第24話 燃える地図

「ここまでのようだね!?」

僕はまた声を張って少し芝居がかった口調で影に話しかける。


「勝負はこちらの勝ちのようだね?残念だよ!もっと君たちならば僕を追い詰めると思っていたのだけども!」


「それでは僕は失礼することにするよ」

パチンと僕は指をならす。


それを合図に土の精霊ノーミードがトンネルに横穴を開ける。


ゆっくりと僕はそこに歩いて移動する。

「だめか…」

言葉での挑発では切り離すところまでは行かなかったようだ。


「ウンディーネさん、よろしく」


「わかりました。お任せください。ノーミードが横穴を塞いだタイミングで開始いたします」

姿は見えないが声だけはきこえた。


すると次の瞬間今入ってきた横穴が閉じ、そこにスクリーンが出来た。

スクリーンにはさっき僕がいた場所が映っている。


そう、あのログハウスのアジトでウンディーネがコップに映像を映し出した様に、壁に水の膜を作りあちらの映像を映しているのだ。


「それではあちらにも輝様の像を映し出します。ご準備を…」


「いつでもいいよ!」

僕は地図をヒラヒラさせる。

「ではカウントダウンで…5・4・3・2・1…どうぞ」


「やぁ、このまま勝ち逃げしようと思ったのだけど、つまらないからもう一度戻ってきたよ!」

今僕が話している姿はウンディーネの作った水の膜に映し出され、あちらに声も届いているはずだ。


「勝負に勝った僕には何か権利があると思うんだ。でも僕は君から得るモノはないと思うんだ」

ニヤリと笑う。

とにかく嫌みな奴を演出しなければならない。

「じゃぁ、どうするか─────」


もったいつける。

「君達が嫌がる姿を見て楽しむ他はない───────」

「……僕はそう結論付けたわけだ!」

まだ影の反応はない。


「君達はそこまでしか到達出来ないようだね?それではここをステージに見立てて何か面白いことをやろうか?」

僕は小さい頃にテレビでみた記憶のある道化師を参考に大袈裟でコミカルな動きをしてみる。


「ここには君達が喉から手が出るほど欲しい例の地図がある!」

偽の地図をヒラヒラとさせる。

「この地図は祖父が色々調べたらしいが、僕は正直興味がない!」

「そこで君達にあげてもいいとさえ思っていたのだが、君達は交渉を拒否した」

「きっと、この地図は天国の祖父が持っているべきなんだと思うんだよね」


「でも僕はやさしいから、最後のチャンスをあげよう!」

どんどん芝居が大袈裟になる。


「この地図を天国の祖父の所に届ける一部始終を僕と一緒に特等席で観ようじゃないか!」


指をパチンと鳴らす。


炎の精霊サラマンダーが手のひら位の大きさの炎を空中に出現させる。


炎に地図をかざす。

地図の描かれた羊皮紙の角が少しつづ煤けて黒くなってくる。

「止められるものなら止めてみるがいいさ!」

もう完全に悪役の演技だ。


黒く煤けた羊皮紙に火が着くまでそんなに時間はかからなかった。

「ははは、ついた!ついた!」

大声で笑う。


そこへ貯金箱の穴を見張っていたノマドさんから声が届く。

「影が!影が宿主から離れました!」


やった!成功だ!


影側の考えとしては、時間をかけても地図が手に入りさえすればいいと考えていたはずだ。

永遠とも言える時間を有する存在ならば、そう考えてもおかしくない。

しかし、地図の存在そのものが失われてしまうのはまずい。

影としてはそれだけは避けなければならないはず──────

僕は地図に火をつけることで影の理性にも火をつけたのだ。


「見たまえ、地図が天国に向かう様を!」

『理性を失え!』と心に念じながら演技を続ける。

心なしか影が少し太くなった気がする。

僕は気づかない振りで演技を続ける。

完全にトンネルに誘い込むまでが作戦だ。


「輝様、全ての扉を閉めました。影をトンネルに閉じ込める事に成功しました。これから宿主の二人を回収して治療を始めます」


…目的達成だ。


「それではノーミードさん、トンネルを土で埋めていってください。その後サラマンダーさんは影が出られないように、回りの土を広範囲に焼き固めてください。それで作戦完了です」


「かしこまりました」

「ラジャーりょうかーい」


「それからノーミードさん、部屋に戻るトンネルを掘ってくれるかな?このままじゃ僕も封印されちゃうよ」


「まだ僕の姿は向こうに見えてるのかな?」

「必要なら繋げますが…」

「まぁ、もうどうでもいいことなのかもしれないけど、影の二人に伝えたいことがあるんだ」

「繋がりました。…どうぞ」

ウンディーネが僕の我が儘をきいてつなげてくれた。


向こうの映像も映し出してくれたが、2つの大きな黒い塊がピクリとも動かずにそこにあった。


「僕個人的にはなんの恨みもなかったのだけど…ごめんな。話し合いで何とかしたかったよ。じゃあね」

それだけ言うとウンディーネに映像を消してもらった。


その後、僕は地の精霊が掘ってくれる出来立てホヤホヤのトンネルを歩いて戻るのだった。







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