第32話 なにがでるかな戦利品
戦いは終わった。
先輩の短槍に頭部を貫かれたネクロマンサーは、俺の魔力激によってボロボロになっていた頭部を崩壊し、コアを砕かれた事によりサラサラと砂と消えた。
「ふう、疲れましたわ」
「お嬢様、水でございます」
俺たちが奴を片付けたと同時にネクロゴーレムも崩壊したのだろう、背後の戦いも終わり、安心した声が響く。
「全く、アデムさんと冒険すると退屈せずに済みますわ」
いやいや、今回はシャルメルの所為だろう。
まぁいいや、俺はそのセリフを飲み込みつつ、横穴の先を見つめる。
「先輩、一応奥の小部屋も探索しておきますか?」
「そうだな、新発見ではないと言え、忘れられた場所なのは間違いない。ネクロマンサーの身元が判明するかもしれないし、探索しておいて損は無いだろう」
その小部屋は朽ち果てた寂しい場所だった。かつては物置として使われていたのだろうか。ボロボロになった棚や箱の残骸が散乱する部屋だった。
「シャルメルの魔術で大半が吹き飛びましたが、残骸は残っていますね」
「ああ、この洞窟の作成年代から考えれば、つい最近置かれたものだな。まぁ最近と言っても数十年前だろうが」
横穴を封じていた瓦礫の年代と一致する。まず間違いはないだろう。
「確か、ここら辺に倒れていました」
俺は皆を先導し、ネクロマンサーが倒れていたところまで案内する。するとそこには……。
「本ですね」
一冊の本が落ちていた。
「あった、無事だったのか」
俺は今にも崩れそうなその本を慎重に手に取った。
「年代物だな、保管状態も悪いので、めくるだけでバラバラになりかねん」
横から覗き込んだ、リリアーノ先輩は、そう言ってくる。
「伝承科の知り合いに預けてみよう。そっちの方が安全だ」
勿論俺たちに異論はなく、そのアイデアに同意した。
その後、部屋の探索を続けるも、めぼしいものは見つからず、俺たちはダンジョンを後にしたのだった。
本、本、本、壁一面どころか、床までも本が溢れている部屋にその女性はいた。
「やあ、アヤカ。久しいな」
「ああリリアーノ。例の召喚科の男の子と冒険に行ったんだって?」
その女性は度のきつい丸メガネを掛け、ぼさぼさの黒髪を無造作に纏めた人、いかにも研究一筋と言った雰囲気を醸し出す人だった。
「これを見てほしいんだ」
「ほーう、これが戦利品かい?」
アヤカは興味深そうにその本を大事そうに手に取る。
「ふむふむ……」
縦横斜め、様々な角度からその本を確認した彼女は結論付ける。
「10、いや20年ほど前の物だね」
「そんなに最近のものか」
「ああ、保管状態が悪かったようだね。まぁ湿ったダンジョンに放置されてたんならそんなもんだろう」
そう言って彼女は、とびっきりのご馳走を前にした子供の様に目をキラキラと輝かせてながら呪文を唱える。
「レオス・テレネ」
呪文と共に、淡い光が古書を包み込む。
「ん? それは?」
「保護呪文だよ。これで多少は手荒く扱っても大丈夫っと」
彼女はそう言って、ページをめくる。
「ふむふむ、って何だこりゃ?」
彼女の疑問に、リリアーノは横から本をのぞき込む。そこには見たことの無い文字が書き連なっていた。
「くふふふふふふふ」
「どっ、どうしたアヤカ?」
「いいねぇ、いいねぇ。面白いモノを持ち込んでくれた。どうだいリリアーノ、これ、暫く僕に預けてみないかい?」
「あっああ、元よりそのつもりで来たんだが……それなんて書いてあるのか分かるのか?」
「いいや、まったく。どうやら何かの暗号のようだ。うーんこれは僕の探求心をビシビシと刺激してくれるよ!」
彼女は上機嫌でそう語る。
「それに年代もいい。なぜかこの年代の本はあまり残っていなくてね。探りがいがあるってものさ」
「そっそうか、まぁ別に急ぐ仕事ではない。気が向いた時にでも進めてくれ」
リリアーノの言葉など既に耳に入っていないかのように。アヤカはバタバタと資料をかき集めはじめる。混沌とした部屋が更に混沌としていくのを横目に、リリアーノは冷や汗をかきながらその部屋を後にした。
「んー、じゃあ直ぐには分からないって事ですか」
態々教会までその事を知らせに来てくれた先輩に、俺は水を差しだしながらそう言った。
「ああそうだな。まぁあの入れ込みようなら直ぐに分かるかもしれないが」
先輩は何故か目を反らしながらそう言った、何だろう厄介な人にでも預けたんじゃなかろうか。
「まぁ別に俺はどうでもいいですが」
一応長い事神父様の下で修業を積んだ身としては、出来るだけ丁寧に故人を弔ってやりたいと思っただけだ。
「20年前と言うと、戦後の混乱期から抜け出た頃ですか?」
俺が生まれる少し前の話だ、勿論実感なんてありゃしない。それはリリアーノも同じだろう。
まぁ何はともあれ、分からないものが、分かるようになるのは良い事だ。今はそれだけがあのネクロマンサーの生きた証。これで彼も少しは浮かばれるだろう。
「ともあれ、これで俺たちの出来る事はひと段落と言った所ですか」
「ああ、例の小部屋の事もギルドには伝えておいた、後日再調査が入るかもしれないが、それは私たちが関与する事ではない」
先輩は水を飲みつつそう語る。お茶っ葉なんて買う余裕が無いので勘弁してもらいたい。
「そう言えば、アデム君はこれからどうするんだ?」
「これからって、ああ夏休みの事ですか」
どうもこうも、金が無いのでどうしようもない。調べた所、転移門なるものが村から3日程の都市にある事が分かったが、ない袖は振れぬと言う奴だ。
と言う訳で、現在は職探し中である。
「そうか、私はゼミの仕事とか色々とあって学園に居るつもりだが、またいいクエストがあれば誘ってもいいか?」
「それは勿論、色々な意味で助かります」
学生でギルドを利用できるのは魔術戦士科のみだ。誘ってくれるのなら大助かり、大したクエストは受けさせてもらえないとは言え、バイトするよりよっぽど実入りが良い。
「あら先輩、その時は勿論
そんなセリフと共に、シャルメルがジム先輩のエスコートにより俺の部屋に入って来た。どうでもいいが俺の部屋に我が物顔で入ってくるのはやめてほしい。
「どうしたシャルメル、何の用だ?」
「あらつれないですわね。しかしリリアーノ先輩もいらしたとは都合が良かったですわ」
「都合ってなんのことだシャルメル」
そう尋ねると彼女は胸を張ってこう答える。
「あの日は、色々と大変で祝勝会をしていませんでしたわ。ですのでお2人を王都の我が家にご招待しようかと思いましたの」
「ほう」「へぇ」
王都の家と言うのは、今シャルメルが暮らしている部屋の事だろう。こっちが日々の食事に苦労していると言うのに金持ちはスケールが違う。
まぁ俺は旨い食事が食えれば文句は無い。
俺たちは喜んで、その誘いを受けたのだった。
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