第27話 四年越しの再開
前回までのあらすじ。
死をもたらすヘイルウェイの遣いを法都レスリリアへ送り届けてからおよそ五年。ユニとロックはコンビの傭兵として活動を改め、アンナは故郷のコハ連邦で傭兵として働く傍ら占い師の真似事をしており、レイはユーリュルリュワン皇国の東の果てで妻子と共に仲睦まじく暮らしていた。
伐採者。
それがレイの持つチートだった。
木こりの一人息子として生まれ、紆余曲折あって東の守人となった彼は、無自覚ながらもそのチート能力を存分に発揮していた。
『伐採者』とは、『命を奪う』ことに特化したチートである。
それを生物でも無生物でも関係なく、あるいは生きていようが死んでいようが、形があろうがなかろうが、極めてしまえば例え概念や神であろうと、
問答無用で命を奪う。
ともすれば最強の暗殺者や無敵の傭兵にでもなりそうなチートだが、レイは齢二十六にしてこのレフユナハカテという要塞のような街の片隅も片隅で、汗水流して畑仕事に勤しんでいた。
何故か?
「レイ、お昼よ、お昼。早くしないとアンタの分まで食べちゃうわよ」
「用意しておいてノータイムで取り上げに来るなよ……」
「ほら、手洗いうがいして、服も着替えちゃいなさい」
「はいよ」
妻の尻に敷かれているからである。
昼飯を食べ終えゆったりとした時間の中、庭で遊ぶ息子と遊ぶ妻を眺めるのがレイは好きだった。この時間を邪魔する者がいればたとえ誰であろうと許さないくらい好きだった。
「おーっす、レイはいるくぉおあっっぶねェーッ!? 斧飛んできたんだけど!?」
「レイを怒らせるからだよ」
「えー……俺なんか怒らせるようなことしたか? ちゃんとノックしながら呼んだよな?」
斧の第二投を警戒しながら、ロックは家の影で立ち往生する。そんな相棒を無視してユニはさっさとレイに歩み寄ってきた。
「なんだお前らか……」
レイは浮かした腰をベンチに下ろし、振りかぶっていた斧を足元に下ろした。
「久しぶり」
「よっ。四年ぶりか?」
「ああ……四年ぶりだな。て言うか、お前らにここ教えた覚えないんだけど」
「衛兵に道聞いたんだよ」
うんざりした表情のレイを右に避けさせながらロックは隣に座る。ユニはロック密着するように腰を下ろす。
「ママ、パパのともだち!」
「ん、あれ、お客さん?」
「ああ。すぐ帰すからそのまま遊んでていいよ」
「そういうわけにはいかないでしょ。ちょっと待ってなさい」
レイの妻フランは息子のトニーを抱きかかえ家の中へ消える。
「……で? なんの用だよ」
「うわ、子供に見せられない顔すんなよ」
怒りの感情を隠さないレイにロックは顔をしかめるが、すぐにいつもの調子で笑う。
「悪かったよ。俺達はその、なんだ……」
「言っておくけど、俺はここから動けないからな」
「らしいな。守人だっけ? ドラゴンスレイヤー様ともなると大変だな」
「それもあるけど……」
皇国政府に用意された家をチラリと見てレイは肩をすくめる。
「もう許してくれないったさ」
「羨ましいやつだなあ! このこオ゛ッ!」
ロックは肘でレイの脇腹を殴るが、「羨ましい」にキレたユニに鋭いレバーブローを打ち込まれ気絶した。傭兵コンビのやり取りレイは絶句する。
「大丈夫。回復魔法も修復の軌跡も使えるから」
「あ、ああ……」
そういう問題じゃないだろ。レイはその言葉を飲み込み、青ざめた顔で頷いた。
「それで、ここに来た理由なんだけど」
気絶したロックを抱きかかえながらユニは器用にポケットの中から何枚かの紙を取り出した。
「またコハ連邦が吸血姫の討伐を計画してるんだけど、あなたの力を借りたいって」
「それは光栄だけど、無理だな」
「うん。でも、レイって魔物博士でしょ」
「いやそれはただの趣味だよ」
ユニが渡してきた紙の中にコハ連邦の大統領や皇国の傭兵ギルドからなど、多くの推薦状があった。そのどれもがドラゴンスレイヤーとしてのレイに助力を求めている。
「人気者だね。羨ましいと思うよ、うん」
「全然羨ましく思ってないだろ……」
「まあ、あんなに監視が厳しかったらね」
「ドラゴン一頭殺したくらいで大袈裟なんだよ」
ユニが出した推薦状、これらは一見レイに助力を求めているように見えるが、ロックとユニの二人をレイに会わせるための許可書としての役割も大きい。
ユーリュルリュワン皇国が数百年掛けても殺すことの出来なかったドラゴンをたった一人で、それも半日とかからずにレイは殺してしまったのだ。皇国が彼の扱いに困るのも仕方のないことだろう。
「大袈裟って、なに言ってんのよ。アンタね、人類史に残る偉業よ?」
どこから話を聞いていたのか、レイの後ろに立っていたフランはクッキーが盛られた皿で夫の頭を叩いた。トニーはその隣でグミを一生懸命食べている。
「あだっ! なんだよいきなり……」
「なんだしゃないでしょ、ほら、クッキー。……え、なんでこの人白目剥きながら泡吹いてるのよ? アンタなんかした?」
「俺じゃねーよ」
目配せされてフランは驚いた表情をユニに向ける。
「いえ、奥様へのセクハラ発言があったので」
「ほーう……?」
「おい、俺のこと羨ましいって言っただけだよ。コイツ、僧侶のくせに嫉妬深いんだ」
その言葉でユニは頬を赤らめる。それは一体どのような羞恥心からくるものなのか、夫婦にはわからなかった。
「この人正気?」
「恋人殴って気絶させて、回復魔法あるから大丈夫とかいうやつだぞ」
「正気じゃないわね」
お前も大概だろ、という言葉は飲み込むレイだった。
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