第14話 廃病院前

 廃病院はあまり大きくない。とおるが怖い事を言うものだから、到着を待つ間に目の前の病院について少し検索してみたのだった。

 結果として、この病院は内科と小児科専門の病院であった事が分かった。だから手術室なんかもないし、入院設備もないからこの病院で死者が出た事も、きっとないだろう。

 それが分かっただけで俺の心はかなり落ち着いていた。病院絡みの怪談にありがちなほとんどの事は回避できると思ったから。

 最近の怪談はとても怖い。巨大掲示板に度々投稿される怖い話を丁寧にピックアップしてまとめたサイトは、スマホにブックマークされている。暇な時にそれらを読みながら、話に出てくる怪異を脳内で想像しては、そいつが目の前に現れた場合の事を考える。何が出来る訳でもないから脳内であろうと毎回脱兎だっとごとく逃げるのだけれど、無駄に叫んで相手に視えている事を伝えたくない俺としては、結構重要なトレーニングであると自負している。

 実際、同じようなモノを見た時に“あ、あれ前に脳内で見た“と思えて少し恐怖が薄れるのだから、まとめサイトには感謝しかない。


「透ちゃんも視える人なんだよね?」

「まあ」

「どうどう? 幽霊いる?」

「目の前に」


 俺はぎょっとして二人の方を見た。そして見た瞬間に後悔した。智充さとると透の間に、なにかがいたからだ。

 それは人型をしていたけれど髪も顔もなかった。つるりとした頭部は身体に対して異常に小さく、酷く細い首がそれをギリギリ支えていた。

 身体は衣服らしきモノを何も身に付けておらず、腕が、地面に届く程に長かった。脚も同じくらい細長く、前に廃ビルで見掛けたナナフシのような幽霊と少し似ていた。


「いやいやいや、マジかよ、無理やだもう帰る」

「はや!」

「いや、だって無理なにここ普通にいるんじゃん!!」

「……こいつ普段はここにいないのに」

「顔見知りなのォ?!」

「煩いな、目を合わせなきゃ平気だよ」

「え、目なんてどこに」

「探すな!」


 突然の大声に反射的に目を反らす。視界の端に巨大な瞳が映り込んだ気がしたけれど、うん、気のせいだ。

 というか、そんな事を言われたら目がどこにあるか気になってしまうのが人間ではないだろうか。俺のせいではないのではなかろうか。

 思ったけれど口には出さなかった。

 透は何も言わなかった。あいつとは違って心は読めないらしかった。良かった。


「うおーーなになに目の前にいんの? ヒュ〜〜〜」

「もう幽霊に会えたから帰らない?」

「やだ」

「デスヨネ!」


 俺は智充に腕を掴まれ、病院の玄関へと引き摺られていく。

 透は可哀想な目で俺を見つめながら後を着いてきた。


 そんな目で俺を見ないでほしい。

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