霊感持ちの苦悩

月白あん

第1話 廃ビル・1階

『あ、もしもし、大樹たいき? 俺今、噂の廃ビルにいるんだけどさー』


 腐れ縁の智充さとるからは、度々こんな電話がかかってくる。その電話を受けて俺が智充の所へ向かうのも、いつもの事だった。


「お前、いい加減にしろよ?」

「え? 何が?」


 俺には昔から普通の人には見えないものが見えた。

 所謂、幽霊ってやつだ。


 だから今、智充の肩に細く血の気のない女の手が乗っているのもしっかりと見えている。だが智充にはそれが見えていない、感じていないようだった。


 いつもそうだ。こいつには何も見えない、何も感じない。そのせいなのか何なのか、かなりの頻度で心霊スポットと呼ばれる場所へと出向く。

  けれども自分には見えないので、俺を呼ぶのだ。本当にいるのかどうか、いるのならば、どんなヤツがいるのか俺に解説させる為に。


 これは本当に迷惑な話だった。何故なら……。


「俺は!!!!!怖いの!!!!!」


 そう、俺が、怖がりだからだ。


 普段からなるべく余計なものを見ないように生活している。気楽なやつ(筆頭はもちろん智充である)には、何年も見えてるんだから慣れるだろうと言われるけれど、慣れる訳がない。幽霊の見た目は多種多様だ。

 内臓が飛び出ているくらいのモノならば、まあ、慣れた。あまりに至近距離で見せられると吐き気が込み上げてくるけれど。

 だけどそれだけじゃない。物凄い恨みの表情、人間とは思えない身体の構造、突然目の前に飛び出してきたり、いつの間にか視界に入り込んでいたり、目を覚ましたら目の前にいたり。

 喋るやつもいれば、よく分からない声を発してるやつもいるし、俺に無関心のやつもいればノリノリで殺しにくるやつもいる。


 俺は日々の生活の中で自分の身を守るので精一杯だし、わざわざ普段は行かない場所にいる幽霊の元に自ら訪ねて行くなんて以ての外なのだ。


 こいつからの電話さえなければ。


「いいじゃーん、どう? ここ、いる?」

「いるよ!!!お前の肩に手、置いてるよ!!!」

「えっ、マぁジで?!」


 智充は目を輝かせてくるりと身体を反転させた。

 すると肩に置かれていた手が、首元にしがみつくようになり、智充の身体の回転に乗っかって女の身体が勢いよく俺の上半身をすり抜けた。


「ぎゃあああああああ! お前ふざけんな幽霊ぶん回すんじゃねぇぇぇぇ」

「おお、幽霊って振り回せるのか!」


 智充は楽しそうにその場でくるくると回る。女は特に抵抗する事もなく、ただ振り回されている。ボサボサの髪に隠れて表情は伺えないが、まんざらでもないのか?

 幼女ならともかく、そこそこいい歳に思えるのだが。


「!」


 俺がそう考えた瞬間、女が俺を睨んだ気がした。


「ゴメンナサイ」

「なに謝ってんのー?」

「ナンデモナイ」

「ここ、他にはいねーの?」


  智充は回転を止めた。目は回らなかったのだろうか、器用なやつめ。

 俺は周囲を見渡した。それらしきモノは、見えなかった。


「ここには他にはいなさそう」

「そっか、とりあえず他の階はまた明日にしよっかなー。一回で終わるのつまんないしな。美味しいものは味わって食べないと」

「いや、いいだろ、もう、いいだろ」

「やだよ! 全階制覇だろ!」

「俺を巻き込まないならいいけどな???!」

「だって俺には見えねぇもんーーー」

「クソが!」


 智充は満足げに笑いながらビルを後にした。俺は外に出て、ビルを見上げる。このビルは何階建てだっけ?

 何日、ここへ来なければならないのだろう。


 気怠さを覚えながら家に帰った俺は、玄関先に置いてある全身鏡をふと見た瞬間、背中におぶさっていた女に気付いて絶叫した。


「ああああああああああこっちに来たあああああああああああ」

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