混沌の章 魔王の潜む世界

第20話 帰ってきた魔王

 前回までのあらすじ。

 一度死を迎えた俺は死をもたらすヘイルウェイによって魔王として異世界に召喚される。

 しかし、与えられた『イベント作成チート』は魔王城でしか使うことが出来ず、そしてその魔王城は用意されていなかった。

 仕方なく城を手に入れるための旅に出た俺は四年半近い年月を掛けて四つの城を手に入れることが出来た。

 そして俺は旅の道中で交わした約束を果たすため、レスリリア共和国の法都レスリリアへ足を向けたのだった。

 ……異世界に転生したんだから、もっと人生イージーモードにして欲しかったんだけど。





 法都レスリリアの中心に在るレスリリア城。……の向かいに構えられたレスリリア教会に俺はやって来ていた。

 朝早くから木で出来た長椅子に座っていると、俺の隣におじいさんが座ってくる。なんだこいつ、馴れ馴れしいな。


「ずいぶんと若いのに朝早くから熱心だね」

「え? ああいや……人を探してるんです」

「人探し、かい」

「はい」


 意味もなく周囲に目をやると、人が集まり始めていた。もしかして、集会かなにかだろうか。


「えーっと、確か巫女に会いに来たような……あれ? 見に来たんだっけ?」

「なんだかはっきりしないね」

「五年近く旅してたものですから」

「……五年?」


 おじいさんは俺を見ながら不思議そうに繰り返す。変なこと言ったか?

 ……あ、そっか。見た目は子供のまま全く変わってないんだった。どう誤魔化すかな。


「親が交易商で、生まれてしばらくしたら一緒に世界を回ってたんです」

「へえ、それは羨ましい」

「でも、つい先日魔物に襲われて、お……ぼくだけが逃げ出せたんです」

「それは……とても辛かっただろう」

「辛いとか、よくわからないですけど……」


 だってそもそも親なんていないし、これ作り話だし。

 おじいさんが辛そうというか、同情するような視線を向けてくるが、俺はそれを振り払うように首を振る。


「……巫女って、どうやったら会えますかね?」

「さて……巫女様は二年ほど前から祭事の時にしか私達の前に顔を出さなくなってしまったからねえ……」

「そうですか……」


 迎えに行くのが遅すぎたのだろうか。


「ちなみに、どうしてかご存知ですか?」

「さて……なにせ、突然のことだったから」

「そうですか……」


 人が集まり騒がしくなり始めた教会で、俺の小さな呟きは音の波に砕かれて消えた。




 昼過ぎ、相変わらずただボーッと椅子に座り続けていると、法王が俺に近付いてきた。


「お久し振りです、魔王様」

「久し振り。……老けた?」

「ええ。五年も経ったのですから」


 以前会った時よりも顔にシワが増え、肌から瑞々しさが失われたように感じる。

 五年なんてあっという間に感じたけど、こうしてみてみると結構長い歳月だったんだと思い知らされた気分になる。


「魔王様は以前と全くお変わりないようで、……少し羨ましいです」

「魔王だからね」


 冗談めかして言うと、法王は可笑しそうに笑う。うーん、やっぱり話し相手がいると良い。枯れた心に恵みの雨が……って、なに言ってんだ俺。

 ゆーりゅりゅるわん……あー、砂漠からレスリリアまで、一人の時間が長すぎたらしい。


「ところで、巫女に会えますか?」

「ええ。生をもたらすレスリリア様から、あなたが今日迎えに来ると聞いてから、ずっと楽しそうでしたよ」

「すみません、待たせてしまって」

「それは彼女に言うべきですよ」

「そうですね」


 まあ、あなたも随分と待ちくたびれたでしょうけど。

 心の中で法王に詫びを入れながら立ち上がり、奥へ案内される。

 教会の奥には孤児院があり、そこでシスター(本物)と子供達が絵本を使って勉強していた。絵本の題名は『うさぎとかめ』。

 うーん、別の世界の文化が混ざってますね、これは……。

 まあ、この程度なら気にするほどでもないか。魔王様は寛大だからな、見逃してやろう。


 俺は法王を倣って孤児院の子供達に手を振りながら通り過ぎ、教会の地下へ続く階段を下りる。それからしばらく地下道を直進した後、階段を上って地上へ。


「こちらです」


 階段を上った先は窓のない部屋の一室のようで、壁に梯子があるから地下室だろうか。

 登りにくそうだなあ、と法王を見上げてから俺も梯子に足を掛ける。



 木の梯子を登った先には、やはりと言うべきか、まさかと言うべきか、


「ぉ、……おひさ……り、です……」


 随分と魔物らしくなった、声の小さな巫女がいた。

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