75 精神と時の部屋を作りました

 ピエールは「セイルがグスタフを自分の竜として登録した」と聞いて嘲笑した。

 

「よりにもよって、あの太っちょでノロマな竜を……笑い死にさせる気か」

 

 火山に生息する竜は、捕まえて自分の竜にしていいルールだった。しかしグスタフは、いつも学校の前に寝転がっていてとても強そうには見えない。だからこれまで、誰も自分の竜にしようとはしなかったのだ。

 

「所詮は田舎の小国よ。見る目が無い」

 

 周囲の評価はそんなものだった。

 ところで、セイルとピエールのやり取りは侍女経由でフレイヤにも伝わっている。

 

「フレイヤさま!」

「……」

 

 フレイヤはぼんやりしていた。

 侍女マリンは嘆息する。

 王女は祭りの見物以来、ずっと上の空だ。

 

「ぼうっとしてると、セイルさまを取られてしまいますよ!」

「取られる?」 

 

 マリンの言葉に、フレイヤは我に返った。

 

「ご存知ないのですか? セイルさまの人気が上がってきていることを」

「し、知ってるわよ。上級剣士の腕を持っている上、あの機転のきく振る舞い。輝くような銀髪に翡翠の瞳、年齢に見合わない落ち着いた所作。人気になって当然だわ……」

 

 くわえて、繊細な美貌だが太陽のように明るいティオが隣に並ぶと、美少年二人の二重後光ダブルエフェクトで目がくらむ。

 二人を絵に描きたいなと思いながら、フレイヤは拳を強くにぎった。

 その様子を見ながらマリンは続けて言う。

 

「課題を見事こなせば、セイルさまの評価はさらに上がることでしょう。そうなれば外国人だと敬遠していた貴族たちも、彼を味方に引き入れようと動き始めるかもしれません」

「それって」

「具体的には、彼を指名したお見合いなどでしょうか」

 

 フレイヤは「がーん!」と音を立てて硬直する。

 

「どうしよう……」

 

 フレイヤは初めて感じる気持ちに当惑していた。

 自分に優しく微笑みかけてくれた、綺麗な男の子。

 彼が他の女の子と親しく話す姿を想像するだけで、胸を焦がすような想いが沸き上がってくる。

 

「ピエールは私の婚約者じゃないと、セイルさまに伝えたいわ」

 

 混乱する彼女が導き出した結論とは……!

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 わずか一週間でグスタフの脂肪を落とすのは無理がある。

 そこで俺は火山の洞窟に時の魔法を掛け、時間の歩みを遅くした。

 

「この中で一週間を過ごしても、外では一日しか経たないから安心して」

「キョッ(安心できるか!)」

 

 嫌がるグスタフを無理やり洞窟に放り込んで、氷で出入口を閉ざした。

 三日経って様子を見に行くと、グスタフは予想通り痩せていた。

 しかも飲まず食わずの三週間で悟りを開いたらしい。

 なんだか賢そうな顔つきになっている。

 

「キュエー!(窮すれば通ず)」

「あ、課題が終わったら元通り太っていいよ。食べるから」

「キュヒッ(酷い)」

 

 スマートになったグスタフを残りの日程でびしばし鍛えて。

 竜騎士クラスの課題が出される日がやってきた。

 

「これから渡す地図に書かれた島へ行き、二日以内にベルガモットの果実を取って来てください。なお、この課題に使う竜は二頭目以降の竜とします」

 

 先生が地図の書かれた紙を配る。

 俺は王子様ティオの代わりに紙を受けとる。地図と言っても、空から見て目立つ木や岩が目印に書いてあったり、海岸がゆるい線で表現されているだけの簡易なものだ。

 

「馬鹿な、それがグスタフだと?!」

「キュイー(何か文句ある?)」

 

 スマートになったグスタフを見上げ、ピエールが目を剥いている。

 グスタフが自分の力を誇示すよう炎を吐くと、余波を浴びたピエールのカツラが煙を上げて消失した。

 

「僕の毛がっ!」

 

 さらばヅラ。お前の勇姿は忘れない。

 俺はショックで茫然自失になっているピエールを置いて、ティオと一緒にグスタフに竜鞍サドルを付けて乗り込んだ。

 

「出発!」

 

 グスタフは崖の上から飛び降りて、風に乗って飛行を始める。

 遠くに見える南の海が目的地だ。

 

「ティオ」

「何?」

「お前の白竜、スノウは竜舎に置いてきたんだよな」

 

 俺は気になることがあって、後ろに座るティオに聞いた。

 ティオはきょとんとする。

 

「うん 。もちろんだよ」

「後ろを見てみ」

 

 指で後方を示す。

 ティオは俺の指す方向を振り返り、ぎょっとした。

 

「え? あれってスノウ?! なんで追いかけてきてるの?! それにスノウに乗ってるのは誰?!」

 

 少し距離を置いて、雪のように白い竜が飛んでいる。

 白竜の背には、マフラーで顔を隠して黒い色眼鏡を掛けた、華奢な体格の人物が乗っていた。遠いから男か女かも分からない。

 

「俺たちの課題を邪魔したいのかなー」

「スノウが僕たち以外の人を乗せるなんて」

 

 俺は困惑しているティオの肩をポンと叩いた。

 

「交代」

「え?」

「これグスタフの手綱たづな。あとよろしく。俺はスノウに乗ってるのは誰か、確かめてくるよ」

 

 グスタフが旋回して引き返し、スノウに近付く。

 腰の天牙を握りしめて、俺はグスタフからスノウに飛び移ろうとした。

 

「ちょっとゼフィ!」

 

 慌てるティオを残し、空中にダイブする。

 さあ、不審者の正体を暴いてやるぜ!


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