雪解けてⅢ
それに気づいた
「誰かいるのか?」
「はい、おそらく一人でしょう。こちらの様子を窺っているようですね。私が確認してくるので、そこで待っててください」
雪菜が足を
「うわっ!
すると、一人の男子生徒が扉を開くと同時に前に倒れた。
「
倒れてゆっくりと体を起こす友人を見て、灯真は呆れていた。
どうやら、一部始終盗み聞きしていたらしい。
「いやー、すまない。盗み聞きをするつもりはなかったんだが、灯真がいつもより怪しい行動をとっていたから気になってついてきてしまった……」
「あ、そう。それでどこまで話を聞いていた?」
「大体、最初から最後まで……。お前らが
「ああ、完全に巻き込んだな……」
頭を掻きながら灯真は、どう説明すればいいのか考えた。
灯真の秘密を知っている将気に対して、雪菜の事を話しておいても損はない。他人には話さないだろう。
それに隠し事はしたくない。
「一応聞いておくんだが、これから話すことは誰にも言わないことを約束するか?」
「話による……」
将気は、右手に持っていたレジ袋から焼きそばパンを取り出して食べ始める。
「分かった。ここにいる雪菜は俺の親戚じゃない」
「親戚じゃない? それはどういうことだ?」
「だから、それを今から話すんだろ? こいつは人じゃなくて妖、今は人に視えるように実体化しているが、元々は人には視えないだよ。妖での名は『雪女』。嘘だと思うが、これが現実なんだよ」
雪菜の頭をポンポンと、軽く叩きながら適当に説明をする。
「だとすると、俺が見ている彼女は、実は人ではなく妖怪で、それが昔話にも登場してくる『雪女』。え、はぁ? 灯真、だったら彼女が本当に妖なのか、証拠を見せてくれないか?」
まだ、灯真の話を完全に信じ切っていない将気は、自分の目で確かめたいと言った。
確かに言葉だけで人はそう易々と信頼してくれない。
「雪菜、少し力を解除するから将気に力を見せてくれないか?」
「嫌です」
「なんで?」
「そもそもそこにいる人の子は、私の本当の姿を視ることができませんよね。それに灯真様以外の人の子に優しく接する義理はありません。食べてもいいですか?」
雪菜は将気を睨みつけて言った。その顔は、今にも殺しにかかりそうな表情で異彩を放っていた。
「そんな事を言うな。こいつは俺の友人だ。妖は視えないが、他人にこういう話をする奴じゃない。雪菜も俺以外の人間で一人くらいは相談できる相手がいた方がいいと思うぞ」
「そんなものですかね? ————仕方ないですね。感謝しなさい! 私の主からのお願いだから聞いてやるもの、貴様みたいな
雪菜は、自分の力を見せるのが嫌で、大きな溜息をつきながら
「なあ、灯真。この子ってツンデレなのか?」
「ツンデレではないわ! 貴様、私を
「将気、雪菜を相手にからかうのは止めておけ。面倒だから……。雪菜も早くしてくれ」
灯真は二人の
「分かりました。それで何を見せればよろしいのでしょうか?」
「じゃあ、そこに雪を降らせてくれ」
灯真に言われるまま、雪菜は小さく頷き、上空に雪雲を発生させ、
雪が降る。その異常気象を目のあたりにした生徒たちは驚いて、次から次へとグラウンドに姿を現す。それは春の咲く桜や舞い散る花びらよりも美しくきれいに輝いていた。もしかすると、夕方のニュースのトップニュースになるのかもしれない。
「驚いた。本当に雪を降らせるなんて……。灯真が言っていることは本当らしいな」
「だから言っただろ? 雪菜は妖だって……」
「私は雪を操る妖だ。ここまでの上級の妖はこの地にはそういない。言っておくが、私の主に良からぬことでもするなら私が常に傍にいると思え!」
手のひらに積もった雪を息で吹いて掃い落す。
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