第31話 蘇る白骨
多種多様、様々なアンデットが存在しているが、その全てに共通しているのは、生者への強い恨みと憎しみだ。理性を持たない彼らにはどのような懐柔策も通じない、実力行使で黙らせるしか手段は無い。
「ちっ、洞窟の瘴気でアンデット化したか。アデム君敵は一体だけか!」
「はい! 例の白骨死体が起き上りました」
「そうか、この雰囲気から生前は中々の実力者だったと見られるが、運は良くなかったようだな」
リリアーノ先輩はそう言って魔力を練る。出入口は狭い横穴唯一つ。トロトロとそこから抜け出て来た奴を一斉攻撃すればそれで終わりだ。
リリアーノ先輩を中心に、俺とジム先輩が左右に並ぶ。彼女の一撃が叩き込まれたらすかさず俺とジム先輩が止めを刺す。そう位置取ったその時だった。
「後ろ! 起き上りました!!」
シャルメルの声が鳴り渡る。
「なに!?」る
俺は背後を振り向き唖然とする。そこにはさっき倒したはずのゴブリンやオークたちが炭とかした体を引きずりながらこちらに向かって進んでいた。
グミ助の警報の弱点が露呈した。感度が敏感すぎるため一度に大勢から取り掛かられたら、何処に反応しているのか分からなくなると言う事だ。
「奴は……ネクロマンサーか!」
アンデットと化した生物は生前のスキルをそのまま使用できる事がある。理性を失った洞窟の住人は、むやみやたらとそのスキルを発揮して死者の軍団を作り上げた。
「それにしても早いです。先輩油断しないでください、奴は高位のネクロマンサーです」
ジムは素早くスイッチし、シャルメルを守る様に剣を構える。
「シャルメル! 交代だ! お前はさっきの一撃を穴の中に放り込め! 私がフォローする!
アデム君は「俺はあいつらの相手をしてきます!」」
先輩が言い終わる前に、ゾンビ連中に突撃する。ボスを倒すまでの時間稼ぎだ。
「お嬢様をお願いします、僕も迎撃にあたります」
魔力爆破で一気に飛び込み手当たり次第に拳を振るう。ゾンビたちの動きは単調、それは問題ないのだが。
かわした攻撃が硬い岩盤にめり込む。それを無理矢理引っこ抜いた敵は肩から先が引きちぎれる。
閾値が振り切れている奴らは、身体の限界以上の力でもって攻撃してくる。それは力だけの問題では無い、速さもだ。
身体のバランスを欠いたまま、むやみやたらに手足を振り回しながら奴らは次々と襲い掛かってくる。
「くっ、動きが読みずらい! な!」
ジム先輩はそう言いつつも、鮮やかな剣さばきで敵の頭を切り飛ばしていく。
「そう言う奴は中心をぶち抜いて下さい!」
俺の蹴りで、胸を大きくへこませた敵は、後ろの数体を巻き込みながら大きく吹っ飛んでいき爆散する。
魔力爆破の応用だ。圧縮した魔力を推進力として使うのではなく、敵の体内で爆破させる。神父様の十八番の一つ。
とても危険な技なので、無暗な使用は禁止されているが、アンデット相手なら問題ない。
「行けます!」
俺とジム先輩が背中合わせにゾンビを蹴散らしているとシャルメルの声が響く。
「行け! 私がフォローする!」
「はい! フレイムローズ!!」
シャルメルの眼前にある魔法陣から飛び出した、薔薇の蕾の様な火が横穴の中に吸い込まれて行き。
「ホーリーシールド!」
狭い穴から凄まじい業火が噴き出してきた。
「けほっけほっ、どうだ? やったか?」
爆発の衝撃は凄まじく、元々の通路が露わになっていた。飛んできた瓦礫はリリアーノ先輩が反らしてくれたものの、広間には多量の粉じんが舞い散り。シャルメルの薔薇色の髪もくすんだピンクになっていた。
「やっていてくれないと
主を失ったのか、ゾンビたちの動きも止まっている。まぁ問題は無いだろう。残念なのはこれでネクロマンサーの正体を知る手がかりも無くなってしまった事だが、それを悔いても仕方がない。共同墓地で我慢してもらおうかと思っていた時だった。
