第15話 新しいアジトに
放課後僕はまっすぐ家に帰った。
帰宅してから鍵束をノマドさんに渡したから僕から連絡する手段がないと言うことに気づいた。
「ちゃんとノマドさんに鍵束が渡ったかな…もし気づいてなければマズイぞ…」
ベッドに横になった。
ノマドさんからの連絡待ちだ。
「大丈夫ですよ、輝様。鍵はノマド様の元に届きましたわ」
急に耳元でささやかれた。
「え!?」
突然ベッドに横になっていた僕の横に添い寝をするような形で赤い薄衣を身に纏った女性、『サラマンダー』が現れた。
「お留守の間に勝手口からお邪魔しておりました」
「ち、ちょっと、恥ずかしいよ」
「あら、可愛らしい」
…流石に添い寝はマズイよ。
僕は恥ずかしくてすぐ飛び起きた。
炎の精霊サラマンダーは何事も無かったかのように話始める。
「まず、ノマド様は他の隠れ家に移動されました。これからそちらにご案内致します」
「それから今後の事もございますので、新しい扉も向こうから持ち込ませていただきました」
サラマンダーさんに言われて気づいたけど、今まで僕の部屋に無かった額縁が立て掛けてある。
額縁には風景画が入っている。
…これが扉?
「これは彼方の世で悪名を轟かせたある商人の邸宅の、隠し扉を隠すために飾られていた額縁です」
「目立たないようにシンプルな木の枠組みで作られていますが、ここに鍵穴があるのです」
額縁の右横に鍵穴が開いている。
「この額縁を輝様の寝室に置いていただければ、何時でも出入り可能となるはずです」
そう言いながらサラマンダーは真鍮製の鍵を鍵束に付ける。
「でも凄く大きいよね…こんなのが突然部屋に置いてあったら家族に疑われちゃうな…」
「額縁ですから薄いので隙間に入ります。ベッドの下にでも隠されたらいかがでしょうか?現世ではわかりませんが、彼方の世では年頃の男子はベッドの下に親に見せられない色々な物を隠すものです。彼方の世の男子の話でございますが」
やけに最後の部分を強調するのが、ちょっと僕にカマをかけてる?と勘ぐってしまう。
「輝様のベッドの下はまだ見てはおりませんのでご安心を…」
まだってところがひっかかるな。
とりあえず部屋に見られて困るものは置いていないはずだけれども。
「準備が出来ました」
サラマンダーさんが鍵束の鍵を額縁の脇に差し込んでガチャリと開けた。
「それからこの額縁、一度でも閉じてしまうと、また彼方の世との繋がりが途切れてしまいます。そこで、この扉部分を蝶番から外せば不注意で閉まることはないでしょう」
「扉をはずしても大丈夫なんだね」
「はい。この鍵束に付いた鍵で開けた扉は、一度扉を開けて、次に閉めるまで効果が続きます」
「そうか…鍵で開けた後、開いて閉じるまでは魔法がかかったままなのか…。これは何かに使えるね!」
「まぁ、それはさておき、新しいアジトにご案内いたします。私の後に付いてきて下さい」
床に置いた額縁にサラマンダーさんが飛び込んだ。
額縁の中を覗いてみると、向こうはログハウスの様な造りの建物のようだった。
僕もサラマンダーさんが飛び込んだ様に、額縁に足から飛び込んだ。
「わっ!?」
重力のかかる方向が変化し、僕は背中から床に激突しそうになった。
しかし、一陣の風が吹き、僕をふわりと持ち上げて着地させた。
「危ない所でございました」
シルフィードさんが僕に一礼する。
「額縁と繋がった先の扉の軸がズレていたからこうなっちゃったのかな?」
入るときは床に置いた額縁に足から下に飛び込んだ訳だから、重力は足の下方向にかかっていたけど、出口の扉は地面に対して垂直に立っていたわけだから、扉から体が出た瞬間に背中側に重力のかかる方向が変わってしまったことになる。受ける重力のベクトルが90度変わってしまい、こうなった…ってことになるよね。
サラマンダーさんの方を見ると、目が真ん丸になっていて、口を手で押さえていた。
びっくりして叫びそうになった口を手で押さえたって印象だ。
想定外だったんだね。
次の瞬間、しょぼーんとして「輝様ご免なさい…」と言ったサラマンダーさんが非常に可愛く見えた。
「サラ、だからいつもお淑やかにしなさいって言ってるでしょ!真似をした輝様が危うく怪我をするところでしたよ!?」
「シルフィードさん、そう怒らないで上げてください。サラマンダーさんもわざとではなかったようですし、お陰でシルフィードさんの素晴らしい魔法を見ることが出来ましたから!感激しましたよ!」
僕の発言に風と炎の精霊二人はモジモジとしながら赤面していた。
ログハウスの中は広々としていて、窓もあり外から光が差し込んでいた。
前の隠れ家はレンガ造りで窓がなく、外をうかがい知ることが出来なかったのとは対照的に、今度の隠れ家は開放的な雰囲気だ。
「それはそうとノマドさんは?」
案内されたはいいが、室内にはノマドさんの姿はなかった。
「ノマド様は外にいらっしゃいます。輝様が来られたら外にお連れするようにと…」
シルフィードさんに連れられて外に出る。
木々に囲まれたログハウス。
ログハウスの正面には少し開けたスペースがあり、畑が作られていた。
「ノマドさん!」
ノマドさんが畑で鍬を振り上げていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます