第15話 怪鳥レブヌス―3

 前回のあらすじ。

 神の名を借りてなんでも斬れる剣に込められた奇跡の力を引き出して怪鳥レブヌスに攻撃してみたが、失敗に終わった。

 やっぱり練習不足はいけないな!





 林の中からレブヌスを観察してみると、頭から血を流しているのがわかった。ギリギリ頭を掠めていたようだ。

 レブヌスは怒り狂った眼で辺りを見回しながら鳴き声を上げ続けている。


「魔王、どうするのだ?」

「こうなったら最後の手段だ」

「そればっかりですね」

「いやそうでもないだろ」


 言いながら、俺はさっきと同じように剣を胸の前に掲げる。


「――我が剣に命ず」


 剣の刃が光るのを確認してから、俺は林を出るために歩き出す。

 さっきは目視してないから外したに違いないから、今度は危険だけど目視しながら斬りつけよう。


「――我等が創造主である生をもたらすヘイルウェイ並びに我が主たる死をもたらすヘイルウェイ、二神の寵愛を受けし世界に混沌をもたらさんとする者共を駆逐するため、今こそその神聖なる奇跡の刃を以て我が命に応えよ」


 林から出ると、光り輝く刃のためかレブヌスはすぐに俺を見つけ、怒りの咆哮と共にこちらへ滑空せんとばかりにいや待ってマジでヤバイってコレ早くなんとかしないと殺されるって!


「――《断ち斬れ》!」


 素人丸出しの振り上げから、素人丸出しの振り下げ。



 ……その時、空が割れ、レブヌスが割れ、山が割れ、城も割れた。





 城に入ると、見事に斬撃の跡が残っていた。綺麗な切断面で、なぞってみたら角で指を切った。唾付けとこ。


「しかし、見事な一刀両断であったな」

「皮肉?」

「まあな」

「そう」


 誉め言葉として受け取っておこう。


「隙間風が絶えなさそうですね、これ」


 リューは屋上から切断面を伝って流れ落ちてくるレブヌスの血を指で掬って舐めながら呆れた風に呟く。


「指切るなよ」

「魔王様じゃないんですから、切りませんよ」

「言い方酷くない?」


 前半言わなくていい台詞だよね?

 まあいいや、この城はどうするかな……屋上にレブヌスの死体を放置するのも良くないだろうし。


「……よし」


 この城丸ごと、イベント作成チートを使って死をもたらすヘイルウェイ様の祭壇にするか。

 俺は城の内壁に手を当て、後頭部の少し下を強く意識する。


「《我が力を以て宣言する。この城は俺が生きている限り死をもたらすヘイルウェイ様に供物を捧げる祭壇も兼ねるものとする》」


 一瞬右目に鈍痛が走り、それでチートを使えたことを確認する。今回は一回で成功したようだ。


「うわっ、なんですか急に、なに話しかけてきてるんですか」

「突然どうしたのだ?」

「いえ、急に死をもたらすヘイルウェイ様が……はい? 魔王様?」

「俺がなんだって?」


 右目にまだ違和感が残っているのが気になって手で擦っていると、突然名前を呼ばれた。壁ではなくリューの方を向くと、どこか誇らしげな表情を返してきた。

 なんだこいつ……。


「魔王様、城を手に入れたようなので、正式に魔王を名乗って世界征服を始めてしまっても良いそうですよ」

「だから世界征服なんてしないって言ってるだろ」

「そうなのか?」

「そうだって教えたことあるだろ」


 それに、世界征服は宣言して行うものではなく、誰にも悟られないように水面下で用意を進めていくものだ。

 ……いや、世界征服する気なんてないけど。


「それと、まだ手に入れてない城が残ってるだろ」

「えー? まだ旅続けるんですかー?」

「文句言うなら多数決とるぞ」

「私は旅を続けることに賛成だ」

「おら、二対一だぞ」

「言ってみただけですよ」


 リューは不満そうに目尻を落とす。


「他に我等が神かはなんて仰ってるんだ?」

「しばらくフロッグの脚を捧げてなかったので、文句言われました」

「マジか」


 どんだけ蛙の脚好物なんだよ。


「まあ、それくらいですかね……はい? あー……はい、わかりました」

「どうしたのだ?」

「夜明けと共にレブヌスを供物として受け取るので、魔王様に褒美を与えるそうですよ」

「最初の小屋を立派な城に建て替えてください!」


 我ながら見事なノータイムぶりだった。


「却下だそうです」


 リューもノータイムで返してきた。それホントに我等が神の言葉かよ? 答え聞かずに勝手に答えた感じじゃない?

 まあいいや。


「この城を元に戻すことは出来ますかね? 俺が斬る前に」

「…………、はい、大丈夫だそうです。夜明けと共に戻すそうですよ」


 今じゃないのか……。


「そういうことなら、ここで寝泊まりは難しいな」

「そんなわけないだろ」

「なんだと?」

「まだやること残ってんだよ」

「えー」


 二人は不満そうな声を上げた。旅をしたいエィンはともかく、


「なんでリューまで不満そうなんだよ」

「だって死をもたらすヘイルウェイ様がずっと話しかけてくるんですもん」

「なんで嫌そうなんだよ、信仰心どこ行ったんだよ」

「最初からありませんよ」


 ……………………、


「何故だろうな、なにも起こらないぞ」

「魔王様みたいな神様ですから、全然怒りませんよ」

「だからって無礼が過ぎるだろ」

「ははは」


 何故だろう、死をもたらすヘイルウェイ様に親近感が湧いてきた。

 方向性の違いはあるけど。

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