマンも狙撃後にすぐに南西方向に30m移動しました。」

「いったい何が起きた?」

「おそらく迫撃弾を利用した反射レーザー砲でしょう。こちらが砲弾を迎撃した時に、別の地点の地面がレーザーに焼かれていました。」

「あぁ、それで緊急退避の指示を出したのか。助かった。」

「いえ、わたしの役割ですから。」

「ところで疑問なんだが、あれだけの技術力がありながら、何であんなに原始的な反射レーザー砲なんだ?」

「おそらく、なるべく低コスト化を進めた結果ではないでしょうか?空狼や蒼雷は高性能ですが撃墜された場合の損害額が大きくなりますから。」

「なるほどな。なるべくミラーを低コストにする代わりに本体の性能を上げてカバーか。また迫撃弾が打ち上げられたら、特務改で蒸発させてやろう。」

「了解しました。」


高性能高価格と低性能低価格のどちらかが絶対的に正しいという事は無い。

兵器システムなどその時代によって最適解は変わるものだ。

かつて猛威を振るった対戦車ヘリが携行型短SAMで簡単に撃墜されるようになったのと同様に、日出国のドローンも他国がレーザー兵器を大量に保有するようになれば只の的と化すだろう。

先程の攻撃がレーザーであった事から、おそらくこの星では航空戦力は簡単に撃墜されるのが常識なのだろう。

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