第33話 祝勝会
「おや、貴方たちは」
「気にしないでシャルメル。私たちは友達じゃない、クエスト達成のお祝いをしに来たのよ」
「すっすみませんシャルメルさん、偶然アデム君と出会って」
シャルメルの住まいは、彼女が言った通り丸ごと一軒家だった。相変わらずの金持ちスケールに驚きつつ。俺は町で出会ったアプリコットたちと共に玄関のドアをノックした。
「まぁいいですわ。
何だか訳の分からない事を言うシャルメルの言葉に従い、俺たちは中に入る。リリアーノ先輩がニマニマと笑っているのが気になるが、藪をつつけば何とやら。あえて堂々とスルーすることにした。
「それでは、冒険の成功を祝して」
目の前にはご馳走の山、乾杯が終わった俺は一目散にむしゃぶりつく。
「ははは、それにしてもシャルメルにはしてやられたよ」
「もう、あまり言わないでください、リリアーノ先輩」
崩壊未遂事件の事を言っているのだろう。先輩たちが笑いながら話している。あれも、彼女の性格と類まれな才能が引き起こした大事故だ。
「まぁ事前に注意しておかなかった私が悪いんだかね、まさかあれほどの一撃を放つとは思っても居なかったぞ」
「はぁ、こうなったら何としても先輩の黒歴史をあばき出し、相殺しなければなりませんね」
誰にだって初めてはある、真面目で頼りがいのあるリリアーノ先輩だってそれは同じだ。その時には是非ご一緒させていただきたい。
「いえ、お嬢様の実力は本物です。恥ずかしながらお嬢様の力添えが無ければ、あのネクロゴーレムを凌ぐことは難しかったでしょう」
ジム先輩は口惜しさを滲ませながらそう言った。だが仕方がない、ネクロゴーレムなんて大物、とてもじゃないがルーキーが相手にするような敵じゃない。今回は地の利がこちらに在り、早々にネクロマンサーを倒せたからよかったものの、少しでも手間取っていたら、全滅の恐れは優にあった。
「ありがとうジム。しかしあの敵は酷かったですわ。幾らお風呂に入っても数日は匂いが取れませんでしたわ」
シャルメルの風呂……。
「凄かったと言えばアデムさんも凄かったですね」
「おひぇ」
俺が愉快な妄想に華咲かせていると、話の矛先をずらそうと、シャルメルが俺に話を振って来た。リリアーノ先輩は、ここら辺にしておこうかと、それに乗っかる。
「ああ全くだ、召喚師にしておくには惜しい才能だ。どうだアデム?魔術戦士科に転入してこないか?」
「勘弁してくださいよ、先輩。俺にはサモナー・オブ・サモナーズになると言う大事な夢があるんです」
「ははは、そうだな。しかし君を鍛え上げた神父に一度はお会いしてみたいものだ」
「いやまぁ喧嘩の腕は俺が知る中で最強ですが、単なる児童虐待者ですよ。なんで神父をやっているのか疑問なほどです」
「ほう、所でお名前をうかがってもいいのかな」
何だっけ、そう言えばずーっと神父様呼ばわりだったから、記憶が……。
「ロ、ロビー、ローマ?いや違うな」
「ん!?もっもしやロバート・マードックと言う名ではないか!?」
「ロバート……ああそうです、有名なんですかあのろくでなし」
俺の中での神父様の株価は、ダダ下り中なんだが。
「何を言っているんだ君は?ロバート神父と言えば、若くして伝説と謳われた聖戦士だぞ、戦後の混乱期、荒れ果てた世の中を鎮めるために彼が築いた伝説は両の手を使っても数えきれないほどだ」
珍しく顔を上気させながら興奮する先輩とは対照的に、俺は間抜け面をさらしながら神父様との思いを頭に浮かべる。
確かにあの人喧嘩は強かった。ここに来て俺が苦戦して来た相手なんて、基本的に一撃、いや、鼻歌まじりの指一本で倒してのけるだろう。
「ロバート・マードック神父の直弟子ですか、なる程アデムさんがお強いわけですわ」
シャルメル達もそうだったのかと、納得して頷く。どうやら神父様の凄さを知らなかったのは間近で過ごした俺だけだったようだ。
俺はてっきり、アレが都会の平均だと思って途方に暮れていたと言うのに。どうやら彼は頂点に位置する一人だったようだ。
「俄然興味が湧いてきましたわ。アデムさん、この夏実家に帰るご予定はないと仰っていましたわよね」
「ああそうだ、そんなことしたら行き帰りだけで終わっちまう」
なんせ一月掛けて王都に来たんだ、どう考えても間に合わない。
「そんなことございませんわ。
なぜそんなつまらない事を調べたんだろうと不思議に思いつつも、俺はシャルメルにこう返す。
「いや、ホントに何にもない所だぞ?態々金掛けて行くようなところじゃない」
「あっあのシャルメル?転移門の使用代って幾らだったかしら」
恐る恐るそう聞いたチェルシーにジム先輩が耳打ちをし、彼女の顔が青ざめる。普通に怖いんで聞きたくないのだが、馬車でのんびり旅するよりも遥かに高価なんだろう。
俺がこっちに来るときは、知人の行商人の仕事の手伝いをしながらだったから旅費の心配は無かったが。
「そのくらい
「いっいえ、特にはありませんが……よろしいんですかシャルメルさん」
「ええ勿論。
そう言われたアプリコットは顔を赤くする。抜け駆け?アプリコットも神父様のファンだったのだろうか?
「うーん、そうか。私は残念ながら予定が詰まっていて時間が取れそうにない。これでも多忙の身でね。
神父様との思い出話を楽しみにしておくとしよう」
盛り上がるシャルメル達とは対照的に、リリアーノ先輩はしょんぼりとそう言ったのだった。
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