第12話 行ってはいけない場所

 また、電話がかかってくる。スマートフォンの画面に表示される”智充さとる”の文字。

 電話に出なければいい。出なければ、心霊スポットに呼び出される事もない、怖い思いをする事もない。けれど、出ない訳にはいかない。何故、ならば。


『もしもーし』

「もしもし」

『あれ? 寝起き? 不機嫌?』

「お前がどこにいるか聞きたくないだけ」

『え〜、つ〜れ〜な〜い〜〜〜』

「猫撫で声をやめろ」


 俺は電話から、今日の心霊スポットが告げられるのを待った。山の方か、海の方か、近いのか、遠いのか。


『××病院なんだけど』

「そこはダメだ!!」


 反射的に、叫んでいた。電話の向こうから智充が息を飲んだのが分かる。俺は一つ大きな深呼吸をして、努めて冷静に次の言葉を発した。


「智充、そこはダメだ。いますぐ帰れ、病院には絶対に入るな、いいか」

『なんで』

「いいから!!!」


  何が冷静にだ。俺はまた叫ぶように大声を発してしまい、隣の部屋から壁が叩かれる。部屋の隅から女が見つめている。俺は。


「いいから……頼む、そこだけはやめてくれ……」


 少しの間、無言が続いた。電話の向こうの智充は病院の前に立っているのだろうか。何を考えているのだろうか。どんな顔を、しているのだろうか。


『分かった、帰るよ』

「ああ……そうしてくれ……」


 じゃあな、という声を残して電話は切れた。本棚から本が降りてきた。落ちるのではなく、降りて、きた。

 そんな事が出来るなら最初からやればいいのに。


えにかえろう』

づら折りの悪夢』

クドナルドの裏側』

ンマークの歩き方』


「……お前……」


 女を見つめる。女は真っ直ぐに俺を見つめ返してくる。

 その瞳は全てを見透かすように透明で、全てを見透かすように真っ暗だった。

 俺はその場に倒れ込み、そうしてスマホを投げ出した。


 今は何も考えたくなかった。

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