第22話 伸るか反るか!?
祈る思いで影の方を見る。
貯金箱の穴から流れ出る黒い液体は2つの塊になるが、途切れる気配はない。
塊の大きさは小型犬程の大きさだろうか?
不規則に動きながら少しづつ大きくなっている。
それを見ていた僕は少し不安になってきた。
さっき貯金箱の穴から覗いていたのは影ではなく、宿主二人の目だった。
…それは何を意味するか?
影はこちらの様子を影本体ではなく、宿主の目で確認したのだ。
貯金箱の穴から暗い物体がこちらに流れ出ているが、この黒い物体がすでに『影本体』ではなく、寄生した宿主の方がもう本体の機能を有する存在になっていたらどうなるだろうか?
その場合、影は切り離されることはないだろうし、もうすでに宿主だの、影だの、寄生だのという段階を過ぎてしまっているかもしれない。
…それはもう完全な一体化だ。
たとえ、今考えている一体化というレベルまで進んでいなくとも、宿主の視界の届く範囲でしか行動することがないかもしれない。
いくら僕が走って逃げようとも、見える範囲でしか勝負してこないなら、僕はただの道化でしかない。
宿主を救出するという、この作戦の根本がすでに間違っていることになるのだ。
その場合、宿主を苦しませない何かを考える必要が━━━━━━━━━
そんな最悪のシナリオを考えていた矢先、影がいきなりこちらに動き始めた。
「うっ」
完全に油断していた僕は動くのが遅れてしまった。
目の前に黒い溜まりが四本の人の手に形を変えながら僕に迫る━━━━━━━
もう駄目かと思った僕を助けたのは、風の精霊シルフィードの起こす風だった。
シルフィードの起こした突風が僕の体を吹き飛ばす。
僕は空中で一回転するように吹き飛んだが、シルフィードのコントロールは抜群で、ちゃんと足で着地するのは勿論のこと、ひねりまではいってそのまま逃走モードに入ることができた。
「ありがとう、助かったよシルフィードさん!」
僕は走りながら、姿を消している見えないシルフィードにお礼をいう。
…油断してしまった。
僕はこの作戦に『勝負』という言葉を使った。
僕はこの『勝負』という言葉を魔法の言葉と表現したが、影をこちらのペースに巻き込む為に誘導の言葉として使ったが、僕もまたこの言葉の魔力に影響を受けてしまっていたのかもしれない。
僕と影の一対一の勝負だったならば、もう試合は終了だったはずだ。
勝負だったならばだ。
僕は影と勝負しているわけじゃない。
…同じ土俵の上で勝負する必要はないんだ。
僕が目指さなきゃいけないのはイカサマディーラーであって、伝説のギャンブラーじゃない。
そこをもう一度自分がしっかり意識しないと、周りに迷惑がかかるだけじゃなくて、被害が出る。
仲間に被害を出して、目的も達成できない…そんな最悪のシナリオは回避しなければならない事を、もう一度心に刻むように念じる。
僕がシナリオをコントロールするんだ!
目指すはイカサマディーラー兼シナリオライターなんだ。
逆転勝利までが規定路線!
持ってるカードだけで十分いけるはずだ!
走って逃げながらそんなことを考えていた。
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