またしても、グミ助の警報が反応した。
「まだだ! 警戒!」
「ホーリーシールドッ!!」
俺の警告にリリアーノ先輩がいち早く反応し、素早くシールドを展開する。同時に漆黒の炎がその表面を弾き飛ばした。
「ぐぁ!」
十分な体勢を取れていなかった先輩は、その衝撃にバランスを崩す。
「先輩!」
俺は先輩を支えつつ、最前線へとスイッチする。残念なことに、グミ助の警報は大当たり、奴さんはまだまだ元気いっぱいのようだ。
「奴は強力な魔術耐性を持っていると考えられる! 相当な強者だ! 気を抜くな!」
魔術が駄目なら物理で攻める、俺は姿勢を低くし、何時でも飛びかかれるように構えつつ、噴煙揺らめく、横穴を睨む。
めきめきと背後から嫌な音が鳴ってくる。
「ジム! シャルメル! 後方は頼んだ!」
「「了解!」」
先輩の指示に二人が返事をする。巨大な気配だ、ゾンビたちをかき集めて外法中の外法ネクロゴーレムを作ったのかもしれないが、生憎とそっちを眺める余裕はない。先ほどの耐久力、そして何より肌にしみ込んでくるような、暗い気配は目をそらすには脅威過ぎる。
「暗闇よ在れ」
「つッ!!」
ブラインド! 強力な呪いの波動が、俺たちから光を奪う。
直後に襲い掛かってくる、背筋の凍えるような冷たい炎。
「先輩!」
俺は先輩を抱えつつ、横っ飛びにそれをかわす。
「すまん、アデム。解呪に時間が掛かる!」
「大丈夫です、俺にはグミ助が居ます」
勿論グミ助も、あの呪いに抵抗出来ている訳ではないが、それでもこいつの感覚は人間よりも遥かに敏感だ。視力を失った程度どうと言う事も無い。
「それに、目隠し戦闘ぐらい、叩き込まれています!」
俺はそう言い残し、ネクロマンサーに突撃する。このクラスのアンデットとの単独戦闘は初めてだが、俺は神父様の戦いを一番の傍らで見続けて来た。
「黒き――」
「だらっゃ!!」
魔術師がのこのこと前線に出て来たのが運のつき。瞬時に肉薄し、呪文を唱える隙を与えない。
全力の拳――硬い! やはり物理耐性も相当なものだ。
「――炎よ」
しまった、実際に呼吸をしている訳じゃないから、殴った程度じゃ詠唱は止まらないのか!
一撃で倒せなかったアンデットはこれが初めてだから勝手がわからなかった!
意識を集中。自分のミスは自分で払う。決して後ろにそらしはしない!
「ぐっ!」
焼けるような冷たさが、左手を襲う。
意識をしゅうちゅううううう!
敵の攻撃が当たった瞬間に、そこを中心に魔力を爆発させる。
「ふんッ!」
俺は炎を振りほどき、横にそらすことに成功した。
攻撃の芯を外すことが出来たと言え、呪いの炎が左手から感触を奪う。
「キュア・ブラインドネス!!」
先輩の声と共に、暖かな魔力が顔を覆う。
「ありがとうございます!先輩!」
視力が回復すればこっちのものだ、盲目状態では出来なかったピンポイント攻撃を叩き込める!
「敵はアデムだけじゃないぞ!」
俺の背後から突如現れた先輩の短槍が、横から敵の足に叩き込まれる。
「くっ! 硬いな!」
「いえ! 良い攻撃です!」
奴の体勢が崩れ、バランスを取るために、両手をひろげる、そこがチャンス!
「破ッ!」
俺はがら空きの頭部目がけて、全力の拳を叩き込む。
魔力を拳に圧縮――
インパクトの瞬間に、敵の体を自分の体と仮定して――
敵の体内で爆発させる!
ガコンと、敵の体が大きく揺れる。やはり中々のタフネスだ、一撃では沈まない。だが奴の空っぽの頭蓋内は、俺の魔力激でボロボロの筈だ。
「行けます! 先輩続いて!」
「言われるまでも無い!」
先輩の短槍が煌めき、虚ろな眼窩に吸い込まれ、パキンと軽い音を立て、奴の頭蓋は四散したのだった。
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