第8話 再会と別れ

 前回のあらすじ。

 宝物沢山もらって嬉しい魔王様。

 なんだか面倒そうな約束をしてしまった魔王様。

 長い道のりを一人歩くことになった魔王様。

 ちなみに部下はまだ一人しかいないm





 陽が昇り数時間してから目覚める。そしてフロッグを一頭狩りそれを遅めの朝食として摂り、供物のために食べ残したフロッグの脚を両手で抱えながらヘイルウェイの大地の小屋に向かう。これが私の日課だ。


 魔王様が旅立ってから一年弱。死をもたらすヘイルウェイ様の話では、魔王様は昨日の夕方頃に小屋に到着したらしい。それを聞いたときはとても呆れた。

 本当は朝早くに顔を見せに行ってあげようと思ってたけど、夜明け前に起きてもフロッグはまだ寝てて朝御飯が食べられないから、結局いつも通りの時間に起きて、いつも通りの時間にあの小屋に向かっている。

 小屋を覗き込むと、祭壇の上で魔王様が眠っていた。一年前よりも身なりが良くなっててちょっと笑った。変なの。


「魔王様、おはようございます」


 フロッグの脚の柔らかい部分で魔王様の顔をつつく。


「おいバカやめろロック……なんだこれ……なに……え、ホントなに?」


 寝言が面白い。


「いやホントやめ――っ!?」


 起きた。飛び起きた。


「おはようございます、魔王様」

「うおっ、いたのかよ」


 肩で息をしていた魔王様に声をかけると、ビクリと肩を震わせて私を見る。


「大丈夫ですか? なにやらうなされてたようですけど」

「ああいや、覚えてないからよくわかんないけど……まあ大丈夫でしょ」


 言いながら、私が抱えているフロッグの脚をすごい睨んでるけど、気付いててとぼけてるのかな?


「それなんだ? 蛙の脚?」


 気付いてなさそうだ。これから機会があれば眠ってる魔王様にイタズラしよう。


「はい。我等が神への供物です」

「へー」


 魔王様はなにか言いたげな表情で頷きながら祭壇からどいてくれる。私は早速フロッグの脚を祭壇に置き、死をもたらすヘイルウェイ様に捧げた。


『だから蛙の脚はやめろって言ってるだろ』

「そう言わずに、どうかお納めください」

『いやそう言わずにってオマエ……』

「え? 拒否されてんのソレ? やっぱおかしいもんね? 蛙の脚だもんね?」

「大丈夫ですよ魔王様。昨日と同じだったから我等が神が少し困ってただけです」

『少しじゃねーよ、滅茶苦茶困ってるよ! しかもオマエ、毎日蛙の脚だろ! 昨日どころか十年近く毎日蛙の脚だろ!』


 十年近くも私の嫌がらせに付き合ってくれてる死をもたらすヘイルウェイ様好き。


「いや仕えてる神様困らせちゃ駄目だろ! 怒られるぞ!」

「もう十年も蛙の脚だけですから平気ですよ」

「とんでもないこと白状したよ! しかも、十年ってお前、よく生きてたな!?」

「ははは」


 笑って誤魔化し、話題を変える。


「ところで、魔王城は手に入りましたか?」

「いや、まだ」

「えー」


 一年間なにしてたんだろう、この魔王様は。遊んでたのかな?


「でも、ほら。魔物を追い払えば俺のものになるのが四つ。この赤印ね」


 そう言いながら、魔王様は嬉しそうに懐から取り出した地図を見せてくる。可愛い。魔王様可愛い。


「えーっと、コハにユーリュルリュワンにレイスワンダですか。ユーリュルリュワンの城はどっちもちょっとドラゴンの巣に近いですね」

「そうなのか?」

「はい。ですから、まずはここから一番近いコハの城に向かいましょう」

「よーし。じゃあ早速向かうか」


 魔王様は楽しそうに笑うと、地図を凝視しながら歩き出した。さては素人だな?


「魔王様、待ってくださいよ」

「おーう」


 いい加減な返事をするだけで、魔王様は脚を止める様子はない。仕方ないので追いかける。

 魔王様はヘイルウェイの大地から回り込むようにしてコハ連邦に向かうつもりらしい。こんな砂しかない荒野で何週間も旅する気だとしたら、相当な馬鹿だ。


「だから待ってくださいよ、魔王様。ヘイルウェイの大地は長い旅に向かないんですから、一旦レスリリアの大地に向かいましょうよ」

「え? でもこっちの方が魔物とかいなくて楽だろ」

「魔物がいないと私が飢え死にするんですけど」

「……そう言われればそうだな」


 いちいち教えてもらわないと気付けないのかこの魔王様は。


「……ですから、」


 イタズラ心が芽生えたが、今はそっと摘み取っておく。イタズラなら魔王城を手に入れてから好きなだけ出来るだろうし。

 だから、今は魔王様をきちんと導くことだけを考えよう。


「あっち。あっちに向かって歩きましょうか」

「なにがあるんだ?」

「魔王様の歩く速さなら、夕暮れ前にレスリリアの大地に入れて、私が夕飯を食べられます」

「ふーん」


 何故だろう、魔王様の私を見る目が変質者に対するソレになった。魔王様に尽くす優秀な部下に対してその目はないだろう、その目は。ショックで寝込んでしまいそうだ。


「ところで、コハの城はなにがいるかわるか?」

「残念ながらわからないです。と言うかそもそも、その城とか地図とか、どこで手に入れたんですか?」

「あー、それはだな……」


 なんて、久し振りに魔王様と会話が出来ることを密かに喜びながら、私達は旅路についた。

 祭壇がないと死をもたらすヘイルウェイ様と会話できないけど、魔王様がいるから別にいっか。

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