第40話 祖父の家

精霊達の加護をいただいた僕は皆に礼を言うと、一度アジトに戻った。


そこでアジトにいるノマドさんに声をかけた。

目的は鍵束を借りて祖父の家に行くことだった。


祖父の家にあるという龍之介兄妹のカバンを取って来てほしいと頼まれていたのだ。


今日は旅に出ることはないだろうから、せめて他の事をやっておこうかと思っての事だった。


ノマドさんに鍵束を借りて、祖父の家に扉を繋げる。


祖父の家はものすごく久しぶりだった。

一度水の精霊の映し出す映像で見てはいたが、ここを訪れるのは小学生以来であったから郷愁のようなものを感じる。


玄関は当時のままだった。

「よく山や沢で遊んで泥だらけで帰ってきたっけ。泥だらけで帰ってきても、じいちゃんは怒ったことなかったなぁ…」


小学生の頃とても広く感じた玄関ではあったが、今改めて見ても広い玄関であった。

天気の悪い日に、ここでベーゴマの回し方を教えて貰ったり、カブトムシを競争させたりしたことを思い出した。

玄関には当時の僕が使った虫取り網や虫かごが置いてあった。


「まだ捨てずにとってあったんだ…。あの頃は楽しかったなぁ!」

僕や母の個人を特定するような物は処分したとノマドさんから聞いていたから、こういった物もてっきり処分されているのかと思っていた。


靴を脱ぎ家に入る。

昔ながらの黒電話が廊下にポツンと設置され、壁にかかったカレンダーもめくられることなくそのままだった。

確か電気はそのまま契約してあるけど、ガスと水道と電話は解約してあると母が言っていたな。


この家は祖父が一人で暮らしていたが、部屋の数も多く、築年数は経っていたが劣化も少なくてこのまま誰も住まなくなると言うのはもったいない気がした。


母はここを掃除するとは言っていたが、掃除した後は取り壊すのか、売りに出すのか……。


出来ればこの家には思い出がいっぱいあるから、そのまま残して欲しいけど、残したところで僕や母が住む事はないだろうし……。


龍之介兄妹のカバンを探して部屋をみて回った。

「あ、あれだな」

カバンは台所のテーブルの上にあった。

2つのカバンが揃えて置いてあり、一つは黒いリュックサックで、これは龍之介さんの物だろう。

もう一つはショルダーバッグで、音符のキーホルダーとモコモコのファーでできたキーホルダーがついていた。


さすがに祖父の趣味ではないから間違いなく二人のバッグであろう。


「そういえば、ノマドさんが言っていたけど彼方の世と、この家のどこかのドアに繋ぎっぱなしにしていたらしいけど、どこの部屋も鍵はないな…玄関を繋ぎっぱなしじゃ出入りできなくなるし…この家は勝手口とかも普通の窓鍵タイプで鍵穴無いしなぁ…」


しばらく探し回ったが僕は鍵穴を見つけることができなかった。


…もしかしたらこの家、僕が知らない謎があるかもしれない。

──────直感だが、そう思った。


「とりあえず今のところは、カバンを回収して玄関の鍵を使って帰るか…」


とりあえず、今日の所はこのまま帰ってノマドさんに聞いてみることにした。











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