第119話 うわのそら
コハルは俺のことが嫌い。
嫌われた。
完全に嫌われた。
俺はコハルに完璧に嫌われた。
嫌われた。
俺は嫌われた……
「イット君? おーい!」
「――ッ!?」
ロイスの声で我に返る。
そうだ、今までぼーっとしていた。
あの後何事もなく野営を終え、翌日を迎えた。特にハプニングも無く順調に、ここ吸血鬼の住み処とされる海岸の古城へ到着していた。時間は日の出前だが後数分で太陽が完全に出てくるであろう。潮の匂いと波が岩にぶつかる音。
静かな空間の中、何故今まで気付かなかったのかと思うほど、外壁が所々離れた禍々しい大きな風格が目の前にそびえ立っていた。
俺は相当上の空だったのかもしれない。
「イット君……あの、潜入前に
「あ、ああそうか」
ロイスに指示されるまま魔法を展開する。青い光の線で古城の造形がミニチュアハウスのように出来上がるが、横からルドが話しかけてくる。
「何をぼーっとしていますの? やる気が無ければ帰ってもよろしくてよ?」
ヤジを無視すると面白くなかったのか、ルドはロイスへ話しかけた。
「こんな奴に頼まず貴方がやれば良いじゃない! 貴方も出来るのでしょ!」
「い、いや……これはイット君の方が馴れてるからさ」
困ったように俺のフォローをするロイス。
俺は、何も考えず言葉を漏らしてしまう。
「ルドの言うとおりだロイス。俺が出来ることはロイスでも出来る」
「で、でも……」
「気を遣う事じゃない。俺はあくまで補佐でいいのさ」
「……」
彼は俺の役割を食わないようにしてくれたのかもしれないが、逆に接待されているみたいで申し訳ない。
本当に人手が足りなくなった時に動く、そうしないともはやこのパーティー内で俺が余計なことをしてまた荒波が立ってしまう。
俺は目立たない方が良い。
余計なことをしない方が皆幸せなのだ。
だがまあ、言われたことはちゃんとやるさ。俺は古城に
古城の中に無数の魔力反応が確認出来る。魔道具の可能性もあるが、魔力反応が動いている物がある。この
魔力とは何なのかという問いは諸説有るのだが、今はそんなことを考えている場合ではない。
とりあえず、結果を皆に伝える。
「これは……大きな反応が地下にある」
「地下?」
「ああ、正確に言うと崖の中か」
古城に地下室があるということが図で分かる。吸血鬼が日光を嫌うなら当然の配置だと思うしこの古城もそういった意味で見せかけの可能性も考えられる。
これで見た目通り、日に近い城の天辺を住まいにしていたら違和感が凄い。俺が産み出した図をジーッと見つめるソマリ。
徐に彼女は言った。
「……ウチ考えたんだけど、これって崖を切り落とせば解決するんじゃない?」
その発言に周りはシーンと静まり返る。
一斉に彼女へ視線が集まり、ソマリも気まずそうに続ける。
「あれ? 良い考えだと思ったんだけどダメだったかな? 切り崩すのはさすがに時間かかるかな?」
「……いいや」
俺は首を横に振り、ロイスへ視線を移すと彼も真剣な表情で考え、答える。
「……ありかもしれない」
俺達はさっそく話し合う。
土の魔法で亀裂を走らせるものがあり、それを用いれば断崖絶壁に古城諸共吸血鬼を海に沈めることが出来る。
もし崩落から逃げ延びても日の光で大幅な弱体化、もしくは討伐も出来るだろうと考えついた。
だが、もし万が一古城の中に人族が捕らえられていたらと言う話にもなった。
正攻法ならさっさと城に突入してしまうのが早いと思うが、さすがに最上位難易度依頼とあり、石橋を叩いて渡りたい気持ちは皆同じだったらしい。
ここでいきなり奇襲作戦に出るか。
または、生存者の可能性を考え城内の探索に行くか。
……
皆で話し合った結果中間策を取ることにした。ロイスが結論をまとめてくれる。
「やっぱり一度、城の中を探索しよう。中を調べる必要はあるかもしれない。それに前もって調べてなかったけれど土地主が居たら不味いかもしれない」
と言うことで、時間は少し掛かったが俺達は古城の前まで少し歩いた時だった。突然古びた大きな城門がバンッと開かれる。
「え!?」
突然の出来事に、俺は呆気に取られてしまった。
「皆、下がれ!!」
ロイスの掛け声で皆は後ろに下がり、ルドが盾を構え先頭へ立つ。
すると、暗闇が広がる扉の中から白く細長い糸が無数に伸びてきた。こちらに向かってくるそれは、明らかな敵意を感じ取れこちらへ弓矢のように飛んできた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます