第14話 昼休みが終わる前に

ノマドさんに鍵束を渡すために常時施錠されている扉を探した。


心当たりは屋上に出るドアなんだけど、上級生のたまり場になってるから、別の場所を探すことにした。

次に思い当たるのが理科の準備室だ。

劇薬とかも保管している準備室は常時施錠されていたはずだ

僕は理科準備室の扉をする為に理科室に入った。

理科準備室は理科室からでなければ入れないためだ。

「あ」

理科室には誰も居ないだろうと、警戒もせずにそのまま入ったのだけど先客がいたので、声が出てしまった。


「海原くん、こんな所に珍しいね!」

「誰かと思ったら川崎さんか!川崎さんこそ独りでこんなところでどうしたの?」

同じクラスの川崎さんだ。

接点がなくて今まであまり話しはしたことないけど、学年でも成績がトップクラスの女子だ。

「私、理科部なんだけど、ちょっと研究テーマまとめるのに最近はお昼を理科室で食べながらやってるの」

「そうなんだー。どんな研究してるの?」

本当はこんな世間話している場合ではないのかもしれないけど、ちょっと寄り道してもいいかなって思った。

理科部がなにする部活かちょっと興味もあったけど、川崎さんにもちょっと興味があった。

僕は成績は良くもなく、悪くもなくって感じなのだけど、川崎さんみたいに頭のいい人って、普段どんな事に興味持ってるのかなって。


「理科部っていうか、私の班は高効率の風力発電を研究してるの。大きな風力発電のプロペラ見たことあるでしよう?あれをもっと高効率で小型化にする研究なの。最近のは風力発電のプロペラは大型化している傾向があるんだけど、もっと小さくできないかなって。

大型は施工が大変だし、そもそも風力発電っで風が強すぎても使えないの。強い風でも発電に使える…小型で発電量が大きくて弱い風でも強い風でも安定して使える…そんな風に改善出来たら、きっと最高のクリーンエネルギーになると思うんだよね!」


「すごいなぁ。僕に何か手伝える事があったら言ってね。…あ、もうこんな時間だ。もうすぐ授業始まるよ!僕はもういくね!」

僕は話を誤魔化すと理科室を後にした。

正直、早口すぎて後半は何言ってるかよくわかんなかった。

熱くなると早口になる人いるものね。

ノマドさんもどっちかと言うとそうかも。

なんて事考えてたんだけど…ヤバイ、昼休み終わるのにノマドさんに鍵束渡せていないよ。

どこか鍵付きの部屋はないかな…?


でもそんなに都合よく鍵付きの扉が有るわけもなく…


『キーンコーン』

無情にも予鈴が響き渡る。

タイムリミットだ。


仕方なく教室に戻る。

次の授業は…体育だ。

ほとんどの生徒が既に移動を始めている。

よく考えたら、チャンスだ。

教室の個人ロッカーがあるじゃないか!

教室の後ろにある個人のロッカーから荷物を出す振りをして白い星の鍵を使いロッカーを開ける。

ロッカーの向こうは見慣れたレンガの通路だった。

鍵束をロッカーに放り込むとすぐにロッカーを閉める。

きっとノマドさんは気づいてくれたはずだ。

『よろしく』

心のなかで呟く。

もう一度ロッカーを開けると、そこにはいつもの教科書や体操着などが乱雑に収納された個人ロッカーの中身が見えた。


僕は体操着を取ると、更衣室に向かったのだった。


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