第61話 癒しの魔法

「輝様、お早いお帰りで。旅は順調に進みましたか?」

 ログハウスに着くとノマドさんが迎えてくれた。

「おや?そちらの方は?お客様ですか?」

 ノマドさんが東のマーベラに気づいて礼をする。


「ノマドさん、この方は東の魔女マーベラさんだよ!運良く会うことが出来たんだ!」


「なんですって!?」

 ノマドさんが目を丸くする。


 …それは驚くよね。僕もいまだに信じられないよ。


 その時マーベラさんの方を見ると、マーベラさんも目を丸くしていた。


 ……どうしたんだろ?


「初めまして…。マーベラと申します。『東の魔女』と言った方がよろしいですかな?」

 マーベラさんは何故か少し焦っていたようだったけど、ノマドさんに挨拶をした。

ノマドさんとマーベラさんが握手をする。


「私はノマドと申します。マーベラ様のお名前は以前より存じ上げておりましたが、お会いできて光栄です」

 ノマドさんは凄く丁寧な挨拶をする。


「マーベラさんが龍之介さん達を治してくれるって!」


「本当ですか!?」

 ノマドさんが嬉しそうに声をあげる。


「対価を求められたのだけど、対価はね、龍之介さん兄妹の全快祝いを、マーベラさんのお城で行う事と、その際の食材は現世の物を用意する事でいいんだって!」


「こちらとしては、ありがたいことですが…それをすることで、マーベラ様に何の得があるのですか?」

 ノマドさんも僕と同じ反応を示した。


「それについては、私の城は今二人しか住んでいないので、たまには賑やかな事をしたいと思っていたのですよ。そこに彼が現れたのです。おかしな目的はないと神に誓いますよ」

 マーベラさんが胸に手を当てて答える。

 …魔女も神に誓いをたてるんだね。


「それはそうとノマド様、以前何処かでお会いしたことはありませんかな?」


「いえ、私は極力他の人と関わらずに生きてきましたので…絶対とは言い切れませんが……覚えている限りですが…心当たりはありませんね…」


「そうですか、すみません、知り合いによく似ていましたもので…」


 ノマドさんが知り合いに似ていたのか…それでマーベラさんは、ノマドさんを見て驚いていたのか。


「それでは早速ですが、音楽家兄妹はどちらに?案内していただけませんか?」

「こちらです」

 ノマドさんがマーベラさんを案内する。


「それでは皆様はこちらでお待ちください。すぐに終わりますので…」


 マーベラさんだけが兄妹の部屋に入っていった。

 しばらくすると扉の隙間から光が漏れて、すぐに消えた。


「せ、成功かな!?」


 光が収まってからも一向にマーベラと龍之介・麻弥兄妹は出てこない。


「すぐに終わると言っていたけど、すぐってどらくらいの事だろう…」


「信じて待ちましょう……」


「そうだね。あれだけの怪我を治すのだから時間がかかって当たり前だよね…」


 いつの間にか三人の精霊達も周りに立っていた。

「私が見て参りましょうか?」

 シルちゃんが痺れを切らしてノマドさんに進言する。


「魔法使いには、見られたくない魔法もあるのだよ。多分この治癒の魔法も、その様な魔法に含まれるのだ。だからマーベラ様も私たちにここで待てと言ったのだ。…それに、輝様がお連れになった方だ。絶対に間違いはない。信じて待ちましょう……」

 ノマドさんはそう言って静かに目を閉じた。


 僕はちょっと心配になって、扉の向こうのマーベラさんに声をかけようかと迷っていたが、ノマドさんの言葉に思いとどまった。


 絶対マーベラさんは信用出来る人だ。

 魔女だからと言って、すべてが悪い魔女なんかじゃない。

 何か裏の目的なんか絶対ないはずだ…

 でも、どんどん時間は過ぎていく。

 嘘をついて僕たちに近づいたなんて考えたくないけど、不安がよぎる。


 信じて待とう…。

 だって僕を治してくれたじゃないか!

 マーサさんとの掛け合いにも、詐りは感じられなかったじゃないか!






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