第4話 大学にて

 俺は大学生だ。大学三年生になって、半年程が経った。今時の就職活動はもう動き出さなければならないようだけれど、最悪フリーターでもいいやと思っている俺には関係のない話だった。

 親も、親戚もいない。天涯孤独ってやつ?

 父親が死んだのは去年の話だから、天涯孤独歴は大して長くないけれど。

 元々なかったやる気が更になくなったのは、父親の死と、もう一つ。

 ただ引きこもりになったりはしなかった。智充さとるの電話があったから。迷惑だとは思いつつ、家から出る理由をくれたのは感謝している。

 講義が終わって食堂でさして美味しくもないカレーライスを食べ、自販機で買ったアイスコーヒーを飲んで食後の休憩を取っている時だった。

 智充が満面の笑みで俺に近付いてきたのは。


「今日も行きますよ〜」

「…………やだ」

「まだ明るいし、よくない?」

「明るい方がグロいのとか良く見えちゃってキモい」

「おお、なるほど興味深い」

「このやろ……」


 そんな会話を繰り広げていた時だった。俺は背後から思い切り背中を叩かれて変な声を出した。振り返ると、そこには同期の陽平が立っていた。


「よぉ、久我。もう講義終わったんか」

「やほ〜陽平も?」

「俺はあとひとコマ……なんか顔色悪くね?」

「や、まあ……寝不足、的な?」

「えー、ちゃんと寝ないとダメだよー」


 誰のせいで寝不足になっていると思っているんだろうか、この男は。

 俺は溜息を吐いて、空になった紙コップをゴミ箱に向かって投げた。紙コップは放物線を描き、見事に外れた。


「「へたくそ」」

「うるっせぇ」

「じゃあな、俺ら行くわ〜」

「ああ……帰りたい……」

「帰りゃいいじゃんよ」

「そうもいかねーんだわ……」

「そーそー!行くとこあるからさ!!」

「今度呑み行こうぜー」

「おう、さんきゅー」


 俺は智充と並んで大学を後にする。校門の横に女が立っている。薄桃色のワンピースを着ていて、長い黒髪が風に揺れている。顔は影になっていてよく見えない。それなのに真っ直ぐに俺を見つめているように思えた。


 あれは……。


 突然つむじ風が起きて、舞い上がった砂に思わず顔を手で覆う。口を閉じるのが間に合わなくて舌に付いた砂利をペッと吐き出し、顔を上げるとワンピースの女はもういなかった。


「結構可愛かった気がするんだけどな」

「え、どこどこ、大樹たいきがそんなこと言うの珍しー!」

「もういねー」

「ちぇー」


 自宅に向かって歩き出そうとする俺の両肩を智充が掴んで廃ビルの方向へ無理矢理向かせた。俺はまた盛大に溜息を吐いて、廃ビルへと歩き出したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます